2012年12月17日月曜日

タモキシフェン長期投与の新しい知見

このブログを読んで下さっている読者の方々から時々あるご質問にタモキシフェン(TAM)の投与期間に関するものがあります。これまでの標準的な考え方は、TAM2年投与より5年投与の方が成績は良く、5年以上投与では5年投与に比べると上乗せ効果に乏しく(NSABP B-14、Scottish adjuvant tamoxifen)、子宮体がんなどの有害事象が増加するため、乳癌診療ガイドラインにおいても投与期間は5年間が推奨されるというものでしたので私もそれに基づいてお答えしてきました。

ただその一方で5年以上投与の有用性を報告した論文もありました(Eastern Cooperative Oncology Group)。また、TAM 5年以上投与が否定された上記の比較試験は、症例数が十分でなかったり、ホルモンレセプター(HR)が陽性ではない症例も含まれていたりという問題点がありました。そこでHR陽性症例に限定したATLASとaTTomという2つのTAM長期投与の有用性を評価する大規模比較試験が行なわれてきたのです。

今日見えたAZ社のMRさんが、今年のサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表されたATLASの結果と論文を持ってきてくれました。この結果によると、6846人を対象とした平均8年間の比較で、再発率、乳がん死亡率ともに5年投与に比べて10年投与の方が有意に低下していたそうです(特に投与開始後10年以上たってから有意差が出た)。心配された子宮体がんと血栓症による死亡率の絶対値の増加は5年投与に比べて0.2%に留まり、乳がん死亡率の減少効果(同3%)に比べるとはるかに少ないということです。この結果をEBCTCGのmeta-analysis(TAM 非投与 vs TAM 5年投与)と組み合わせると、TAMを10年投与した場合のTAM非投与に比べた投与開始後15年時点での乳がん死亡率の減少(12%)は、子宮体がん、血栓症による死亡率の増加(0.4%)の30倍と推定されるという結果でした。

簡単にまとめると、ホルモンレセプター陽性乳がんに対するTAMの投与期間を5年と10年とで比べると、子宮体がんなどによる死亡率はわずかに増加するが、乳がん死亡率の減少効果ははるかにそのリスクを上回るということです。

aTTom(以前の中間報告ではATLASほどの有益性は出ていなかったようですが…)の最終報告が出るのは来年のようです。おそらく来年のSt.Gallen 2013ではまだこの結果が反映されることはないと思いますが、その次のSt.Gallen 2015ではもしかしたらTAMの投与期間は10年が推奨されることになるかもしれません。ただ閉経期・閉経後の患者さんではTAM 5年→アロマターゼ阻害剤(AI) 5年、またはAI 10年が推奨される可能性もありますので、閉経前の患者さんやAIが使用できない患者さんが主な対象になるのかもしれませんね。古いけれど安くて良い薬剤としてタモキシフェンが見直される時期が来るのかもしれません。

6 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

まっていました!長期投与のデータ。
やはり、タモキシンフェンだけでなく、アロマターゼ阻害剤も可能性ありとか。もう少し飲むことにします。 リンダ

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(リンダさん)
こんばんは。
まだ一つの臨床試験の結果だけですので、今後の標準治療への応用はもう少し時間が必要だと思います。閉経状況や再発リスクによっても投与期間や薬剤の種類(TAMかAIか)が変わる時代が来るのかもしれませんね。

匿名 さんのコメント...

Hidechin先生、こんにちは。
以前にも何回か質問させていただいたものです。今回もよろしくお願いいたします。

私はちょうど一年前からタスオミンを服用し始めました。たぶんそれくらいからなのですが、生理時の下腹部痛が以前より酷くなり、3日くらい続きます。以前は痛みがあっても1日だけでした。更に胃痛もあります。これは4日くらい続きます。食事が取れないということはありませんが。ネットで調べたところ、生理時には胃痛が起こることもあるようなのですが、タスオミンを服用しだしてからここまで痛みが酷くなったような気がしたため、何か関係があるのかお聞きしたい次第です。
よろしくお願いいたします。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
こんばんは。タスオミン服用後に起きた症状なのであれば関係がある可能性は十分あると思います。それを証明することはできませんが…。
ただ、だからやめた方が良いかどうかは別問題です。きちんと婦人科に受診した上で乳腺外科の主治医の先生とよくご相談なさって下さい。
それではお大事に。

匿名 さんのコメント...

こんにちは。私は術後8年経過しました。抗がん剤は行わずホルモン治療をしました。年齢が当時は38才だったこともあり,再発が不安で、タスオミン6年、リュープリン5年間の少し長い治療をしました。しかし、いつまでも続けるわけにもいかず2年前に思い切って終了。今後は10年間という治療が推奨されるかもしれないとのこと。まだ閉経にはならないと思うので、一旦終了したタスオミンを また再開することもありなのでしょうか?

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
この報告が出たからと言って現段階で10年投与が標準治療と認知されたわけではありません。先日のSt.Gallen2013でもすべての患者に10年投与すべきかどうかの質問に対しては意見が割れていたようです。
さらに匿名さんの場合は2年の中断を経ていますのでそのあとで再開することの有益性はまったく証明されていません。
以上を考えると、これからタスオミンを再開することでmeritが得られるかどうかはわかりません。そのことを踏まえて主治医の先生とよくご相談下さい。