2009年10月28日水曜日

アメリカにおける乳房温存術後の局所再発率〜最新報告

最近JAMAという雑誌に発表された報告を読んで驚きました。

Memorial Sloan-Kettering Cancer CenterのMonica Morrow氏の報告によると、2005年6月~2007年2月の間に乳房温存術を受けた1,468人(全体の75.4%)の患者さんのうち、後に再手術を必要としたのは37.9%に上ったということです。内訳としては26.0%が乳腺腫瘤摘出術で、11.9%が乳房切除術だそうです。すべてが局所再発かどうかは不明ですが、最低でも乳房切除術を行なった11.9%は再発であると思われます。

今までに発表されていた乳房温存術の局所再発率は、欧米でも日本でもおよそ年率約1%(つまり10年で約10%)ということでした。切除断端陰性にした場合にはさらにその半分くらいの再発です。それと比べるといかにこの報告の局所再発率が高いかがわかると思います。

2-4年程度の観察期間で最低でも11.9%!!信じられない高率です。

なぜこんなに高い局所再発をきたしたのでしょうか?これは今の日本の乳腺外科治療にも共通する問題点のせいだと思います。

乳房温存術が標準手術となってから、もうかなり年月が経過しました。最初は慎重に症例を選び、完全切除を目指して一定の距離をおいて切除していました。その分、対象症例は限定され、切除範囲が広くなるために変形も強かったのです。

しかし、整容性が過度に重視されるようになったために切除範囲をぎりぎりにしたり、対象症例を増やすために、術前化学療法施行施行後に広がりの評価が不十分なまま温存手術に踏み切ったりということが増えているような気がします。また、放射線治療が局所再発の予防に有効であることを過信しすぎて、かなり癌が残っている可能性が高いのに乳房切除をせずに放射線治療で経過をみたりしていることも局所再発が増えた原因のような気がします。

この報告はアメリカに限った話ではないと感じています。アメリカ的な考え方に流されつつある、今の日本の乳癌治療に対する警鐘であるという認識をもって患者さんに向き合うべきではないかと私は思います。

2009年10月27日火曜日

ホルモン補充療法中の圧痛と乳癌発生リスク

Archives of Internal Medicineという雑誌に、ホルモン補充療法(HRT)中にみられる乳房の圧痛の出現は、乳癌の発生と相関があるということが発表されました。この報告によると、HRT開始後に乳房の圧痛がみられた女性は、そうでない女性に比べて、浸潤性乳癌が発現する可能性が48%高かったということです

この研究では、心臓発作、脳卒中、浸潤性乳癌のリスクが増大することが判明して2002年に中止された、女性健康イニシアチブ(WHI)のHRTのデータを使用しています。対象は、経口結合型エストロゲン(0.625mg/日)と酢酸メドロキシプロゲステロン(2.5mg/日)を投与したHRT群8,500人以上と、プラセボ群8,100人以上です。経過観察の方法は、年1回、マンモグラフィと視触診を実施したとのことです。

その結果、1年後、HRT群はプラセボ群に比べて乳房の圧痛を報告する可能性が3倍高く(約36%vs約12%)、5.6年間の追跡調査中、毎年、新たに乳房の圧痛を認めた女性の0.6%、圧痛を認めなかった女性の0.36%が、乳癌と診断されたということで、乳癌発生リスクの増加がみられました。

圧痛は乳房の細胞が急速に増殖している徴候である可能性があり、細胞増殖は癌の危険因子と推測されますので、この結果は十分に理解できるデータだと思います。ただ、この報告のみで、HRT中に乳房痛が出たら直ちに中止しなければならないとまでは断定できません。もう少し、追試が必要です。現段階では、HRT中に乳房痛が出た場合には、担当医と利益、不利益について再度相談してみることをお勧めします。

2009年10月25日日曜日

乳癌検診普及のジレンマ

無料クーポン券の影響なのか、最近乳がん検診受診者が急増しています。

私はいま二つの病院の外来に出ています。週2回、外来に行っている関連病院でこの2週間に読影した検診のマンモグラフィ数は141件。昨年のほぼ2倍です。土曜日(10/17)の検診単位が1単位(約20件)ありますが、この間の外来数(他の医師の一般外来も含めて)は、のべ10単位ですので、検診を除いても1単位あたり10件以上の検診が一般外来に含まれたことになります。予約患者さんの間に混ざることになりますので、こなすのはなかなか大変です。

うちの病院では、検診のマンモグラフィは私を含めた二人の読影医で2重読影で診断しています。ですから私はすべてのフィルムに目を通さなければなりません。これらのマンモグラフィは、週2回の外来日の朝に読影しています。外来にまだだれも来ていない7:45ころから、カルテ診(データチェックや手紙を書く仕事など)を終えたあとで読み始めるのですが、ここ2週間は外来の始まる9:00までに読み終えることができなくなってしまいました。結局、外来が終わったあとに残りを読んで、本拠地の病院に移動しています。

検診受診者数を増やしたい、と願って、ピンクリボン活動にも取り組んでいますが、これからさらに増えるのなら、本格的な対策を考えなければなりません。他の病院も同様だと思いますが、乳腺外来は飽和状態になりつつあります。受け皿(乳腺外科医、マンモグラフィ読影医)の確保を早めに検討しなければ、検診に何ヶ月も待たなければならない状態になりかねません。

後継者対策については、かなり前から院長にも外科の最高責任者にも伝えてありますが、外科全体、というより医師数全体が不足している中で、なかなか話が進んでいません。検診を増やしたいけど受け入れるのが難しくなっているジレンマと、多忙による見落としの恐怖に悩まされる今日このごろです。

2009年10月22日木曜日

乳癌とロイヤルゼリー

先日、ある乳癌術後の患者さんから、
”更年期症状の治療にロイヤルゼリーを内服したらずいぶん良くなったんですが、最近おりものが増えてきたんです。以前主治医から、ロイヤルゼリーだけは服用してはいけない、と言われたのを思い出して怖くなったんですがやめた方がよいですか?”
という内容の問い合わせがありました。

乳癌とロイヤルゼリーの関係については、相反する情報があります。

乳癌の再発を促すので、乳癌患者さんは服用してはいけないとする説と、乳癌の予防、治療になるという説です。

乳癌患者さんはロイヤルゼリーを内服しない方がよい、という話は、私がG病院に研修に行っていたときにも某先生から聞いたことがあります。たしか女性ホルモン様の作用があるからだめなんだという話でした。しかし、ネットを含めた最近の情報では、逆に乳癌の予防や治療につながるのではないかとの研究報告が多いように思います(http://www.agr.kyushu-u.ac.jp/biosci-biotech/syokuryo/bee.htmlなど)。ただ、これらはあくまでも動物実験や試験管レベルの話ですので、臨床的に、サプリメントとして服用するロイヤルゼリーが乳癌の予防効果や治療効果があるというエビデンスはありません。

また、ロイヤルゼリーによる更年期症状の改善効果を調べる国内の臨床試験において、エストロゲン投与と同様の効果がみられたという報告があります(http://www.rjkoutori.or.jp/rj/report/report08_5.html)。しかし、動物実験レベルでは、更年期症状に対するエストロゲン投与に比べると、まったく子宮重量の増加がみられなかったことから、エストロゲン作用とは別の機序で更年期症状を改善しているらしいと推測されています。その他の報告でも、ロイヤルゼリーがエストロゲン作用を持っていて、乳癌を増殖させる、という確かな証拠はないようです。

以上をまとめると、

1.ロイヤルゼリーが乳癌の発生や再発を促すという明らかな根拠はない。
2.ロイヤルゼリーが乳癌に対して抑制的に働くという、動物実験データはあるが、臨床的に人間に対して効果があるという証拠はない。

ということになりそうです。
なんとなく、乳製品や大豆製品(イソフラボン)の話と似ていますね。動物実験や試験管レベルの話から推測されることと、実際の臨床的効果は必ずしも一致せず、場合によっては逆の結果になることもあるということです。サプリメントや代替補完療法を考える場合には、盲目的に信じるのではなく、上に述べたようなことも考えながら判断するのが良いと思います。

2009年10月19日月曜日

乳癌の治療最新情報8 Avastin〜乳癌に対する効能の追加申請へ

現在、進行・再発大腸癌の治療に使用されている抗VEGF(血管内皮増殖因子)ヒト化モノクローナル抗体ベバシズマブ(遺伝子組換え)-販売名”アバスチン”の乳癌に対する適応申請がついに厚生労働省に提出されたそうです。

この薬剤については以前も触れましたが(乳癌の治療最新情報5)、今までの抗癌剤や分子標的薬とは作用機序が異なるため、併用投与によって無増悪生存期間の延長が期待できる薬です。欧米ではすでに臨床応用されており、その効果は確認されています。今回、国内での臨床試験でもその効果が確認されたということで追加申請に至ったようです。

いずれは申請されると思っていましたが、私の予想より早く使用できることになりそうで良かったです。また、この薬剤はトリプルネガティブ乳癌にも効果が期待できそうです。ただ、重篤な副作用(創の治癒が遅れる、腸管穿孔など)もあるので、他の抗癌剤と同様に注意が必要です。

すでに大腸癌に対して使用されている薬剤ですので、できるだけスムーズに保険適応が通ることを期待しています。

2009年10月18日日曜日

ジャパン・マンモグラフィーサンデー終了

今日はJMSの乳がん検診の日でした。平日は仕事などで乳がん検診を受けれない人のために、J.POSHが呼びかけて全国で行われた試みです。

私の病院ではもともと定期的に日曜検診を行っていましたので、それを利用する形で備えていました。
しかし、予約された数はもともとの友の会の対象者20人だけ。残念ながらJ.POSHの呼びかけに反応して検診を申し込んだ人はいなかったそうです。

JMSの協賛病院になっている市内のある病院の乳腺外科医(大学時代の私の同期)からも先日電話がありましたが、「せっかく日曜検診の体制をとったのに申し込みがほとんど来ないんだけど…」と言っていました。せっかくの良い取り組みなのに残念です。

来年に向けて、この活動を一般の人たちにもっと知ってもらうことが必要です。また、値段の設定が病院によってばらばらで、混乱を招く可能性があることが課題と思われました。病院によっては、自治体の補助を受けれる対象の人も自己負担7000円くらいを一律で設定していたケースもあったようです。自治体補助の対象外の人(40才未満や奇数年齢など)も受けれるようにするのが望ましいのですが、自己負担額をいくらにするのが適切かという問題は少し議論したほうが良いのかもしれません。

ちなみに今日の受診者の中では乳癌と思われる人はいませんでした。今回の試みを契機にさらなる啓蒙活動を続けていきたいと思っています。

2009年10月13日火曜日

閉経前ER陽性乳癌が急増?

先日開催された日本癌学会において、日本における閉経前のER陽性乳癌が、著しく増加しているとの報告が出されました。

この報告によると、ER陽性乳癌の占める頻度は,50歳以下においては,1982~91年が53.9%であったのに対し,1992~2001年では72.3%,2002~09年では85.6%と著しく増加していた(P<0.0001)とのことです。

以前は閉経前の乳癌には、ホルモン非依存性(ER陰性)のものが多いと言われていました。しかし、乳癌学会発表の2006年度のがん登録のデータでも同様の傾向があるため、現在の閉経前乳癌にはホルモン依存性のものが多いというのは事実のようです。

しかし、昔に比べてER陽性乳癌がこんなに増加しているのか、ということについては少し検討が必要です。なぜなら、現在のERの判定は免疫染色という手法を使って、顕微鏡的に染色される細胞の比率で判断しますが(IHC法)、少なくとも1990年代半ばくらいまでは乳癌組織の一部を採取してEIA法という方法で定量的に測定していたからです。

EIA法の場合、採取する場所によって異なる結果が出る可能性がありますし、陽性、陰性の判断基準も数値ですのでIHC法とは異なります。ですから、IHC法で測定していた時代のER陽性率とIHC法で診断したER陽性率とは単純には比較できません。正しくは、EIA法で測定していた標本をすべてIHC法で測定し直した上で比較しなければ正確なデータとは言えません。

私はこの発表を実際に聞いたわけではないので、IHC法で判定し直したデータかどうかはわかりませんが、もしIHC法で判定したデータなら、非常に興味深い報告です。やはり、生活環境の変化によって発生する乳癌の性質も変わってきているということですから。言い換えるなら、現在増加している乳癌は、この生活環境の変化によって生じた上乗せ分によるとも推測できるからです。

もちろん、”乳製品の消費量が増えたからだ”、と一部の人たちが主張しているような単純なものではないと思います。50年前と比較するならわかりますが、この間の乳製品の消費量はそれほど急増はしていないと思われるからです。インスタント食品やファストフードの増加、コンビニの普及、ますますの少子化、晩婚化、キャリアウーマンの増加、電子製品の増加による電磁波の影響…。この20年間にはさまざまな生活環境の変化があります。大切なのは、これらを正確に解析して、閉経前に乳癌になりやすいハイリスクグループを同定することだと思います。

温泉旅行行ってきました

今日、乳癌患者さんと職員合わせて26名で新篠津温泉に行ってきました。

天気は雨が降ったり急に晴れたりと不安定でしたが、仕事を休んでのんびりしてきました。

温泉の泉質は、ナトリウム-塩化物強塩泉で、源泉かけ流し。黄褐色の濁り湯です。女風呂はなぜか少し熱めだったようですが、男風呂は、ややぬるめでいくらでも浸かっていれそうな快適な温度でした。

ゆっくり温泉を楽しんだあとは昼食。前にも2回ほどこの温泉を利用したことがありますが、毎回驚かされるのが昼食の品数の多さです。刺身、鶏肉の中華揚げ、豚肉の鉄板焼き(小)、イカの塩辛、茶碗蒸し、白身魚の??、かに?団子のあんかけ、天ぷらそば(小)、デザート…。
完食するのはけっこうきついです!
そしてビールやジュースがついて入浴料込みで3500円でした(けっこうお得!)。

10年以上前に最初にこの旅行に参加したころは、患者さんたちに囲まれて質問攻めにされるのがけっこう恐怖?でしたが、最近は慣れたせいか毎回楽しんでいます。今回、同僚の乳腺外科医(G先生)が急に参加できなくなったのは残念でしたが、患者さんたちも私自身も有意義な時間を過ごすことができました。

私の方からは、病院HPに患者会のページを作ってもらって、その中に今までの患者会活動や行事予定、患者さん同士の情報交換の場などを作ってもらおうかと提案しました。うちの患者会は年齢層が少し高いので、PCユーザーは約半数くらいですが、今後のためにも検討していこうかと思っています。

また、患者さん側からは、来年は1泊でゆっくり行きたい、との希望が出されました。以前にも同様の話はあったのですが、値段が高くなることや、土日は出づらいなどの意見が出されて却下されました。しかし、今回の参加者からは否定的な声はまったくなく、賛同が得られたため、来年は土曜日の1泊で検討することになりそうです(平日に勤務を抜けて温泉に行くという密かな楽しみはなくなってしまいますが…笑)。

今日、関連病院の外来を休んでしまったので金曜日は混みそうです。検診マンモグラフィの読影もたまっているはず…。仕事を休んだツケは必ず自分に返ってきます(苦笑)。

2009年10月11日日曜日

予防的乳房切除

Cancerという医学雑誌のオンライン版に、ここ10年でニューヨーク州では乳癌患者が手術を受ける際に、対側の健康な乳房も予防的に切除するケースが5.6%から14.1%と約2倍に増えていると報告されていました。

乳癌の抑制遺伝子であるBRCA1やBRCA2などに遺伝子異常がある場合、予防的に両側の乳房切除を行なうケースは欧米では以前からかなりあり、その効果も報告されています。これらの遺伝子異常がある場合には、生涯における乳癌発生率がきわめて高く、なおかつホルモンレセプター陰性が多く、悪性度の高い乳癌が多いことが、この治療が許容される根拠であり、効果がある理由なのです。

一方、すべての乳癌患者さんの健康な対側乳房を予防的に切除することの効果は証明されていません。

一般的には、乳癌患者さんの対側に乳癌ができる確率は約5%程度と言われています。逆に言うと95%の人には乳癌は発生しないことになります。また、通常、異時対側乳癌の場合は、早期に発見されるケースが多いため、定期的なフォローアップで十分な可能性も高いのです。ですから、遺伝子異常のある人に行なう予防的乳房切除と同じような効果が、すべての乳癌患者の対側乳房の予防的切除で得られるかどうかは疑問です。

欧米の乳癌死亡率はマンモグラフィ検診の普及によって近年かなり改善してきていますが、もともとは予後が悪い病気であったために、乳癌に対する恐怖心が日本よりずっと大きいのではないかと思われます。ですからこのような正常な乳房に対する予防的切除を希望される患者さんが多いのではないでしょうか?

日本人ではこのような手術を希望する人はまれだと思います。なんとなく国民性が伺えるようなニュースでした。

2009年10月8日木曜日

予約外来と待ち時間

私の外来は、乳腺専門外来で完全予約制です。とはいっても週に1単位しかないため、本当は午後から18人(30分単位で3人)の枠なんですが当然おさまりません。18人はあってないような予約数で実際は25-30人ほど診察予約が入っています。

私の外来のポリシーは、なるべく患者さんをお待たせしない、看護師さんを残業させないように診療時間内で終わる、でも患者さんには十分満足していただけるような診療(正確な診療、わかりやすい、話しやすい外来)を行なう、ということです。実際はなかなか難しいですがこの時間を確保するために、いつも13:30からの診療開始時間を繰り上げて、13:00から診察を始めています。

でも、今日はなかなか思い通りにはならず、待ち時間が長くなった一人の患者さんを怒らせてしまいました…。

原因は、
①午前の他のDrの外来が遅くなり、二つある診察室が13:30すぎまで空かなくて開始時間が遅れたこと。
②13:30予約の患者さんに様々な問題が生じたため、その解決、手配にかなり時間がかかってしまったこと。
③その後も今日に限って、精密検査が必要な患者さんが続いてしまい、以前の写真と比較したり、検査のオーダーに時間を要してしまったこと。
④予約数が多めだった(27人)こと。
でした。

結局、その患者さんは15:30(〜16:00)の枠だったのですが、早めの15:00に病院に来院され、診察に入ったのは16:30少し前だったため、診察が終了したあとで、”こんなに待たされるならもう来ません”と怒って次回の予約をせずに帰られてしまったとのことです。予約票には、予約時間が15:30となっていますが、実際は15:30から16:00までの間の3-4人のうちの一人ですので、30分くらいの遅れだったのですが、予約時間よりも早く来院されたこともあって、すごく待たされた気持ちになってしまったのだと思います。

まったく休憩も無駄話もせずに夢中になって外来をしていても、このようなケースが起きてしまうととても落ち込みます。
きっとその患者さんが発していた怒りのサインに気づけなかったから、このような結果になってしまったのだと思います。看護師や私に、もう少し気配りがあれば違ったのかもしれません。いつもならお待たせしてしまった場合には、”お待たせしてしまってすみません”と言うようにしているのですが、この患者さんの場合は、細胞診の結果の説明の仕方に気を取られてしまって、声をかけれなかったのは確かでした。

自分では頑張っているつもりでいても、患者さんに伝わらなければなんにもなりません。
反省です…。

2009年10月6日火曜日

自動スキャン方式による乳腺専用超音波装置ABVS

乳癌の早期発見にマンモグラフィの弱点を補う意味でも超音波検査が有用であることは、今までも何度か触れました。

しかし、超音波検査を乳がん検診に導入するためにはまだ解決しなければならないいくつかの問題があります。

一つ目は、再現性の問題です。通常の超音波検査では、検査をした技師(医師)以外の人は、撮影された画像(動画で記録も可能ですが、通常は静止画)で判断しなければなりません。写真が悪ければ判断を誤る可能性があります。動画で保存しても、リアルタイムに位置関係がわからないので、あとで異常が見つかった場合に、どこにあったのかがわからなくなってしまい、過去の画像との対比も困難です。

二つ目は、検査をした技師(医師)の技量によって精度が変わってしまう点です。異常と認識できれば画像にも残せますが、異常と認識しなければ記録は残らないからです。

マンモグラフィは、フィルムが残るので、複数の医師が読影できますし、過去の画像とも比較できます。撮影方法が決まっているので位置関係も明確です。そういった意味でもマンモグラフィは精度管理がしやすく、検診に導入しやすい検査なのです。

これらの超音波検査の問題点を克服するためには、まず検者の技量を上げるための講習や資格試験の導入が必要で、現在すでにJATSという組織が中心になって一部行なわれています。動画の保存も一部の施設では行なわれていますが、すべての動画を保存するのには容量も必要ですし、ダブルチェックをするためには検査時間と同じだけの時間を要しますので、日常診療の中ではかなり困難です。

そこで今年から実地診療で使用可能になった検診用超音波検査装置が、ACUSON S2000 Automated Breast Volume Scanner(ABVS)〔持田シーメンスメディカルシステム〕です。自動的に乳房全体の超音波動画を撮影し、位置関係も含めたデータを保存するため、冠状断(乳房を正面から見る画像)を含めた複数の断面画像で超音波診断ができるという特徴があります。また、過去のデータとの比較も容易ですし、MRやCTの画像と重ねあわせて広がりの診断精度を高めることも期待できます。一人の患者さんに要する時間も10分程度と短く、患者さんにやさしい検査法と言えます。将来的には、自動診断機能の開発も期待されています。

まだ国内に1台、全世界でも13台しか稼働していませんので、まだまだこれからの装置ですが、期待が持てそうな検査装置です。

2009年10月4日日曜日

第7回乳癌学会地方会

昨日(10/3)に乳癌学会の地方会がありました。

一般演題の発表の他、教育セミナー、ランチョンセミナーを聞いてきました。

一般演題:2回ほど質問をしました。今回は諸事情で私は演題を出せませんでした。来年は出さなきゃだめですね。

教育セミナー:琴似乳腺クリニックの超音波技師、白井秀明さんの”乳腺超音波症例検討”と熊本市民病院の西村令喜先生の”進行乳癌の治療(手術の適応について)”でした。

ランチョンセミナー:癌研有明病院化学療法科の伊藤良則先生の”ラパチニブ(タイケルブ)の臨床導入〜癌研有明病院の取り組み〜”というお話でした。
ラパチニブの注意すべき副作用についての説明と、特に頻度が高い下痢と発疹の対策についてわかりやすく詳しく説明してくださいました。癌研では”チームタイケルブ”というグループをつくって、患者さんへのパンフレット作成や対応をしているそうです。下痢は頻度も高く、重篤になると生命を脅かす可能性もあるため、慎重なフォローが必要であることをあらためて認識しました。ラパチニブの臨床応用についてはまだ未解決の点が多くあります。ラパチニブ単剤の有効性、ゼローダ以外の化学療法剤との併用の効果、ハーセプチンとの併用の効果、HER2陽性乳癌の再発治療における、ラパチニブ投与の順序(ハーセプチン+他の化学療法剤のあとにラパチニブ+ゼローダを投与するか、ラパチニブ+ゼローダが先か?)、ラパチニブ+ゼローダの術後補助療法は、現行のFEC(+タキサン)→ハーセプチンより有効か?などです。現在これらの一部は臨床試験が進行中とのことで結果が待たれます。

私用で午後の一般演題は聞けませんでしたが、大変勉強になりました。

2009年10月1日木曜日

抗癌剤の副作用4 皮膚障害

骨髄や粘膜、毛根そして皮膚などの細胞は、細胞周期が早い(細胞分裂が早い)ために、一定の細胞周期に特異的に作用する薬剤である抗癌剤のダメージを受けやすいと考えられています。命に別状のある副作用ではありませんが、悪化すると生活の質(QOL)を低下させる可能性のある、皮膚の障害について今回はお話しします。

抗癌剤による皮膚障害には、①色素沈着②爪甲異常③手足症候群などがあります。

①色素沈着

原因:抗癌剤によって表皮基底層に存在するメラニン細胞が刺激され,メラニン色素産生が亢進するために起こると考えられています。
原因薬剤:乳癌によく使用する薬剤としては、5FU系薬剤(5FU、ゼローダ、TS-1、フルツロン、UFTなど)やドキソルビシン(アドリアマイシン),シクロホスファミド(エンドキサン)が代表的。
好発部位:手足などに限局して色素沈着を起こす薬剤が多く、5FU系によるものは,日光曝露により増悪すると言われています。
治療・対処:治療の継続に支障が出ることは通常ありませんが、美容上、問題になることがあります。有効な予防・治療法はなく,抗癌剤の中止により軽快します。また、悪化予防のため、これらの抗癌剤治療中は日焼け止めクリームを使用した方がよいと思います。

②爪甲異常

原因:抗癌剤により、爪の成長が阻害されることによって生じます。線状の凹凸が形成され、爪甲の剥離や脆弱化が起きることもあります。
原因薬剤:ドセタキセル,ドキソルビシン,シクロホスファミド,5FU系薬剤など。
治療・対処:爪のトラブル予防のために適度に切りそろえておく、マニキュアのベースコートで保護しておく、などの予防が大切です。効果的な治療法はありませんが、これもほとんどの場合、抗癌剤終了後に徐々に軽快します。

③手足症候群

原因:皮膚基底細胞の増殖能の障害やエクリン汗腺から抗癌剤が分泌されることによると考えられています。
症状:最初は疼痛を伴わない皮膚炎(紅斑、テカテカした感じなど)ですが、徐々に疼痛が出現し、歩行困難や潰瘍形成などで日常生活に支障が出るようになることもあります。
原因薬剤:5FU系薬剤(特にゼローダ)、ドキソルビシン、ドセタキセルなど。
治療・対処:ビタミンB6が発症予防や症状の軽減に有効な場合があります。また、保湿剤の使用、長時間の入浴などで温めすぎないようにする、刺激の少ない石けんの使用、過度な手足への負担を避ける、などが予防に有効と言われています。しかし、確実な治療法はありませんので、悪化が見られた場合には早めに原因薬剤を中止することが必要です。