2014年9月22日月曜日

”浸潤径”の真実と限界

病理結果の説明を受けた時に、”浸潤径”という言葉が出てくることがあると思います。術後標本のプレパラートを見て浸潤がんの大きさがどのくらいなのかは、予後や治療方針に関わることがありますので病理学的所見の1つの重要な要素です。

ただこの”浸潤径”の判断には注意すべき点があります。病理医が手術標本を検索する場合、通常は細かく切っても5㎜の幅です。ですからこの5㎜の幅の間にある部分は見ていないのです。つまり、たとえば”非浸潤がん”と病理診断されてもその5㎜の間に小さな(5㎜未満)の浸潤巣がある可能性は完全には否定できません。もし標本を作製する幅が1cmならさらにその可能性は高くなります。

実際、全国集計では非浸潤がんと診断されてもその再発率は0%ではありません。”非浸潤がん”と診断されて遠隔転移した患者さんは、おそらく”非浸潤がん”という診断が本当は正しくなかったということなのです(誤診という意味ではなく通常の検査の限界ということです)。ただこれは言い出すときりがないですので、私は非浸潤がんという診断を下す場合は、できるだけ5㎜以下で切り出して欲しいと病理医にはお願いしています。ちなみに当院で非浸潤がんと診断された患者さんで再発した方は今のところいません。

今日病理結果をご説明した患者さんも、術前の針生検では3本とも非浸潤がんでしたが、手術標本の病理検査では1㎜以下の微小浸潤を確認できました。全摘した標本を全割して病理医が見てくれたのでこの浸潤を確認できたのだと思います。このケースでは、少し割面がずれたら”非浸潤がん”と診断された可能性もありますし、もしかしたら浸潤径は1㎜以下ではなく、5㎜近くある可能性も0%ではないのです。このあたりが病理診断の難しいところであり、限界でもあります。

ですからもし”非浸潤がん”と病理診断された場合は、どのくらいの幅の切り出しで診断したのかは確認しておいた方が良いと思います。施設によっては最大割面のみ(1つの断面)で”非浸潤がん”と診断されているケースもあるようです。このような診断では、真の”非浸潤がん”なのかはもちろん、非浸潤がんと同等の予後なのかどうかも判断するのは難しくなります。

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

始めまして。いつも拝読させていただいております。
3年前に非浸潤癌の診断で、左の乳房の部分切除をしました。その頃、いろいろ調べたのですが、非浸潤癌に関する情報が少なく、先生の乳管内乳頭腫などの記事が大変参考になりました。
今年4月、乳頭から血性分泌物があり、マンモトームの結果、多発の非浸潤癌という診断で左乳房の全摘を行いました。その病理の結果は、非浸潤癌でした。
今回の記事の患者さんは後治療はどのようになるのでしょうか。わずかでも浸潤癌が見つかれば、放射線かホルモン療法を行う方がいいのでしょうか。
自分の病理の切片がどのくらいのものなのかわからないのですが、3年前の部分切除の後放射線をやっておけばよかったのかなあとか、今回の後もやった方がよかったのかなと考えてしまいました。
先生のお考えをお教えいただければと思います。よろしくお願い致します。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
全摘した場合は、非浸潤がんで断端陰性であれば放射線治療は必要ありません(温存術後の放射線治療は残存乳腺内の再発を抑えるためですので乳腺を全摘すれば原則不要なのです)。微小浸潤がんでもリンパ節転移がなければ(多くなければ)放射線治療は必要ありません。
非浸潤がんで全摘した場合は原則的にはホルモン療法も抗がん剤も不要です。微小浸潤がんの場合も非浸潤がんとほぼ予後は同じですので抗がん剤はしないケースが多いと思います。ホルモン療法も最近ではしないケースが増えているような印象がありますが私は相談の上で決めています。
今回の患者さんはER陰性でしたので術後補助療法は何もしないことにしました。
以上です。

匿名 さんのコメント...

早速にお返事をいただき、ありがとうございました。
もし、隠れた微小浸潤癌があったとしても、治療としては同じだったことが納得できました。
丁寧に対応して下さり、ありがとうございました。寒くなりますが、どうかお身体ご自愛下され、これからもよろしくお願い致します。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
ありがとうございます。
こちらこそよろしくお願いいたします。