所属リンパ節への治療の有無と程度は乳癌の予後にどう影響するのか?という命題に対しては長い歴史の間に様々な知見を得ることによって考え方も移り変わってきました。
Halstedの時代以降、系統的に所属リンパ節を郭清することによって乳癌の治癒率が上がることを証明するとともに、一定以上の郭清をしても予後は向上しないという限界もわかってきました。また根治術後に予防的に胸壁や所属リンパ節に放射線治療をしても予後の改善はしないという報告が出され、術後の放射線治療は長く行なわれなくなりました。
そして1970年代に開始されたNSABP-B04試験によって、リンパ節郭清を最初にしても、放射線治療を代用しても、何もしないで再発したら郭清しても予後は変わらなかったとする報告が出されて以降、リンパ節郭清の意義については局所コントロールと進行度の判定目的のみという考え方が一般的になってきています。また最近の報告では臨床的にリンパ節転移がない患者さんに対しては、センチネルリンパ節に転移があっても局所コントロールも悪くないため郭清は不要という結果も発表されています(ただしこれは臨床的にリンパ節転移がなく、術後に乳房照射を行なった症例)。
その一方で、以前は完全に否定されたはずの術後の胸壁+所属リンパ節照射が、リンパ節転移数が4個以上の患者さんに対しては予後を改善するという報告が出されて以降、現在ではこれが標準的な治療法になってきています。そして、今回のASCO2011においてもNCIカナダから同様の報告が発表されたようです。時々拝見する渡辺亨先生のブログによれば、概要は以下の通りです。
対象:腋窩リンパ節転移1-3個陽性、または腋窩リンパ節転移陽性ハイリスク患者、約2000人
方法:乳房温存術後(A)乳房照射単独と、(B) 乳房照射+領域リンパ節(内胸リンパ節、鎖骨上下リンパ節)照射を比較
結果:生存期間ではBが良好な傾向、無再発生存期間, 局所領域無再発生存期間、遠隔臓器無再発生存期間すべて、Bが有意に良好であった。しかし、肺炎、皮膚障害、リンパ浮腫、がBに高率にみられた。
結論:今後は、リンパ節転移陽性なら、陰性でもハイリスクなら、乳房のみならず、領域リンパ節へも照射が必要である。
こうなると、いったい局所治療は予後を改善しないというデータはなんだったのかと思ってしまいます。私は、個人的には局所治療は予後を改善するのだと思っています。ただし、ある条件を満たす患者さんを選別した場合にのみ、有意差が出るのではないでしょうか。ですから例えばリンパ節転移率の低い人を多く含む症例を対象に放射線治療や手術を全例にしても、その恩恵を得ることができるのはごくわずかなために、有意差として現れないとか、化学療法の進歩によって、以前のデータとは状況が変化したなどの理由によって結論に変化が出ているのかもしれないと思っています。
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