2014年12月10日水曜日

アルコール過敏症と発がん

先日、外来に来た患者さんに、”私はアルコール過敏症なんですが、アルコール過敏症の人がお酒を飲むとがんになりやすいと聞きましたが本当でしょうか?”と質問されました。

以前ここでも書いたことがありますが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2010/01/blog-post_06.html)乳がんはアルコール過剰摂取が1つのリスクとされていますし、他に食道がんなどもかなり前から飲酒がリスク因子と言われているのは知っていました。しかしアルコール過敏症の方はすぐに赤くなって酔ってしまうため、飲めない方がほとんどだという認識でしたし、実際そういう質問をされたことはありませんでしたので、そのことについての十分な知識は持ち合わせていませんでした。

しかしその方は、”アルコール過敏症だけど、どうしても毎日の晩酌はしたい”ということでしたので、調べてみることにしました。

アルコールで発がんする原因の1つは、アルコールの代謝産物であるアルデヒドにあると考えられています。乳がんに関してもこれが原因かもしれないと以前に書きましたが、アルコール自体の女性ホルモンに対する影響が原因ではないかと今は考えられているようです。他に肝臓がんもアルコール自体の影響が強いようです。

一方、有害なアルデヒドを分解する酵素活性が生まれつき欠如または低下している人(日本人に約40%いると言われているのでアルコール過敏症の多くはこの可能性があります)の割合を調べた疫学研究では、食道がん(オッズ比 12.50)、頭頸部がん(同 11.14)、胃がん(同 3.49) 、大腸がん(同 3.35)、肺がん(同 8.20)においてこの遺伝子型を持つ人の割合が高かったという報告がされています(Yokoyamaら 1998)。それぞれのがん患者さん全体におけるこの酵素活性の低下がある人の割合は、非がん患者さんにおける割合よりもこれだけ高かったということですので、アルコール代謝産物のアルデヒドを代謝できないことがこれらの発がんに関与していた可能性が高いと推測されるということのようです。

これらの酵素活性が欠如または低下しているかどうかを判断するのは、もちろん血液検査をすることでも調べることはできますが(SRLで「アルデヒドデヒドロゲナーゼ2(ALDH2) 遺伝子多型解析」という検査ができるようです)、
「現在、ビールコップ1杯程度の少量の飲酒ですぐ顔が赤くなる体質がありますか。」
「飲み始めた頃の1-2年間はそういう体質がありましたか。」
の2問のいずれかに「はい」と答えれば2型アルデヒド脱水素酵素が弱いタイプと判定する”フラッシング質問紙法”で約90%の精度で推測することができます。

患者さんに質問されたことでとても勉強になりました!

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