2012年12月5日水曜日

2012年 がんの臨床成果トップ5(ASCO)

米国臨床腫瘍学会(ASCO)が、2012年のがん治療の向上に寄与した成果をまとめた年報“Clinical Cancer Advances 2012”を発行しました。この中に記載されている今年の主ながん臨床の成果トップ5のうち、2つは乳がんの新薬に関するものでした。概要は以下の通りです。

<進行乳がんの進行を遅延させる新たな治療法その1>
閉経後HER2陽性乳がんに対するホルモン+化学療法(トラスツズマブ+ドセタキセル)へのpertuzumab上乗せによる無増悪生存期間の有意な延長を確認(N Engl J Med 2012, 366: 109-119)

<進行乳がんの進行を遅延させる新たな治療法その2>
“武装抗体(armed antibody)”または“smart bomb”と呼ばれる薬剤結合抗体(トラスツズマブDM1:T-DM1)。安定したリンカーによりトラスツズマブと化学療法剤DM1を結合した新しいタイプの薬剤。HER2陽性のがん細胞に届いて初めてDM1が放出されるため,他の細胞への影響が少ない。国際臨床第Ⅲ相試験の中間解析で対照群(カペシタビン+ラパチニブ)に比べ,生存期間中央値の延長が確認されている(N Engl J Med2012年10月1日オンライン版)

この2つに関してはこのブログでも取り上げましたが、やはり世界中の注目を浴びている新しい治療法と言えそうです。

また、ASCOの理事長であるSwain氏は,これまでのがん臨床の向上がもたらした成果について,
(1)米国では3人に2人はがんと診断されてから5年以上生存(1970年代には大体2人に1人)している。
(2)90年代以前は増加の一途をたどっていた全米のがんによる死亡の割合が同年代以降18%減少した。
(3)がんの症状コントロールや治療による有害事象が少なくなり、がん患者が活動的に生活できる機会が増加した。
という3点を挙げています。

(1)は、lead time bias(診断機器などの向上で早期に診断される機会が増えたために、見かけ上生存期間が延びているように見えるだけというbias)の可能性もありますが、(2)はこのbiasでは説明できません。喫煙率低下への取り組みなどのがん予防、早期発見・治療、そして治療法の向上がもたらした成果ではないかと思います(ただし、他の疾病による死亡の増加が関与している可能性もあるかもしれません)。また、(3)は、がんへの直接的な治療だけではなくQOLを重視することが患者さんへのmeritになっていることを示しています。

日本においても目標であるがん死亡率の低下を目指すためには何を改善すれば良いのか、私たち医療従事者、研究者が知恵をしぼりながら、国をあげて取り組まなければならない課題だと思います。

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