2009年12月18日金曜日

乳癌の治療最新情報11 フルベストラント

pure antiestrogen製剤であるフルベストラントは、タモキシフェンやアロマターゼ阻害剤に耐性となった進行再発乳癌に有効であることが、海外のいくつかの臨床試験ですでに証明されています。

今回、このフルベストラントの高用量製剤(500mg)が、従来の250mg製剤より、有効であることがアストラゼネカ社から米国の乳癌シンポジウムで発表になりました。

内容の詳細はわかりませんが、第3相臨床試験において、投与開始1年後に病勢の進行がなかった患者の割合は250mg群が25%だったのに対し500mg群は34%だったということです。また、有意差はありませんでしたが、500mg群は死亡リスクの低減でも良好な成績で、安全性上に問題はなかったそうです。

これでまた一つ新たな治療法が増えそうです。現在、国内では未承認ですが、500mg製剤を近日中に申請するとのことですので、近いうちに使用可能になると思われます。今後は、進行再発乳癌だけではなく、術後補助療法としての使い分けが気になるところです。

2009年12月14日月曜日

イソフラボン 続報

2009.12.8のJAMA(online版)に、”Soy Food intake and Breast Cancer Survival”という中国のXiao Ou Shu先生の論文が載っています(私のブログを読んでくれている製薬会社の方にいただきました)。以前書いたように、大豆に含まれるイソフラボンは植物エストロゲンの一種で、構造はエストロゲンに似ていますが、乳癌に対してはタモキシフェンと同じようにヒトのエストロゲンの働きを妨げるのではないかと推測されており、乳癌の発生や再発の予防効果があるのではないかと言われています。

今回のXiao Ou Shu先生の報告によると、上海の20-75歳の5042人の乳癌患者さんのコホート研究において、平均観察期間3.9年の時点で大豆タンパク摂取量が多い患者さん(15.31g/day以上)は、少ない患者さん(5.31g/day以下)に比べると生存率(HR=0.71…危険度が29%減少するという意味)と再発率(HR=0.68…危険度が32%減少するという意味)が有意に良かったということです。

あくまでも1施設の報告ですので、これが正しいかどうかは断定できませんし、何度も述べているようにこのような疫学研究は非常にバイアスがかかりやすいので、今後逆の結果が出ることもあるかもしれません。例えばこの研究では、乳癌の診断時に食生活の聞き取り調査を行なっていますが、その後もまったく同じ食生活を送ったかどうかはわからないのです。

また、厚生労働省研究班(倉橋典絵:国立がんセンター予防研究所)が今年の3月に発表した研究では、イソフラボンの過剰摂取は、肝癌の発生率を3-4倍高めるとのことです。これもあくまでも1施設の研究報告ではありますが、エストロゲンには肝癌発生の抑制効果があると言われていますので、理論的にはありうることです。肝癌のほとんどは、B型、C型肝炎ウイルスの持続感染をベースとして発症してきますので、これらによる慢性肝炎や肝硬変のある患者さんは念のため注意した方がよさそうです。

いずれにしても、このような食品やサプリメントについては、まだまだわからないことも多いので、過剰摂取も過少摂取もしないように、バランスよく食べるのがやはり一番良いのではないかと思います。

2009年12月9日水曜日

乳癌の治療最新情報10 がんワクチン

ここ数年、がんワクチンの研究報告が次々と発表されてきています。私もがんワクチンに詳しいわけではありませんが、分子標的薬に続く新しいタイプの化学療法剤として注目しています。なお、現在でも一部の医療機関でこの治療が行なわれていますが、いまだに国内臨床試験中の治療法であり、保険では未認可であることに注意が必要です。また金額も高額です。

がんワクチンは、簡単に言うとインフルエンザワクチンなどと同じように、癌細胞の一部を抗原として免疫細胞に認識させて攻撃する治療法です。自分の免疫細胞を活性化させて癌細胞だけ攻撃する、ということで期待されているのです。

現在国内で臨床試験が行なわれているのは、癌細胞のタンパクの一部(ペプチド)を合成して数回皮下投与し、これを抗原と認識したキラーT細胞に攻撃させるというペプチドワクチン療法です。HLAという白血球のタイプで投与可能かどうか判断します。

その他、HER2/neuというタンパクをターゲットとして顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)を同時に投与して効果を高めるペプチドワクチン療法や、免疫細胞の一種の樹状細胞を採取して、その患者さんの癌細胞を抗原として認識させて(その患者さん独自のオーダーメイド)再び体内に戻す樹状細胞ワクチン療法などがあります。

最近米国から報告された方法は画期的です。腫瘍特異的抗原を搭載した直径8.5mmのポリマーディスクを皮下に植え込み、腫瘍を攻撃する免疫システムを再プログラミングするという手法を用いて、悪性黒色腫に効果があったとのことです。一度植え込むだけで持続性に効果がみられるので、非常に有効で使いやすいと報告されています。

免疫療法は、古くは丸山ワクチンなど、いくつもの治療法が開発されては効果が否定されて実臨床からは消えていきました。
しかし、癌細胞のみを持続的に自分の細胞で攻撃するというワクチン療法は非常に魅力的です。ですから長年の間、この魅力に取り憑かれた研究者たちが熱心に研究をすすめてきたのです。そして今ようやく実を結びつつあるような気がします。

ただ、インフルエンザワクチンでも副作用が問題になったように、がんワクチン療法でも重篤な副作用が起こりえます。ですから、慎重に臨床試験を行なってから使用すべきだと私は思っています。また、実際の生体内の反応というのは、上に書いたような単純なものではありません。癌細胞も生き残るために必死に抵抗してきます。ですから、思うような結果が出ないこともあるようで、まだまだ工夫の余地はあるはずです。

これから続々と世界中の臨床試験の結果が報告されてくると思います。早く効果的で安全性の確立したがんワクチンを保険で使用できるようになることを期待しています。

2009年12月6日日曜日

友愛精神をピンクリボン運動に!!

連日マスコミをにぎわせている鳩山首相の偽装献金問題。そのお金の出所を探るとどうやら、一部は母親の安子さんからの献金(贈与?お小遣い?)だったらしいとのこと。

安子さんから、鳩山兄弟に渡ったお金はそれぞれ11億円づつ。毎月1500万円づつ振り込まれていたのですからすごいお小遣いです。母親からの純粋な愛情からくるお小遣い(この場合でも贈与税は発生するようです)なのかもしれませんが、ちょっと常軌を逸した金額です。まあ、目的がなんだったのか、違法性があるのか、については検察が判断するでしょうから、置いておいて…。

この毎月3000万もの余ったお金を(安子さんはブリジストン創業者の娘で株の配当金だけでこのくらいは入るそうです)、もしピンクリボン運動に回してもらったら…と考えてみました。

3000万あれば、マンモグラフィ装置なら、毎月1-2台購入できます。もし、検診の自己負担分(札幌なら40歳代1800円、50歳以上1400円→平均1500円として)に回したら、毎月約2万人分を無料にできます。年間では、24万人、2年間で48万人!!

対象者全員を無料に、というわけにはいきませんが、所得の少ない家庭を優先的に補助するだけでも、かなりの女性が喜ぶはずです。

下手すると罪に問われるような後ろめたいお小遣いを息子たちに渡すより、社会貢献にもなり、友愛精神の象徴として間接的に息子にとって大きなプラスに働くと思われるようなお金の使い方をする方が良いのではないかと思いますが、皆さんはどう思われますか?。

乳がん検診啓蒙&自己検診指導講演会

昨日、病院の外来待合室で、乳がん検診の啓蒙と自己検診のやり方を指導するというミニ講演会をしてきました。

まず、札幌で活動しているアカペラグループの歌声で癒していただいてから、スライドを使って約45分くらい、乳癌の疫学や症状、検査、治療、そして乳がん検診と早期発見の意義についてお話をしました。それから、自己検診のビデオを10分くらい流したあとで、自己検診指導用の模型を使いながら、触診のコツについてご説明しました。その後で質問を数人から受けたのでお答えして、約1時間半の講演を終了しました。

土曜日の午後なので、当初、そんなに集まらないのではないかと思っていたのですが、職員や乳癌患者会の人たちも聞きに来てくれたので、急きょ椅子を追加しなけらばならないくらいの状況で、ホールはほぼいっぱいでした。どうも患者会の人たちの中には、私やG先生がアカペラを歌うと勘違いしていた人もいたらしいです(笑)。また、比較的高齢者が多い病院であるにも関わらず、若い女性も少し参加して下さっていたのが印象的でした。

今回の講演会にあたっては、検診課が中心となって職員たちが精力的にお誘いのビラを配ってくれたり、広報に載せてくれたりしてくれましたし、友の会の人たちにも協力していただきました。中には配布する資料を対がん協会まで取りに行ってくれた方もいました。また、製薬会社のAZ社には、自己検診指導用の模型を2台も貸していただきました。

乳がん検診に対する関心の高さが感じられる講演会でしたが、いろいろな職種の職員、患者さんたち、地域の方々、医療関連企業の皆さんのご協力が必要だということをあらためて実感したイベントでもありました。

2009年12月4日金曜日

抗癌剤の副作用5 睡眠障害

あまり抗癌剤自体と睡眠障害を関連づけては考えたことはなかったのですが、実際に乳癌患者さんに化学療法を行なうと不眠を訴える方は多い印象は持っていました。

最近掲載されたJournal of Clinical Oncologyのオンライン版によると、化学療法を受けている癌患者の4分の3以上が不眠症および睡眠障害に悩んでいて、その比率は一般集団の3倍以上であったということです。

特に不眠症状が多かったのは、年齢では若年者、癌の種類では乳癌と肺癌でした。抗癌剤2クール投与後のアンケート結果では、37%に不眠症の症状があり、さらに43%に不眠症候群(週3回以上の入眠障害または睡眠持続障害)が見られたとのことです。

今回の報告では、睡眠障害が抗癌剤自体の副作用なのか、抗癌剤を受ける患者さんの心理的背景が原因なのかについての詳しい検証はされていないようです。乳癌の患者さんにおいては、ちょうど更年期前後の女性が多いですし、乳房にメスをいれるという非常にショックな治療の後であること、抗癌剤による脱毛などの美容上のショック、などが、精神的に大きな影響を与えていることは間違いありません。

長期の睡眠障害は、疲労感を増し、食欲低下なども来しやすいため、私は患者さんに早めに睡眠薬を処方するようにしています。睡眠薬は一度使うと癖になってしまうのではないかと心配される方もいますが、必ずしもそうでもなく、治療終了後にご自分からもういらないとおっしゃる患者さんも多いです。

ただ、もともとうつ傾向がある患者さんなどでは、なかなか軽い睡眠剤では症状が良くならない場合もあります。そういう場合には、私はあまり無理して自分で抱えずに、専門医にご紹介するようにしています。うつ病が基礎にある場合には、やはり専門家にフォローしてもらうほうが安心だからです。

もし、不眠症状がみられた場合には、まず主治医に相談してみてください。なかなか改善しない場合は、専門医(精神科、心療内科、メンタルクリニックなど)に紹介してもらうことをお勧めします。

2009年12月3日木曜日

モルヒネは癌細胞の増殖を促進する!?

なんとも信じられないような話ですが…。

最近、モルヒネやその他のオピオイド系鎮痛薬が癌細胞の増殖を促すというエビデンスが増えつつあります(私は知りませんでしたが…)。モルヒネは腫瘍細胞の増殖を増大させ、免疫系を抑制し、腫瘍に栄養を送る新しい血管の成長(血管新生)を促し、バリア機能を低下させる可能性があると言われているそうです。

今回これを支持する新しい研究が、「分子標的治療に関する」米国癌学会(AACR)・米国立癌研究所(NCI)・欧州癌研究治療機構(EORTC)国際合同会議で報告されました。

今回発表された研究では、μオピオイド受容体を持たないマウスでは肺癌細胞を注入しても腫瘍は発現しませんが、正常なマウスでは癌が発現することを示しました。また、オピオイド誘発性便秘の治療のために開発されたメチルナルトレキソン(日本国内未承認)という薬剤によって、正常マウスにおける癌細胞の増殖が90%低減することも示しました。

癌による痛み(癌性疼痛)を非常に効果的に軽減してくれる医療麻薬であるモルヒネが、癌細胞の増殖を促すというのは、かなりショッキングなことですが、動物実験と実臨床は異なります。実際、癌の終末期に積極的治療を行なった場合と緩和治療を行なった場合の予後は変わらないかむしろ緩和治療の方が良いと言われています。人間にとっては、疼痛を軽減するという効果は免疫系にプラスに働くために、癌を増殖させる効果よりも影響が大きいのかもしれませんね。

また、今回の研究結果はこのメカニズムを利用したチルナルトレキソンのような新たな治療薬開発に道を開くかもしれません。ネガティブなデータをポジティブに変換できるという人間の知恵はすばらしいですね!