2015年3月8日日曜日

北海道HBOCネットワーク第2回ミーティング〜PARP阻害薬による合成致死療法

今日の午後、市内のアスティ45 12Fの会議室で”北海道HBOCネットワーク第2回ミーティング”が開催されました。HBOCとは、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer)のことです。主にBRCA1、2という遺伝子の変異を有する人に発生する遺伝性乳がんの1つで、アンジェリーナ・ジョリーさんの件で広く認知されるようになりました。

昨年は私とG先生、N先生の3人で参加しました。今回、両先生は都合が悪かったため乳腺外科医は私1人でしたが、外来主任看護師のOさんが一緒に参加してくれました。

今回は一般演題として下記の4題と特別講演が行なわれました。

<一般演題>

1.HBOCの拾い上げ:院内の取り組み(札幌医大 産婦人科 寺本瑞絵先生)
2.HBOCの遺伝カウンセリングについて(北海道大学 遺伝子診療部 柴田有花先生)
3.HBOCのリスク低減手術について:北海道がんセンターの体制(北海道がんセンター 乳腺外科 高橋將人先生)
4.HBOC総合診療制度について(がん研有明病院 遺伝子診療部 新井正美先生)

1、2に関しては、HBOCを疑う患者さんの拾い出し、特に家系図の作成をなんとかしなければと感じました(昨年も思ったのですが、なかなか実現できていません…)。これは医師だけでは困難な面もありますので、今回外来主任が参加してくれたのは大きいと思いました。昨年も何人かHBOCを疑う家族歴のある患者さんがいましたので他院での遺伝子カウンセリングを勧めたのですが、結局実際に受診した患者さんはいませんでした。その背景には、やはり院内にカウンセラーがいないということが大きいように思いました。まずはカウンセラーの人的確保が急務ではないかと感じました。

3に関しては、がんセンターではすでに数人予防的乳房切除(+再建)を行なっているというお話でした。形成外科医との連携で慎重に行なわれているようですが、この手術は健常な乳腺にメスを入れるという性質上、がんに対する手術とはまた違った配慮が求められ、十分な説明が必要であると感じました。

4は現在検討されているHBOCのネットワーク制度のお話でしたが、これからは日本におけるHBOCのデータ蓄積が必要になってくることと、予防的治療を慎重に行なうという側面などから、HBOC診療の認定制度を立ち上げようとしているようです。認定施設には、基幹施設、連携施設、協力施設の3種類あり、基幹施設と連携施設には臨床遺伝専門医の常勤が条件となり、民間病院ではかなりハードルが高いです。私たちの病院は、今のままでは協力施設にしかなれません。

<特別講演> 「PARP阻害薬開発の現状」 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 三木義男先生

トリプルネガティブ乳がんの治療薬として期待されながら、臨床試験でその効果が証明できなかったPARP-1阻害薬ですが、BRCA1/2の変異がある患者さんのみに対象を絞るとかなり有効であることがわかってきています。今日の三木先生のお話は、その作用機序と治療効果だけではなく、そこから発展したさまざまな可能性についてまでわかりやすく解説して下さいました。特に”合成致死療法”のお話は大変わかりやすく、勉強になりました。

とは言っても一般の方にわかりやすく解説するのは私には難しいです(汗)。BRCA1/2は、DNAの2本鎖の障害を修復する役割を持っており、PARP-1は、DNAの1本鎖の障害を修復する役割を持っています。BRCA1/2遺伝子変異を有する人のがん細胞は、もともとDNAの2本鎖の修復能力が欠如または低下しています。この状態の患者さんに抗がん剤などを投与して1本鎖のDNAに傷がついた場合、通常はPARP-1が働いて修復するのですが、PARP-1阻害薬を投与されていると修復できないために、がん細胞はわざと2本とも切断してBRCA1/2で修復しようとするそうです。しかし、BRCA1/2の変異がある人ではこれができないのでがん細胞が死んでしまうというような理屈です。それぞれ単独ではがん細胞は死なないけれど、同時に2つ(BRCA1/2とPARP-1)をブロックするとがん細胞を殺すことができる、このような治療を”合成致死療法”と呼びます。簡単に書くとこんな感じでしょうか?

今日のお話を聞いて、最近勉強不足だったことがすぐわかりました。少しでも気を抜くと科学の進歩についていけなくなります。もっと勉強しなければだめだと感じた一日でした。

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