2015年3月16日月曜日

ゴセレリンによる卵巣機能保護

かなり以前から、乳がん患者さんに化学療法を行なう際に、ゴセレリン(ゾラデックス®)などのLH-RH agonistを併用すると卵巣機能が温存されるのではないかということは、臨床医の中では信じている人が多かったと思います(私もその1人です)。しかし、それを十分に立証するエビデンスが今まではないとされていました。

今回、クリーブランドクリニックのHalle C.F. Moore氏らPOEMS/S0230研究グループによる無作為化試験の結果、卵巣機能不全を予防し、早期閉経リスクの低下や、妊娠の可能性が向上することがようやく報告されました(http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1413204)。

概要は以下の通りです。

対象・方法:手術可能なホルモン受容体陰性閉経前乳がん女性患者257例(18~49歳)を、標準化学療法+GnRHアゴニストのゴセレリンを投与する群(ゴセレリン群)と、標準化学療法のみを行う群(化学療法単独群)に無作為に割り付けた(対象期間 2004.2-2011.5)。主要エンドポイントは、2年時点の卵巣機能不全(評価前6ヵ月間に月経がないことと、卵胞刺激ホルモン(FSH)値が閉経後の範囲値にあること)、副次エンドポイントは、妊娠アウトカム、無病生存率、全生存率などであった。

結果:218例(ゴセレリン群105例、化学療法単独群113例)が適格であると判断され、評価可能であった。エンドポイント分析時に生存していた患者の追跡期間中央値は4.1年であった。
主要エンドポイント評価は135例(66例、69例)が完了した。結果、卵巣機能不全が認められたのは、ゴセレリン群8%、化学療法単独群22%であった(オッズ比:0.30、95%信頼区間[CI]:0.09~0.97、両側p=0.04)。
評価可能であった218例の患者について、妊娠した女性はゴセレリン群のほうが化学療法単独群よりも有意に多く(21%vs. 11%、p=0.03)、無病生存率(p=0.04)、全生存率(p=0.05)についてもゴセレリン群が有意に高かった。

先日の講演会では、受精卵保存や卵子保存、卵巣保存のお話を聞いてきましたが、もしLH-RH agonistで同等の成績が得られるのであれば、治療の遅れや、その後の人工授精の負担などが軽減します。今度はLH-RH agonist併用群とART(Assisted reproducting techniques)群との比較試験を是非とも行なって欲しいと思います。

10 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

いつも勉強にブログ読ませていただいてます。乳がん2年目に入った36歳の者です。
突然すみません。

早期発見で主治医と相談しホルモン療法のみで月1回の注射と毎日の内服で治療しております。
ホルモン療法で卵巣機能を止めていると理解しているんですが、現在生理があった時みたいに周期的に胸が張ることがしばしばあります。ホルモン療法をしていて卵巣機能が止まっていても、ホルモンの影響で生理前のような体の変化が起こるのでしょうか?
本来なら主治医に確認することがよいとわかってはいるのですが、来月下旬まで病院には行かないので、もしかして再発では?と急に不安になってきまして、ご迷惑とはわかりつつ先生に質問させていただきました。大変申し訳ないですがよろしくお願いします。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
きちんとLH-RH agonist(ゾラデックスやリュープリン)が効いていればエストロゲンは低値になり、女性ホルモンの周期もなくなるはずですのでホルモンの変動で乳房が張ることは本来はないはずです。注射の効果がきちんとあるかどうかは月経が停止しているかどうかとホルモン検査で推測します。もしご心配でしたら血液検査をしても良いと思いますが、通常は月経が停止していれば経過をみると思います。
乳がんの再発かどうかは診察をしていない私にはわかりません。ただ乳房内の再発、もしくは新たな乳がんで、”周期的に”乳房が張るという自覚症状だけを呈した方は経験がありません(炎症性乳がんなどでは、”持続性、または徐々に悪化する”乳房の張りを呈することはありますが、皮膚の肥厚や発赤、腫瘤の触知など他の症状を伴っているはずです)。これもご心配なら受診を早めて主治医の診察を受けて下さい。
ネット上でお答えするのは限界があります。あまりお役に立てなくて申し訳ありませんが、どうかご理解願います。

匿名 さんのコメント...

早々のご返事本当にありがとうございました。この返事を参考に次回受診まで心配なら受診を早めたいと思います。
ありがとうございました。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
なんともなければ良いですね。それではお大事に!

匿名 さんのコメント...

PET等画像検査で7㎝の右卵巣がんを99%疑われ、腹部生検手術で、大網、転移らしきしこりがある後腹膜、左の卵巣、腹水などを取りましたが(右卵巣は周囲臓器との癒着があり触れず)、病理検査の結果、癌細胞がどこにも見当たらないと病院で言われました。原発癌の特定ができないが、位置が卵巣なので、卵巣がんの抗がん剤(タキソール+パクリタキセル)をしていくという病院側の提案は、このような場合妥当なのでしょうか。このような状態は 「原発不明の卵巣がん」という部類になるのでしょうか。
6年前に右乳癌(浸潤性アポクリン癌、全摘出)、昨年左乳癌(浸潤性乳管がん、温存摘出)2㎝程度の初期発見で治療してきました。
別の病院で病理のセカンドオピニオンを取った方がいいパターンでしょうか。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
実際に手術にも入っておらず、病理結果も見ていませんのでなんとも言えませんが…。腹水貯留などで卵巣がんを疑って手術をして卵巣が原発と診断できなかった場合は、原発不明の腹膜がんと表現する場合はあります。ただこの場合、腹水や大網など、腹腔内のどこかにがん細胞の証明が必要です。何カ所も切除や生検をしてがん細胞がどこにもなければがんの診断にはなりません。匿名さんの場合もどこかにがん細胞の存在が証明されているのではないですか?誤解がある可能性がありますので、まずはもう一度きちんと説明を受けることをお勧めします。

なお”原発不明の卵巣がん”とは言いません。卵巣がんなら原発は卵巣です。ただ乳がん術後であれば乳がんの卵巣転移も鑑別に挙がると思います。

また”タキソール+パクリタキセル”と書いてありますが、タキソールはパクリタキセルの商品名で同じものです。パクリタキセル+カルボプラチンの間違いではないですか?

もし切除できなかった右卵巣に悪性腫瘍がある場合、原発性の卵巣がんなのか乳がんの卵巣転移なのかは鑑別が困難です。再度手術して右卵巣の組織を採取するのがもっとも確実な診断法ですが、切除できなかったのには理由があると思いますのでそのあたりは主治医との相談になると思います。

病理のセカンドオピニオンはあまり意味がないかもしれません。PETで写った右卵巣は切除していないわけですので、切除できた組織に悪性細胞が証明できないということはあり得るからです。もしセカンドオピニオンを希望するなら、まずはもう一度主治医から納得のいく詳しい説明を受けてからにして下さい。
ここで私がお答えできるのは以上です。
それではお大事に。

匿名 さんのコメント...

はじめまして。突然の書き込みですみません。
私は後10日で出産予定日を迎える妊婦です。最近左の乳首から一点だけ出血している箇所を見つけました。パジャマに小さく5つほど血がついていて気がつきました。
実は、前からパジャマに茶色い血がつくなとは思っていましたが、痒くてお腹を掻きむしって傷ついただけだくらいに思って気にしていませんでした。
しかし、乳首をよく見てみたら、茶色いかたまりが一点だけついており、間違いなくパジャマの茶色い血の位置と同じでした。右の方は、出ているような出ていないようなほんのうっすりしみがある気もしますが、乳首には出ているように確認できません。
産婦人科で相談したところ、今は出産間近で検査も出来ないから、出産、授乳後の一年ほど経った頃に乳腺外科に行けば良いと言われましたが、乳ガンではないかと不安でたまりません。
胸を絞ったら血がたれるわけではなく、1日のうちでいつの間にかほんの少し点々がつくように茶色や鮮血ではない赤っぽい血がつく感じなので、今乳腺外科に行ってもエコーくらいしかできないとは思うのですが、今すぐ受診した方が良いでしょうか?
それとも産後母乳が出るようになって、いつまで経っても血乳しか出ないのを確認してから受診した方が良いでしょうか?又、出産後に血乳が出なくなれば受診は不要でしょうか?
急な書き込みで申し訳ありませんが、不安でたまらないため、ご意見いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
出産後の受診でも良いとは思いますが、不安を持ちながらの出産は望ましいことではありませんので、もし出産に差し支えない体調なのでしたら、今の時点で乳腺外科に受診してみても良いとは思います。
もし検査をするとしたら、分泌物の細胞診と超音波検査(エコー)だと思いますが、この検査だけでも急ぐ必要のある状態か、少し経過をみても大丈夫かがだいたいわかります。結果は担当医から説明があると思いますので、疑問があればそこで納得いくまで確認して下さい。
取り急ぎ以上です。良い結果であることと安産で元気な赤ちゃんが生まれますことをを心からお祈りしています。

匿名 さんのコメント...

2015年4月9日 14:27に相談した匿名です。
先日はお答え頂き、お世話になりました。
その後、主治医に再確認しましたが、やはり癌細胞はどこにも見当たらなかったという事でした。
しかし、やはり画像では、MRIで腫瘤の形が不整形で境界不明瞭であり、PET CTでは黒く悪い染まり方をしているので、癌の疑いが拭えない様子でした。
画像上、"腫瘤の形が不整形で境界不明瞭" という時は、癌に間違いが無い。 というのが、医学界の常識ですか?それとも、そういう画像でも癌ではない病気がある時がありますか?
腫瘍マーカーも出ない塊が何ものか、癌であるなら何癌か、を探る手立ては組織診断以外に何かないでしょうか?
また、画像的に確実に癌だけれど、組織が取れず何癌か判らない場合、どのような治療の流れになるのが標準的ですか。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
実際に画像も見ておらず、手術にも立ち会っていない私はこれ以上の意見を軽々しく述べることはできません。
もし、どうしても疑問があるのでしたら、主治医に申し出てセカンドオピニオンを受けて下さい。
お役に立てなくて申し訳ありません。