2012年7月6日金曜日

中間期乳がんと自己検診

乳癌学会から帰ってからもずっと会議などで忙しく過ごしていました。乳癌学会の地方会の締め切りが近いのは知っていましたが、今日の昼までだということを今日の午後にG先生から聞きました(汗)幸い締め切りが延長になったため、先ほど抄録の登録が無事終了しました。

今回のテーマは全国学会での発表と少し関連づけて「中間期乳がん」についての検討にしてみました。

中間期乳がんというのは、乳がん検診を受けてから次の検診(2年後)までの間に自覚症状が出現して発見された乳がんのことです。検診を受けていた患者さんにとってはもちろんショックですし、「検診を受けていたのにどうして?」と思われる方も多いと思いますが、私たち検診に携わる者にとってもショックなものです。

中間期乳がんの原因はいくつか考えられます。

①検診時の見落とし→あってはならないことではあるのですが、マンモグラフィの判断は時に難しく、がんと判明してからマンモグラフィを見直して比較すれば指摘できるという場合もありますので、単純にミスとも言えない場合もあります。

②blind areaに発生した乳がん→マンモグラフィで撮影される部分は乳腺組織の全てではありません。どうしても一部は撮影範囲外になってしまいます(とくに乳房内側の上部)。これをblind areaと言います。ここにできた小さながんはマンモグラフィでも触診でも指摘できない可能性があります。私は検診時の触診の際は、特にこのblind areaを丹念に触るようにしています。

③薄い乳腺の部位(内側上部など)や非常に浅い部分にできた触知しやすい乳がん→検診時には指摘できるような大きさではなかったとしても、自己検診をきちんとしていると途中でこのような場所にできた小さな癌を発見できる場合があります。

④非常に増殖スピードが速いタイプのがん→これは2年に1回のマンモグラフィ検診では早期発見が難しいがんです。これを拾い上げるためには検診間隔を狭めるか、他の検査手段(超音波検査やMRなど)を併用するしかありませんが、大規模に行なう検診としては費用などの面からも難しい点があります。現時点ではある意味、やむを得ないタイプのがんです。


①はマンモグラフィ読影技量の向上によって減少させることができる可能性があり、②と③は定期的な自己検診によって大事に至る大きさになる前に発見できる可能性があります。問題は④ですが、これは現在の検診制度の限界でもあり、一定の確率で起きうることであります。今後の新たな検診手段の開発に期待するしかありません。

いずれにしてもどんなに私たちが技量を上げたとしても一定の確率で中間期乳がんは発生します。検診は100%の保障ができるものではありませんので、「検診を受けたから2年間は安心」だと思い込まないでください。乳がん検診の時に必ず言われるように、「自己検診も重要」なのです。

9 件のコメント:

まるる さんのコメント...

難しいことをわかりやすく教えてくださり、いつも感謝しています。
 私もずっと疑問に感じていました。
 昔、若い友人をがんで亡くして以来、毎年マンモで確認してもらっていました。自己検診は、たまに、という感じでしたが。
 2012年3月に自分で発見しました。前年2011年3月17日に検診で、異常なし、と言われていたのですが、手術時1.2㎝でした。
がんは1㎝になるのに9年かかるとか。去年も既に存在していたのでは?とも思います。
 もう少しちゃんと見てくださっていたら?と思うこともありました。ただ、エリアが悪かったのだな、と思っていましたが、やはりそうなのですね。触診もあったのですけれど。
 過ぎたことは仕方がないと思いつつ、1年前に見つかっていたら、と思うことも正直あります。
 1年に1回検診を受けているから大丈夫、と自己検診をしっかりやっていなかった自己責任ですね。
いろいろ考えさせられてしまいました。

まるる さんのコメント...

ごめんなさい。
年を間違えました。2011年3月に発見、4月手術で、その前の最後の検診が2010年3月でした。
もう、1年以上たったなんて信じられませんが、そうでした。
すみません。

hidechin さんのコメント...

>まるるさん
こんばんは。
まるるさんの場合は場所もあるかもしれませんが1.2cmなら、よく見つけたという大きさだと思って良いと思います。
また、よく勘違いされている方がいらっしゃいますが、たしかに1個のがん細胞ができてから発見されるまでは5年から10年たっていると言われていますが、発見できる大きさとは別の次元の話です。1年前の検診時に発見できる大きさだったかどうかは発見時に1.2cmであればわかりません(例えば5cmなら多分見逃しだと思いますが…)。例えば1年前に2㎜だったとしてもマンモグラフィでも超音波検査でももちろん触診でも発見は不可能なのです。ご理解いただけましたか?

まるる さんのコメント...

そうなんですか・・・。
心の中のもやもやが落ち着きました。
これからも拝読させていただきます。
ありがとうございました。

hidechin さんのコメント...

>まるるさん
過去を振り返って後悔したりすることは、まるるさんにとってなんのプラスにもなりません。前向きに明るく楽しく過ごすことを考えましょう。
それではお大事に!

Fujika さんのコメント...

はじめまして。興味深く読ませて頂いております。
私も検診で一度見逃されてしまったパターンでした。
下記のような経過だったのですが、マンモグラフィで乳癌疑いとなっても、超音波検査では、(読影するドクターにより?)良性のものと判断されることもあるのでしょうか?

マンモの結果怪しい場合はきっと針を刺す検査をするのだろうと思っていたので、三ヶ月間経過観察というのは意外に思いました。

なお結果的には大好きなドクターにも巡り会え、転移もなかったこともあり、つくづくラッキーだったなあ、と楽しく暮らしております。


■2005年頃からしこりがあるとの自覚あり
■A病院
2009年8月 乳癌検診。
マンモ:異常なし(ただし高濃度乳腺)。
触診等:異常なし
2012年1月 乳癌検診
マンモ:乳癌疑い。要再検査。(A医師からtelまで頂いた)
乳房診:乳腺腫瘤。要再検査。(B医師)
2012年1月 再検査 
超音波検査(C医師)の結果、三ヶ月後に再度超音波を行う。

(A病院では針を刺す検査がなかったのでやや不信感を抱き、また距離が近いこともあって別のクリニックを受診)

■Bクリニック
2012年4月:超音波検査。針を刺してみましょうとのこと。(D医師)
2012年4月:細胞診。
癌細胞がみつかったので、大きい病院へ紹介して頂く。

■C病院
2012年5月:針生検
2012年6月:部分切除手術
サイズ2.2x1.8x1.2cm。
リンパ節転移なし。
(ER+ PgR+ Her2- MIB17%)

hidechin さんのコメント...

>Fujitaさん
はじめまして。
Fujitaさんの場合は、検診で精査となり、その流れで乳がんと診断されていますので中間期乳がん(検診で異常なしと判断されて次の検診までに発見される乳がん)ではありません。Fujitaさんの慎重な判断で診断の大きな遅れを防げたというケースだと思います。幸いなことに転移がなかったとのことで安心いたしました。
良い医師に巡り会えたのも良かったですね。それではお大事に!

Fujika さんのコメント...

こんにちは。
初めてなのに長々しい書き込みに、丁寧にお返事頂きましてありがとうございます。
乳癌の診断は難しいようですね。
自覚症状あり(しこり等)の状態で検診で見逃し、というパターンも結構沢山あるのでしょうか。

ピンクリボン運動は次第に認知されてきていますが、乳癌検診(マンモグラフィ)の診断精度は完全ではない、という認識も同時に広まるといいなあ、と思っています。

hidechin さんのコメント...

>Fujikaさん(前回はスペルを見間違えてすみません)
しこりを自覚して受診して見逃す(診断を誤る)ことは多いことではありません。むしろ稀なことです。ただ、浸潤性小葉がんの場合はしこりが大きくても画像でわかりにくい場合がありますので注意が必要な組織型です。また非浸潤がんでしこりを作っている場合も細胞診や画像で証明できにくいことはまれにあります。

ちなみに「しこりを自覚して乳がん検診を受ける」というのは正しくありません(ときどきいらっしゃいますが…)。本来検診は「自覚症状がない人」が受けるものなのです。自覚症状がある場合は、最初から乳腺専門医のいる医療機関に受診するほうが良かったとは思います。マンモグラフィが高濃度乳腺で触診で乳腺が硬い場合は検診では診断が難しい可能性があります。このようなケースは超音波検査が有用ですが、検診では組み込まれていません。ですから検診ではなく、乳腺外来を受診すべきなのです。おわかりいただけましたか?
もちろん今の検診が完璧ではないのはおっしゃる通りですので、自己検診の指導や自覚症状出現時の早期受診の指導なども必要ですし、より精度の高い検診方法の探究も必要だと思っています。
それではお大事に!