29日は病院の仕事納めです。毎年この日に外科全体で1年間の総括を行なうので(乳腺は正式にはG先生がまとめてくれるはず…)、ちょっと今年の乳がん症例を調べてみました。
今年はついにここ数年のぎりぎり未達成だった目標手術症例数を超えることができました。開院以来、最高の症例数です!
これは、当院と関連病院の健診課、超音波検査技師、放射線技師、病理検査の医師、技師のみなさんの努力のおかげだと思っています。そして、患者さんから患者さんへのご紹介もけっこうあったと思います。これからもその信頼に応えて行かなければとあらためて感じました。もちろん、病棟で乳腺診療を一手に引き受けてくれているG先生にも感謝しています。
今年の症例をまとめてみて気づいたことを挙げてみます。
①両側乳がんが非常に多かった
なんと同時両側が手術症例の3.7%、異時両側が14.8%、合わせて18.5%もいました。普通は合わせて5%程度(2-10%)ですので今年は異常に多かったんです。異時両側乳がんのほとんどは定期検査の乳房超音波検査で早期発見されています。技師さんたちの努力と症例検討会の成果が発揮された結果ではないかと思っています。
②年齢構成
前にも書きましたが、当院は高齢者が非常に多い病院です。以前調べたデータでは、乳がん手術患者さんの3人に1人は70才以上でした。
今年のデータをみてみると、70才以上の方の割合は35.7%!やはり高齢者は多いようです。
印象としては、例年よりは若年者が多いような気がしていたのですが…。30才台はわずか3.6%でした。
③非手術症例
StageⅣで手術をせずに化学内分泌療法を行なっている患者さんや認知症が高度なために内分泌療法を行なった患者さんを含めて、今年乳がんと診断された患者さんのうちの5.3%は手術以外の治療を行なっています。ただ今年は例年よりもStageⅣ症例が少なかったような印象があります。
④発見契機
・無症状 39.7%…検診 10.3%、良性疾患定期検査 8.6%、乳がん術後定期検査 10.3%、その他(対側精査、CT発見など) 10.3%
・有症状 60.3%
いまだに2/3近くの方がしこりなどの症状を自覚してから受診し、乳がんの診断に至っていました。
⑤早期癌比率
Stage0(非浸潤がん)、StageⅠを合わせた早期がんの割合は、44.8%(非浸潤がんは12.1%)。④で書いたように今年は例年より有症状の患者さんが多く、T2(2-5cm)が多かったためだと思われます(StageⅡA+ⅡBで41.4%)。定期的に自己検診をしている場合は、2cm以下で発見される率が高いですので、これらの方たちは自己検診も定期的には行なっていなかったか、受診できない理由(乳がんと言われるのが怖い、経済的理由など)があったことが推測されます。
こうしてまとめてみると、定期的に検査や検診を受けている方は早期で発見できていることがわかります。ただ、その割合はいまだに低く、残念ながらこれだけマスコミなどを通じて啓蒙活動を行ったり、無料クーポンを配っても進行した状態で発見される方がまだ多いということがあらためてわかりました。
来年はさらに啓蒙活動を広めていかなければダメだと強く感じました。
乳癌が心配だけど、どこに受診したらいいかわからない、乳癌になってしまって不安…、再発したからもうだめかもしれない…。そんな不安や悩みに少しでもお役に立てればと思って始めてみました。 (*投稿内容と無関係なコメント、病状のご相談はご遠慮願います*)
2010年12月28日火曜日
2010年12月27日月曜日
乳がん転移巣に対する手術療法の適応について
乳がんの再発、特に遠隔転移は全身療法(抗がん剤、ホルモン療法、分子標的薬)が治療の主体となります。これは乳がん自体が最初から全身病であるという考え方が広まっていること、遠隔転移がある場合はたとえ一つの臓器であっても画像に写らないような微小な転移が他の臓器にある場合がほとんどであること、実際に再発巣に手術を行なっても予後が改善したという報告はほとんどないこと、などによります。
しかし、実際は再発巣に対して手術を行なう場合があります。その理由のいくつかを以下に示します。
①根治を目指すため
特にリンパ節の単独再発(腋窩や鎖骨下、胸筋間、胸骨傍、時に鎖骨上、対側腋窩)の場合は、リンパ節郭清(摘出)で根治できる可能性があります。これは、乳がんがまだ局所に留まっていることがまれにあるからです。全身療法を併用することによってその可能性は高まります。
問題は遠隔臓器(肺、肝臓、骨、脳など)の場合です。通常は根治は困難と考えられ、手術はすべきではないと言われています。これは前にも書いたように、手術療法が予後を改善するというエビデンスがないからです。しかし、このエビデンスのもとになった臨床試験は相当古いものです。アロマターゼ阻害剤もハーセプチンもなかった時代のものです。
また、遠隔転移は治らないと主張する人がいますが、本当でしょうか?術後補助療法の進歩で予後が劇的に改善したのは、原発巣を切除した上で微小な遠隔転移を画像に写るような大きさになる前に根絶したことによると考えられます。つまり、微小な転移は全身療法で治癒可能なのです。ただ、再発の場合は、術後補助療法を行なった上で再発したという点で異なりますのでまったく条件が同じわけではありません。しかし、完全切除可能な少数(単臓器、できれば単発)の粗大な転移巣を除去した上で、新しい薬剤を効果的に組み合わせることができれば、再発も根治できる可能性を示している一つの証明だと私は思っています。
②情報を得るため
前にもここで書きましたが、再発巣では原発巣とがんの性質(ホルモンレセプター、HER2)が変化していることがあります。特にホルモンレセプターの陰性化はよく経験します。治療方針を立てる上で、その情報を得ることは有益だと考えられます。
③QOL向上、症状緩和のため
骨転移は手術で根治するのはなかなか難しいのですが、骨折治療や疼痛軽減、麻痺の予防、治療のために手術を行なうことはあります。今年も骨転移による麻痺で初診、緊急入院となったStageⅣの患者さんに対して化学療法後に脊椎固定術を行ない、その後ホルモン療法で劇的に症状が改善したため、退院可能になったというケースを経験しました。また、症状を伴った脳転移に対しても単発(〜少数個)であれば手術を行なう場合があります。特に脳浮腫を伴っていて急を要する場合には放射線治療の前に手術で症状緩和をはかります。まれではありますが肺転移で喀血や閉塞性肺炎の原因になっている場合も手術の適応になる場合があります。
大雑把に書くとこのような感じです。手術なんて必要なくなればそれに越したことはありません。実際に再発のほとんどは全身療法のみで行なわれます。それが著効することもあります。しかし、大きな再発巣を化学内分泌療法だけで根治するのはいまだに力不足です。状況によっては局所療法(手術、放射線治療)を組み合わせることも必要になるのです。
しかし、実際は再発巣に対して手術を行なう場合があります。その理由のいくつかを以下に示します。
①根治を目指すため
特にリンパ節の単独再発(腋窩や鎖骨下、胸筋間、胸骨傍、時に鎖骨上、対側腋窩)の場合は、リンパ節郭清(摘出)で根治できる可能性があります。これは、乳がんがまだ局所に留まっていることがまれにあるからです。全身療法を併用することによってその可能性は高まります。
問題は遠隔臓器(肺、肝臓、骨、脳など)の場合です。通常は根治は困難と考えられ、手術はすべきではないと言われています。これは前にも書いたように、手術療法が予後を改善するというエビデンスがないからです。しかし、このエビデンスのもとになった臨床試験は相当古いものです。アロマターゼ阻害剤もハーセプチンもなかった時代のものです。
また、遠隔転移は治らないと主張する人がいますが、本当でしょうか?術後補助療法の進歩で予後が劇的に改善したのは、原発巣を切除した上で微小な遠隔転移を画像に写るような大きさになる前に根絶したことによると考えられます。つまり、微小な転移は全身療法で治癒可能なのです。ただ、再発の場合は、術後補助療法を行なった上で再発したという点で異なりますのでまったく条件が同じわけではありません。しかし、完全切除可能な少数(単臓器、できれば単発)の粗大な転移巣を除去した上で、新しい薬剤を効果的に組み合わせることができれば、再発も根治できる可能性を示している一つの証明だと私は思っています。
②情報を得るため
前にもここで書きましたが、再発巣では原発巣とがんの性質(ホルモンレセプター、HER2)が変化していることがあります。特にホルモンレセプターの陰性化はよく経験します。治療方針を立てる上で、その情報を得ることは有益だと考えられます。
③QOL向上、症状緩和のため
骨転移は手術で根治するのはなかなか難しいのですが、骨折治療や疼痛軽減、麻痺の予防、治療のために手術を行なうことはあります。今年も骨転移による麻痺で初診、緊急入院となったStageⅣの患者さんに対して化学療法後に脊椎固定術を行ない、その後ホルモン療法で劇的に症状が改善したため、退院可能になったというケースを経験しました。また、症状を伴った脳転移に対しても単発(〜少数個)であれば手術を行なう場合があります。特に脳浮腫を伴っていて急を要する場合には放射線治療の前に手術で症状緩和をはかります。まれではありますが肺転移で喀血や閉塞性肺炎の原因になっている場合も手術の適応になる場合があります。
大雑把に書くとこのような感じです。手術なんて必要なくなればそれに越したことはありません。実際に再発のほとんどは全身療法のみで行なわれます。それが著効することもあります。しかし、大きな再発巣を化学内分泌療法だけで根治するのはいまだに力不足です。状況によっては局所療法(手術、放射線治療)を組み合わせることも必要になるのです。
2010年12月26日日曜日
ネットはすごいけど怖い…
このブログを始めてから2年弱、もしかしたら誰かを傷つけるようなことを書いていないか、小心者の私は時々ネットで自分のブログを検索しています。
見て下さった方がご自分のブログなどで好意的に紹介してくださっているのを見つけるととてもうれしくなります。ただ、思いがけない形で取り上げられていたりすることもあってびっくりしたこともありました。
例を挙げると、
①若年者に対するマンモグラフィは、有用性が証明されていないのでお勧めできないという内容のことを書いたら、2ちゃんねるの中で引用されていました。これは、ある映画の主人公になった女性を誹謗中傷する内容を書き込んでいるスレッドだったので、非常に不本意でした。
②やはり2ちゃんねるのある保険会社関連のスレッドで、私のブログの内容が間違った形(誤解を受けるような)で引用されていました。
③あるブロガー(乳がんは早期発見も早期治療も必要ないと主張している…)が自分のブログに私のブログのURLを貼り付け、内容に対して具体的になんの反論もなしに、否定した結論だけを書いていました。
④あるブログの中でここのブログが紹介されていて、「ブロガーは乳腺外科医らしいがなぜ本名を名乗らないのか?」「このような主張をするならどうしてM.K先生(がんと闘うなと主張している高名なDr)の主張に言及しないのか?」というような内容が書かれていました。
③に関しては実は今まで何度も所属施設と本名をプロフィールに書こうかと思ったことがあったのですが、決断ができずに今に至ります。本名を名乗らないのはいろいろ理由がありますが、一番は患者さんの個人情報保護のためです。ブログの中で自分の患者さんのことに触れることがありますので、特定されてしまう危険性があります。また、そのことで書く内容に制限を加えなければならないのもストレスです。それと名乗るほどの者ではない、というのも大きな理由です(笑)。
M.K先生の件については、この方が主張している意味がよくわかりません。必要に応じてブログに個人名を出すことはあるかもしれませんが、極力イニシャル(病院名も)程度にとどめるようにしています。私は誰かを個人的に批判したり、議論をすることが目的でこのブログを書いているわけではないからです。自分の経験や知識をもとに自分の乳腺疾患に対する思いを書いてみたり、最新情報の中で興味ある内容をご紹介することで、自分の考えを表現し、共感できる方々に伝えられれば、というのが主旨なのです。
ネットの情報は早いのでとても便利ですが、こちらの思いと違う内容で取り上げられることもありますのでちょっと怖くなりました。
見て下さった方がご自分のブログなどで好意的に紹介してくださっているのを見つけるととてもうれしくなります。ただ、思いがけない形で取り上げられていたりすることもあってびっくりしたこともありました。
例を挙げると、
①若年者に対するマンモグラフィは、有用性が証明されていないのでお勧めできないという内容のことを書いたら、2ちゃんねるの中で引用されていました。これは、ある映画の主人公になった女性を誹謗中傷する内容を書き込んでいるスレッドだったので、非常に不本意でした。
②やはり2ちゃんねるのある保険会社関連のスレッドで、私のブログの内容が間違った形(誤解を受けるような)で引用されていました。
③あるブロガー(乳がんは早期発見も早期治療も必要ないと主張している…)が自分のブログに私のブログのURLを貼り付け、内容に対して具体的になんの反論もなしに、否定した結論だけを書いていました。
④あるブログの中でここのブログが紹介されていて、「ブロガーは乳腺外科医らしいがなぜ本名を名乗らないのか?」「このような主張をするならどうしてM.K先生(がんと闘うなと主張している高名なDr)の主張に言及しないのか?」というような内容が書かれていました。
③に関しては実は今まで何度も所属施設と本名をプロフィールに書こうかと思ったことがあったのですが、決断ができずに今に至ります。本名を名乗らないのはいろいろ理由がありますが、一番は患者さんの個人情報保護のためです。ブログの中で自分の患者さんのことに触れることがありますので、特定されてしまう危険性があります。また、そのことで書く内容に制限を加えなければならないのもストレスです。それと名乗るほどの者ではない、というのも大きな理由です(笑)。
M.K先生の件については、この方が主張している意味がよくわかりません。必要に応じてブログに個人名を出すことはあるかもしれませんが、極力イニシャル(病院名も)程度にとどめるようにしています。私は誰かを個人的に批判したり、議論をすることが目的でこのブログを書いているわけではないからです。自分の経験や知識をもとに自分の乳腺疾患に対する思いを書いてみたり、最新情報の中で興味ある内容をご紹介することで、自分の考えを表現し、共感できる方々に伝えられれば、というのが主旨なのです。
ネットの情報は早いのでとても便利ですが、こちらの思いと違う内容で取り上げられることもありますのでちょっと怖くなりました。
2010年12月22日水曜日
FDAがアバスチンの乳がん適応申請を却下(続報)
以前ここでも書きましたが、2010.7にFDAの抗悪性腫瘍薬諮問委員会が進行性乳がんに対するアバスチンの承認を審議し、12対1で取り消しを可決した(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/search/label/乳癌の治療最新情報)のを受けて、今回最終的なFDAの方針が発表されました。
これによるとFDAはアバスチンについて、乳がん治療薬としての適応症を除外する方針を決めたとのことです。欧州でも乳がんに対しての処方選択肢が縮小(パクリタキセルとの併用のみ可)されるそうです。
いずれも治験で有意な延命効果や安全性を確立できなかったためですが、ロシュは米国での乳がん適応の取り下げには応じないようです。日本でも中外製薬が乳がんの効能追加を申請中ですが、今後の認可はどうなるのでしょうか?先日製薬会社に確認したところによると、今のところは承認申請の取り下げも却下もないようです。
再発乳癌に対する新しい薬は喉から手が出るほど欲しいですが、非常に高価ですし、消化管穿孔などの重篤な副作用もある薬剤ですので、効果が十分に上回らなければ認可すべきではないと私は考えています。
これによるとFDAはアバスチンについて、乳がん治療薬としての適応症を除外する方針を決めたとのことです。欧州でも乳がんに対しての処方選択肢が縮小(パクリタキセルとの併用のみ可)されるそうです。
いずれも治験で有意な延命効果や安全性を確立できなかったためですが、ロシュは米国での乳がん適応の取り下げには応じないようです。日本でも中外製薬が乳がんの効能追加を申請中ですが、今後の認可はどうなるのでしょうか?先日製薬会社に確認したところによると、今のところは承認申請の取り下げも却下もないようです。
再発乳癌に対する新しい薬は喉から手が出るほど欲しいですが、非常に高価ですし、消化管穿孔などの重篤な副作用もある薬剤ですので、効果が十分に上回らなければ認可すべきではないと私は考えています。
2010年12月21日火曜日
来年の学会参加予定
もう少しで2010年も終わります。今年の全国学会の参加は、結局6月の乳癌学会と11月の乳癌検診学会の2回だけになってしまいました。院内の規定では、論文を書けば年度内(4月から3月)に3回まで参加できるのですが、このままでは2回のまま終わりそうです。来年の2.11-12に東京で乳癌画像研究会があるのですが参加するかどうか迷っています。
来年度はもう計画を立てています。
1.日本乳癌学会総会 2010.6.30-7.2 仙台
2.乳癌最新情報カンファレンス 2011.8.5-8.6 熊本
3.日本乳癌検診学会 2011.10.21-10.22 岡山
乳癌学会の演題はすでに提出しました。仙台は何度も行っていますが、きれいな街で食べ物もおいしいです。発表もあるのであまり観光はできないと思いますが、行ったことがないところを少しでも見てみたいです。どこがおすすめなんでしょうか?
乳癌最新情報カンファレンスは、前から何度も参加したいと思っていた研究会です。熊本は九州で唯一行ったことがない県なので、楽しみです。できれば演題を持って参加したいと思っています。熊本城は是非見たいですね。馬刺しとからし蓮根も食べたいです!
乳癌検診学会は、たぶんいつも通り技師さんたちのサポートにまわると思います。今回は同じ系列の病院の医師が運営に関わるようなので、演題を多く出すように言われています。春から乳腺外科に参加してくれる女医さんにも発表してもらおうかと考えています。岡山と言えば「ままかり」!前に行ったときは毎食のように食べていました。すっかり病みつきになってしまいましたが札幌ではなかなかお目にかかれません。
こんなことを書くと、学会に遊びに行っているように思われるかもしれませんが、実際は日程がびっちりでほとんど観光の時間はないんです。昼に抜け出して行くのと夜くらいなのでなかなかゆっくりその土地の良いところを見てまわることができないのが残念です。
来年度はもう計画を立てています。
1.日本乳癌学会総会 2010.6.30-7.2 仙台
2.乳癌最新情報カンファレンス 2011.8.5-8.6 熊本
3.日本乳癌検診学会 2011.10.21-10.22 岡山
乳癌学会の演題はすでに提出しました。仙台は何度も行っていますが、きれいな街で食べ物もおいしいです。発表もあるのであまり観光はできないと思いますが、行ったことがないところを少しでも見てみたいです。どこがおすすめなんでしょうか?
乳癌最新情報カンファレンスは、前から何度も参加したいと思っていた研究会です。熊本は九州で唯一行ったことがない県なので、楽しみです。できれば演題を持って参加したいと思っています。熊本城は是非見たいですね。馬刺しとからし蓮根も食べたいです!
乳癌検診学会は、たぶんいつも通り技師さんたちのサポートにまわると思います。今回は同じ系列の病院の医師が運営に関わるようなので、演題を多く出すように言われています。春から乳腺外科に参加してくれる女医さんにも発表してもらおうかと考えています。岡山と言えば「ままかり」!前に行ったときは毎食のように食べていました。すっかり病みつきになってしまいましたが札幌ではなかなかお目にかかれません。
こんなことを書くと、学会に遊びに行っているように思われるかもしれませんが、実際は日程がびっちりでほとんど観光の時間はないんです。昼に抜け出して行くのと夜くらいなのでなかなかゆっくりその土地の良いところを見てまわることができないのが残念です。
2010年12月20日月曜日
細胞診と針生検 その2
(**書き終わってから前にも似たようなことを書いたことに気づきました(汗)。これだけ書いていると何を書いたのかわからなくなります(泣)。とりあえずこのまま続編として残しておきます。)
乳腺腫瘤を診断するために必要なのは、
①視触診
②画像検査(マンモグラフィ、超音波検査、(MRI))
③病理学的検査(細胞診、組織診=針生検・マンモトーム生検・開放生検)
です。
病理学的検査のうち、乳がんの確定診断にもっともよく用いられるのが、細胞診と針生検です。今回はそれぞれの特徴についてお話しします。
<穿刺吸引細胞診(ABCまたはFNAC)>
・22-23Gという細い注射針を腫瘤に穿刺して、注射器で陰圧をかけながら吸引することによって組織から細胞を採取する方法です。
・バラバラになった細胞を見て、元の組織がどういうものだったかを推定する検査法ですので、本来は確定診断ではありません。正診率は95%程度で、時に診断の誤りが起こりえます。十分な経験をもつ医師または細胞検査士でなければ、診断率はさらに下がります。ですから、細胞診単独ではがんの断定はしないほうが無難です。視触診、画像診断、経過と細胞診の結果が一致した時にのみ確定診断とするという慎重な姿勢が大切です。
・診断精度は針生検(組織診)より劣りますが、微小な病変、皮膚や筋肉に近い病変、嚢胞性病変の場合には細胞診のほうが有用であることもあります。また麻酔も必要なく簡単に何度でも行なえる手軽さが特徴です。
<針生検(CNB)>
・14-18Gの専用穿刺針で内筒と外筒の間に組織を切り取って採取する方法です。バネによる自動式のものが主流ですが、すべて手動で行なうタイプもあります。
・基本的には組織診ですのでこれで確定診断になります。しかし、まれに針生検で誤診をするケースもあると言われています。例えば乳腺症型の線維腺腫と硬がんや非浸潤がんなどです。これも画像と組織診が一致しているかどうかをよく検討すれば避けられる誤診ではありますが、実際には病理から”癌です”と組織診の報告が来たら信じてしまいがちです。人間の目で診断するものですから、針生検の診断も100%ではないことを理解しなければいけません。
・診断精度が高いことが特徴ですが、もう一つ、がんの特徴(ホルモンレセプターやHER2など)を知ることができるため、術前化学療法を行なう場合には必須の検査です。
・あまりに微小な病変の場合は命中が困難です(マンモトーム生検なら可能)。また嚢胞性病変の場合には、当たりどころによっては液体しか採取できずに診断不可能な場合があります。皮膚や筋肉に近い場合は距離と角度が取れずにうまく穿刺ができない場合があります。
最近では、細胞診の誤診を避けるために病理医がより慎重に診断する傾向が強くなったためか、明らかながんだと思って穿刺しても「鑑別困難(以前の基準ではClassⅢ)」という判定で帰ってくることが多くなったという話を聞くことあります。結局針生検をしなきゃならなくなるので最初から針生検をするようになった施設が多いようです。もちろん、昨今の術前化学療法の普及のせいもあるとは思いますが…。
ただ、私がG病院で研修していた時に夜遅くまで私たちのために細胞診診断を教えて下さった乳腺細胞診断士の第1人者であるIさんの熱いお話を思い出すと、安易に細胞診という診断方法を捨てたくはないと個人的には思うのです。Iさんからの教えは今でもノートに残っています。今はもうG病院をやめてしまわれましたが、私にとっては懐かしい大切な思い出です。
乳腺腫瘤を診断するために必要なのは、
①視触診
②画像検査(マンモグラフィ、超音波検査、(MRI))
③病理学的検査(細胞診、組織診=針生検・マンモトーム生検・開放生検)
です。
病理学的検査のうち、乳がんの確定診断にもっともよく用いられるのが、細胞診と針生検です。今回はそれぞれの特徴についてお話しします。
<穿刺吸引細胞診(ABCまたはFNAC)>
・22-23Gという細い注射針を腫瘤に穿刺して、注射器で陰圧をかけながら吸引することによって組織から細胞を採取する方法です。
・バラバラになった細胞を見て、元の組織がどういうものだったかを推定する検査法ですので、本来は確定診断ではありません。正診率は95%程度で、時に診断の誤りが起こりえます。十分な経験をもつ医師または細胞検査士でなければ、診断率はさらに下がります。ですから、細胞診単独ではがんの断定はしないほうが無難です。視触診、画像診断、経過と細胞診の結果が一致した時にのみ確定診断とするという慎重な姿勢が大切です。
・診断精度は針生検(組織診)より劣りますが、微小な病変、皮膚や筋肉に近い病変、嚢胞性病変の場合には細胞診のほうが有用であることもあります。また麻酔も必要なく簡単に何度でも行なえる手軽さが特徴です。
<針生検(CNB)>
・14-18Gの専用穿刺針で内筒と外筒の間に組織を切り取って採取する方法です。バネによる自動式のものが主流ですが、すべて手動で行なうタイプもあります。
・基本的には組織診ですのでこれで確定診断になります。しかし、まれに針生検で誤診をするケースもあると言われています。例えば乳腺症型の線維腺腫と硬がんや非浸潤がんなどです。これも画像と組織診が一致しているかどうかをよく検討すれば避けられる誤診ではありますが、実際には病理から”癌です”と組織診の報告が来たら信じてしまいがちです。人間の目で診断するものですから、針生検の診断も100%ではないことを理解しなければいけません。
・診断精度が高いことが特徴ですが、もう一つ、がんの特徴(ホルモンレセプターやHER2など)を知ることができるため、術前化学療法を行なう場合には必須の検査です。
・あまりに微小な病変の場合は命中が困難です(マンモトーム生検なら可能)。また嚢胞性病変の場合には、当たりどころによっては液体しか採取できずに診断不可能な場合があります。皮膚や筋肉に近い場合は距離と角度が取れずにうまく穿刺ができない場合があります。
最近では、細胞診の誤診を避けるために病理医がより慎重に診断する傾向が強くなったためか、明らかながんだと思って穿刺しても「鑑別困難(以前の基準ではClassⅢ)」という判定で帰ってくることが多くなったという話を聞くことあります。結局針生検をしなきゃならなくなるので最初から針生検をするようになった施設が多いようです。もちろん、昨今の術前化学療法の普及のせいもあるとは思いますが…。
ただ、私がG病院で研修していた時に夜遅くまで私たちのために細胞診診断を教えて下さった乳腺細胞診断士の第1人者であるIさんの熱いお話を思い出すと、安易に細胞診という診断方法を捨てたくはないと個人的には思うのです。Iさんからの教えは今でもノートに残っています。今はもうG病院をやめてしまわれましたが、私にとっては懐かしい大切な思い出です。
2010年12月19日日曜日
乳腺認定医と専門医について
乳腺疾患に携わる医師の認定資格の中で、もっとも基本になるのが、乳癌学会で定めている、乳腺認定医・専門医です。
その医師に乳腺診療の経験や知識がどのくらいあるのかは一般の患者さんにはなかなかわかりません。この資格制度はその一つの目安になるものです。以下に簡単にその受験資格を示します。試験は筆記と口頭試問で行なわれます。
<乳腺認定医>
・基本的領域診療科(外科など)の認定医または専門医であること
・継続4年以上学会会員であること
・臨床研修医終了後、学会が認定した認定施設(関連施設)において所定の修練カリキュラムにしたがい通算2年以上の修練を行っていること
・40例の乳癌症例の診療実績があること
・乳腺疾患に関する業績を有すること
<乳腺専門医>
・乳癌学会認定医であること
・継続5年以上学会会員であること
・臨床研修医終了後、認定施設(関連施設を含む)において所定の修練カリキュラムにしたがい通算5年以上の修練を行っていること
・100例の乳癌症例の診療実績があること
・学会発表、論文発表業績が基準を満たすこと
これらはその医師の一定の評価にはなります。しかし、専門医を持っていれば手術が上手というわけではありません。また、この受験資格と試験では、その医師の人間性までは評価されません。ある程度の期間、認定施設で乳腺診療を行ない、ガイドライン中心に勉強しておけば、試験にはだいたい受かるのです。
結局、患者さんが納得いく医療を受けられるかどうかは、医師の知識と技量だけではなく、相性も含めた人間性が重要だと思います。しかし、これを評価するのはなかなか困難です。その病院で治療を受けた患者さんから直接話を聞くのが一番ですが、患者さんにもいろいろいらっしゃいますので、その患者さんにとっては良い医師でも、ご本人にとっては相性が悪いということもあります。結局直接会ってみないとわからないのが実情です。
なお、最近は様々な病院ランキングの本が出ていますが、これは参考程度にしておいたほうが良いです。もちろんここに出ている有名な乳腺外科医のほとんどは国内有数の実力を持つ医師です。しかしこういう本に出ていなくても、十分な実力を有する乳腺外科医もいますし、名前が出ているのに首を傾げたくなる医師も中にはいます。論文やマスコミで有名な医師が本当の名医とは限りません。患者さんの訴えに耳を貸さず、十分な説明もせずに上から目線で一方的に話をするような医師はどんなに有名であっても信頼に値しません。
その医師に乳腺診療の経験や知識がどのくらいあるのかは一般の患者さんにはなかなかわかりません。この資格制度はその一つの目安になるものです。以下に簡単にその受験資格を示します。試験は筆記と口頭試問で行なわれます。
<乳腺認定医>
・基本的領域診療科(外科など)の認定医または専門医であること
・継続4年以上学会会員であること
・臨床研修医終了後、学会が認定した認定施設(関連施設)において所定の修練カリキュラムにしたがい通算2年以上の修練を行っていること
・40例の乳癌症例の診療実績があること
・乳腺疾患に関する業績を有すること
<乳腺専門医>
・乳癌学会認定医であること
・継続5年以上学会会員であること
・臨床研修医終了後、認定施設(関連施設を含む)において所定の修練カリキュラムにしたがい通算5年以上の修練を行っていること
・100例の乳癌症例の診療実績があること
・学会発表、論文発表業績が基準を満たすこと
これらはその医師の一定の評価にはなります。しかし、専門医を持っていれば手術が上手というわけではありません。また、この受験資格と試験では、その医師の人間性までは評価されません。ある程度の期間、認定施設で乳腺診療を行ない、ガイドライン中心に勉強しておけば、試験にはだいたい受かるのです。
結局、患者さんが納得いく医療を受けられるかどうかは、医師の知識と技量だけではなく、相性も含めた人間性が重要だと思います。しかし、これを評価するのはなかなか困難です。その病院で治療を受けた患者さんから直接話を聞くのが一番ですが、患者さんにもいろいろいらっしゃいますので、その患者さんにとっては良い医師でも、ご本人にとっては相性が悪いということもあります。結局直接会ってみないとわからないのが実情です。
なお、最近は様々な病院ランキングの本が出ていますが、これは参考程度にしておいたほうが良いです。もちろんここに出ている有名な乳腺外科医のほとんどは国内有数の実力を持つ医師です。しかしこういう本に出ていなくても、十分な実力を有する乳腺外科医もいますし、名前が出ているのに首を傾げたくなる医師も中にはいます。論文やマスコミで有名な医師が本当の名医とは限りません。患者さんの訴えに耳を貸さず、十分な説明もせずに上から目線で一方的に話をするような医師はどんなに有名であっても信頼に値しません。
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