2011年3月31日木曜日

乳腺術後症例検討会9 送別会

昨日、第44回乳腺症例検討会を行ないました。

今回も4症例。超音波画像上は浸潤がんのように見えた非浸潤がんの2例と非浸潤がんのように見えた4㎜の浸潤がん(乳頭腺管がん)の1例、前回のマンモグラフィでまったく異常を指摘できなかったのに9ヶ月後の無料クーポン券で再度受けたマンモグラフィで多形性微細石灰化を伴う腫瘤が出現して診断された進行の速い硬がんの1例でした。

特に最後の1例は無料クーポン券が来なければ自覚症状が出現して中間期乳がんとして診断されたと思われる症例です。背筋に冷たいものを感じました。乳がんにも進行の遅いもの、速いもの、様々です。適切な乳がん検診の間隔と検診手段とはなんなのか考えさせられる1例でした。

今回は年度内最後の症例検討会でした。この会を長い間中心となって支えてくれた超音波技師のEさんが4月から関連病院に転勤になりますので、症例検討会終了後に病院近くの居酒屋で送別会が行なわれました。Eさんは、症例検討会の案内のビラ作り(非常に面白いので病院内の他科の医師などから好評でした)や他施設への連絡、スライドの準備、当日のシャウカステンやパソコンの準備に司会、ママチャリレースの企画など、乳腺グループの活動の中心として引っぱってくれました。本当に心から感謝しています。関連病院に行っても引き続き症例検討会には参加してもらいますが、今度は新たな役割もありますので元気に頑張って欲しいと思っています。

新年度は乳腺グループとして、また新たな活動に取りかかる予定です。4/11からは乳腺センターもスタートします。症例検討会においては、ミニレクチャーを充実させるつもりです。夏にはニセコのロッジで合宿も企画しようと思っています。アイデアを結集して、魅力ある、そして実りのある活動を続けていきたいと考えています。

2011年3月28日月曜日

大震災被災地の乳がん患者さんの受け入れについて

私の病院では、大震災発生直後から被災地に医療スタッフを交代で派遣しています。今日の会議でも当面の医療支援が確認されました。

札幌に搬送、避難されて来られた患者さんの受け入れも表明していますが、入院、外来ともに徐々に増えてきているようです。乳癌学会においても、認定施設の受け入れ状況の調査が開始しました。私の病院ももちろん認定施設なのですが、なぜか手違いでFAXが届かず、本日学会本部に確認してメールで手続きを行ないました。

札幌まで来るのは大変だと思いますが、もし来ていただけるのでしたらきっと温かくお迎えできると思います。被災地の方々に何かしてあげたいと思っても、遠く離れているためになかなか直接お役に立つことができずにもどかしく感じていました。私たちの病院が乳がん患者さんを受け入れることで少しでもお役に立てるのでしたらとてもうれしいです。札幌の中でも田舎なので不便はおかけしますが、多くの患者さんに来ていただければと思っています。

2011年3月27日日曜日

魔法の言葉

ACの「あいさつの魔法」(魔法の言葉で 楽しい仲間が ぽぽぽぽーん♪)が話題になっていますが…。それとは関係ありません。
こんな記事を目にしました。

「大丈夫」の一言が特効薬=前向きな被災者に感銘-「陸の孤島」で診察・NGO医師(http://www.jiji.com/jc/eqa?g=eqa_date1&k=2011032700100)(時事ドットコム)

被災者の診察に赴いた医師が「大丈夫だよ!」と声をかけると、みんな生き返ったように表情が和らいだということです。やはりこういう状況で生活するだけでもつらいのに、十分な医療を受けれていなかったことで大きな不安を抱えていたのでしょう。

きっと、乳がんであることや再発を告知されたとき、患者さんも同じ気持ちなんだと思います。
私もいつもそういうときに「大丈夫ですよ!」と患者さんに言ってあげたいと思っています。実際は全てのがん患者さんにそう言ってあげるのはなかなか難しいことですし、今はエビデンスとインフォームド・コンセントが重視される時代ですので、安易に「絶対大丈夫」とは言えません。しかし表現は違っても患者さんに安心感を少しでも与えられるような言葉をかけてあげなければ、とあらためて感じました。

2011年3月26日土曜日

喫煙と乳がんの関係〜最近の知見

喫煙が乳がんのリスクファクターになるかどうかについては以前から様々な疫学研究が報告されており、その結論も”関係あり”とするものもあれば、”無関係”とするものもありました。これは、対照の”非喫煙者”をどのように定義するかが影響していたと言われています。つまり、”関係なし”とされた研究では、”非喫煙者”の中に、以前喫煙していた人や受動喫煙環境にあった人を多く含んでいたために差が出なかったのではないかということです。


最近、このことに関する報告が2つありました。

一つ目は、米国のウエスト・バージニア大学Mary Babb RandolphがんセンターのJuhua Luo氏らによる前向きコホート試験「Women's Health Initiative Observational Study」の報告です(BMJ誌2011年3月5日号、オンライン版2011年3月1日号)。

50~79歳の女性7万9,990例(1993~1998年)を対象にしたこの報告によると閉経後女性における喫煙と浸潤性乳がんリスクとの関連について、能動喫煙者では有意なリスク増大(ハザード比1.16)が認められました。中でも喫煙本数が多く、喫煙歴も長い能動喫煙者、また喫煙開始年齢が10代であった人における乳がんリスクが有意に高かったとのことです。
また非喫煙者の中の受動喫煙者においても、間接喫煙曝露が最も多かった人(子どもの時に10年以上、成人後家庭内で20年以上、成人後職場で10年以上)の乳がんリスクは、間接喫煙曝露がなかった人に比べて32%のリスク増加が認められました。

もう一つの報告は、米国のRoswell Parkがん研究所(ニューヨーク州バッファロー)健康行動部門による研究で、「Tobacco Control」オンライン版に3月12日掲載されました。

この研究は、家庭や職場での禁煙率と、州別の乳がんの発症および死亡率を比較したもので、受動喫煙の乳がん発症率に与える影響を疫学的に推測、検討したものです。その結果、特に閉経前の若年女性では、禁煙の家庭や職場の数が多い州ほど乳がんによる死亡が有意に少なかったとのことです。研究グループは、乳がんによる死亡率の変化の約20%が家庭や職場の禁煙よるものだと推定しているそうです。


いずれの報告も喫煙(能動、受動ともに)が乳がんを増加させる可能性を示唆しています。疫学研究ですので様々なバイアスもかかっているかもしれませんが、他にも肺がんや心血管障害などの健康被害を引き起こしますので喫煙は避けるに越したことはないようですね。

2011年3月22日火曜日

更年期症状と女性ホルモン値に対する鍼治療の効果

「ホルモン療法の副作用8 更年期障害2」にも更年期症状に対する鍼治療について書きましたが、「Acupuncture in Medicine」に鍼治療による更年期症状の緩和効果に関する小規模試験の結果が掲載されました。

内容の概要は以下の通りです。
(abstract→http://aim.bmj.com/content/29/1/27.abstract)

対象:閉経後女性53人

方法:27人に中国式鍼治療、それ以外の26人の被験者には疑似鍼治療を週2回施行。更年期症状(Menopause Rating Scale (MRS))の変化、ホルモン値などについて10週後に評価した。

結果:鍼治療を受けた群は、疑似鍼治療を受けた群に比べ、顔面紅潮および気分変動の程度が有意に軽減した(p=0.001)。膣乾燥および尿路感染症については、両群間に差はみられなかった。

研究グループによると、鍼治療の有益な効果は、ホルモン値の変化によるものではないようだとのことですが、原文のabstractを読むと、鍼治療群においては疑似鍼治療群に比べて有意にエストロゲン(E2:エストラジオール)値が高かったと書いています(LHは低く、FSHは有意差なし)。
「In the acupuncture group LH levels were lower and oestradiol levels were significantly higher than sham group (p=0.046 and p=0.045, respectively) after treatment, but there was no difference in FSH levels.」

Care Net.comのニュースには、ホルモン補充療法(HRT)を受けられない女性やHRTを受けたくない女性にとっての代替法になる可能性が示唆されたと書いてありましたが、エストロゲン値が上昇するのであれば残念ながら乳がん患者さんには適していないかもしれません。

この報告は小規模であり、症状緩和効果の持続期間についての観察も不十分ですのでさらなる検討が必要です。もしエビデンスが得られ、エストロゲンの上昇をきたさないのであれば、乳がん術後の患者さんにおけるホルモン療法の副作用緩和の選択肢の一つになるのですが…。

2011年3月21日月曜日

アブラキサンの説明会〜その効果と副作用について

2011.3.16(水)に病院の「がん化学療法委員会」において「アブラキサン」の説明会が行なわれました。アブラキサンについては、2010.7.28の「乳癌の治療最新情報19 アブラキサン認可!」でも報告しましたが、投与対象症例がいなかったことと、製薬会社の担当者が変わった関係もあって今まで製薬会社からの情報提供がされていませんでした。

アブラキサンは、パクリタキセルをヒトアルブミンに結合させた抗がん剤です。パクリタキセルはもともと非常に水に溶けにくい性質を持っています。このため従来製品のパクリタキセルは投与する際に溶解を助けるためのポリオキシエチレンヒマシ油(アナフィラキシーなどの過敏症を起こしやすい)とエタノール(過敏症の原因になりうる、酒気帯び運転になる可能性あり)の添加が必要でした。

アブラキサンは、パクリタキセルにヒトアルブミンを結合させることにより、溶解を容易にしました。また過敏症予防の前投薬も必須ではなくなり、投与時間も30分と短いという利点があります。またこのことにより、より多くの量を投与できるようになったということです。

問題点としては、生物製剤のヒトアルブミンを使用するため、未知の感染症のリスクは0ではないこと、調剤に時間がかかることです。

承認の根拠になったのはCA012-0という転移性乳がん患者をアブラキサン群(260mg/㎡)とパクリタキセル群(175mg/㎡)に分けてその抗腫瘍効果と安全性を比較した臨床試験です(ともに3週に1回の投与)。

その結果は、奏効率(24.0% vs 11.1%)と無増悪期間(23.0週 vs 16.6週)において2群間に有意差を認めました、しかし、生存期間においては有意差を認めませんでした(65.0週 vs 55.3週)。

副作用の発現率は98.7%で、主なものは、骨髄抑制、神経障害、脱毛、疲労感、悪心・嘔吐、下痢、関節痛、筋肉痛とパクリタキセルと同様でしたが、重篤な白血球減少はパクリタキセル群に、神経障害と悪心・嘔吐はアブラキサン群に多い傾向を認めました。

この結果を見て気になったことは、両群とも奏効率が低いということです。この試験においてパクリタキセルは3週に1回投与ですが、現在の国内ではweekly投与(週1回、3週連続投与、1週休薬)が主流です。比較試験においてもweekly投与の方が3週に1回投与より奏効率が高く、奏効期間が長いことが証明されています(CALGB 9840)。ですからもしアブラキサンとweekly投与のパクリタキセルを比較したら違う結果になっていたのかもしれません。

ただ、通院の利便性を考えると3週に1回のほうが患者さんにとっては楽だと思います。アレルギー反応が起きにくく、投与時間が短いというのも魅力的です。ですから是非アブラキサンとweekly投与のパクリタキセルとの非劣性比較試験を行って欲しいと思っています。また、weekly投与同士の比較試験結果も興味深いところです。

2011年3月20日日曜日

ブログ再開のお知らせ〜被災地の現況に思うこと

ブログ休止後、たくさんの皆さんから励ましのコメントとメッセージ、メールをいただきました。本当にありがとうございました。

あらためて医師としての高い情報判断力の必要性とネットの怖さを感じました。ブログの閉鎖も考えましたが、皆さんのメッセージを拝見し、このブログが少しでも皆さんのお役に立てているのなら…と考え、継続を決意しました。これからはさらに情報の内容をよく吟味して慎重な情報提供を心がけたいと思います。

今日現在、原発の方ではようやく沈静化に光が見えてきたような気がします。昨日から行なっている放水が一定の効果があったようで本当によかったです。しかし、根本的な解決はまだまだ時間がかかりそうですね…。思いもよらなかった二重、三重の災難に遭われた福島県民の皆さんには心からお見舞い申し上げます。一日も早く原発問題が解決して、町が復興されることをお祈りいたします。

それにしてもこの間の自衛隊、消防隊、警察、現場の東電職員の皆さんの命をかけた任務遂行には本当に頭が下がります。誰かがやらなければならない任務ではありますが、誰もやりたくはないはずです。ご家族にも十分に話し合う時間もないままこのような任務に向かうのは精神的にも相当きつかったはずです。私が言うのもなんですが、本当にありがとうございましたとお伝えしたいです。

そして被災地では、日々死者数が増加するなど辛いニュースも多いですが、心を温かくしてくれるニュースも増えました。甲子園に向かう直前までボランティアを続けた東北高校野球部の選手たちをはじめ、子供たちが自主的に避難所内で手伝いをしている姿をみて、この国はきっとまた立ち直ることができると思いました。最近の子供たちは、メールやツィッター、ネットゲームやDSに夢中になり、人と人との付き合いができなくなっているのではないかと危惧していましたが、今回大変辛い思いをした中で得た経験は、きっと子供たちの人間形成にプラスになると私は信じています。もちろん、辛い経験をしたことに対する心のケアは大切です。国と医師、心理療法士、教師が連携して、長期にわたって目配りと気配りをしなければならない問題だと思います。


私は乳腺外科医ですから、やはり被災地の乳がん患者さんたちがどうされているのかが大変気になっています。
被災地で乳がんの手術待機中だった方や治療中だった方もいらっしゃると思います。手術を控えていた方は気を揉んでいらっしゃるのではないでしょうか?抗がん剤治療中の方で免疫機能が落ちている時に被災された方もいらっしゃると思います。寒く、衛生状況が必ずしも良くない避難所で熱など出していないでしょうか?ホルモン療法中の方で薬がなくなって、再発の不安が増してしまっている方もいらっしゃるでしょう。

なにかお手伝いをしたいと思いますが被災地の病院では、医薬品の不足やライフラインの途絶により医療状況は芳しくないようです。もし札幌まで来れるのでしたらいくらでも診させていただくのに、何もできないことが大変もどかしいです。物流が改善して患者さんたちの不安が一日でも早く解消されることを願っています。