昨日、15年前に私が研修した東京のG病院に久しぶりに行ってきました。
今回はこの春からここの乳腺センターで研修するN先生と旭川の系列病院のSI先生(SI先生もこの病院で研修を受けた先輩でTI先生に直接指導を受けていた関係で同行してくれました)、そして私の3人で部長のTI先生にご挨拶をするという目的で、そのついでと言ってはなんですが病院の見学もさせていただこうということで訪れたのです。
朝7:50にTI先生と待ち合わせをしてご挨拶したあとで、まず乳腺センター(乳腺外科、化学療法科、病理科)のCancer Boardに参加させていただきました。臨床研究テーマについての討論や再発症例の治療方針の検討などが行なわれていました。すごい参加人数なのと女性が非常に多いことに驚きました。
そのあと手術室に入り、2件の手術を見学しました。1件は乳房全摘術+センチネルリンパ節生検+ティッシュー・エキスパンダー挿入の手術でN先生は手洗いをして助手として参加させていただきました。非常に確実かつ丁寧な手術でした。さすがに数多くの手術をこなしておられる先生です。全摘後に手を替わって執刀した形成外科の先生にはいろいろ質問させていただきましたが親切に教えて下さいました。細かいコツの習得は必要ですが、短期間の研修でティッシュー・エキスパンダーを入れるところまではできるようになるとおっしゃって下さいました。N先生が研修で学んできてくれれば、病院、そして患者さんにとって大きなメリットになりそうです。閉創は特殊な縫い方をしていて驚きましたが、創はとてもきれいでした。私とSI先生は手洗いをしなかったのでもう一つの乳房全摘術+腋窩リンパ節郭清の手術も少し見させていただきました。かなりのリンパ節転移のある症例のようで大変そうでした。
昼ご飯を食べてからはまず乳腺センターの部長回診に同行させていただきました。やはり私たちの病院に比べると患者さんの年齢層が若い印象でした。TI先生からは、G病院での創部やドレーンの管理について教えていただきました。15年前とはやはりかなり変化していますが、基本的には私たちの病院での管理と大きな違いはなさそうです。ただ患者さん向けの教育(リハビリや手術・化学療法の定期的な学習会、脱毛時の帽子の作り方の講習など)がとても行き届いていることは参考になりました。
そのあとTI先生直々に病院内の様々な部署を案内していただきました。特別室(最高1日○十万円!)や緩和ケア病棟、いくつも診察室がある乳腺外来、外来化学療法室(60床!!)、超音波検査室、放射線診療部、検診センター、病理検査室、図書室や医局などゆっくり時間をかけて見せて下さいました。
私やG先生、SI先生が研修した時はまだ都内の別な場所に病院がありました。とても古い建物で趣はありましたが、患者さんにとっては快適とは言えない病院でした。G病院が今の場所に移転してからは、一度中に入ったことがあるだけで、病棟や手術室などを見るのは初めてでした。実際あちこち見学させていただくとあのころの病院と比べるとまったく別の病院になっていました。特別室のある12階から見た景色は最高でしたし、中庭にはベンチもあり、コーヒーショップやレストラン、コンビニなど患者さんにとって非常に快適な病院だと感じました。私たちの新病院とは規模がまったく異なるのですが、参考になることがいくつもありました。
前日の夜中23時くらいにホテルに着いて、今日の10時の便で戻ってきましたのでちょっと疲れましたが充実した時間を過ごすことができ、大変勉強にもなりました。出向研修に少し不安を感じていたN先生も実際に自分の目で施設を見学でき、TI先生を始めスタッフの皆さんにとても親切にしていただいたので安心して研修に出ることができそうです。
TI先生には大変ご多忙の中、長い時間を割いていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。またいつか短期間でも良いので研修させていただきたいと思っています。
乳癌が心配だけど、どこに受診したらいいかわからない、乳癌になってしまって不安…、再発したからもうだめかもしれない…。そんな不安や悩みに少しでもお役に立てればと思って始めてみました。 (*投稿内容と無関係なコメント、病状のご相談はご遠慮願います*)
2012年1月10日火曜日
超音波検査併用検診の落とし穴
現在、J-START(http://j-start.org/index.html)という、マンモグラフィ検診に超音波検査を上乗せする意義を調べる臨床試験が40歳代の女性を対象に行なわれています。
私たちの施設はこの臨床試験には参加していませんが、乳腺症などでフォローしている患者さんには定期的にマンモグラフィと超音波検査を行なっています。通常、例えば次回1年後にマンモグラフィと超音波検査を予定している患者さんは、自覚症状がなければ予約した検査を受けてから診察にまわります。つまり、検査をする側、特に超音波技師は視触診とマンモグラフィの情報なしに検査を行なうのです。この場合、時に判断に非常に迷う場合があります。
私が経験しただけでも何回かひやっとしたことがあります。
超音波検査で異常なし(または不変)なのに、マンモグラフィでちょっと気になる所見があった場合、どの程度超音波検査を信用するかは難しい判断です。なぜなら、超音波検査は本来、視触診よりは間違いなく小さな腫瘤を描出できますし、高濃度乳腺であればマンモグラフィよりも検出能は優れています。これは私の施設で何度か報告していますが乳腺疾患に対する超音波検査経験が豊富な施設ではおそらく同じだと思います。ですから、その超音波検査で異常を指摘していなければ、多少気になる所見があっても乳腺の重なりだろう、とか孤立性乳腺だろうと判断するのが普通なのです。
しかし、超音波検査にもいくつか落とし穴がありますので私の経験も踏まえていくつか挙げてみます。
①乳腺のはずれにできた乳がん
超音波検査では乳腺組織を描出しながらその端まで観察します。しかし、超音波検査で描出される乳腺の先まで脂肪化した乳腺組織が筋状に残っていることが多いのです。この筋状に残った乳腺から発生したがんは、一見、乳腺組織がなくなったと思われる先にあるため、観察し損なうことがあるのです。ですから画像で描出される乳腺組織にとらわれず、乳腺組織が存在していた可能性のある範囲(上下方向は鎖骨下から乳房下縁まで、横方向は正中から腋窩まで)をきちんと走査する必要があります。私自身も触診でとても気になったり(得てしてこのような部位は触診しやすいのです)、マンモグラフィで描出されていて比較読影で変化が確認されたりということで超音波検査の再検査(second look)で描出できたというケースを経験したことがあります。
②脂肪化した乳腺内に発生した粘液がん
粘液がんは脂肪と似たような内部エコーを呈することも多く、脂肪化した乳腺では脂肪と誤認してしまう可能性があります。このような場合は、マンモグラフィが非常に有効で、明瞭な腫瘤として描出されます。マンモグラフィで明瞭な腫瘤なのに超音波検査で確認しづらい場合は、過誤種や粘液がんであることが多いと思います(比較的若い場合は線維腺腫も時にわかりにくい場合があります)。
③腋窩に発生した腫瘍
腋窩に発生する腫瘍には、乳がんの腋窩リンパ節転移(原発巣がはっきりしない場合はoccult cancerと言います)、悪性リンパ腫などのリンパ節発生の腫瘍、異所性乳がんなどがあります。
乳がんのスクリーニングの場合、通常は腋窩の観察を目的として超音波検査はしません(乳腺の観察で腋窩まで見てしまうことはありますが)。マンモグラフィでも腋窩の深部の腫瘍までは写ってきません(乳腺に近いリンパ節は写りますが)。ごく稀ではありますが、触診で腋窩に腫瘤を発見することがあります。私が経験したケースでは、初回の超音波検査は異常なし、マンモグラフィでも腫瘤は認めませんでしたので、前回と変わりないかなと思いながら触診をしたところ、腋窩にごろっとした腫瘤がありました。わりと深い位置にあったため、マンモグラフィでも超音波検査でも描出されませんでしたが、きちんと腋窩まで触診しておいて良かったと思った症例でした。もし触らなければ大変なことになるところでした(汗)。このようなことがありますので私は乳がん検診の触診では必ず腋窩はきちんと触診するようにしています。
超音波検査は非常に有用な検査だと私は思っています。しかし、このような落とし穴があることを自覚して初めて有効な手段になることを忘れてはいけません。また、超音波検査をマンモグラフィと同時に行なう場合には、できればマンモグラフィを先に撮影して、それを超音波技師が見た上で検査を行なうのが理想的だと考えています。そのためには最低限のマンモグラフィの読影力が超音波技師にも求められるということになります。毎月多職種で行なっている症例カンファレンスはそういう意味でも非常に重要ではないかと私は考えています。
私たちの施設はこの臨床試験には参加していませんが、乳腺症などでフォローしている患者さんには定期的にマンモグラフィと超音波検査を行なっています。通常、例えば次回1年後にマンモグラフィと超音波検査を予定している患者さんは、自覚症状がなければ予約した検査を受けてから診察にまわります。つまり、検査をする側、特に超音波技師は視触診とマンモグラフィの情報なしに検査を行なうのです。この場合、時に判断に非常に迷う場合があります。
私が経験しただけでも何回かひやっとしたことがあります。
超音波検査で異常なし(または不変)なのに、マンモグラフィでちょっと気になる所見があった場合、どの程度超音波検査を信用するかは難しい判断です。なぜなら、超音波検査は本来、視触診よりは間違いなく小さな腫瘤を描出できますし、高濃度乳腺であればマンモグラフィよりも検出能は優れています。これは私の施設で何度か報告していますが乳腺疾患に対する超音波検査経験が豊富な施設ではおそらく同じだと思います。ですから、その超音波検査で異常を指摘していなければ、多少気になる所見があっても乳腺の重なりだろう、とか孤立性乳腺だろうと判断するのが普通なのです。
しかし、超音波検査にもいくつか落とし穴がありますので私の経験も踏まえていくつか挙げてみます。
①乳腺のはずれにできた乳がん
超音波検査では乳腺組織を描出しながらその端まで観察します。しかし、超音波検査で描出される乳腺の先まで脂肪化した乳腺組織が筋状に残っていることが多いのです。この筋状に残った乳腺から発生したがんは、一見、乳腺組織がなくなったと思われる先にあるため、観察し損なうことがあるのです。ですから画像で描出される乳腺組織にとらわれず、乳腺組織が存在していた可能性のある範囲(上下方向は鎖骨下から乳房下縁まで、横方向は正中から腋窩まで)をきちんと走査する必要があります。私自身も触診でとても気になったり(得てしてこのような部位は触診しやすいのです)、マンモグラフィで描出されていて比較読影で変化が確認されたりということで超音波検査の再検査(second look)で描出できたというケースを経験したことがあります。
②脂肪化した乳腺内に発生した粘液がん
粘液がんは脂肪と似たような内部エコーを呈することも多く、脂肪化した乳腺では脂肪と誤認してしまう可能性があります。このような場合は、マンモグラフィが非常に有効で、明瞭な腫瘤として描出されます。マンモグラフィで明瞭な腫瘤なのに超音波検査で確認しづらい場合は、過誤種や粘液がんであることが多いと思います(比較的若い場合は線維腺腫も時にわかりにくい場合があります)。
③腋窩に発生した腫瘍
腋窩に発生する腫瘍には、乳がんの腋窩リンパ節転移(原発巣がはっきりしない場合はoccult cancerと言います)、悪性リンパ腫などのリンパ節発生の腫瘍、異所性乳がんなどがあります。
乳がんのスクリーニングの場合、通常は腋窩の観察を目的として超音波検査はしません(乳腺の観察で腋窩まで見てしまうことはありますが)。マンモグラフィでも腋窩の深部の腫瘍までは写ってきません(乳腺に近いリンパ節は写りますが)。ごく稀ではありますが、触診で腋窩に腫瘤を発見することがあります。私が経験したケースでは、初回の超音波検査は異常なし、マンモグラフィでも腫瘤は認めませんでしたので、前回と変わりないかなと思いながら触診をしたところ、腋窩にごろっとした腫瘤がありました。わりと深い位置にあったため、マンモグラフィでも超音波検査でも描出されませんでしたが、きちんと腋窩まで触診しておいて良かったと思った症例でした。もし触らなければ大変なことになるところでした(汗)。このようなことがありますので私は乳がん検診の触診では必ず腋窩はきちんと触診するようにしています。
超音波検査は非常に有用な検査だと私は思っています。しかし、このような落とし穴があることを自覚して初めて有効な手段になることを忘れてはいけません。また、超音波検査をマンモグラフィと同時に行なう場合には、できればマンモグラフィを先に撮影して、それを超音波技師が見た上で検査を行なうのが理想的だと考えています。そのためには最低限のマンモグラフィの読影力が超音波技師にも求められるということになります。毎月多職種で行なっている症例カンファレンスはそういう意味でも非常に重要ではないかと私は考えています。
2012年1月6日金曜日
乳房再建術の効果
今日の外来に乳房再建術を受けた患者さんが2人受診されました。
一人は30歳代の女性で近々乳頭・乳輪の再建を受けて終了予定です。この際に乳房の形の微調整も行なうそうです。自家組織を用いた再建で触感は柔らかく、完成が楽しみです。リュープリンも今回で終了し、とてもうれしそうにしていらっしゃいました。
もう一人は60歳代の方ですが、最後の乳頭・乳輪の再建も終了して受診されました。この方も自家組織を用いた再建でしたが形も非常にきれいで触感も良好でした。ご本人も大変満足されているようで表情もとても明るくなっていました。この患者さんは、一時期精神的に不安定になって体重も落ちていましたが、今日受診されたときにはふっくらとされていてびっくりしました。
乳房再建は見かけ上、乳房を取り戻すということだけではなく、精神的にも大きなプラス効果を与えるのだとあらためて実感させられました。お二人ともD病院のE先生に手術していただいた患者さんですが、他にお願いした患者さんたちも皆さん経過は良好のようです。近くに安心して乳房再建をお願いできる先生がいるということは本当に心強いです。また患者さんの心の負担を少しでも軽くしてあげる治療をお願いしたいと思っています。
一人は30歳代の女性で近々乳頭・乳輪の再建を受けて終了予定です。この際に乳房の形の微調整も行なうそうです。自家組織を用いた再建で触感は柔らかく、完成が楽しみです。リュープリンも今回で終了し、とてもうれしそうにしていらっしゃいました。
もう一人は60歳代の方ですが、最後の乳頭・乳輪の再建も終了して受診されました。この方も自家組織を用いた再建でしたが形も非常にきれいで触感も良好でした。ご本人も大変満足されているようで表情もとても明るくなっていました。この患者さんは、一時期精神的に不安定になって体重も落ちていましたが、今日受診されたときにはふっくらとされていてびっくりしました。
乳房再建は見かけ上、乳房を取り戻すということだけではなく、精神的にも大きなプラス効果を与えるのだとあらためて実感させられました。お二人ともD病院のE先生に手術していただいた患者さんですが、他にお願いした患者さんたちも皆さん経過は良好のようです。近くに安心して乳房再建をお願いできる先生がいるということは本当に心強いです。また患者さんの心の負担を少しでも軽くしてあげる治療をお願いしたいと思っています。
2012年1月5日木曜日
線維腺腫の自然経過
線維腺腫は主に若い女性に発生するごくありふれた良性腫瘍です。
線維腺腫は女性ホルモンの影響を受けると言われています。ですから閉経後に 退縮して小さくなったり粗大な石灰化をきたしたりします。また、授乳後に消えてしまった症例も経験したことがあります。まれに5cm以上の大きな線維腺腫も経験しますが(このような中には葉状腫瘍が含まれている可能性があります)、多くは3cm以下くらいで増大が落ち着くと言われています。3cm以上に増大したり、40歳代で増大傾向を示す場合、急速に増大する場合などは葉状腫瘍の可能性がありますので摘出の適応になります(細胞診、時には組織診でも線維腺腫と葉状腫瘍の区別が難しい場合があります)。
中学生や高校生くらいの若年期に自分でしこりを発見して受診する患者さんのほとんどはこの線維腺腫です。臨床的に線維腺腫と診断され、大きさが3cm以下で著明な増大傾向がなければ経過観察で良いと思います。私の外来で経過を見た患者さん中には一時的に増大してもまた小さくなってしまったケースもありました。
そのうちの一人にこんな経過の患者さんがいらっしゃいます。初診時はたしか中学生の頃だったと思います。細胞診で診断がついて経過を見たのですが、3cm近くまで増大して切除も検討しましたがぎりぎりまで粘ったところ、2年後くらいから急に縮小を始めたのです。そして結局半分くらいの大きさまで縮小しました。ちょっと驚いたのは、最近受診された時の超音波画像で、粗大な石灰化をきたしていたことです。実際はもっといるのかもしれませんが、経過を追って10代で粗大石灰化をきたしたのを自分の目で確認できたのは初めてでした。
他にも高校時代からずっとそのままという多発性の線維腺腫の患者さんがいますが、この方の線維腺腫はものすごく数が多く、しかも一番大きなものは6cmくらいあります。大多数は粗大な石灰化を伴っていますが、いまだに石灰化をきたしていないフレッシュなものもあります。10年ほど前から私の外来にかかっていて、いま60才代ですが、ずっと変わりません。両側とも乳房のほとんどを線維腺腫が占めています。もし切除すると乳腺がなくなってしまうような多さです。ご本人も何十年も前からあるのでこのままでいいとおっしゃるので経過を見ていますが、腫瘤の大きさを計測する超音波技師さんたちは毎回大変です(汗)。最近は計測するのは石灰化していない線維腺腫だけでいいと指示を出しています。
今日も7つほど線維腺腫がある患者さんがいらっしゃいました。一つ一つ大きさを比べるのはなかなか大変ですが根気よく調べたところ、そのうちの一つだけ徐々に増大していることがわかりました。葉状腫瘍の可能性は否定できないため、精査にまわしました。
多発性線維腺腫がある場合、全てのしこりを細胞診や組織診しているわけではありませんので、経過を見て比較することが大切です。できれば同じ施設で定期的に検査を受けて大きさが変化していないことを確認してもらうようにお勧めします。
*追記(2014.10.12)
ご質問などでコメントされる場合は、過去のコメントで似たような質問がないかどうかをご確認願います。また、トップページの注意事項をご一読下さい(ネット上で診断を求められてもお答えすることはできません)。
線維腺腫は女性ホルモンの影響を受けると言われています。ですから閉経後に 退縮して小さくなったり粗大な石灰化をきたしたりします。また、授乳後に消えてしまった症例も経験したことがあります。まれに5cm以上の大きな線維腺腫も経験しますが(このような中には葉状腫瘍が含まれている可能性があります)、多くは3cm以下くらいで増大が落ち着くと言われています。3cm以上に増大したり、40歳代で増大傾向を示す場合、急速に増大する場合などは葉状腫瘍の可能性がありますので摘出の適応になります(細胞診、時には組織診でも線維腺腫と葉状腫瘍の区別が難しい場合があります)。
中学生や高校生くらいの若年期に自分でしこりを発見して受診する患者さんのほとんどはこの線維腺腫です。臨床的に線維腺腫と診断され、大きさが3cm以下で著明な増大傾向がなければ経過観察で良いと思います。私の外来で経過を見た患者さん中には一時的に増大してもまた小さくなってしまったケースもありました。
そのうちの一人にこんな経過の患者さんがいらっしゃいます。初診時はたしか中学生の頃だったと思います。細胞診で診断がついて経過を見たのですが、3cm近くまで増大して切除も検討しましたがぎりぎりまで粘ったところ、2年後くらいから急に縮小を始めたのです。そして結局半分くらいの大きさまで縮小しました。ちょっと驚いたのは、最近受診された時の超音波画像で、粗大な石灰化をきたしていたことです。実際はもっといるのかもしれませんが、経過を追って10代で粗大石灰化をきたしたのを自分の目で確認できたのは初めてでした。
他にも高校時代からずっとそのままという多発性の線維腺腫の患者さんがいますが、この方の線維腺腫はものすごく数が多く、しかも一番大きなものは6cmくらいあります。大多数は粗大な石灰化を伴っていますが、いまだに石灰化をきたしていないフレッシュなものもあります。10年ほど前から私の外来にかかっていて、いま60才代ですが、ずっと変わりません。両側とも乳房のほとんどを線維腺腫が占めています。もし切除すると乳腺がなくなってしまうような多さです。ご本人も何十年も前からあるのでこのままでいいとおっしゃるので経過を見ていますが、腫瘤の大きさを計測する超音波技師さんたちは毎回大変です(汗)。最近は計測するのは石灰化していない線維腺腫だけでいいと指示を出しています。
今日も7つほど線維腺腫がある患者さんがいらっしゃいました。一つ一つ大きさを比べるのはなかなか大変ですが根気よく調べたところ、そのうちの一つだけ徐々に増大していることがわかりました。葉状腫瘍の可能性は否定できないため、精査にまわしました。
多発性線維腺腫がある場合、全てのしこりを細胞診や組織診しているわけではありませんので、経過を見て比較することが大切です。できれば同じ施設で定期的に検査を受けて大きさが変化していないことを確認してもらうようにお勧めします。
*追記(2014.10.12)
ご質問などでコメントされる場合は、過去のコメントで似たような質問がないかどうかをご確認願います。また、トップページの注意事項をご一読下さい(ネット上で診断を求められてもお答えすることはできません)。
2012年1月4日水曜日
仕事始め
今日から2012年の仕事が始まりました。さっそくN先生執刀の乳がんの手術があり、順調にスタートを切れました。ただここ2日の休みの間に外来の乳がん患者さんが臨時入院になったり、入院中の患者さんの容態が悪化したりで、少し病棟がばたばたしていました。
今月はN先生の出向研修前のご挨拶&見学のために東京のG病院に訪問したり、緩和ケア研修会があったり、製薬会社の講演会で東京に行ったりでほとんど週末の予定が埋まっています。手術予定も今月いっぱいくらいの症例はすでに入っていて今年もなかなか忙しくなりそうです。今日もまた1人、乳がんの診断で入院予約になりました。
最近目立つのは職員の乳がんです。まあこれだけ女性の多い職場ですし、いまや16人に1人が乳がんになる時代ですので当たり前なのかもしれませんね。職員に対するさらなる啓蒙が必要ではないかと強く感じています。N先生が中心となってこれから頑張ってくれるものと期待しています(1年の出向研修があるので来春以降になるかもしれませんが…)。
春からはG先生と2人体制になります。N先生が戻ってくる来春の新病院オープンまでの間、現状を維持していかなければなりません。健康には十分注意してなんとか頑張って行きたいと思います!
今月はN先生の出向研修前のご挨拶&見学のために東京のG病院に訪問したり、緩和ケア研修会があったり、製薬会社の講演会で東京に行ったりでほとんど週末の予定が埋まっています。手術予定も今月いっぱいくらいの症例はすでに入っていて今年もなかなか忙しくなりそうです。今日もまた1人、乳がんの診断で入院予約になりました。
最近目立つのは職員の乳がんです。まあこれだけ女性の多い職場ですし、いまや16人に1人が乳がんになる時代ですので当たり前なのかもしれませんね。職員に対するさらなる啓蒙が必要ではないかと強く感じています。N先生が中心となってこれから頑張ってくれるものと期待しています(1年の出向研修があるので来春以降になるかもしれませんが…)。
春からはG先生と2人体制になります。N先生が戻ってくる来春の新病院オープンまでの間、現状を維持していかなければなりません。健康には十分注意してなんとか頑張って行きたいと思います!
2012年1月3日火曜日
抗癌剤の副作用17 浮腫(むくみ)
命には関わりませんがタキサン系(ドセタキセル、パクリタキセル)のやっかいな副作用の一つに浮腫があります。一般的にはドセタキセルのほうが起きやすいと言われていますが、パクリタキセルでも起きます。以下、ドセタキセルによる浮腫についてご説明します。
1.概要
ドセタキセルが使用可能となった当初の国内での適応は進行再発乳がんで、投与量も60(-70)mg/㎡と少ない量(欧米では100mg/㎡)でしたので欧米で言われていたほどの浮腫の発生はないとされていました。実際、私たちの病院では60mg/㎡を基本としていましたのでかなり回数を重ねない限り、浮腫で悩まされることは多くありませんでした。しかし術後補助療法として投与されるようになってからは70mg/㎡が基本量となり、さらにTC療法で75mg/㎡のドセタキセルを投与するようになってからは浮腫の頻度が増加してきた印象があります。
2.用量と発生頻度
ドセタキセルによる浮腫は,毛細血管透過性の亢進が主な原因と考えられています。発生頻度は用量依存性であり、特に総投与量が300-400mg/㎡以上になると間質へのうっ血とリンパ管への還流障害が起こり,浮腫の発生頻度が増加します。ただし、これ以下の量でも発生することがあります。
3.予防法
ステロイドの予防投与が浮腫の発生を抑制することがわかっています。施設によって若干違いはありますが、代表的な方法は以下の通りです。
①ドセタキセル投与前にリン酸デキサメタゾン8-16mg点滴静注(または投与12時間前、3時間前にデキサメタゾン4mg内服)
②投与翌日(または当日夕)から2日間、デキサメタゾン8mg/日(1日2回に分ける)内服
4.投与中の留意点
体重測定、起床時の顔のむくみ、夕方にかけて悪化する下肢のむくみ(靴下の跡や圧痕の有無)などをチェックしておき、次回投与時に主治医に報告します。むくみがあるときには怪我に気をつけましょう(治りにくくなりますので…)。
5.浮腫発生時の対処
①できるだけ早めに利尿剤を投与…フロセミド20-40mg/日→血清カリウム値と浮腫の状態を見てスピロノラクトン25-50mg追加
②改善がなければ治療の延期、他剤への検討を検討する
浮腫や関節痛・筋肉痛・しびれなどのタキサン系の副作用は命に関わるようなものではありませんが、患者さんにとっては非常に不快な症状です。先日も一人、浮腫を発生した患者さんがいらっしゃいましたが、幸い利尿剤に反応してくれたため浮腫は軽快し、治療を継続できています。治療が奏効している場合は、なんとかうまく副作用をコントロールしながら継続したいものです。しかしいつもうまくコントロールできるわけではありません。その場合は、患者さんに我慢してもらいながら継続するか、治療を変更するかを検討しなければなりません。
1.概要
ドセタキセルが使用可能となった当初の国内での適応は進行再発乳がんで、投与量も60(-70)mg/㎡と少ない量(欧米では100mg/㎡)でしたので欧米で言われていたほどの浮腫の発生はないとされていました。実際、私たちの病院では60mg/㎡を基本としていましたのでかなり回数を重ねない限り、浮腫で悩まされることは多くありませんでした。しかし術後補助療法として投与されるようになってからは70mg/㎡が基本量となり、さらにTC療法で75mg/㎡のドセタキセルを投与するようになってからは浮腫の頻度が増加してきた印象があります。
2.用量と発生頻度
ドセタキセルによる浮腫は,毛細血管透過性の亢進が主な原因と考えられています。発生頻度は用量依存性であり、特に総投与量が300-400mg/㎡以上になると間質へのうっ血とリンパ管への還流障害が起こり,浮腫の発生頻度が増加します。ただし、これ以下の量でも発生することがあります。
3.予防法
ステロイドの予防投与が浮腫の発生を抑制することがわかっています。施設によって若干違いはありますが、代表的な方法は以下の通りです。
①ドセタキセル投与前にリン酸デキサメタゾン8-16mg点滴静注(または投与12時間前、3時間前にデキサメタゾン4mg内服)
②投与翌日(または当日夕)から2日間、デキサメタゾン8mg/日(1日2回に分ける)内服
4.投与中の留意点
体重測定、起床時の顔のむくみ、夕方にかけて悪化する下肢のむくみ(靴下の跡や圧痕の有無)などをチェックしておき、次回投与時に主治医に報告します。むくみがあるときには怪我に気をつけましょう(治りにくくなりますので…)。
5.浮腫発生時の対処
①できるだけ早めに利尿剤を投与…フロセミド20-40mg/日→血清カリウム値と浮腫の状態を見てスピロノラクトン25-50mg追加
②改善がなければ治療の延期、他剤への検討を検討する
浮腫や関節痛・筋肉痛・しびれなどのタキサン系の副作用は命に関わるようなものではありませんが、患者さんにとっては非常に不快な症状です。先日も一人、浮腫を発生した患者さんがいらっしゃいましたが、幸い利尿剤に反応してくれたため浮腫は軽快し、治療を継続できています。治療が奏効している場合は、なんとかうまく副作用をコントロールしながら継続したいものです。しかしいつもうまくコントロールできるわけではありません。その場合は、患者さんに我慢してもらいながら継続するか、治療を変更するかを検討しなければなりません。
2012年1月1日日曜日
新年あけましておめでとうございます!
今朝の札幌は穏やかな良い天気でした。昨日はお酒も控え、7時に起床して回診に行ってきました。
現在、乳腺外科で受け持っている患者さんは、本来の呼吸器・乳腺センター病棟以外に、消化器センターと回復期リハビリセンターにも入院していらっしゃいます。これは呼吸器・乳腺センター病棟は常にベッド状況が厳しいために乳がんの再発治療患者さんを他の病棟にお願いせざるを得ない状況があるためです。
ただ、年末は手術も少なく、状態の落ち着いている患者さんは外泊されていたため、病院で年越しをされた乳腺外科担当の患者さんは3病棟合わせて5人だけでした。いずれの患者さんも状態は安定していて一安心です。好中球が減少していたり、体調が悪化しそうで心配していた外来患者さんも幸い今のところ臨時入院はしていませんでした。みなさん無事に年越しできたようで良かったです。
元旦以外はG先生とN先生が回診をしてくれるので私は自宅でのんびりしています。1/4の仕事始めまで落ち着いていて欲しいものです。
今月はすでに乳がん患者さんの手術予定がけっこう入っています。昨年からのハイペースがまだしばらく続きそうです。忙しい日々が続きそうですが今年も事故やトラブルがないように気を引き締めて仕事をしたいと思っています。
2012年がすべての乳がん患者さんにとって良い1年でありますように、そして昨年被災されたすべての皆さんにとって希望が持てる良い年になりますように心からお祈り申し上げます。
現在、乳腺外科で受け持っている患者さんは、本来の呼吸器・乳腺センター病棟以外に、消化器センターと回復期リハビリセンターにも入院していらっしゃいます。これは呼吸器・乳腺センター病棟は常にベッド状況が厳しいために乳がんの再発治療患者さんを他の病棟にお願いせざるを得ない状況があるためです。
ただ、年末は手術も少なく、状態の落ち着いている患者さんは外泊されていたため、病院で年越しをされた乳腺外科担当の患者さんは3病棟合わせて5人だけでした。いずれの患者さんも状態は安定していて一安心です。好中球が減少していたり、体調が悪化しそうで心配していた外来患者さんも幸い今のところ臨時入院はしていませんでした。みなさん無事に年越しできたようで良かったです。
元旦以外はG先生とN先生が回診をしてくれるので私は自宅でのんびりしています。1/4の仕事始めまで落ち着いていて欲しいものです。
今月はすでに乳がん患者さんの手術予定がけっこう入っています。昨年からのハイペースがまだしばらく続きそうです。忙しい日々が続きそうですが今年も事故やトラブルがないように気を引き締めて仕事をしたいと思っています。
2012年がすべての乳がん患者さんにとって良い1年でありますように、そして昨年被災されたすべての皆さんにとって希望が持てる良い年になりますように心からお祈り申し上げます。
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