2010年10月9日土曜日

ホルモンレセプターの陰性化

初回手術時の原発巣のホルモンレセプターが陽性であっても再発巣のホルモンレセプターが陽性とは限らない、というのが今回の乳癌学会地方会での発表内容です。これは最近、世界的にも注目され、同様の報告が発表されています。

今回調べた当院の症例では、約30%の患者さんでホルモンレセプターの陰性化が見られました。もし、再発巣の組織検査をしていなければ、ホルモンレセプター陽性の再発としてホルモン療法が選択されていたはずです。というのは、現在の再発治療の考え方の基本は、Hortbagyiのアルゴリズムというものに沿って行なうことが多いからです。このアルゴリズムでは、ホルモンレセプター陽性乳癌の再発は、生命の危機がないものに対してはホルモン療法から始めることを推奨しているのです。

なぜホルモンレセプターの陰性化が起きるのでしょうか?

実はまだよくわかっていません。

前回の乳癌学会総会では、原発巣と同時に切除した腋窩リンパ節転移巣でもすでに5-10%でホルモンレセプターの陰性化が起きていることを報告しました。この時の検討では、原発巣のホルモンレセプター陽性細胞率が低い症例(弱陽性)で陰性化が起きやすいことがわかりました。これはおそらくモザイク状に存在している原発巣のホルモンレセプター陰性細胞の割合が高い方が転移しやすいという確率の問題だと推測されました。

しかし今回の検討では、ホルモンレセプター陽性細胞率が高い症例(強陽性)においても陰性化が見られており、しかも再発巣の陰性化率が同時に切除された腋窩リンパ節転移巣よりはるかに高いということから、単に確率の問題だけではなく、術後に行なった補助療法の影響があるのではないかと考えられました。

検討した範囲内でわかったことは、術後に化学療法を行なっていた症例と閉経後の症例で陰性化が起きやすいということです。推測ですが、これらの結果から2つの機序が考えられます。

①術後ホルモン療法の効果によるホルモンレセプター陽性細胞の消失(ホルモン療法によってモザイク状に存在していた再発組織の中の陽性細胞だけが消失し、陰性の細胞だけが残った)
→閉経後で陰性化症例が多かったのは、閉経前より閉経後の方がホルモン療法の効果が大きかったからではないのか?ということから推測。

②術後化学療法で生き残ったホルモンレセプター陽性細胞が、生き残る過程で陰性化した
→化学療法施行例で陰性化が起きやすかった事実より推測。

発表の概要はこんな感じです。

言いたかったのは、原発巣と再発巣では、ホルモンレセプターの状態が同じとは限らないということです。再発巣の組織を容易に確認できる場合には確認してから治療方針を決める方が良い、確認できない場合には、特に化学療法施行例、閉経後症例では、ホルモンレセプターの陰性化を念頭において、一次ホルモン療法の効きが悪い場合には早めに化学療法への変更を検討した方が良いというのが結論です。

今回はちょっと難解でしたね(汗)。

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