2010年4月29日木曜日

抗がん剤投与のためのCVポートの利点と注意点


再発患者さんのように長期にわたって抗がん剤投与が必要な場合、腕などの血管が徐々に痛んで使用できなくなるため、CVポートという器具を挿入することがあります(写真はBARD社のX-ポートisp グローションカテーテルタイプ)。

挿入方法は、以下の通りです。
①局所麻酔下で鎖骨下静脈などの太い静脈を注射針で試験穿刺。
②専用の穿刺針で穿刺後、ガイドワイヤーを針の内部から挿入。
③ダイレーターという拡張用の器具でルートを拡張した後でガイドワイヤーを介してカテーテルを心臓近くの上大静脈まで挿入。
④前胸部を切開し、ポートを皮下に留置し、カテーテルと接続し固定。
⑤閉創

およそ30分から45分で終了です。

一度入れてしまえば、ここから採血もできるし点滴のために何度も針を差し替えられることもなくなり、患者さんにとっては非常に楽になることが多いです。また、抗がん剤が血管から漏れてしまうと重篤な組織の壊死をきたすことがありますので、ポートを入れてしまえばこういうリスクを低減できます。

一方、ポートやカテーテル関連のトラブルも時に経験します。代表的なものは以下の通りです。
①ピンチ・オフ…鎖骨下静脈と第1肋骨の間にカテーテルが挟まれた状態。体位で点滴の落ち方が変わったり、採血できなくなったりします。このまま放置するとカテーテルが離断して心臓内に落ち込んでしまことがありますので、入れ替えが必要になります。
②キンク…カテーテルが折れ曲がること。肥満体型の患者さんに起きやすい傾向があります。ポートとの接合部の近くや大胸筋の挿入部などで起きやすく、ピンチ・オフと同様にカテーテル離断の原因になります。離断したことを知らずに抗がん剤を投与すると皮下に漏出してしまうことになりますので、必ず投与前に血液の逆流を確認する必要があります。
③カテーテル感染…ポートやカテーテルのような異物には、時に細菌が住みいてしまうことがあります。他に原因がないのに高熱を繰り返す場合にはカテーテル感染を疑います。菌が血管内をまわる状態(敗血症)を引き起こすため、早く適切な対処(抗生物質の投与とカテーテルの抜去)をしなければ重篤な状態になるので注意が必要です。
④気胸、血胸…ポート挿入時の肺や動脈の誤穿刺で起きます。胸腔ドレーン(チューブ)の挿入が必要になります。

ポートの挿入によって得られるメリットは大きいですが、このような重篤な合併症も起き得ますので注意が必要です。ポート周囲の発赤や痛み、腫れ、発熱が起きたときはすぐに主治医に報告するようにしましょう。

2010年4月26日月曜日

中間期乳癌〜乳がん検診の精度は100%ではありません!

乳がん検診で「異常なし」と判定された後で、次の検診(現行制度では2年後)までの間に発見された乳癌を中間期乳癌と言います。

中間期乳癌が発生してしまう理由には次のようなことが挙げられます。

①前回乳がん検診時の見落とし
触診のみの時代には検証しようがありませんでしたが、現在行なわれているマンモグラフィ検診では、前回のフィルムを見直すことで確認することが可能です。
この中には、誰が見ても要精査とすべきなのに見落としてしまった場合と、写ってはいるけど今回と比較して初めて指摘が可能である微妙な病変とに分けられます。この微妙な病変を指摘できるかどうかは、マンモグラフィ読影医の技量と読影システム(ダブルチェックなど)にも影響されます。中間期乳癌の大部分はこの微妙な病変です。これを医療過誤と呼ぶのは妥当ではありません。例えば半数の読影医しか指摘できない病変を指摘しなかったことが医療過誤だと言ってしまうと、半数の医師は罪を問われるからです。実際、このようなケースを恐れすぎてしまうと、要精査率が上がりすぎてしまいます。検診を受けた人の過半数が精密検査にまわるようでは検診の意味がなくなってしまいますよね。ですから、読影医は見落としに気をつけながら、拾いすぎないようにも気を配らなければならないのです。そういう中で、微妙な病変の見落としというケースが生じてしまいます。

②前回検診後に比較的急速に大きくなって病変が指摘できるようになったケース
前回のマンモグラフィをいくら見ても今回の病変が指摘できない場合です。このようなケースは急速に増大する悪性度の高い癌であることが多いです。組織型では充実腺管癌や化生癌など、免疫染色による分類では、HER2陽性やトリプルネガティブに多い印象があります。
私自身も前回のマンモグラフィ(脂肪性乳腺なので非常にマンモグラフィが見やすい患者さんでした)では全く病変が認められなかったのに、1年経つ前に1.5cmくらいのしこりを自覚して受診された方を経験しました。この患者さんはトリプルネガティブの充実腺管癌でした。

③前回検診時にも指摘できる大きさだったかもしれないが検証困難なケース
これは、マンモグラフィの死角に癌があった場合です。50才以上では1方向のみですので、どうしても内側の上側が撮影範囲から欠けやすくなります。ここにできた場合はマンモグラフィに写らないことがあります。それを補うために触診を行ないますが、乳房の厚みや硬さによってはわかりにくい場合もあります。こういうケースは2方向撮影を行なうか超音波検査を併用すれば指摘できた可能性があります。しかし、現行の検診制度では検出困難なのです。

以上のことから、乳がん検診で「異常なし」と判定されることが、「あなたの乳房には癌がありません」ということとイコールではないということがおわかりいただけたと思います。われわれ乳腺外科医もマンモグラフィの読影模擬試験や定期的な講習会を受けて、このような中間期乳癌をできるだけ減らすための努力を行なっていますが、残念ながらそれでも100%防ぐことはできません。

このように、乳がん検診を受ける方にもマンモグラフィ検診には限界があるということを理解していただく必要があります。
ご自分の命を守るためにも、検診を過信しすぎないように、自己検診を月1回はするようにして下さい。

2010年4月23日金曜日

乳癌の治療最新情報16 PARP1阻害薬1(ASCO2009から)

再発すると治療に難渋するトリプルネガティブ(TN)乳癌ですが、続々と新薬の国内臨床試験が行なわれつつあります。

その代表がDNA修復阻害剤の一種であるPARP1阻害剤という薬剤です。2009年のASCOにおいてその有効性が報告され、注目されたのをご存知の方も多いと思います。このとき報告されたのは次の2つの薬剤です(詳細は浜松オンコロジーセンターの渡辺亮先生がまとめたスライドをご参照ください http://www.sagara.or.jp/osirase/data/webkan16.pdf)。

①BSI-201
治療抵抗性のTN再発症例に対して、ジェムザール+カルボプラチンの併用療法における上乗せ効果が確認された(病勢進行するまでの期間が6.9カ月vs3.3カ月、全生存期間は9.2カ月vs5.7カ月)。
②オラパリブ(olaparib)
BRCA1またはBRCA2遺伝子変異をもち、それまでの治療に抵抗性であった進行乳癌にこの薬剤(単剤)を投与した結果、奏効率は、高用量(TN患者の割合は50%)で41%、低用量(TNの割合は64%)で22%だった。

②についてはすでにアストラゼネカ社が国内開発に着手しており、乳がんや卵巣がんなどを適応症に据えて臨床試験を進めているとのことです。そしてサノフィ・アベンティス社が国内開発すると今回発表した「イニパリブ」というPARP1阻害剤は、おそらく①のBSI-201のことだと思われます(検索しても確認できませんでしたが)。日本では第1相臨床試験を近く始め、2~3年後の承認申請を目指すとのことです。

副作用もそれほど問題はないようですし、TNにも有効な貴重な薬剤ですので、国内の臨床試験が早く終わって承認されるといいですね。

2010年4月22日木曜日

漢方治療〜少しずつ始めました




先日来、漢方に目覚めてしまった私は、昭和40年代の漢方の古書を2冊と同僚から借りた(買い取る予定)患者さん向けの「最新 漢方実用全書」、そしてコーチャンフォーで見つけた「健康保険が使える 漢方薬の選び方・使い方」の合計4冊を読みあさっていました。なかなか奥が深くて、理解するまでには到底及びませんが、ちょっとだけ漢方の基本知識がわかりかけた状態までたどりつきました。

そして今日の乳腺外来、写真にある2冊の本を机の片隅に置いて診察に臨みました。

基本はあくまでも標準治療です。標準的な診察所見や検査で器質的な疾患がない場合や標準治療が困難な症例のみに漢方を検討するつもりでした。漢方薬にも副作用があり、証が合わない場合には無効であるばかりではなく、肝機能障害や下痢、むくみなどの有害反応をきたすことがありますので、私のような専門医でもない医師は、特に慎重に投与しなければならないと思ったからです。

今日の午後からの乳腺外来の予約は30人。そのうち乳癌術後の定期検査の患者さん2人に漢方薬を処方しました。2人とも術後5年以上経過し、再発所見はなく、順調に経過している患者さんです。

1人目は、不眠(入眠障害)の患者さんでした。症状をよくお聞きすると、いらいらしやすく、のぼせる感じがある、首の後ろが暑い、胃腸は丈夫で便秘や下痢はない、比較的体力もあるとのこと。けっこう精神症状が強そうなので抑肝散という薬にしようかと思ったのですが、当院の内規で「患者限定薬」になっていたため、更年期障害でよく用いる加味逍遥散という薬を処方してみました。

2人目は、咽頭のつまり感が非常に強い患者さんでした。この間、この症状が不安で耳鼻科を受診し精査しましたが異常はなく、胃カメラでも食道に器質的な病変は認めないことがわかったにも関わらず、症状が取れないということでした。今日のCTでも異常がなかったため、典型的な「咽喉頭異常感症」(通称ヒステリー球 咽喉頭神経症などとも呼ばれる)と診断しました。このような病態は古代中国の時代から存在しており、「梅核気」(ばいかくき)、「咽中炙臠」(いんちゅうしゃれん)と呼ばれていたそうです。

こういう症状を訴える患者さんは私の外来では非常に多いのです(若い人にもみられますが中年女性に多いため)。不安が強い人、神経質な人、ストレスが多い人によく見られ、他の不定愁訴を伴っている場合も多いようです。検査で異常がないことを確認した上でこの病気について十分にご説明し、原因となっていることが解決すれば自然に良くなることも多いのですが、症状が強い場合には精神安定剤が有効です。

この患者さんは日中眠くなる可能性のある精神安定剤の服用を希望しなかったため、この病態によく用いられる、半夏厚朴湯という薬を処方しました。遠方の方のため、処方の継続は近医にお願いしましたが、きっと効果があると思います。なにせ中国で2000年にわたって効果があると認められてきた薬剤ですから…。

漢方は勉強すればするほど面白いです。もちろん癌自体の治療に使用する気はありませんが、治療の副作用や手術の後遺症、女性特有の更年期障害や不定愁訴などには、とても有効ではないかと考えています。もっと勉強して、患者さんの苦痛を癒せるようになりたいと思っています。

2010年4月20日火曜日

がんの補完代替医療 慎重に(読売新聞より)

読売新聞をとっていないため(生まれつきアンチ巨人なんです…すみません…)インターネットのニュースでこの記事を読みました。
要旨を抜粋してご紹介します。

・がん患者の4割以上が、東洋医学や健康食品、免疫療法など、保険適用外の「補完代替医療」を利用している。
・一部は近年になって苦痛緩和に役立つことが分かってきたが、がん自体の縮小効果が科学的にはっきりと立証されたものはない。
・貴重な時間とお金を無駄にしないよう、患者・家族も慎重に判断する必要がある。

<アメリカのがんの専門家による報告(2007年)>
・一部の補完代替医療の効果について、実際の患者で試して科学的に検証した報告の中では、はり・きゅうの有効性を認める研究が多く、がんに伴う痛みや、放射線治療後の口内乾燥症、抗がん剤や麻酔によるむかつきや嘔吐などに対しての利用は勧められる。

<厚生労働省研究班の報告>
・補完代替医療の安全性や有効性に関する国内外の論文を集め、臨床試験も行っている。
・最も多く利用されているキノコの健康食品「アガリクス」は、抗がん剤による食欲不振や脱毛、全身倦怠感を軽減するという論文はある反面、ごくまれに肝機能を悪化させることがある。
・免疫力を高めて、がんを死滅させようとする免疫療法は、早期がんでは様々な種類のがんで世界各地で臨床試験が進んでいるが、手術も放射線治療もできない極端な進行例には歯が立たない(*注 現段階では…)。

<研究班代表、四国がんセンター胸部外科医長 山下素弘先生のコメント>
「治療の主役はあくまでも手術・放射線・抗がん剤。補完代替医療は脇役で、それだけに頼れば治せるはずのがんが治らなくなるかもしれない。『絶対に治る』という言葉には用心を」
「本当に有望な治療法なら臨床試験を経て数年内に保険適用されるはず。まずは宣伝文句を疑い、安全性と有効性を吟味するべきだ」

→吟味する上でのポイント
〈1〉健康食品やサプリメントにも副作用の心配はある
〈2〉培養細胞や動物を使った実験の結果と体験談だけでは信用に値しない
〈3〉通常はがんの大きさが30%以上縮小した患者の割合で効果の有無を判定する
〈4〉治療法の解説文やデータを主治医に見せて相談する


→これらを踏まえ、さらに下に挙げたような研究機関や厚労省研究班のホームページで安全性・有効性に関する情報、臨床試験の内容などを調べると検討の際に参考になります。


【がんの補完代替医療に関する相談窓口】
(いずれも保険がきかない自由診療で、要予約)
・大阪大病院(大阪府吹田市) (電)06・6879・3498
・徳島大病院(徳島市)    (電)088・633・7960
・芳珠記念病院(石川県能美市)(電)0761・51・5551
・四国がんセンター(松山市) (電)089・999・1114

【がんの補完代替医療に関するインターネットサイト】
厚生労働省研究班のホームページ=基礎知識や試験結果など紹介 
 http://www.shikoku-cc.go.jp/kranke/cam/index.html
「がんの補完代替医療ガイドブック」=厚労省研究班の解説書をダウンロードできる 
 http://web.kanazawa-u.ac.jp/~med67/guide/index.html
国立健康・栄養研究所のサイト「『健康食品』の安全性・有効性情報」=成分ごとに論文発表された情報を検索できる  
 http://hfnet.nih.go.jp/

2010年4月19日月曜日

再発乳癌に対するステロイドの効果

ステロイドという薬をご存知ですか?とてもたくさんの薬理作用を持つために魔法の薬と呼ばれる一方で副作用も強いため忌み嫌われることもある薬です。ステロイドというのは総称で、様々な種類があります(ドーピングで問題になるタンパク同化ホルモンや性ホルモンもステロイドの一種です)。

ステロイドの主な作用は、強い抗炎症作用、免疫抑制作用(抗アレルギー作用)、抗ショック作用、タンパク同化作用、食欲増進作用、骨髄保護作用などです。好ましくない副作用としては、消化性潰瘍、血糖上昇(糖尿病の悪化)、肥満、血栓症、にきび、多毛などがあります。

乳癌の領域では、現在は抗がん剤の副作用予防目的(アレルギー反応の予防、嘔気の予防)や緩和医療領域における全身倦怠感や呼吸困難感、食欲不振などの症状改善目的で投与されることがあります。

今日の日経メディカルオンラインに、「ステロイドは進行癌の病態形成を抑制する」というタイトルで癌治療におけるステロイドの効果が掲載されていました。

癌が進行すると悪液質(食思不振、体重減少、筋肉の萎縮など)と呼ばれる状態になります。この状態の原因には、炎症性サイトカインと呼ばれる物質の一つであるTNF-α(tumor necrosis factor=腫瘍壊死因子)などが関与していることが判明しています。炎症性サイトカインは、抗がん剤の効果も減弱させる可能性があり、このようなサイトカイン過剰状態は、末期だけではなく、比較的早い段階から起きていることが推測されています。

強い抗炎症作用を持つステロイドはこの炎症性サイトカインの作用を妨げるため、悪液質に陥った患者さんの全身状態を改善させると考えられているのです。この記事の著者は、ステロイドは、悪液質を改善するだけではなく、胸水の減少や癌性疼痛の緩和にも有効であったと症例を提示して報告しています。

私もステロイドが著効した患者さんを何人か経験したことがあります。

最近経験した患者さんは、癌性胸膜炎で胸水が著明に増加し呼吸困難状態に陥ったため治療を変更する予定だったのですが、全身状態が思わしくないため、まずはステロイド(リンデロン8mg/日)を投与して経過をみたところ、癌に対する治療はまったくしていないにも関わらず、胸水が著明に減少し、酸素も不要となったのです。食欲も改善し、骨髄機能も回復したため、予定通り新しい治療を開始することができました。

ステロイドは、胸水貯留だけではなく、癌性リンパ管症による呼吸困難や骨転移による疼痛、脳転移による脳圧亢進にも効果を発揮し、症状を改善させます。すべてではありませんが、この効果が比較的長期にわたって継続することもあります。このような経験から、ステロイドには、単に抗炎症作用などによる病態の改善だけではなく、がん自体に対しても抗腫瘍効果があるのかもしれないと感じることがあります。実際、白血病などの領域ではステロイドは抗がん剤として投与されていますし、乳癌領域でも相当昔の話ですが、抗腫瘍効果を期待して抗がん剤と併用投与されていた時代があったのです。

ステロイド系ホルモン剤の一種である、酢酸メドロキシプロゲステロン(商品名 ヒスロンH、プロベラ)が、ホルモンレセプター陰性の乳癌にも一定の効果を示すという理由は、このステロイドが持つ共通の作用によるものなのかもしれないと、ふと感じました。やっぱりステロイドは魔法の薬なのでしょうか?

2010年4月17日土曜日

乳がん検診で”要精査”と判定されたときの病院の選び方

久しぶりに乳癌検診学会のHPを開いてみると、「乳がん検診の精密検査実施機関基準」という大きなバナーが表示されていました(http://www.jabcs.jp/images/seimitukikan.pdf)。乳癌学会と乳癌検診学会が共同で発表した指針のようですが、この基準はどうやらまだ「各自治体で目指すべき目標」という段階で、強制力はないようです。

今までは乳がん検診で「精密検査を受けて下さい(要精査)」という結果が返ってきた場合、どこの病院に受診するのかは患者さんの判断に任されていました。

しかし、実際、「要精査」という結果が返ってきても、どこの病院に行けばいいのか迷ったという方もいらっしゃると思います。そういう意味ではこのような基準ができることは望ましいことだと思います。

ただこの基準を読んでみると、特に地方都市では、医療機関側からみた施設基準のハードルは少し高いかもしれません。特に「乳腺専門医が常勤(当面は認定医でも可)している」という項目は、大学などから週数回派遣されているような病院では精密検査ができないことになり、大都市まで検査を受けに行かなければならなくなります。今後これらの学会、厚生労働省、自治体は、そのような地方都市での精密検査をどうするのかという課題にも取り組まなければならないと思います。

とりあえず、当面の目安にはなりますから、精密検査を勧められたときには、この基準を満たす病院を探すのが良いでしょう。

簡単な選び方は、

①乳癌学会のHPに掲載されている「日本乳癌学会認定・関連施設」を選ぶ(これらの病院には乳腺専門医または認定医がいます)。

②マンモグラフィ検診精度管理中央委員会のHPに掲載されている読影認定医師リスト(http://www.mammography.jp/)、撮影認定診療放射線技師・医師リスト(http://www.mammography.jp/)、施設画像認定施設(http://www.mammography.jp/)を見て、その施設がこの基準を満たしているか確認する。

という方法が良いと思います。

2010年4月15日木曜日

骨粗鬆症治療薬「エビスタ(ラロキシフェン)」の乳腺への影響

近年、骨粗鬆症の治療薬の開発が進んでいます。ひと昔前は、カルシウムとビタミンDの内服が主でしたが、現在ではボナロンなどのビスフォスフォネート製剤がその主役を奪っています。また、エストロゲンの骨量増加作用を利用したSERM(選択的エストロゲン受容体調整薬:Selective Estrogen Receptor Modulater)も保険適応となり使用されるようになってきています。

今日乳がん検診をしていたところ、80才台の女性がこのSERM(一般名ラロキシフェン 商品名エビスタ)を内服しているとのことでした。そしてこのエビスタを内服して4ヶ月くらいしてから乳房が張るようになって痛いとおっしゃるのです。

私の認識としては、
①エビスタはタモキシフェンと同様の構造をしているSERMである
②骨に対してはエストロゲン様の作用を呈するが、乳房に対しては、抗エストロゲン作用を呈する
③したがって、エストロゲン受容体陽性乳癌発生の予防効果もあるという報告もある
というものでした。

ですから、乳房に対してエストロゲン様の刺激作用(乳房の張りや痛み)が出るのはおかしいのでは?と思ったのです。

しかし添付文書を読んでみると、「乳房緊満」の頻度は2.9%あると書いています。患者さん向けのサイトでの薬の説明にも「副作用でわりと多いのは、乳房の張り、ほてり、吐き気などです。これらは、2~3カ月して体が慣れてくるとたいてい軽快しますので、それほど心配いりません。つらいようでしたら、医師とよく相談してください。」と書いてありました。

乳房に対して抗エストロゲン作用がありながら、エストロゲン様作用もある??エビスタは変わった作用を持っているようです。もしかしたら作用に個人差があるのかもしれません。乳癌患者さんがエビスタを内服して乳房への刺激症状があった場合は継続するかどうか慎重に判断した方が良いのかもしれませんね。

今年もピンクのTシャツでママチャリレースに出ます!

一昨年から某公園(道内一の広さ)の4時間耐久ママチャリレースに参加している病院のピンクリボンチーム。昨年は管理部の協力でお揃いのピンクのTシャツでレースに参加しました。

年々参加者の平均年齢が上がっており、私自身もその後はまったく運動をしていなかったため参加するかどうか迷っていました。結局期限まで返事をする予定がすっかり忘れていたところ、いつの間にかチームリーダーのEさんに参加することにされていました(泣)。

まあせっかくTシャツも作ってもらったことだし、頑張るしかありません。そろそろ自転車にでも乗ろうかと思っていた矢先、朝起きたら突然の背部痛が…。1月にも雪かきをしたあとで同じ症状になって数日苦しみましたが、今回は運転できないほど苦しくて一日仕事を休んでしまいました。そして昨日も夜のピンクリボン in Sapporoの会合を休むことに…。やはり徐々に体は老化してきているのかもしれません。

安静のかいがあって今日になってようやく少し前屈みになれるようになってきたところです。このままでは6/20のママチャリレースまでに体ができあがるのか心配です…。昨年は1ヶ月前から練習してなんとか間に合ったので今回は2ヶ月前から余裕で練習しようと思っていたのですが…。まああせってもしかたないので徐々にトレーニングすることにします。

本番ではついついレースに夢中になってしまうのですが、今年はピンクリボン運動の普及をメインに何かできないか考えています。横断幕を作ってテント前に掲げるとか、ビラを配布するとか…他に何かいいアイデアはないかな?

2010年4月11日日曜日

セカンドオピニオン

先日、セカンドオピニオンを希望されて関連病院の外来を乳癌の患者さんが受診されました。進行乳癌ですでにこちらの最先端病院で治療を受けられているのですが、民間療法への切り替えについての私の意見を聞きたいとのことでした。


セカンドオピニオンというのは、前医ですでに検査や治療を行なっていて、その妥当性について他の医師の意見を聞くのが目的です。前医からの紹介状と検査所見データなどを持参するのが原則で、セカンドオピニオンを行なう病院では通常、検査はしません。勘違いしている人が多いようですが、最初から検査や転院を希望する場合はセカンドオピニオンとは言いません。

1件につき、30分から1時間くらいを要しますので、保険外診療で行なうのが普通で各病院によって料金が設定されています。

ネットで検索してみると、この料金設定は、地域と病院の性質によってかなり異なります。

地域では、やはり首都圏が高めです。30分で21000円前後が多いようです。名古屋、大阪では30分で10500円、札幌は非常に安く、30分7350円の設定が多いようです。

また、大学病院によっては、対応する医師の役職(教授、准教授、講師、助教)によって金額設定が異なる病院もあります。首都圏の某大学病院の教授のセカンドオピニオン料は、30分31500円!!とのことです。

いま新病院建設に向けての会議でセカンドオピニオン外来を始めることを決めたばかりなので、うちの病院ではセカンドオピニオン外来という保険外診療の料金設定はされていません。ですから、もしセカンドオピニオンを希望して来院した場合には、通常の診療扱い(保険診療)になってしまいます。セカンドオピニオンですから検査はしませんし、保険請求できるのは、初診料270点(2700円 3割で810円)と診療情報提供料250点(2500円 3割で750円)のみです。

で、今回の患者さんは午前外来の最後に入ってもらいました。診察も含めてゆっくりお話をお聞きし、標準治療の重要性と民間療法の問題点や期待できる点、前医での治療方針の妥当性などについて十分にご説明しました。患者さんは大変よく理解してくださり、満足して前医のもとへ戻られました。

ちょうど昼食の時間で、かかった時間は1時間15分くらい。私はこういう仕事はまったく苦にならないですし、むしろやりがいがあると思っています。でもこの間、医師と看護師がつきっきりなんです。

セカンドオピニオンは高いと思われる方も多いと思います。でも、うちの病院のようなシステムでは何時間かかっても、保険診療で行なう以上、初診料+診療情報提供料の520点(5200円)しか病院には入ってきません。これでは病院は成り立たないのです。

それでなくてもお金がかかる乳癌患者さんですので、高額の料金がかかるのは心苦しいです。しかし病院もそんなに利益が出せる時代ではなくなっているのです。セカンドオピニオンの料金というのは、専門医の知的財産に対しての評価でもあります。そして日本は知的財産に対する社会的評価の低い国と言われています。

皆さんはセカンドオピニオンの料金、いくらが妥当だと思われますか?

2010年4月9日金曜日

第18回日本乳癌学会学術総会 発表準備開始!

今年は6.24-25に札幌で日本乳癌学会学術総会が開催されます。先日ようやく演題の採択通知が来ました。

昨年の12月が演題申し込みの締め切りだったので、抄録を書いてから4ヶ月間放っておいたままでした。あと2ヶ月あまりなので、そろそろ論文集めやスライド作りに取りかからなければなりません。

今回のテーマは自分で言うのもなんですが、なかなか面白い内容です。St.Gallen2009が発表されて、内分泌療法と化学療法、抗HER2療法の適応が整理された中で唯一悩ましい”ER陽性・HER2陰性乳癌”に対する化学療法の適応に関係する内容です。うまくまとまったら論文化したいなと考えているので、気合いを入れて頑張らないと…。

ちなみにSt.Gallen2009の内容の日本語訳は、NPO法人がん情報局のHP(http://www.ganjoho.org/)から見ることができます。

2010年4月8日木曜日

華岡青洲と乳癌手術

今日、医局で漢方の話をしていて華岡青洲の話題になりました。

皆さんは華岡青洲をご存知ですか?

きっとほとんどの方は、「華岡青洲の妻」という有吉佐和子さんの小説が映画化され、その後も何度かドラマ化されたので、その名前を一度は耳にしたことがあると思います。

華岡青洲は江戸時代の高名な医師です。そして記録に残っている中では、世界で最初(1804年)に”全身麻酔で外科手術を行なった医師”なのです。これは、1846年にアメリカで行われた、ジエチルエーテルを用いた全身麻酔の手術より、なんと40年以上も前のことです。

全身麻酔を行なうために華岡青洲は、伝説の後漢時代の医師である華陀が用いていたという漢方薬(麻沸散)の再現を試みました。長い年月をかけた研究の末、曼陀羅華(チョウセンアサガオ)八分、草烏頭(トリカブト…猛毒です)二分、白芷二分、当帰二分、川芎二分を調合した全身麻酔薬、「通仙散」を開発したのです。この麻酔薬の人体への投与(今で言うところの臨床試験)のために、母親と妻が実験台になったのは有名な話です。結局、母親の死と妻の失明という尊い犠牲の上で、この麻酔薬は完成しました。

そしてこの世界で最初の全身麻酔下で手術を行なった患者さんの病名は、”乳癌”だったのです。つまり、華岡青洲は、世界で初めて全身麻酔で乳癌の手術を行なった医師ということになります。

この「通仙散」は、非常に取り扱いが難しい危険な薬だったため、誰にでも処方を伝授できるようなものではありませんでした。ですから華岡青洲のもとには各地から手術を希望する患者さんが集まって来たと言われています。華岡青洲は乳癌以外にも、痔核、膀胱結石、血管手術など様々な手術を行なったと記録が残っています。

乳癌の手術による手術関連死亡は私の病院では開院以来35年で1例もありません。これは全身麻酔が安全に行なわれるようになったことが非常に大きいのです。昔は麻酔をかけることすら命がけだったのです。

この時代の華岡青洲の努力と苦労を考えると、いま安全に手術を行なえるありがたさを私たち外科医はもっと感じながら治療を行なうべきなのだとあらためて思いました。

2010年4月6日火曜日

乳腺領域における漢方治療

先日の事業仕分けで仕分け対象になり、患者さん、医療従事者から猛反発があって棚上げ状態(その後の報道がないのでどうなったのか不明ですが…)の漢方薬ですが、私たち乳腺外科医もお世話になることがあります。先日の北海道新聞(平成22年4月3日朝刊「外科にも漢方」)にも掲載されていたように外科領域ではむしろ需要が増えているかもしれません。

可能であれば通常の医薬品(西洋医学における)を用いて対処しますが、相手は人間ですのでどうしてもうまく反応してくれないことがあります。そういう時には漢方薬が効果を発揮することがあります。

乳腺領域で用いいることのある漢方薬の一部をご紹介します(私は漢方の専門家ではありませんので、不十分な内容かもしれません。専門家の方のご助言をいただければ幸いです。)。

1.乳腺炎
「葛根湯」…保険適応があります。乳腺疾患自体で保険適応として明記されているのは、私が調べた中では葛根湯の乳腺炎に対する効能だけのようです。葛根湯は風邪の初期症状でよく処方される薬ですのでご存知の方も多いと思います。動物実験で消炎作用が証明されており、初期の無菌性乳腺炎には一定の効果があるようです。

*膿瘍を形成した乳腺炎に対する漢方薬もありますが、通常抗生剤を投与したり、切開して排膿してしまうので漢方薬のお世話になることはまずありません。

2.乳腺症
「加味逍遙散」…しこりのない乳腺症(比較的虚弱な人に処方するが、時に肥満の人にも投与することあり。)
「桂枝茯苓丸」…しこりのある乳腺症(比較的体力のある人に処方。虚弱な人に投与すると体力を奪うとのこと。)
「当帰芍薬散」…乳腺症によく用いられているようですが、ある漢方の専門家によれば、乳腺症にこの漢方を用いるのは処方として正しくないとのことです。

*これらはいずれも更年期障害や月経不順、月経困難症などに用いられる漢方薬で、効能書きには乳腺症の文字はありません。しかし、痛み止めは飲みたくない、とか飲むほどではない、という患者さんに投与することがあります。

「四逆散」…臨床的には乳腺症の所見に乏しいのに、異常に乳房の痛みを訴える患者さんに有効なことがあります。このような訴えをされる方は神経質、神経過敏などの気質を持っている方が多い印象があります。保険適応上は、”神経質、ヒステリー、胆嚢炎、胃炎、胃潰瘍”などです。今までに2人処方しましたが、1人には著効し、もう1人にも症状の軽減がみられました。

3.抗がん剤の副作用軽減
「牛車腎気丸」…タキサン系のしびれ、神経痛、むくみ
「芍薬甘草湯」…タキサン系の筋肉痛、関節痛
「補中益気湯」…全身倦怠感
「十全大補湯」…骨髄抑制による免疫機能低下
「加味帰脾湯」…貧血、白血球低下、血小板低下(特発性血小板減少性紫斑病にも用いることあり)

これらの薬剤の効果に関する科学的立証は、動物実験レベルではかなり行なわれています。ニュースでも流れていましたが、今後さらに研究が進められると思います。
ただ、今のところ乳癌自体の治療に対して漢方薬が効果があるという明らかな信頼できる報告はありません。乳癌自体に対してはエビデンスのある治療法が確立されているのですから、漢方薬に頼るのは避けるべきだと思います。盲目的に西洋医学を否定して東洋医学に走るのではなく、それぞれの良い部分をうまく組み合わせることが重要だと私は思っています。

2010年4月1日木曜日

遷延性嘔吐にも有効な新しい制吐剤〜アロキシ

抗がん剤投与後の嘔気・嘔吐には、その発症時期によって二つに分類されます。
一つ目は投与後24時間に起きる急性期のもの、そしてその後数日(120時間後まで)にわたって起きる遷延期のものです。

私が医師になったころは、化学療法後の嘔吐を抑制する良い制吐剤がなく、FECやCAF療法後にはかなりの率で嘔気や嘔吐が起きて患者さんを苦しめていました。嘔気が出現してからこれらの薬剤を投与してもあまり効果がなく、コントロールするのがやっかいでした。

しかし、グラニセトロンなどの5HT受容体拮抗剤が出現してからは、ステロイドも併用することによって化学療法当日に嘔吐する患者さんは非常に少なくなりました。ただ、遷延期の嘔気・嘔吐に対しては効果は不十分で、患者さんは辛い数日間を過ごしていました。

先日T薬品の方が新薬の紹介に訪問されました。それがパロノセトロン(商品名 アロキシ)という新しい5HT受容体拮抗剤です。この薬剤はグラニセトロンとの比較において、有意に遷延期の嘔吐完全抑制(嘔吐または空嘔吐0回)率を改善しました(全体で56.8% vs 44.5%、AC/EC投与群で61.1% vs 50.0%)。副作用も両群で大きな差は認めませんでした。

さらに、選択的ニューロキニン1(NK1)受容体拮抗薬であるアプレピタント(商品名 イメンド O薬品)とアロキシ、デキサメタゾン(ステロイド)の同時併用をおこなった臨床試験では、遷延期の嘔吐完全抑制率は92.6%という優れた結果でした。

問題は非常に高価になりそうなこと(アロキシだけで約10000円くらい、イメンドも1セット約11700円→制吐剤だけで3割で6000円以上の自己負担!)です。

初回からフルで投与しなくても良いかもしれませんが、初回に嘔吐が見られた場合には2回目以降の心強い武器になります。もう少し薬価が下がると良いのですが…。

あとは脱毛を予防できる薬剤が開発されれば、乳癌患者さんのFECに対する恐れはかなり軽減するのではないかと思います(脱毛の予防はまだまだ時間がかかりそうですが…)。