2015年4月15日水曜日

魚油サプリが化学療法の効果を減弱させる可能性

マウスを用いた研究では、魚油に含まれる16:4(n-3)という脂肪酸が、微量でも化学療法剤への抵抗性を惹起するということが以前からわかっていましたが、今回人体においても同様の可能性があることを示す結果をオランダ・Netherlands Cancer InstituteのEmile E. Voest氏らが,JAMA Oncol(2015年4月2日オンライン版 http://oncology.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2212208)で報告しました。

概要は以下の通りです。

対象:
①University Medical Center Utrechtでの積極的がん治療歴があり,2011年11月に同センターの腫瘍外来を受診した患者400例 
②健康なボランティア50例

方法:
①サプリメント使用状況に関する質問票を配布し記入 
②30例に魚油、20例に魚を摂取させて16:4(n-3)脂肪酸の血中濃度を測定。

結果:
①118例(30%)から回答を得た。EPAやDHAといったn-3脂肪酸含有サプリメントを常用していたのは118例中13例(11%)であった。
②まず6銘柄の魚油サプリメントと4種の魚(ニシン,サバ,マグロ,サケ)の16:4(n-3)含有量を測定。サプリメントは6銘柄とも相当量(0.2~5.7μM)の16:4(n-3)脂肪酸を含んでおり,マウスの実験では,シスプラチンに対する抵抗性を惹起するには,1μLの魚油を添加するだけで十分であった。また,4種の魚のうちニシンとサバは,マグロとサケに比べ16:4(n-3)を高度に含有していた。
健康ボランティア30例に魚油を,20例に魚を,それぞれ摂取させ,摂取後の脂肪酸の血中濃度を測定した。その結果,1日推奨摂取量である10mLの魚油を摂取後,16:4(n-3)脂肪酸の血中濃度は著明に上昇し,摂取前値に低下するのに8時間を要した。また,摂取量を50mLに増やした場合,血中濃度の上昇時間も延長された。魚を摂取させた群では,ニシンやサバで血中16:4(n-3)脂肪酸濃度が著明に上昇し,マグロ摂取では影響は見られず,サケでは短時間の弱い上昇を示した。

結論:
がん化学療法を受けた患者へのサプリメント摂取に関する質問票調査と,健康ボランティアを対象とした魚油サプリメントまたは魚摂取試験の結果,魚油サプリメントや特定の魚にはがん化学療法の効果を減じる脂肪酸が含まれており,魚油の摂取後,同脂肪酸の血中濃度の上昇が長時間続くため、化学療法中の魚油摂取が治療に悪影響を与える可能性がある。


がん患者さんは、再発や死に対する不安、治療の副作用に対する不安、西洋医学への不信感、ネットでの情報の氾濫などによって、サプリメントに頼るケースは珍しくありません。患者さんがサプリメントの併用を希望した場合、標準治療に対する併用をいっさい認めない施設もありますが、明らかな有害性が報告されてなければ許可する施設もあります。一般の方々の中には、サプリメントや漢方薬、食餌療法などは副作用もなく、安全であると思われている人も多いと思いますが、今回の報告はそれに警鐘を鳴らすものになりそうです。以前ここでも書きましたが、他にも漢方薬やサプリメントなどの代替療法が副作用をきたす可能性については報告されています。

この論文の著者は、「今回の知見に基づき,さらなるデータが得られるまで,がん患者に対し化学療法開始の前日から終了の翌日まで一時的に魚油摂取を中止することを勧める」と述べています。しかし今回の報告は、あくまでも魚油や魚の摂取後の血中濃度を測定した結果を元にマウスの臨床試験の結果から類推したものに過ぎません。実際に魚油の摂取が化学療法剤の効果(生存率など)に悪影響を与えるかどうかについては、前向きの比較試験を行わなければわかりませんが、当面はこの勧告に従う方が無難かもしれませんね。

2 件のコメント:

ぽち さんのコメント...

hidechin先生こんばんわ!
サプリメントも色々有るんですね…。私は何も飲んでないですが、興味は有るので勉強になります(*^^*)そう言えば、ネットで新薬パルボシクリブと言うのが出てましたがどうなんでしょうか?私は昨年9月に告知、11月手術で今はホルモン治療中ですが、やはり常に再発、転移の心配からは逃れられません(T^T)が、hidechin先生の様に熱心に私たちの事を考えて下さる先生方やお薬の開発の方々がついてるんだ!!!!と、励みになります(*^^*)

hidechin さんのコメント...

>ぽちさん
はじめまして。
palbociclibに関しては、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2015/02/38palbociclib.htmlをご参照下さい。
まだ実臨床では使用することはできませんが、今後に期待したい薬剤の一つだと思います。