
炎症性乳がんは、診断された時にはすでに広範な広がりを持っていることが多い病態です。前回書いたように皮膚内をリンパ管を介して広がっているため範囲の特定はなかなか困難です。ですから広く皮膚を切除してもがんを遺残させるリスクがあります。またリンパ節転移も伴いやすいため、いきなり手術になるケースはまれです(後述)。
以前から炎症性乳がんに対しては、集学的治療(手術、放射線治療、化学療法、内分泌療法など)が必要と言われてきました。手術単独だった時代に比べて、集学的治療によって予後は改善しています。最近では分子標的治療も加わり、手術の位置づけは昔に比べるとかなり変わってきているのかもしれません。中には手術は不要と主張する医師もいるようです。
実際、術前化学療法が奏効して一見腫瘍範囲が縮小したように見えても、切除してみると切除断端までがん細胞が残っていることもあり、手術で完全切除することの難しさを痛感することがあります。やはり炎症性乳がんにおいては手術は補助的な意味合いが強いのかもしれません。
NCCNガイドラインによると炎症性乳がん(遠隔転移がない場合)の治療のアルゴリズムは以下の通りです(http://www.jccnb.net/guideline/images/gl_2011_2.pdf)。
術前化学療法(アンスラサイクリン+タキサン±ハーセプチン)→①または②へ
①反応あり→手術(乳房全摘+腋窩リンパ節郭清)+放射線治療(胸壁、鎖骨上リンパ節±胸骨傍リンパ節)±乳房再建→(化学療法)±内分泌量法±ハーセプチン
②反応なし→レジメンを変更して化学療法(放射線治療を考慮)→反応ありは①へ、反応なしは個別治療
「乳癌診療ガイドライン1 薬物療法」(2010年版)においてもほぼ同様の内容が記載されており、「炎症性乳癌に対しては、薬物療法を施行したのち、手術、放射線療法などの集学的治療の施行が勧められる」が推奨グレードB(科学的根拠があり、実戦するよう推奨する)となっています。いずれにしても炎症性乳がんの治療は、化学療法などによっていかに腫瘍量を0に近づけることができるかが鍵になると思います。
写真はINFLAMMATORY BREAST CANCER RESEARCH FOUNDATION(http://www.ibcresearch.org/)のHPから転載しました。