2013年2月7日木曜日

MR検査の注意点

日常臨床にかなり浸透してきたMRですが、乳腺領域においてもその有用性は確立してきています。私が学生だった今から25年ほど前に”NMR”という名称の最新の診断機器として”Newton”という雑誌に掲載されていたことを今でも覚えています。

乳腺領域におけるMRの活用例は以下の通りです。

①乳がんの広がりの診断(温存術の適応の判断)
②術前化学療法の効果判定
③骨転移の診断と評価
④脳転移の診断と評価
⑤肝転移と原発性肝がん、血管腫の鑑別診断

乳がんと診断されたらおそらく一度は受けることのあるMRですがいくつか注意点があります。以下にガドリニウム造影剤(乳腺MRに使用)を用いたMRの禁忌や注意点について記載します。

<禁忌(MRは不可)>
①ガドリニウム造影剤に対し過敏症の既往歴のある患者
②重篤な腎障害のある患者(GFR<30)…腎性全身性線維症を起こすことがある。 <原則禁忌(投与しないことを原則とするが、特に必要とする場合には慎重に投与する)> ①一般状態の極度に悪い患者 ②気管支喘息のある患者…ショック、アナフィラキシー様症状があらわれることがある(通常の2倍以上との報告あり)。また、喘息発作を誘発することがある(発症のタイミングは不明)。 ③重篤な肝障害のある患者…肝機能に影響を及ぼすおそれがある。 <慎重投与> ①アレルギー性鼻炎、発疹、蕁麻疹等を起こしやすいアレルギー体質を有する患者 ②両親、兄弟に気管支喘息、アレルギー性鼻炎、発疹、蕁麻疹等を起こしやすいアレルギー体質を有する患者 ③薬物過敏症の既往歴のある患者 ④既往歴を含めて、痙攣、てんかん及びその素質のある患者 ⑤腎障害のある患者又は腎機能が低下しているおそれのある患者 ⑥高齢者 ⑦幼児又は小児


その他、一般的なMR(造影の有無を問わず)の禁忌として、体内に金属(心臓ペースメーカー、埋め込み式除細動器など)を挿入している方などがあります(金属は種類や部位によって撮影可能な場合もあります→詳細は担当医にご確認を)。また、狭い場所が苦手な方(閉所恐怖症)、撮影体位の維持が困難な方は撮影できない場合があります。

*追記*
刺青を入れた方(成分に金属を含有している場合)やヒートテックなどの金属を含む下着を着用しているとやけどをすることがありますので注意が必要です。


いつも迷うのは、乳房温存術を予定している患者さんに喘息の既往がある場合です。”原則禁忌”となっている以上、慎重な判断が必要です。MRを行なわないのが一番安全ですが、広がり診断が不十分になるため、断端陽性率が高くなる可能性があります。ステロイドを前投与してからMRを撮影するという方法もありますが、その予防効果についてはデータが不十分です。また、アナフィラキシーは数時間から1日くらいあとに発症することもありますし、喘息発作の発症時期は調べた範囲内では不明でした。つまり、MR撮影時に問題なくても帰宅後に発症する可能性があるということです。

15年以上前、中規模の病院で当直をしていた時に消炎鎮痛剤が原因の重篤な喘息発作の患者さんに遭遇したことがあります。その方は車で来院したのですが、問診をとっている間に真っ黒になって呼吸停止を来たし、目の前で倒れたのです。直ちに補助換気を行ない、気管内挿管して助けることができましたが、もし病院に到着する前に呼吸停止したらおそらく助からなかったでしょう。その方は本当にひどい発作で翌日まで気管支拡張作用のある麻酔薬を用いてなんとか改善しましたが、薬剤起因性の喘息の怖さを身をもって実感しました。

そういう経験があることもあり、私は喘息発作の既往のある患者さんへの造影MRはとても慎重になります。もしどうしてもMRが必要だと判断したときは入院後に行なうようにしてきました。ただ、MRの結果で手術前日に温存予定が覆ってしまうと患者さんの気持ちの整理がつかない可能性もあります。安全を考えてそのようにしているのですが、結果的にそうなってしまった場合にはとても心が痛みます。

2 件のコメント:

リリー さんのコメント...

ご無沙汰しております。
とても丁寧なご説明、いつもありがとうございます。
乳がん仲間と話していて面白い話が出たのでコメントさせていただきました。防寒効果抜群のヒートテックですが、ヒートテック素材の下着を身に着けたまま、CTやMRIを撮った方がいらして、下着のゴムの部分が赤くやけどのようになってしまったらしいです。ヒートテック素材に金属が混ざっているようです。
ついつい下着だと大丈夫と思いがちですが気をつけたほうがいいかもです。
インフルエンザが流行っております。お身体ご自愛のほどを。

hidechin さんのコメント...

>リリーさん
ヒートテックも気をつけなきゃだめですね。貴重なご意見ありがとうございます。
ちなみに刺青の成分にも金属を含有していることがあり、やけどや色の変化が起きることがあるそうです。
まだまだ寒い日が続きますがリリーさんも体調に気をつけてお過ごし下さい。