2011年4月28日木曜日

乳腺術後症例検討会10 新年度スタートと「Elastography」

4月からN先生が加わって乳腺外科医は3人体制となり、病棟も乳腺センターとして稼働し始めました。

45回目を迎えた今年度初めての昨日の症例検討会もちょとだけリニューアルしました。

症例は4例。今回はめずらしく良性が3例でがんは1例のみでした。良性のうちの2例は細胞診で粘液が引けたため、mucocele-like tumor(MLT)を疑いましたが、病理結果は線維腺腫とductal adenomaだった症例でした。粘液が引けた場合は、良性ならMLT、悪性なら粘液がんを考えますが、MLTはがんを合併することが多いとされているため、周囲に乳腺組織をつけて切除することが推奨されていますが、今回のような症例を経験すると、細胞診で粘液が引けた場合には、MLTと決めつけないで摘出の前に針生検で確認してから切除する方が良いのかもしれないと感じました。

そして症例検討のあとでミニレクチャーがありました。今までは珍しい症例があった場合にその組織型についてのレクチャーをすることがほとんどでしたが、今回からは症例に関係なく、最近の画像診断のトピックなどを紹介することにしてみました。

昨日のミニレクチャーは、超音波技師(N主任)による「Elastography」についてでした。Elastographyは別に新しい技術ではありませんが、今までは私たちの施設にはなかったのです。私たちも超音波技師もどうしても必要であるという認識にならなかったため、あえて新規購入しようとはしてきませんでしたが、検査機器の一台が老朽化したため、その買い替えにElastographyとMicroPure(firefly)が使えるTOSHIBAの超音波検査装置を購入したのです。

Elastographyは病変の硬さを色や数値で表して良悪の診断の補助にするという装置です。メーカーによってそのメカニズムが異なるため、検査方法も若干違います。検査方法に慣れとコツが必要なことと、悪性でも良性寄りに見えたりすることもあるため、あくまでも補助的な診断法ということになりそうです。Bモードという基本的な画像検査がわかった上で行なわなければ、むしろ誤診を招く危険性もあるかもしれません。これからいろいろな病変に試してみて、その役割を検討していこうと思っています。

2011年4月25日月曜日

第19回 日本乳癌学会総会 延期決定

2011.6.30-7.2に仙台で開催予定だった第19回日本乳癌学会総会ですが、2011.9.2-9.4に延期が決定されました。

3月11日の東日本大震災後、仙台での開催は予定通りには無理だろうとは思っていました。別な場所で行なうか、延期かのどちらかだと思っていましたので予想通りですが、仙台で行なわれることが決まって個人的には良かったです。今回の大震災でどんなふうになってしまったのかとても心配ではありますが、復興の状況をこの目で確認してきたいということと、数千人の学会員が訪れることで少しではありますが地域経済の復興に役立てるのではないかと考えるからです。


発表の準備はきっと延期になるだろうという見込み(延期じゃなかったら危なかったかも…)だったのでこれからです。今回は症例報告なので比較的楽です。でもN先生のバックアップがあるのでちょうどいいです。

仙台は大好きな都市の一つです。都会なのに自然が豊かで食べ物もおいしいです。被災地の復興のために私たちは何ができるのか…なかなか難しい問題ではありますが、とりあえずお酒は当面宮城の日本酒を飲むことにしました!

2011年4月24日日曜日

キャンディーズと田中好子さん(スーちゃん)…

昨日の朝、日本中を驚きと悲しみが包みました。まさかあの田中好子さん(スーちゃん)も乳がんで闘病中だったとは…まったく知りませんでした。とても悲しい知らせにショックを受けられた方も多かったのではないかと思います。私もその一人です。

私はキャンディーズの大ファンでした。ちょうど小学校高学年から中学生にかけて、彼女たちは国民的なアイドルでした。「見ごろ食べごろ笑いごろ」はいつも見ていましたし、レコードも何枚も持っていました(どこに行ってしまったのか不明ですが…)。解散発表後に発売したベスト盤「CANDIES 1676 DAYS」も買いました。

この頃はピンクレディ全盛期でもあり、特に子供たちには大人気でした。キャンディーズはもう少し年齢の高い若者たちに愛されていたように思います。私の小学校でもやはりピンクレディ人気がすごかったのを覚えています。他の子供たちがピンクレディーのものまねをして歌っている中で、私だけが友達にも内緒でキャンディーズの隠れファンをしていたのです。

正直、あの頃の私のファン度は、ランちゃん>ミキちゃん>スーちゃんでした(汗)。それでもスーちゃんの誰からも好かれる人柄の良さ、かわいらしさ、元気さはTVから十分に伝わってきていました。解散後の芸能界では3人の中で一番と言っていいほど活躍が目立っていましたし、誰からも愛される女優さんになっていきました。その演技力はとても評価が高かったと聞きます。彼女にとってはキャンディーズとしての仕事よりも女優としての仕事のほうが天職だったのかもしれません。

報道によると乳がんを発症したのは結婚した翌年、36才頃のようです。子供さんがいらっしゃらなかったのはこの病気と治療の影響だったのかもしれません。その後対側にも乳がんができ(異時両側乳がんだと思われます)、19年もの長い間、マスコミに話すことなく闘病してきたそうです。女優業という大変な仕事をしながらも、まったく病気のことを感じさせなかった芯の強さ…。本当に素晴らしい女性だと思います。

闘病生活を告白してファンから元気をもらったり、逆に同じ病気の人たちに勇気を与えている芸能人は最近多く見かけます。でもスーちゃんは多くの関係者やファンには病気のことを教えずに一人で闘いながら仕事を全うし、最後の別れだけはみんなに送って欲しいと遺言していたと報道されています。スーちゃんの人柄がなんとなくうかがえるような気がしました。きっとみんなには心配をかけたくない、でも闘い終わったらみんなに最後の別れだけはしたい、という心遣いだったのではないでしょうか。

キャンディーズは一度も再結成しませんでした。今となっては再結成は永遠にできなくなりました。でもこれでいいのかもしれません。私の中ではキャンディーズはずっとあの時のままです。

スーちゃん、長い間の闘病生活、本当にお疲れさまでした。心よりご冥福をお祈りいたします。

2011年4月20日水曜日

乳癌の治療最新情報26 カルボプラチン

(*下記訂正をご参照下さい)

トリプルネガティブの患者さんに朗報です!

以前から何度かここにも書いてきましたが、トリプルネガティブ乳がんに有効とされているプラチナ製剤が初めて保険適応になるようです。

今回厚生労働省の検討会議で国内未承認薬の早期承認が決まった薬剤は8種類。その中に乳がん治療に対するカルボプラチンが含まれていました。公知申請というシステムを適用し、国内での臨床試験データは不十分ですが、海外での使用実績が十分でその有効性が明らかであると認められたため、承認されたとのことです。新聞報道によると今月末の薬事・食品衛生審議会薬品部会で承認されれば使用可能になります。

プラチナ製剤(白金製剤)はシスプラチンという薬剤が代表的です。現在も肺がん治療の中心を担っている抗がん剤です。有効な薬剤ではありますが、腎毒性が非常に強く大量の水分負荷をしなければならないため、外来での投与が難しいという問題点がありました。一方、カルボプラチンはシスプラチンの誘導体で腎毒性が軽度のため、水分負荷が不要であるというメリットがあります。ただ、骨髄抑制はシスプラチンより強いため、注意が必要です。

乳がんに対する海外でのカルボプラチンの投与は、主にゲムシタビン(商品名ジェムザール)との併用で行なうことが多いようです。また、この組み合わせはトリプルネガティブ乳がんの再発治療に有効と言われています。将来的にはPARP1阻害剤(inipaibなど)との併用も期待されています。

これで一歩、欧米の診療レベルに近づくことができました。トリプルネガティブ乳がんの再発治療に一筋の光明が見えてきたと言えそうです。

*2011.5.7 訂正
乳癌学会から公知申請結果の報告がありましたが、今回カルボプラチンが保険適応となったのは、タキサン系抗がん剤とハーセプチンとの3者併用のみだったようです。したがってトリプルネガティブ乳がんへの適応は今のところ認められていないままとなっています。期待していただけに非常に残念ですが、PARP1阻害剤との併用などでカルボプラチン、ジェムザールとの併用が認められるようになることを期待したいものです。

2011年4月19日火曜日

コメントして下さる方へのお願い

いつもこのブログを読んで下さり、ありがとうございます。

おかげさまでブログを始めてから2年が経過し、徐々にコメントを下さる方も増えてきました。できる限り早めにコメントをお返ししようと思っていますが、読むのは帰宅後になりますので多少時間がかかることをご了解下さい。またコメントが多数重なった場合、返答に数日かかることもあります。


そこで誠に勝手ではありますが、コメントを書いて下さる場合のお願いが3つほどあります。

1.Bloggerのアカウントがない場合のコメントは、一度スパムの扱いになる場合があります。その際はコメントを入れてもすぐにはブログに反映されません。私が帰宅後にスパムチェックを外しますので、それまでお待ち下さい。よほどの場合以外はコメントを削除することはありません。

2.匿名でのコメントが非常に多いので困っています。アカウントがない場合、匿名でコメントせざるを得ないと思いますが、その場合は本文中にでも区別がつくようなハンドルネームを書いて下さい。匿名のコメントが続くと返答する際に困りますので…。

3.過去の記事にコメントを書きたい場合ですが、古いものだと私が気づかないと思われるかもしれませんが、コメントが書かれるとメールが届きますのでどんなに古くてもわかります。最新の記事にではなく、ご質問したい記事にコメントを書いていただいてけっこうです。

以上、申し訳ありませんがよろしくお願いいたします。

2011年4月18日月曜日

St.Gallen2011 サブタイプ分類と化学療法の適応

St.Gallen 2011が終了しましたが、震災後の自粛に伴い、講演会が次々と中止されたためになかなか情報が入ってきませんでした。最近ようやく少しずつ概要がわかってきました。以下渡辺亨先生のブログを参考にしました。

今回はまずその第1弾として、新しいサブタイプ分類(マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析に基づいたIntrinsic subtypeに近い分類)について少し触れます。

以前は、がんの解剖学的な進行度(大きさやリンパ節転移の有無や程度)に重きを置いて補助療法が決められていました。それが前回のSt.Gallen2009から、①内分泌療法の適応があるかどうか(ER) ②分子標的療法(ハーセプリン)の適応があるかどうか?(HER2) ③化学療法の適応があるかどうか?(大きさ、核異型度、Ki-67、ER、HER2、脈管因子、リンパ節転移の程度、遺伝子シグニチャなど)というように、がんの生物学的な性質に重きを置くように変わってきました。今回はそれがさらに顕著になるようです。

サブタイプ分類は、臨床試験によって若干定義が異なっていて、この間はけっこう混乱していました。St.Gallen2011では、Luminal A、Luminal B(HER2陰性)、Luminal B(HER2陽性)、Basal Like、HER2-richの5病型分類に統一されるようです。

その中で、一番注目されるのはLuminal Aの定義と治療法です。

今回の定義では、Luminal Aは、ER陽性(染色強度は関係ない)またはPgR陽性(同)、HER2陰性、Ki-67<14%となりそうです。また、Luminal Aの治療には、原則的に化学療法は行なわない、という治療指針になるとのことです。

おそらく大部分のLuminal Aに対しては、内分泌療法のみで良いのだと思います。化学療法を追加しても上乗せ効果が得られるのはわずかだと思います。

しかし…どうしても釈然としないものが残ります。

この指針に従えば、
「ER5%、PgR0%、HER2(-)、Ki-67 13%、リンパ節転移20個」
の症例でも内分泌療法のみで良いことになります。しかし、以前ここでも書きましたが、再発巣を切除したER陽性症例の病理学的な検討によると、一定の確率でERの陰性化が起きていると報告されています。私たちの検討では、ER陽性細胞率が低い(染色強度が弱い)症例の再発巣においては、ERの陰性化が起きやすいという結果でした。そうすると、上のような症例においては、ER陽性率が低いために転移したリンパ節のERが陰性化している可能性があるということで、微小遠隔転移巣においても内分泌療法が効かない細胞が存在している可能性があるということになります。

Luminal A全体から見ればこのような”化学療法をしておけば良かった…”という症例は多くはないため、化学療法をしなくても良い大多数の症例に埋もれてしまい、化学療法の必要性を論じる時の比較試験の有意差にはなってこないのではないかと思います(ちょっとわかりにくいでしょうか?)。

まだ最終的な合意が得られておらず、論文にもなっていませんので、これから若干の修正があるかもしれませんが、大筋はこういう扱いになりそうです。でも上のような症例を見たら、やっぱり化学療法の追加を考えてしまうのは私だけでしょうか?

最近では、化学療法の判断に迷うリンパ節転移陽性症例には、リンパ節転移巣のER染色を依頼して参考にしています。もしリンパ節転移巣がER(-)なら、微小な遠隔転移巣もER(-)である可能性があるので化学療法を行なう根拠になると思うからです。これからはER(+)HER2(-)のリンパ節転移陽性症例には全例リンパ節転移巣のER染色を依頼することになりそうです。

2011年4月13日水曜日

炎症性乳がん2 治療


炎症性乳がんは、診断された時にはすでに広範な広がりを持っていることが多い病態です。前回書いたように皮膚内をリンパ管を介して広がっているため範囲の特定はなかなか困難です。ですから広く皮膚を切除してもがんを遺残させるリスクがあります。またリンパ節転移も伴いやすいため、いきなり手術になるケースはまれです(後述)。

以前から炎症性乳がんに対しては、集学的治療(手術、放射線治療、化学療法、内分泌療法など)が必要と言われてきました。手術単独だった時代に比べて、集学的治療によって予後は改善しています。最近では分子標的治療も加わり、手術の位置づけは昔に比べるとかなり変わってきているのかもしれません。中には手術は不要と主張する医師もいるようです。

実際、術前化学療法が奏効して一見腫瘍範囲が縮小したように見えても、切除してみると切除断端までがん細胞が残っていることもあり、手術で完全切除することの難しさを痛感することがあります。やはり炎症性乳がんにおいては手術は補助的な意味合いが強いのかもしれません。

NCCNガイドラインによると炎症性乳がん(遠隔転移がない場合)の治療のアルゴリズムは以下の通りです(http://www.jccnb.net/guideline/images/gl_2011_2.pdf)。

術前化学療法(アンスラサイクリン+タキサン±ハーセプチン)→①または②へ
①反応あり→手術(乳房全摘+腋窩リンパ節郭清)+放射線治療(胸壁、鎖骨上リンパ節±胸骨傍リンパ節)±乳房再建→(化学療法)±内分泌量法±ハーセプチン
②反応なし→レジメンを変更して化学療法(放射線治療を考慮)→反応ありは①へ、反応なしは個別治療

「乳癌診療ガイドライン1 薬物療法」(2010年版)においてもほぼ同様の内容が記載されており、「炎症性乳癌に対しては、薬物療法を施行したのち、手術、放射線療法などの集学的治療の施行が勧められる」が推奨グレードB(科学的根拠があり、実戦するよう推奨する)となっています。いずれにしても炎症性乳がんの治療は、化学療法などによっていかに腫瘍量を0に近づけることができるかが鍵になると思います。

写真はINFLAMMATORY BREAST CANCER RESEARCH FOUNDATION(http://www.ibcresearch.org/)のHPから転載しました。