2013年7月1日月曜日

乳癌の治療最新情報36  ペルツズマブ承認!

乳癌の治療最新情報28(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2011/12/28.html)でご紹介してから1年半もたってしまいましたが、ようやく抗HER2ヒト化モノクローナル抗体ペルツズマブ(商品名 パージェタ®)が承認されました!

HER2陽性乳がんに対する分子標的薬は、トラスツズマブ(ハーセプチン®)、ラパチニブ(タイケルブ®)に続いて3剤目になります。

この薬剤が承認される元になった主な臨床試験は、多国籍無作為化プラセボ対照二重盲検第Ⅲ相臨床試験であるCLEOPATRA試験です。この試験の概要を以下に示します。

対象: HER2陽性転移性乳がん
方法: パージェタ®にトラスツズマブ(ハーセプチン®)およびドセタキセルを併用した群(「パージェタ®」併用群)と、プラセボにトラスツズマブおよびドセタキセルを併用した群(対照群)の比較試験。
結果: 「パージェタ®」併用群では、病勢進行または死亡(無増悪生存期間:PFS)リスクが38%減少し(ハザード比0.62;p<0.0001)、PFS中央値は対照群の12.4カ月に対し「パージェタ®」併用群では18.5カ月と、6.1カ月の延長が認められた。また、全生存期間(OS)については「パージェタ®」併用群の死亡リスクが対照群に対して統計学的に有意に34%減少した(ハザード比0.66、p=0.0008)。
有害事象はトラスツズマブおよびドセタキセルでこれまでに報告されたものと同様であり、「パージェタ®」を併用することにより有害事象の顕著な増加は認められなかった。

パージェタ®はトラスツズマブ(ハーセプチン®)とは異なる機序(HER2の二量体化というものを阻害します)で作用するモノクローナル抗体です。ハーセプチン®の作用を補完すると言われていますので併用によって作用が増強すると考えられています。

実際の薬価収載、発売にはもう少しかかると思います。添付文書を読まないとまだわかりませんが、問題はこの薬剤が「ハーセプチン®+ドセタキセルとの併用」のみにしか適応されないのか、「ハーセプチン®+タキサン系抗がん剤との併用」となるのか、「ハーセプチン®+抗がん剤との併用」となるのか、まったくしばりがないのか、ということです。上記の臨床試験に基づくとなればドセタキセルとの併用に限定されてしまうのが最近の傾向です。ただ、術後補助療法や再発治療にすでにドセタキセルを使用してしまっている場合には、このしばりがあるとけっこう使いにくいことになります(タイケルブ®がゼローダ®との併用のしばりがあって使いにくいのと同様に)。全身状態によっては、抗がん剤の併用は避けたい患者さんもいらっしゃいますので、その場合はハーセプチン®+パージェスタ®のみで治療したいところです。できるだけ使いやすい形で保険適応となることを望みます。

*併用薬に関しては以下の”関西の専門医さん”とのコメントのやり取りをご参照下さい(2013.7.3)。

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

学会お疲れ様でした。

パージェタですが、どうやらハーセプチンとはさすがに併用しないといけませんが、併用化学療法の種類についてのシバリはなさそうですよ。

関西の専門医

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(関西の専門医さん)
今日製薬会社の担当者から聞きました。ペルツズマブ+トラスツズマブ+”抗がん剤”という表現のようですね。ただ、注意事項に臨床試験のデータを参照するようにという記載があり、その臨床試験はCLEOPATRA試験のデータのみです。これは微妙な扱いですね。ドセタキセル以外の抗がん剤を使用してはいけないとは書いていないけど、もし他の薬剤との併用で何か問題が生じても添付文書にこのような注意事項が書いてあるので国と製薬会社の責任は問われないようにしているとも解釈できます。
ただ使用する側からすると縛りがない方が使いやすいのは確かですね。

えり さんのコメント...

学会、お疲れさまでした。

パージェタの承認、とても喜ばしいことですね!
承認されたということは、もう、治療薬として使用可能になったということなのですよね?
再発のことは考えたくありませんが、ハーセプチン同様、副作用は少なく済むのでしょうか?

ところで、再発というのは、ガンの性質は初発の時のタイプと同じものなのでしょうか?
全く別のタイプになるということもあるのでしょうか?
ちょっと、ふと思ったもので・・・

hidechin さんのコメント...

>えりさん
こんばんは。
承認はされましたが発売はまだです。おそらく1ヶ月くらいで発売になるのではないかと思っています。
副作用は今のところハーセプチン+ドセタキセルの副作用に上乗せされるような重大なものはないようです。
再発のタイプについてですが、以前もどこかで書きましたが原発巣と再発巣でサブタイプが変化していることは時々見られます。例えば原発巣でER陽性だったのが再発巣で陰性になっていたり、原発巣でHER2が陰性だったのが再発巣で陽性になっていたりなど、私の施設でも経験はあります。ですから場合によっては再発巣の組織学的な検索が必要になることがあるのです。