2010年10月13日水曜日

今度の日曜はJ.M.Sですが…

10/17の第3日曜日は以前にもご紹介したようにジャパン・マンモグラフィ・サンデーです(http://www.j-posh.com/jms.htm)。

平日は仕事や家事でなかなか乳がん検診を受けられない女性のために、日曜日に乳がん検診を受けれるようにしようとJ.POSHが始めた運動です。私たちの病院も昨年から賛同施設となっています。

しかしもうあとわずかに迫っているのですが、なかなか申し込みがありません…。

もともと私たちの病院ではこの日は地域の方々のための検診日になっていて乳がん検診も一緒に行なっています。こちらの申し込みはいつも通りあるのですが、J.M.Sとしての新たな乳がん検診の申し込みが増えないのです。J.POSHのHPには賛同施設として病院名が掲載されているのですが、情報提供不足なんでしょうか?健診課では、病院のHPにも掲載してアピールを始めたそうです(おそ過ぎ!)。ちなみに昨年、札幌の他の病院(私たちの病院より規模が大きい)の乳腺外科医(大学の友人です)も「せっかく日曜に体制を取ったのにほとんど申し込みがない…」と嘆いていました。

せっかくの試みなのに一般市民に伝わらなくては意味がありません。メディアを使った宣伝をもっとしておけば良かったです…。せっかくこの前、某テレビ局の方とお知り合いになって名刺もいただいたので来年は取り上げてもらえるようにお願いしてみます!

2010年10月10日日曜日

乳がん患者のパートナーとうつ病

乳がん患者のパートナーはうつ病のリスクが高いという報告がデンマークの大規模研究で示されました。

今回の研究は、1994~2006年にデンマークに在住し、乳がんを発症した女性パートナー(妻または同居するガールフレンド)をもつ男性2万538人を追跡したものです。教育レベルなどの因子による誤差のないよう統計値を調整して検討した結果、このような男性は他の男性に比べ、うつ病や不安などの気分障害で入院する比率が39%高いことが判明しました。

突然の乳がんの診断、そして病状が深刻になった場合はなおさら、本人だけではなく、パートナーにも精神的に大きな負担がかかるのは容易に想像できます。今回の報告はそれを具体的な数字で示しています。

私自身の経験でも、術後に切除標本をご主人に見せたら倒れてしまったとか、ご本人は落ち着いて話を聞いているのに「先生、絶対死なないって約束して下さい!」と泣きながら訴えるご主人、十分に説明してご本人は理解しているのに温存術後に断端陽性で再手術が必要とわかった途端、激しく動揺して怒り出してしまったご主人、などご本人以上にパートナーにとっても精神的なダメージが大きいと感じることはよくあります。もちろん表面に出さないケースのほうが圧倒的に多いはずです。こちらのほうが私たちとしてもフォローが十分にできない可能性がありますので注意が必要です。

毎年夏に行なっているWith You Hokkaidoですが、患者さんだけではなくご家族も対象になっているのですが、ご夫婦で参加されているケースは稀です。仕事で忙しいこともあるでしょうが、パートナーに対するフォローは十分に行なえていないのが現状です。なんらかの手だてを考えなければならないと今回の報告を見て感じました。

2010年10月9日土曜日

ホルモンレセプターの陰性化

初回手術時の原発巣のホルモンレセプターが陽性であっても再発巣のホルモンレセプターが陽性とは限らない、というのが今回の乳癌学会地方会での発表内容です。これは最近、世界的にも注目され、同様の報告が発表されています。

今回調べた当院の症例では、約30%の患者さんでホルモンレセプターの陰性化が見られました。もし、再発巣の組織検査をしていなければ、ホルモンレセプター陽性の再発としてホルモン療法が選択されていたはずです。というのは、現在の再発治療の考え方の基本は、Hortbagyiのアルゴリズムというものに沿って行なうことが多いからです。このアルゴリズムでは、ホルモンレセプター陽性乳癌の再発は、生命の危機がないものに対してはホルモン療法から始めることを推奨しているのです。

なぜホルモンレセプターの陰性化が起きるのでしょうか?

実はまだよくわかっていません。

前回の乳癌学会総会では、原発巣と同時に切除した腋窩リンパ節転移巣でもすでに5-10%でホルモンレセプターの陰性化が起きていることを報告しました。この時の検討では、原発巣のホルモンレセプター陽性細胞率が低い症例(弱陽性)で陰性化が起きやすいことがわかりました。これはおそらくモザイク状に存在している原発巣のホルモンレセプター陰性細胞の割合が高い方が転移しやすいという確率の問題だと推測されました。

しかし今回の検討では、ホルモンレセプター陽性細胞率が高い症例(強陽性)においても陰性化が見られており、しかも再発巣の陰性化率が同時に切除された腋窩リンパ節転移巣よりはるかに高いということから、単に確率の問題だけではなく、術後に行なった補助療法の影響があるのではないかと考えられました。

検討した範囲内でわかったことは、術後に化学療法を行なっていた症例と閉経後の症例で陰性化が起きやすいということです。推測ですが、これらの結果から2つの機序が考えられます。

①術後ホルモン療法の効果によるホルモンレセプター陽性細胞の消失(ホルモン療法によってモザイク状に存在していた再発組織の中の陽性細胞だけが消失し、陰性の細胞だけが残った)
→閉経後で陰性化症例が多かったのは、閉経前より閉経後の方がホルモン療法の効果が大きかったからではないのか?ということから推測。

②術後化学療法で生き残ったホルモンレセプター陽性細胞が、生き残る過程で陰性化した
→化学療法施行例で陰性化が起きやすかった事実より推測。

発表の概要はこんな感じです。

言いたかったのは、原発巣と再発巣では、ホルモンレセプターの状態が同じとは限らないということです。再発巣の組織を容易に確認できる場合には確認してから治療方針を決める方が良い、確認できない場合には、特に化学療法施行例、閉経後症例では、ホルモンレセプターの陰性化を念頭において、一次ホルモン療法の効きが悪い場合には早めに化学療法への変更を検討した方が良いというのが結論です。

今回はちょっと難解でしたね(汗)。

2010年10月6日水曜日

乳がん患者さん向けの書籍のご案内


先日アンケートに答えたところ、出版社から「乳がん 最新治療法と乳がんと一緒に生きるあなたへ」(定価 2000円 イカロス出版)という本が送られてきました(写真)。

まだ十分に目を通してはいませんが、乳がんの最新情報も含めて、患者さんにとって必要な情報が見やすくまとめてあります。主な内容を書いてみます。

・患者さんの体験談
・がん患者さんの就労支援
・乳がん治療最前線
・乳がんについての基礎知識
・病院選びについて
・治療スケジュール
・各治療の基礎知識、治療へのアドバイス、副作用対策
・乳房再建の基礎知識
・術後のリハビリ
・当たり前の日常を取り戻すために〜心のケア
・治療中の食生活について
・リンパ浮腫対策
・性生活について
・漢方がん治療
・乳がんの治療費と公的制度
・乳がん情報データベース
・乳腺専門医がいる病院リスト
・綴じ込み付録「乳がん QOLケアカタログ」

とても充実した内容です。学会が終わったらゆっくり読みます。それから外来にでも置いておこうと思います。皆さんもよろしければ参考にしてみて下さい。

2010年10月5日火曜日

統計学は苦手です…

今週の土曜日は乳癌学会の地方会です。いま追い込みの最中です。

もうスライドはほとんど完成しているのですが、有意差検定だけが終わっていません。症例数があまり多くないので有意差を出してもあまり意味がないかと思ってしないつもりだったのですが、やはりやるだけはやっておいたほうが良いと思い直して慌てています(汗)。

私のPCはMacです。以前はStat Viewという使い慣れた統計ソフトで有意差検定などの統計処理をしていたのですが、新しいMac Book Proにはこのソフトは対応していません(絶版になったので新しいバージョンもありません)。

簡単な統計処理はExelでもできるという話も聞いたのでネットで調べてみましたが、さっぱり理解不能…。いつもExelは統計ソフトにデータを移す目的のみで使用していたため、使いこなせません(もともとMicrosoftにはアレルギーがあります)。

どうやら「4 Step Exel統計」という本に付録でついているソフトはMac対応みたいなので明日買いにいってきます。まったく直前になにをやってるんだか…(泣)

今回の発表内容は先日の乳癌学会総会での報告の続編のようなものです。発表後にまたここで報告します。

2010年10月2日土曜日

ピンクリボン月間!

新聞報道などでも紹介されていましたが、「ピンクリボン月間」が10/1から始まり、各地で乳がん検診の啓蒙などの取り組みが行なわれています。

小樽では、「ピンクリボン・ファミリー」企画の乳がん術後の患者さん対象のインナーの試着、販売が、10/11 AM10:15-12:00までウイングベイ小樽1階 5番街 「ネィチャーチャンバー 」で行なわれます(ピンクリボン・ファミリーのTさんからの情報)。

東京では、「ピンクリボン in 東京2010」が10/1に開催され、都庁がピンク色に染まりました。また公式キャラクターに決まったPostPet「モモ」デザインのポストカード配布や都庁内職員食堂、議会棟レストランでピンクリボンランチを提供したり、ピンクリボン電車広告ジャック(10/1-15)など精力的な取り組みが行なわれるようです(http://www.metro.tokyo.jp/INET/EVENT/2010/09/21k9d200.htm)。

名古屋でも10/1-3の期間に名古屋城ライトアップ、マンモグラフィ無料体験、スペシャルトークイベントなどが行なわれています(http://www.pink-ribbon-nagoya.com/)。

鹿児島では、県庁や市役所にピンクリボンツリーが設置され、来場者が乳がん撲滅を願ってピンクのリボンを結びつけられるようになっています。また、ピンクリボン月間のイベントとして、JR鹿児島中央駅ビルの観覧車や鹿児島市の百貨店山形屋の壁を期間限定でピンク色にライトアップしたり、10/24には同市中央公園での「ピンクリボン・ウオーク」や、1500円で検診を受けられる「ピンクリボン・フェスタ」が予定されています。検診は39歳以下先着20人でエコー検査、40歳以上先着30人でマンモグラフィー検査となっているそうですので、若年者にも配慮した内容となっています(http://mytown.asahi.com/kagoshima/news.php?k_id=47000001010020002)。

札幌でも10/1にJRタワーがピンク色にライトアップされました。この日のJRタワーの売り上げの一部は日本対がん協会に寄付されるとのことです(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101002-00000005-mailo-hok)。

そしていよいよ10/17(日)は、日曜日でもマンモグラフィを受けられるように、との要望に応えるためにJ.POSHが始めたJ.M.S(ジャパン・マンモグラフィ・サンデー)の検診日です。検診を受けられる賛同医療機関はJ.POSHのHP(http://www.j-posh.com/)で検索できます。もちろん私もこの日は日曜出勤です(前日は患者会旅行で温泉に泊まるので早朝に戻ります…笑)。

2010年10月1日金曜日

聾(ろう)の患者さんと手話通訳

外来で週2回行っている関連病院は手話通訳者が常駐している市内でも限られた病院であるため、私が診ている乳がん患者さんの中には聾の方が3人いらっしゃいます。その他にも検診や定期検査中の患者さんを含めるとかなりの数の聾の方を診察しています。

乳がんの患者さんは3人とも再発なくお元気に通院されていますが、乳がんの診断、手術の際はなかなか大変でした。重要なポイントについては、紙に書いてお渡しするので良いのですが、ほとんどの説明は手話通訳さんにお願いしています。手話通訳さんは慣れているとは言っても医学の専門家ではありませんので、こちらの話をうまく伝えられる場合と微妙にずれて伝えてしまう場合があります。経験の長い方は私の説明をうまく翻訳して手話で正しく伝えてくれるのですが、残念ながらうまく伝わらない場合もあります。

そういうことを長年の生活の中で知っている聾の方々は、理解するまで何度も聞いてきます。ですから手術や病理結果、術後療法の説明には普通の倍以上時間がかかってしまいます。患者さんが帰宅してからも、一度理解したはずの内容に疑問を感じて病棟に質問のFAXが届いたこともありました。

また麻酔の際には手話通訳さんはいませんので声をかけても状態の確認ができませんから専用のボードなどを用意して筆談で意思疎通を量る必要があり、麻酔医と手術室の看護師は非常に神経を使います。夜間の病棟など手話通訳者がそばにいない場合には四苦八苦しながらコミュニケーションをとって治療をおこなっています。

周術期にはそのような大変さがありますが、治療が無事終了した時には満足感が倍になります。外来でも時間はかかってしまいますが、長年苦労を積み重ねてきたためか、一定時期をすぎると驚くほどお元気になります。なかなか大変ですが、手話通訳や筆談で楽しくコミュニケーションをとって診療しています。

医学用語を手話通訳するのは本当に大変だと思います。手話通訳の方にはいつも大変なご苦労をおかけしていると思います。ですから診察が終わった時には、患者さんに”お大事に!”と言った後で手話通訳さんにも”お疲れさまでした!”とお礼を言うようにしています。

いつか自分でも簡単な手話ができるようになりたい!と思いつつ、まだ全然できていません…(汗)。