2015年8月1日土曜日

センチネル陽性で腋窩郭清を省略した場合の盲点

ACOSOG Z0011という臨床試験の結果は、一般紙にも取り上げられるほどのインパクトのある結果でした(
http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2011/02/blog-post_12.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2011/07/blog-post_23.html)。

簡単に概要を書きますと、”T1-2、明らかなリンパ節転移がない、乳房温存術を受け術後に乳房照射と”適切な補助療法”を行なう症例、においては、センチネルリンパ節生検でリンパ節転移が2個以下であれば腋窩郭清は省略しても局所健存率および全生存率を低下させない”というものです。

ただこの臨床試験にはその後いくつもの問題点が指摘されています。それでもこの結果はもうすでに世界中をかけめぐり、あっという間にコンセンサスを得てガイドラインにも掲載されているのが現状です。

センチネルリンパ節転移が陽性でリンパ節郭清を省略した場合の一番の問題点は、実際に何個のリンパ節転移があるのかを確認できないことです。当院で手術を行なった症例では、センチネルリンパ節転移が1-2個陽性の場合に、腋窩リンパ節郭清をしてみると、その1/4程度は4個以上の転移がありました。

私が知っているある患者さんは、他院で乳房温存術+センチネルリンパ節生検を受け1個のリンパ節に転移がありましたが、郭清はしなかったそうです。術後は通常の乳房照射を行ない、ホルモン療法のみで経過を見ていましたが、数年後に鎖骨上リンパ節、肺、骨に再発したとのことでした。

この患者さんがセンチネルリンパ節転移陽性と判断した時点で腋窩リンパ節郭清を受けていた場合、もしもリンパ節転移の個数が多数あったとしたら治療方針が変わっていたのではないか?という思いが頭をよぎりました。つまり、転移個数が多ければ、術後に抗がん剤を投与していたはずですし、胸壁+鎖骨上リンパ節領域への照射もしていた可能性があるのではないかということです。もちろんこれはあくまでも推測に基づく可能性の話ですので、抗がん剤や放射線治療をしていても同じ経過だったのかもしれませんが…。

ちょうどこのようなケースを以前の投稿(上に貼ったURL)で想定していたのを発見してちょっとびっくりしました。

要するに個々の症例を見てみると、正しい転移個数を確認できないことで適切な術後治療を受けられず、結果的に予後に影響が出る場合もあるのではないか?ということです。今までも指摘されていたように、Z0011では過半数に強力な化学療法を行なっていたために、その差、影響が出なかった可能性もあります。ER陽性の乳がん患者さんにおいてセンチネル陽性で腋窩郭清を省略する場合に、ホルモン療法のみという術後補助療法の選択は妥当なのか、もう少し検討が必要かもしれません。

もちろんセンチネルリンパ節に転移があった全症例に郭清を追加すれば、結果的に不必要な腋窩郭清をしてしまうケースも多くなります。そのために術後長期間にわたってリンパ浮腫に悩まされる患者さんが増えてしまうのもまた事実です。機能温存と根治性を両立させるのはなかなか難しいです。

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