2014年4月15日火曜日

乳房切除術+腋窩リンパ節郭清後の放射線治療〜”リンパ節転移1-3個でも有効!?”

乳房切除+腋窩リンパ節郭清後に胸壁および所属リンパ節(鎖骨上、胸骨傍)に照射を加えるべきかどうかについては、長い乳がん治療の歴史の中でさまざまな変遷がありました。

かなり昔(私が医師になる前)には、乳がん術後にはかなりの症例に対して放射線治療を行なっていた時代もあったようです。しかし徐々に全例に対して照射をすることに対して疑問を呈する報告が出されるようになり、EBCTCG(Early Breast Cancer Trialist's Group)が発表した1995年のメタアナリシスにおいて、全ての乳がん患者に対して乳房切除+腋窩リンパ節郭清後に放射線治療を加えても局所再発率は低下させても全生存率は改善しないという報告が出されてからは、腋窩郭清後に放射線治療をするケースは稀になってきました。その後の2000年のメタアナリシスにおいても20年生存率には差がないという結果でした。

しかし、これらは”(リンパ節転移がない症例を多く含む)全ての乳がん患者さん”に対して予防的に照射する有益性はないということです。その後リスク別の解析が行なわれ、2001年のASCOにおいて、リンパ節転移4個以上の再発リスクの高い患者さんにおいては放射線治療が推奨され、リンパ節転移が陽性かつ腫瘍径が大きい(5cm以上)患者さんにおいては放射線治療が考慮されるというガイドラインが発表されてからは、これが多くの施設の標準的な考え方になっていました。

さて、ではリンパ節転移が1-3個(腫瘍径を問わず)の場合についてはどうでしょう?やはり照射した方が良いのではないかという意見が最近では多いような印象ですが(乳癌診療ガイドライン2013年度版でも推奨グレードBになっています)、実はまだ完全なコンセンサスが得られていません。今回EBCTCGがこのことに関する新たなメタアナリシスの結果を報告しました(http://pmc.carenet.com/?pmid=24656685&keiro=journal)。

概要は以下の通りです。

目的:リンパ節転移が1~3個と少ない患者における放射線治療の効果について評価する。

対象・方法:オックスフォード大学のEBCTCGによる1964-1986年に行なわれた無作為比較試験22試験に参加した8135例の患者データのメタアナリシス。乳房切除術+腋窩リンパ節郭清後に放射線治療を受けた、または受けなかった患者さんにおける再発または死亡について10年間(または2009年1月1日時点まで)追跡し、参加試験、個々の追跡年、試験開始時年齢、リンパ節の病理所見で層別化して分析。

結果:
①リンパ節転移0個(700例)→放射線療法は局所再発(両者の有意水準[2p]>0.1)、全再発(放射線療法群vs. 非療法群のリスク比[RR]:1.06、95%信頼区間[CI]:0.76~1.48、2p>0.1)、乳がん死亡(同:1.18、0.89~1.55、2p>0.1)に有意な影響を及ぼさなかった。
②リンパ節転移1-3個(1314例)→放射線療法は局所再発(2p<0.00001)、全再発(RR:0.68、95%CI:0.57~0.82、2p=0.00006)、乳がん死亡(同:0.80、0.67~0.95、2p=0.01)を抑制。1314例中1133例が全身治療(シクロホスファミド、メトトレキサート、フルオロウラシルまたはタモキシフェン)を試験中に受けており、これらの症例では局所再発(2p<0.00001)、全再発(RR:0.67、95%CI:0.55~0.82、2p=0.00009)、乳がん死亡(同:0.78、0.64~0.94、2p=0.01)を抑制する効果がより高かった。
③リンパ節転移4個以上(1772例)→放射線療法は局所再発(2p<0.00001)、全再発(RR:0.79、95%CI:0.69~0.90、2p=0.0003)、乳がん死亡(同:0.87、0.77~0.99、2p=0.04)の抑制がみられた。

以上の報告からは、”リンパ節転移が少なくても放射線治療をした方が良い”という結論のように受け取れます。しかし、よく見てみると、今回示された死亡率は、”全死亡率”ではなく”乳がん死亡率”となっています。最初に述べたように、昔よく行なわれていた放射線治療が行なわれなくなった理由は、局所再発率は下げても”全生存率”は変わらなかったからです。2000年のEBCTCGの解析においても20年局所再発率(照射なし30% vs 照射あり10%)とともに乳がん死亡率も低下させてはいましたが、他病死が増加したためにその効果が相殺され全生存率(同36% vs 37%)の改善は見られなかったと報告されています。今回の論文すべてにはまだ目を通してはいませんが(インターネット版のみなので)、乳がん死亡率の低下のみで有益性を判断するのは不十分だと思います。少なくとも今回の検討の対象になっているのはかなり古い時代の患者さんですので他病死の影響は無視できないのではないかと思います。ただ現在の放射線治療は以前に比べると心臓など他臓器への影響は著しく低減しているため、現在の治療とこの報告は同列には考えられません。仮に全生存率で有意差がなかったとしてもあまり参考にならないかもしれません。エビデンスを考える際に、いつの時代の症例を対象にしているのかをよく考えないと謝った判断をしてしまうことがあるので注意が必要です。

結局リンパ節転移が1-3個の場合に放射線治療を行なうかどうかは私はまだ判断を保留にしておきます。

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