2016年2月1日月曜日

術前化学療法で乳がんが消えなかった場合どうするか?という課題に対する1つの回答(CREATE-X試験)

最近では一昔前に比べて乳がんに対して術前化学療法を行なうケースが増えています。ただなんでも術前化学療法をすれば良いというものではないことは以前、ここでも触れたことがありました。

その理由の一つが、”pCR(がんが化学療法で完全に消失していること)になっているかどうかで予後が予測できるから”という術前化学療法を推奨する医師の説明は、患者さんに必ずしも利益をもたらさないからです。なぜならpCRになった人は良いですが、pCRにならなかった人は予後が悪いという事実を突きつけられるだけで(しかも必ず再発するわけではないのに)、それに対する対応がなにもなかったからです。つまり、pCRにならなかった場合は、この治療を追加する、という指針がなかったのです。

その問題に対する一つの回答が昨年、日本と韓国合同で行なわれた臨床試験結果として世界に向けて発信されました(日本人と韓国人900人が参加)。この臨床試験は、CREATE-X(Capecitabine for Residual Cancer as Adjuvant Therapy)という試験で、アンスラサイクリンとタキサンによる術前化学療法を行なったのちに切除したHER2陰性乳がん患者さんのうち、pCRにならなかった患者さんを8サイクルのcapecitabine(ゼローダ®)を追加する群と追加しない群に分けて無病生存期間(DFS)と全生存期間(OS)を比較したものです。

結果は、主要評価項目である5年無病生存期間は、経口capecitabine併用群が、capecitabineを併用していない対照群よりも優れており(74.1% vs.67.7%、ハザード比[HR]:0.70、p=0.00524)、5年全生存率も、capecitabine併用群のほうが、対照群より優れている(89.2% vs.83.9%、HR:0.60、p<0.01)というものでした。この臨床試験の対象者は、トリプルネガティブだけではなく、ER陽性乳がんも含まれていました。

有害事象に関しては、SABCS 2013での報告によるとGrade3以上の好中球減少症および下痢の頻度は、capecitabine併用群で有意に高く、また、白血球減少症、好中球減少症、貧血、血小板減少症、肝酵素の上昇、総ビリルビン、食欲不振、下痢、口内炎、および疲労の各グレードの有害事象の発生率も、capecitabine群のほうが対照群より高いという結果でしたが、それを上回る効果があったということになります。

ただこの臨床試験結果を実臨床に活かす上での一番の問題は、capecitabine(ゼローダ®)は再発乳がんに対してしか保険適用がないことです。つまりこういう結果が出たとしてもいますぐ術後の患者さんに使用することはできないのです。先日製薬会社の担当者にも話しましたが、なんとか少しでも早く適用を通してもらいたいものです。

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