2010年11月12日金曜日

両側乳がん流行中?

関連病院に通院中の乳がん術後の患者さんに立て続けに対側の乳がんが見つかってしまいました。2週間でなんと3人!

いずれも1cm以下で非浸潤がんの疑いですので幸い早期発見することができました。私は乳がん術後の患者さんの乳房検査は年1回のマンモグラフィと半年に1回の超音波検査を基本にしています。ただ、10年以上たったある程度高齢の患者さんの場合は年1回で診ることも多いです。乳腺症があったり、乳腺濃度が濃い方については、自己検診で発見しにくい場合もありますから、半年ごとの超音波検査を私はお勧めしています。

今日、細胞診の結果をお話しした患者さんは、50代後半の方でした。最初の乳がんはけっこう進行した状態で見つかりましたが、抗がん剤とホルモン療法で再発なく経過していました。今回の超音波検査では、4㎜の古い嚢胞様の腫瘤が指摘されましたが、前回(半年前)までは嚢胞を指摘されていませんでした。技師さんが要フォローと記載してくれたため、細胞診で非浸潤がんの診断に至りました。やはり経時的に変化をみていくことは早期発見のためには重要なことです。ちなみにこの患者さんの場合はマンモグラフィに病変は写っていませんでした。経験的にはやはり、超音波検査は早期がんの発見に非常に有効だと思っています(もちろん技師さんの技量にもよりますが…)。

両側乳がんの頻度は5%と言われています。通常、第1癌より第2癌のほうが早期に発見されると言われていますが、これは定期検査を受けていることと、乳房に関心を持つようになったことが理由と考えられています。できることなら自覚症状が出る前に検査で発見してあげたいといつも思っています(中にはそううまくいかない場合もありますが…)。

2010年11月11日木曜日

がん患者さんの経済的負担

マスコミでがん患者さんの治療費の負担が厳しいことが報道され、世の中の関心も少しずつ集まるようになってきました。

私たちの病院にも経済的困難を抱えた患者さんがたくさんいらっしゃいます。黙って通院を中断したり、検査を受けたがらなかったり、薬を間引きして飲んでいたり…。気をつけないとそういう患者さんの困難に気づかないことがあります。

経済的困難を抱えていることがわかったら、私たちは院内の医療福祉課へご紹介します。働きたくても働けず、本当に生活に困窮している方には、ここで生活保護の申請をお勧めし手続きのお手伝いをします。また生活保護の対象にはなりませんが、所得が少なくて医療費の支払いが厳しい場合には、無料低額診療制度を利用していただきます(これには、細かい所得の規定があり、また特定の条件を満たした病院でしか受けられない制度です)。またすべての患者さんに適応になるのが高額医療費制度です。所得によって限度額がありますが、その限度額を超えた分はあとで償還されます。その他にも医療費の貸付制度などがありますので、その患者さんにもっとも適した制度をご紹介してもらうようにしています。

2002年から2007年の「がん医療費」の伸びは21.7%で、「国民医療費」の伸びの10.3%と比較すると約2倍にもなります(「国民所得」の伸びは2003年から2008年の間にわずか1.8%!)。

先日の日本癌治療学会において、全国の癌診療施設の約1万8000人の患者の医療費負担についての報告が発表されました。
その結果の概要は以下の通りです。

1.自己負担額の平均:101万円
   直接費用〜入院52万円(該当割合74%)、外来18万円(同100%)、交通費5万円(同94%)
   間接費用〜健康食品・民間療法22万円(同57%)、民間保険料25万円(同85%)、その他14万円(同43%)

2.償還・給付額:平均62.5万円〜高額医療費28万円(該当割合53%)、医療費還付9万円(同23%)、民間保険給付102万円(同45%)

3.治療法別の自己負担額と償還・給付額:化学療法(1150人)→133万円と75万円、分子標的治療(59人)→125万円と74万円、粒子線治療(388人)→420万円と116万円

4.経済的な理由で治療を変更・断念した患者:約3%(継続的な受療者が152万人とすると、4.5万人が癌の経済難民に該当)

医療費、特にがん医療に関する医療費の増加には、いろいろな問題、課題があります。その解決策も、ただ薬価を下げれば良いということではありません。

例えば高い確率で有効だと考えられる症例を厳密に選んで薬剤を投与すれば奏効率は上がりますが、投与人数が減るため製薬会社が開発費を回収するためには薬剤単価を上げざるを得ません。逆に適応をゆるくすれば対象患者が増え、薬価は下げりますが、多くの患者さんたちに無益な治療を行なうことになってしまいます。適応を厳密にして薬価を下げるのが理想ですが、そうすると製薬会社は開発費が回収できなくなってしまいますので、どこも研究に手を出さなくなってしまいます。これは医学の進歩を止めてしまいます。

また、いま問題になっている臨床試験のさまざまな課題や混合診療の是非の問題も解決されていません。やはり国がこの問題にもっと積極的に関わっていかないと、解決はしないと思います。

2010年11月9日火曜日

韓国人の患者さん

3ヶ月前に血性乳頭分泌で受診された患者さんがいました。母国は韓国です。3年ほど前から仕事で単身、日本に来られていました。韓国人に限らず、外国人は日本語を覚えるのが早いです。ほとんど日常会話は日本語でOK!非常に助かりました。

この方は細胞診で乳管内乳頭腫と診断されました。血性乳頭分泌もありますし、乳癌の合併もたまにあるので切除をお勧めしましたが、家族が誰もいないということで、手術するなら母国でしたいということでした。急ぐ必要はありませんので、長期に韓国に戻るときに紹介状を書いてお渡しすることにしました。

でも、韓国の医師には何語で手紙を書けば良いのでしょうか?ハングルはまったくわからないですし、パソコンでも打てません…。英語がわかるかどうかも微妙です(おそらく韓国人は日本人より英語がわかるはずですが…)。

そんなことを患者さんとお話ししていて思い出しました。

私が14年前に研修していた東京のG病院で一緒に研修していた韓国人の女医さんがいたんです。李先生という方で、この先生は英語より日本語の方が堪能でした。とても気さくな先生で、ご主人と息子さんと一緒に相撲観戦にも行った記憶があります。

私がG病院から札幌に戻るときに李先生も韓国に戻られましたが、その後乳癌学会でお会いしたことがあります。その時に、名刺をいただきましたが、帰国後、彼女は乳腺クリニックを開業したそうです。それまでは韓国にはほとんど乳腺専門病院はなかったということです。

そのとき以来、お会いしていませんので、今もこのクリニックで働いているのか不明ですし、彼女が日本語をまだ覚えているのかわからないので連絡を取るのに少しビビっています…(汗)。でもこの患者さんが帰国する前にはなんとか連絡を取ってみようと思っています。

2010年11月8日月曜日

化学療法の院内学習会〜CVポートの管理



先月、週2回外来に行っている関連病院の薬剤部から、講演を頼まれました。テーマは「安全な化学療法の施行について〜CVポート管理を中心に〜」ということでした。

私は乳腺外科医ですが、諸事情で現在主に外来化学療法を担当しています。腫瘍内科の研修を受けたわけではないのでまったくの独学ですが、室長という名ばかりの肩書きをもらっています。

CVポートというのは以前にもここで書きましたが、安全に抗がん剤などを繰り返し投与するために、体内に埋め込むカテーテルに接続した器具です。これを留置すると、毎回血管を探すために何度も針を刺す必要がなくなりますし、注意しなければならない抗がん剤投与中の合併症である、抗がん剤漏れのリスクを減らすことができます。

しかし、このCVポート自体にも注意しなければならない合併症があります。今回はそんな話をする予定です(写真左はフィブリンで内腔が閉塞して摘出したCVポート、右は屈曲して穴が開いたカテーテル)。ついでに抗がん剤の副作用一般についてもスライドを作っています。あれこれ追加していったら、いつの間にかスライド枚数が70枚に達してしまいました(汗)。講演時間は1時間くらいなので全部話すのはちょっと厳しそうです。抗がん剤一般の話はまた今度にしようかと思っています。

今回の学習会は院内(職員対象)だけですので院外からの参加はできませんが、せっかく作ったスライドなので、今度別の機会にでもまた話ができればと思っています。

2010年11月6日土曜日

乳房再建講演会

乳がん患者会主催の乳房再建の講演会が今日開催されました。

講師はD病院の形成外科部長E先生。かなり前から外来や患者会を通じてご案内をしていましたが、いったい何人の方が集まって下さるのか内心不安でした。でも開演時には用意した席数を超える多くの方が病院内外から集まって下さいました!(正確にはまだ聞いていませんが50人ほどはいらしていたのではないでしょうか?)

ご講演の内容は、①形成外科一般のお話 ②乳房再建のお話 の2部構成になっていて写真や動画をふんだんに使ったとてもわかりやすいお話でした。

①では、外科→形成外科の歴史と形成外科で取り扱う疾患とその治療法の説明がありました。やけどや外傷など、ちょっとショッキングな画像もありましたので、気絶する方もいらっしゃるのではないかと心配しましたが、E先生の上手な語りでみなさん、どきどきしながら興味深そうに聞いていました。

②は今回のメイン・テーマです。乳房再建の種類(一期的vs二期的、自己組織を使う方法vs人工物を使う方法)、それぞれの特徴、実際の症例、巨大乳房や乳房下垂の際の工夫、実際にかかる手術時間や入院日数、費用などについても詳しく教えて下さいました。

今日の講演会の様子の一部は、Fテレビ系列のローカル局で11/24の夕方のスーパーなニュースの中で「シリーズ〜女性のがん」として放送されます(わかる方にはわかりますよね?)。

E先生はとてもきさくで患者さんからの信頼も厚い方です。今日のお話はとてもわかりやすかったのではないかと思います。そして比較的乳房再建に消極的な北海道の患者さんたちにも乳房再建を考えるきっかけになったのではないかと思います。

私は司会をしていた関係で残念ながら講演会の様子を写真に残すことができませんでした。残念…。
これからE先生とワインで懇親を深めに行ってきます!

2010年11月4日木曜日

”腫瘤”と”腫瘍”と”がん”と”癌”

私たちは時に医学的な用語を一般の人もわかっているだろうと思い込んでいて、とんでもない勘違いを引き起こすことがあります。

最近こんなことを経験しました。

ある患者さんがマンモグラフィ検診で陰影を認め、”腫瘤疑い”として精密検査にいらっしゃいました。精密検査でマンモグラフィの再検査と超音波検査を行ない、その陰影は正常な孤立性乳腺(または過誤種という良性腫瘤)と判断し、精密検査は”異常なし”なので1年後に超音波検査を予約して帰られました。

しかし、きちんとご説明したつもりだったのですが、自宅に帰ってから娘さんに検査結果をお話ししたところ、
「がんなのに1年後でいいなんておかしい!他の病院で診てもらったほうがいい!」
と言われたそうです。ご本人もわかっていたはずなのに混乱したのか、
「たしかにおかしい。検診結果には”がん疑い”と書いてあったはずなのに…」
と思ってしまい、他院への紹介状を希望されて再来院したのです。

この経過を看護師から聞いた私は、ピンときました。
たまにいらっしゃるのです。”腫瘤”=”がん”だと思ってしまう患者さんが…。ただ通常はそのような方はその場で聞いてくるので、すぐにその違いをお話しして理解していただけるのですが、今回のケースは自宅に帰ってから起きた勘違いだったのでので大事になってしまったのです。

”腫瘤”は、いわゆる”しこり”で、この中には腫瘍はもちろん、乳腺症や乳腺炎の硬結や切除後の瘢痕などの腫瘍ではない病変も含みます。
”腫瘍”は、ある細胞が「自律性」に(つまり勝手に)無制限の分裂、増殖をなし、量的に増大するもののことを言います。
”悪性腫瘍”は、”腫瘍の中でも、浸潤性に増殖し転移するなど悪性を示すもののことを言います。一方、ゆっくり増大し、転移や浸潤を来さない腫瘍を良性腫瘍と言います。
”がん(癌)”は、悪性腫瘍のうち、上皮細胞(皮膚、食道などの扁平上皮や胃、大腸、膵、乳腺などの腺上皮)が悪性化したものを言います。脂肪、筋肉、神経、骨などの非上皮細胞由来の悪性腫瘍は”肉腫”と呼びます。
なお、最近ではひらがな表記で”がん”と書く場合は、「癌と肉腫を合わせたもの=悪性腫瘍」の意味で用いられることが多いようです(Wikipediaによる)。これは日本だけの概念ですし、紛らわしいので私は”癌”と”肉腫”は区別してご説明しています(なお私が最近のブログで”乳がん”と書いているのは、癌という漢字が難しい字ですし、文字が小さいと見づらいことがあるからで、肉腫を含むという意味ではありません)。

この患者さんには、再度上記の用語についてお話しし、ご説明が不十分で誤解させてしまったことをお詫びしました。結局納得していただき、他院への受診は見合わせることになりました。

このようなちょっとした誤解や説明不足がトラブルや不信感の原因になることをあらためて教えていただきました。わかっていただいているつもりでも、そうではないこともありますので、もっと丁寧なご説明をしなければなりませんね。反省です…。

2010年11月1日月曜日

mucocele-like tumor(MLT)

境界明瞭な腫瘤に細胞診をした際、粘液が引けることがあります。このような場合には細胞診の結果が良性であっても注意が必要です。

粘液を伴う悪性腫瘍の代表が粘液がんです。粘液がんは乳がんの組織型の中では特殊型に分類されており、その頻度は全乳がんの約1-4%程度と言われています。粘液がんはさらに全てが粘液がんからなる純型(pure type) と乳管がんの成分を有する混合型(mixed type) に分けられます。比較的予後が良いタイプと言われており、特に純型は予後良好です。

そして粘液を伴う良性の代表がmucocele-like tumor(MLT)です。MLTは嚢胞や拡張乳管内に貯留した粘液が破綻して間質内に漏れ出て粘液湖を形成したものです。マンモグラフィで多形性の石灰化集簇(丸みがあって大きめなのが特徴)を呈したり、超音波検査で点状の内部エコーや隔壁を伴う嚢胞様病変として描出されます。

MLTは良性ですので普通に考えると何もしなくて良さそうですが、この腫瘤の問題点は、周囲に非浸潤がんや粘液がんを伴うことがあるということです。ですから粘液が引けた場合は、たとえ良性の細胞しか引けていなくても、摘出して周囲にがんを伴っていないか確認した方が良いという意見が多いようです。

ただ、周囲と言ってもどのくらいの範囲まで切除して確認すべきなのかまでは言及されていません。通常は腫瘤の周囲に正常乳腺を少しつけて切除しますが、石灰化を伴なう場合は石灰化のある範囲はできる限り切除して病理検索したほうが良いということになります(この場合切除範囲が広くなることもあります)。MRで悪性を疑う所見が認められず、細胞診でも悪性所見がなければ厳重な経過観察ということも選択肢の一つとして考えることも可能かもしれませんが、がんの合併については十分な注意が必要であることを説明する必要があります。

私たちの病院でもMLTはたまに経験する病変です。経過観察をしている患者さんもいますが、今までのところ悪性疾患の合併はみられていません(注 その後切除症例で1例がんの合併例を経験しました)。

いずれにしても細胞診で粘液が引けた場合には、そのことをきちんと依頼書に記載することが、治療や経過観察をする上でとても重要なのです。