先日の乳癌学会では、遺伝性乳がんに関するセッションが2つありました。世間一般的にもアンジェリーナ・ジョリーさんの件もあって非常に関心が持たれているテーマですので私も注目していました。
(遺伝性乳がんの一般的な内容に関しては、以前書いたhttp://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2009/08/blog-post_2165.htmlをご参照下さい)
ランチョンセミナーの方は、チケットをもらい損ねてしまったために聞けませんでしたが、「検診診断プレナリーセッション5 遺伝性乳がんをめぐる諸問題」の方はしっかり聞いてきました。この中でメモすることができたいくつかの点について取り上げておきます。
①米国では、遺伝性乳がんに関する検査、治療(予防的乳房切除術、予防的ホルモン療法など)はすべて保険適応になっている。これは、がんになってからの治療だけではなく、がんを予防するということの重要性を認識しているからである。米国では年間約10万件の遺伝子検査を行なっている(遺伝性乳がんが疑われる対象者に関する遺伝子検査は”推奨される”となっており、予防的切除を行なうことは”選択”として提示されている)。
→いま国内でも国会などで少しずつ取り上げられて来ているようですが。米国に比べると15年ほど遅れをとっているのが現状です。いくつかの施設で予防的乳房切除術が倫理委員会を通ったというような報道がされていますが、今のところ検査、治療にかかるすべての費用は全額自己負担です。
②遺伝性乳がんのカウンセリングを行なうためには、専門の教育を受けた遺伝カウンセラーの存在が重要(日本遺伝カウンセリング学会http://plaza.umin.ac.jp/~GC/index.htmlが認定)。しかし実際はカウンセラーの資格を取得しても、働き場がなかなかないのが現状。
→遺伝カウンセラーが必要な場合は、日本認定遺伝カウンセラー協会(http://plaza.umin.ac.jp/~cgc/index.html)にアクセスするのが良いようです。今後は遺伝性乳がんの相談は避けて通れない業務になっていくことが予想されます。現在、遺伝性乳がんのカウンセリングを行なえる施設は非常に少なく、札幌でも2施設程度です。私たちが遺伝性乳がんに対してより積極的に関心を持つことと、カウンセラーの確保が重要と考えられます。遺伝性乳がんの遺伝子検査は、気軽に受けるべきものではありません。検査を受けることによる利益と不利益をきちんと知り、陽性だった場合の対応も考えた上で検査を行なわなければなりませんので専門の遺伝カウンセラーの存在はとても大切です。
③BRCA1変異はトリプルネガティブ、充実腺管がんが多く、非浸潤がんは少ない、BRCA2変異は、Luminal typeが多い。
→BRCA1/2はがん抑制遺伝子と呼ばれるもので、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の多くの原因はこれらの遺伝子の変異によるものと考えられています。最近の研究によってそれぞれの遺伝子変異について様々なこと(地域性や細かい遺伝子変異の部位など)がわかりつつあるようです。
④日本HBOCコンソーシアム(http://hboc.jp/)を設立し、日本における遺伝性乳がん(+卵巣がん)のデータベースの充実をはかり、今後の遺伝子診療に活かしていこうとしている。
→日本における遺伝性乳がんの情報収集は今後の診療においてとても重要になってくると考えられます。またこれらの情報を元に、遺伝子検査・治療の正当性や重要性について政府に働きかけることが、保険適応を早めることにつながるものと期待しています。
⑤HBOCに関する情報を収集するにあたって、被験者の法的保護や情報管理の整備が必要。
→これは大変重要だと私も思っています。今までなかなか遺伝性乳がんの研究、検査、治療がなかなか勧められなかった原因の一つは間違いなくここにあります。遺伝性乳がんであることを知ってしまったことがその人の不利益(就労問題や結婚問題、差別など)にならないような法整備が必要です。
これからもっとHBOCについて勉強しなければならないと強く感じた今回の乳癌学会でした。