2011年6月15日水曜日

ASCO2011レポート1〜局所(リンパ節)治療と予後

所属リンパ節への治療の有無と程度は乳癌の予後にどう影響するのか?という命題に対しては長い歴史の間に様々な知見を得ることによって考え方も移り変わってきました。

Halstedの時代以降、系統的に所属リンパ節を郭清することによって乳癌の治癒率が上がることを証明するとともに、一定以上の郭清をしても予後は向上しないという限界もわかってきました。また根治術後に予防的に胸壁や所属リンパ節に放射線治療をしても予後の改善はしないという報告が出され、術後の放射線治療は長く行なわれなくなりました。

そして1970年代に開始されたNSABP-B04試験によって、リンパ節郭清を最初にしても、放射線治療を代用しても、何もしないで再発したら郭清しても予後は変わらなかったとする報告が出されて以降、リンパ節郭清の意義については局所コントロールと進行度の判定目的のみという考え方が一般的になってきています。また最近の報告では臨床的にリンパ節転移がない患者さんに対しては、センチネルリンパ節に転移があっても局所コントロールも悪くないため郭清は不要という結果も発表されています(ただしこれは臨床的にリンパ節転移がなく、術後に乳房照射を行なった症例)。

その一方で、以前は完全に否定されたはずの術後の胸壁+所属リンパ節照射が、リンパ節転移数が4個以上の患者さんに対しては予後を改善するという報告が出されて以降、現在ではこれが標準的な治療法になってきています。そして、今回のASCO2011においてもNCIカナダから同様の報告が発表されたようです。時々拝見する渡辺亨先生のブログによれば、概要は以下の通りです。

対象:腋窩リンパ節転移1-3個陽性、または腋窩リンパ節転移陽性ハイリスク患者、約2000人
方法:乳房温存術後(A)乳房照射単独と、(B) 乳房照射+領域リンパ節(内胸リンパ節、鎖骨上下リンパ節)照射を比較
結果:生存期間ではBが良好な傾向、無再発生存期間, 局所領域無再発生存期間、遠隔臓器無再発生存期間すべて、Bが有意に良好であった。しかし、肺炎、皮膚障害、リンパ浮腫、がBに高率にみられた。
結論:今後は、リンパ節転移陽性なら、陰性でもハイリスクなら、乳房のみならず、領域リンパ節へも照射が必要である。

こうなると、いったい局所治療は予後を改善しないというデータはなんだったのかと思ってしまいます。私は、個人的には局所治療は予後を改善するのだと思っています。ただし、ある条件を満たす患者さんを選別した場合にのみ、有意差が出るのではないでしょうか。ですから例えばリンパ節転移率の低い人を多く含む症例を対象に放射線治療や手術を全例にしても、その恩恵を得ることができるのはごくわずかなために、有意差として現れないとか、化学療法の進歩によって、以前のデータとは状況が変化したなどの理由によって結論に変化が出ているのかもしれないと思っています。

2011年6月13日月曜日

雑務に追われています…

最近持ち帰りの仕事が多いです…(泣)

ここ数日は、N先生が来る前に見直そうと思っていてそのままになっていた、研修カリキュラムの作成をしていました。乳癌学会の認定施設になるためには、認定医、専門医の修練カリキュラムというのを作成しなければなりません。今までも毎回更新時に書いていましたが、実質研修医はいませんでしたので具体性に欠けていました。今回N先生が仲間に加わってくれたので実情に合うように修正を行ないました。

明日は病院HPに掲載する乳腺センターの紹介文章の更新をする予定です。これからはさらにたまっている新規採用の化学療法レジメンの説明承諾書作成、患者会の講演のスライド作り、9月の乳癌学会の準備、10月の乳癌検診学会の準備の手伝いなどなど、日常診療外の雑務?が続く予定です。

それに加えて私たちの病院は会議が多いです。研究会も毎週のようにあります。全部出ていたら体が持たないので間引いて参加しています(笑)。明後日の研究会はASCOのレポートなので聞きたかったのですが諸事情で参加できません。ネット情報で興味深いものがあればまたご紹介します!

2011年6月10日金曜日

乳がん体験者コーディネーター養成講座募集中!

昨年も書きましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/06/blog-post_07.html)、今年もNPO法人キャンサーネットジャパンの第7期乳がん体験者コーディネーターBEC(Breast Cancer Experienced Coordinator)養成講座の案内が届きました。

この講座は、自ら(家族)が乳がんを体験した方々を対象に、 乳がんの医療情報に特化した、人材養成講座で、乳がんを体系的に学び、自分の体験を見つめ直す、啓蒙活動に役立てる、乳がん患者のサポートをする、医師の診療のサポートをするなどの目的で行なわれており、今までに130人の修了生を輩出しています。

講座はほとんどがインターネットを活用した「オンデマンド講座」ですので、いつでもどこでも聴講できます。ただ、費用が前期80000円(7/31までに申し込みの場合)、後期60000円とけっこうかかります。また、ここで認定された資格は国家資格ではありません。ここで得られた資格が実際にどの程度役に立つのかは、身近に受講者がいませんのでなんとも言えません。一応、情報として提供しましたが、受講するかどうかはHP(http://cancernet.jp/bec.html)をよくご覧のうえ、御判断下さい。

2011年6月8日水曜日

無料クーポン券の本当の効果と課題

乳癌検診学会から届いたメールに掲載されていた小西 宏氏(公益財団法人日本対がん協会マネジャー)のコメントの一部を抜粋します。

国が2009年度に導入した「女性特有のがん検診の無料クーポン券」の効果について(日本対がん協会によるアンケート結果)
①クーポン券が配られた「40歳から5歳刻みで60歳まで」の受診者数は08年度の1.8倍に増えていた(回答28支部)。
②中でも「初めて検診を受けた人」は2.3倍とさらに顕著な増加ぶりであった(回答22支部)。
③調査の対象は07~09年度に続けて住民検診を受託した自治体での受診者数であり、40歳以上の受診者全体で割ると約2割の増加なので「本当の効果」は4倍ほど高かった。
④この政策をさらに効果的にするには、クーポン券を使わなかった人に理由を尋ねることが重要。09年度に使った予算は約140億円。これほどの国費をかけた政策の効果を検証して対策に生かすことが国と乳がん検診に携わる者に課せられたテーマである。


目標の検診受診率50%にはまだほど遠いですが、無料クーポン券の効果はみられたようです。乳がん検診に携わっている一人としてもそう実感してます。ただ、通常の自治体検診の年齢起算日が誕生日であるのに対して無料クーポンは4/1であること、自治体検診は偶数年齢(奇数年齢の地域もあるかもしれませんが…)なのに無料クーポンは45才、55才の奇数年齢が含まれており、場合によっては3年連続でマンモグラフィを受けることになること、クーポン券の配布はいつも遅れる(6-7月)ため、その前に受けた検診患者さんの取扱いが煩雑なこと、などの問題点もあります(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/02/blog-post_19.htmlをご参照下さい)。予算が許せば、偶数年齢の全ての検診を無料にしてもらえば混乱を避けることができ、受診率アップにもつながるのですが…。

そういえば昨年、この無料クーポン券の制度の不備に偶然救われた患者さんがいらっしゃいました。春にマンモグラフィ検診(偶数年齢の自治体検診)を受けて異常なしと判定されたましたが、そのあとで無料クーポン券が届いたため、年末に無料クーポン券を持参して再度検診を受けたのです。

通常、1年以内に2回のマンモグラフィはお勧めしませんが、たまたまその患者さんはそんなことは知らずにマンモグラフィを受けたところ、半年ちょっと前には認めなかった多形性の微細石灰化の集簇を認め、精密検査にて乳がんと診断されたのです。もちろん前回のマンモグラフィには複数の医師で何度も確認しましたが、微細石灰化はありませんでした。

このような症例が、通常は中間期乳がん(検診と検診の間=2年以内に自覚症状が出て発見された乳がん)となるのだと思います。往々にしてこのようなタイプは悪性度が高い傾向がありますので、無料クーポン券のおかげで自覚症状が出る前に偶然発見できた例と言えます。

札幌市では今年はまだ無料クーポン券が届いていません。今年もこの制度は継続されるようですのでそろそろ届くと思います。最近では無料クーポン券の情報が広まったためか、クーポンが届く前のこの時期は検診数が少ないです。無料クーポン対象年齢以外の偶数年齢の方は今が検診のチャンスですよ!

2011年6月7日火曜日

第21回乳癌検診学会総会演題締め切り間近!

2011.10.21-22に岡山で行なわれる第21回乳癌検診学会総会の演題締め切りが明日に迫ってきました。

今年は関連病院も含めて3演題出す予定です。全て超音波検査技師が発表します。今日はその抄録のチェックに追われていました。

いつも検診学会は技師さんたちの発表の場に位置づけて、私はバックアップにまわっています。自分が発表するとなるとなかなか技師さんたちに十分な配慮ができないからです。彼女たちが独り立ちして自分たちで抄録や発表内容のチェックができるようになれば…と思っているのですが、まだ全国学会レベルに対する慣れが足りないようです。

今回は残念なことに放射線科(マンモグラフィ撮影技師)からの演題はありません。妊娠・出産、家庭の事情などの理由によるものなのですが、今日、妊娠中だった技師さんから無事女の子を出産したといううれしい報せが届きました!

育児をしながらの仕事は大変だと思いますが、貴重な女性技師ですので、早く職場復帰してくれることを願っています。体制が安定したら、また学術活動にも力を発揮してくれることと思います。

岡山は2度ほど学会で行ったことがあります。”ままかり”がとても気に入ってしまい、毎食食べたことを思い出します。今回も”ままかり”が食べられるのを楽しみにしています。

2011年6月5日日曜日

「乳癌カンファレンスin旭川」 大盛況で終了!

先日ここにも書きましたが、昨日旭川グランドホテルで乳癌の症例検討会が行なわれました。

私たちの病院からは札幌市内の関連病院も含めて、乳腺外科医3人、病理医1人、超音波技師4人の8人が参加しました。当初は全部で30人位を予定していたようですが、旭川の系列病院、近隣のK病院をはじめ、旭川市内からの参加者が非常に多く、全部で50人ほどが会場に集まり、大盛況でした。

まずSession1として、東京のG病院の病理部と乳腺科の先生方のご講演がありました。内容は「外科に知って欲しい病理医のこと」、「病理医に知って欲しい外科医のこと」というテーマで、それぞれの立場から見た現状と限界、注意点や配慮して欲しい点などについてわかりやすくお話ししていただきました。お互いの状況を正確に把握することで、理想と現実の乖離を少なくすることが大切ということがよく理解できました。

Session2はG病院、旭川の系列病院、K病院、そして私たちの病院の4施設で経験した症例検討が行なわれました。一見非浸潤がんが主体のように見えた非常に悪性度の高い局所進行乳がん、急速に増大し梗塞をきたした葉状腫瘍、数年の経過を追ったmucocele-like tumorに非浸潤がんが伴っていた症例、そして異時対側乳房に発生したradial complex lesionを伴った微小浸潤がんの4例でした。熱い討論で時間が押してしまい、最後の私の症例発表時には予定時間を15分以上オーバーしていたためゆっくり討論できなかったのは残念ではありましたが、私自身は非常に勉強になりました。

カンファレンス終了後は全体の懇親会がホテルで行なわれ、さまざまな病院、職種の方々と交流を深めました。その中で私が22年ほど前、旭川の系列病院で肝臓内科病棟の研修医として勤務していたときにお世話になった超音波技師の旧姓Hさんにも久しぶりに会うことができました。お互い年はとりましたが顔を見ただけですぐにわかりました(笑)。彼女が1研修医だった私のことを覚えていてくれたのにはびっくりしましたし、とてもうれしかったです。

その後は場所を変えて、G病院から来て下さった4人の先生方を囲んで楽しい時間を過ごさせていただきました。病理部長のA先生、乳腺センター長のI先生は私がG病院で研修させていただいた時にもお世話になりました。学会会場や飲み会でもいつも乳がんのいろいろなお話を聞かせて下さります。一緒にお話させていただくだけでとても勉強になります。病理のH先生、乳腺外科のM先生はお名前は存じ上げていましたが、私がG病院から戻ってからG病院に行かれたので直接お話したのは初めてでした。お近づきになれてうれしかったです。

A先生は日本酒がお好きですので向かいに座らせていただいた私も一緒に日本酒を飲ませていただきました。お話が楽しいとお酒も進みます。最近日本酒が残りやすくなっていたのでここのところは控えていたのですが、昨日はすっかり飲み過ぎてしまって、夜中には頭痛薬を2回のむことになってしまいました(汗)。でもとても楽しく充実した時間を過ごさせていただきました。

この会を企画して下さった旭川のI先生、主催のAZ社の皆さん、そしてはるばる東京から来て下さったG病院の4人の先生方に深く感謝申し上げます。またいつかこのような会が企画されることを期待しています。

2011年6月2日木曜日

第8回 With You 北海道~あなたとブレストケアを考える会~

また今年も8月にWith You 北海道が行なわれます。少し早いですが簡単に概要をお知らせします。

With You 北海道は、東京などで行なわれていた「With You ○○」の北海道版として7年前に始まってから今回で8回目になります。このイベントは、乳がん患者さんとご家族、医療従事者が集まって、乳がんについての知識を深めたり、思いを話し合ったりして交流を深める活動です。

今回のメインテーマは、
手術後の腕のむくみ(リンパ浮腫)に向き合う
〜もっと、前向きに元気になろうよ〜

です。たしか第2回にも「リンパ浮腫」をテーマに行ないましたので、テーマが一周したことになります。患者さんも新しく入れ替わっていますのでちょうど良いのかもしれません。

概要は以下の通りです。

日程:平成23年8月20日(土) 12:30-17:00
場所:札幌市中央区南1条西16丁目 札幌医科大学 研究棟1階 大講堂
対象:乳がん患者さんとご家族、乳がん関連の専門家、医療関係者
参加費:1000円(今回から変更になっています)
主な内容:
・基調講演①「リンパ浮腫の原因、ガイドラインに基づく対処法」(旭川医大第1外科 北田正博先生)
・基調講演②「リンパ浮腫のケアの実際」(後藤学園附属リンパ浮腫研究所 佐藤佳代子先生)
・参加者グループワーク
・パフォーマンス
・教育講演「乳房再建の現状について」(札幌道都病院形成外科 江副京理先生)
申し込み・お問い合わせ:
・With You北海道実行委員のいる病院には申し込みハガキが置かれます(まだ準備中です)。
・お問い合わせは、TEL:011-611-2111(FAX:011-613-1678) With You事務局まで。

札幌近郊の方は予定を空けておいて下さいね!