あまり聞き慣れない言葉ですが、化学療法を行なったあとで起きる認知障害(慢性的な記憶力および注意力の障害)を”ケモブレイン(chemo brain)”と言います。全脳照射後の晩期後遺症としての認知障害については有名ですが、化学療法後の認知障害についてはあまり日常診療で意識させられることはありません。ケモブレインには、脳の代謝および血流の変化が関わっていると言われています(「Breast Cancer Research and Treatment」オンライン版2006年10月5日号)。他にも今までもさまざまな基礎および臨床の研究、報告がされてきました。特に乳がん患者さんに多いと言われているそうで、化学療法を受けた乳がん患者さんの25~80%が後に記憶障害を訴えているという報告もあります。
今回、オランダ癌研究所/Antoni van Leeuwenhoek病院(アムステルダム)のSanne Schagen氏が発表した、乳がん化学療法後のケモブレインの長期観察結果の内容は以下の通りです。
対象:1976~1995年(平均21年前)に化学療法(CMF療法=シクロホスファミド+メソトレキセート+5-FU)を受けた乳がん患者196人(50~80歳)
方法:記憶力、処理速度およびその他の思考(認知)能力を調査
結果:単語を思い出す能力、情報処理速度、思考と手の運動の協調(板に釘を打つなど)のスコアが、化学療法を受けていない女性に比べて低かった(およそ6歳の加齢による精神機能低下に相当)。
今回の研究は、あくまでもCMF療法を受けた患者さんのもので、現在行なわれている標準的な化学療法が同じ結果をもたらすわけではありません。またこの後ろ向き研究1つが導き出した結果が真実とも断定できません。さらに言うとこの化学療法を受けたことによる恩恵で平均21年以上生きることができた患者さんがこの196人の中にいることも事実ですので一概にこの副作用があるために化学療法が悪いとも言えません。ここはきちんと理解しておく必要があります。過剰に副作用を恐れたり抗がん剤を悪者扱いするのではなく、このような晩期障害が起こりうる可能性を医師側も患者さん側も認識し、そのリスクをできるだけ軽減する努力を行なっていくことがもっとも大切なのではないかと私は考えます。
2 件のコメント:
こんにちは
いつも先生のブログを楽しみに読ませて頂いています。
私は、6月に手術、8月よりTC療法、放射線治療後、現在は ホルモン療法中です。
放射線治療中の12月に集中して起きたことなんですが、仕事で簡単な同じミスを何度もしたり、大きな商業施設で店内図を見ているのに目的地にたどり着けない。
同じ日に3回もバスを乗り間違えるなど 今までの自分では ありえないことが重なり、「これから自分は どうなっていくのだろう」って不安になったことがありました。
いろんな治療をしていると何の影響かわからないです。
でも今は、普通に戻りましたし、とても元気です。いろいろ悩みましたが治療に前向きに取り組めて良かったと思っています。
>たかママさん
コメントありがとうございます。
ケモブレインは、治療後早い時期からみられることが多いようです。そのうちの一部はおそらく回復するのだと思いますが、今回の報告は20年以上にわたってその影響が残っている人がいるということなのだと思います。
たかママさんも一時的なケモブレインだったのかもしれませんね。でも回復して治療に対しても前向きに捉えることができて本当によかったです!
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