2012年7月13日金曜日

脳転移〜全脳照射後の悪化に対する再照射

乳がんの脳転移は、他の臓器転移に引き続いて起こることが多いため、一般的に予後が不良です。単発で切除可能な場合は、手術後に全脳照射をすることによって、その後脳内に再発することを防げる場合もありますが、その場合でも他の臓器転移の悪化によって予後が規定されてしまう場合が多いため、脳転移が一度著明に改善したあとで再度局所治療が必要になるケースはそう多いことではありません。

しかし、最近の治療薬の進歩によって、脳転移以外の再発が長期にわたってコントロールできるケースも増えてきたため、脳転移の再発が予後を規定する場合も増えつつあるようです。

私たちの施設でも何人かそのような患者さんがいらっしゃいましたが、今までは全脳照射後に再度放射線治療を行なったケースはありませんでした。それは、神経細胞は一度ダメージを受けると再生しないため、放射線治療を2回行うことは今まではほとんど不可能と考えられていたからです。2回目の全脳照射を行なうと、高度の認知障害が起きやすく、脳壊死の危険性も増すと言われています。

ところが先日の乳癌学会総会において、国立がんセンターにおいて、過去に全脳照射後に19例(21照射)の再照射を行なった結果が発表されたのです。再照射の内容は、全脳照射38%、局所照射62%でした。

その結果全例において認知症や放射線壊死は認められず、その他の有害事象も軽度でした。放射線再照射後の生存期間の中央値は6カ月(1-9カ月)で、年齢65才未満、Performance status 0-3が予後良好の因子であり、ホルモン受容体、HER2、トリプルネガティブ、脳以外の遠隔転移、脳転移の個数、前回照射からの期間、照射方法、照射線量などはいずれも有意差がありませんでした。

神経症状改善効果については、RTOG神経機能分類という尺度を用いて評価しました。「仕事をすることができ、普通に生活できる。神経症状はないかあってもわずかである」というRTOG神経機能Class1まで改善した例が33%、RTOG神経機能が改善した例が33%、RTOG神経機能が不変だった例が29%、RTOG神経機能が増悪した例が5%と多くの症例で改善がみられました。

今、私たちの施設でも再照射を検討している経過のとても長い(全脳照射後7年)患者さんがいらっしゃいます。放射線科医はなかなか再照射を了解してはくれませんのでもう少し化学療法で粘ってみるつもりです。再照射はあきらめかけていましたが、このような報告を聞くと少し光が射してきたような気がします。

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