2011年10月31日月曜日

フェソロデックス学習会

以前にもここでご紹介したように(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/12/11.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/10/blog-post.html)、近々フェソロデックス(一般名 フルベストラント)が発売されます。フェソロデックスは、SERD(Selective Estorogen Receptor Downregulator)と呼ばれるタイプの新しいホルモン治療剤です。アロマターゼ阻害剤に耐性になった患者さんにも有効ということで期待されています。今日は、アストロゼネカの担当者にお願いして、薬剤師、看護師、乳腺外科医に対する学習会を開催していただきました。

今までにある程度の情報は研究会などで聞いていましたが、非常にわかりやすいスライドで知識の整理になりました。また、肝臓で代謝されるために肝機能障害を持っている患者さんには注意が必要なこと、溶剤としてアルコールとヒマシ油が入っているので、アルコール過敏症やパクリタキセル(溶剤としてヒマシ油が添加されている)でアレルギーがあった患者さんには投与困難なこと、などの新たな情報を入手することができました。

発売は11月末頃のようで、それまでは薬価は不明です。おそらくかなり高価な薬剤になると思いますので、適切なタイミングでの投与が重要になると思います。二次治療での投与が推奨されていますが、例えばタモキシフェンの術後補助療法中に再発した場合にも適応になりますが、最初にフェソロデックスを使用するか、それともアロマターゼ阻害剤を投与するのか、迷うところです(フェソロデックス250mgとアリミデックスの比較試験では有意差なしでしたが、今回認可されたフェソロデックス500mgでの直接比較試験はないようです)。また、先行治療がアロマターゼ阻害剤の場合のフェソロデックスまたはタモキシフェンの選択についても同じことが言えます。筋注の痛みのことや医療費のことを考えると先にアロマターゼ阻害剤やタモキシフェンを投与して、フェソロデックスを三次治療に残しておくことを選択するかもしれません。このあたりはもう少し情報が欲しいところです。

ただいずれにしても治療の選択肢が増えたことは喜ばしいことです。先日ご紹介したアフィニトールや今回のフェソロデックスなど、ホルモン陽性乳がんの治療の進歩も著しいです。願わくばもう少し患者さんの経済的な負担が少ないと良いのですが…(アフィニトールは月70万円以上とか…)。

2011年10月26日水曜日

乳腺術後症例検討会 13 ”腺筋上皮腫”

先月の症例検討会は、私用で参加できませんでしたので、2ヶ月ぶりの参加でした。

今月は、異時両側乳がん、乳管内腫瘍のようにも見えた粘液がん、乳頭腺管がんくずれの硬がん、そして非常にまれな良性疾患の4例でした。行事や所用が重なったために、参加者はいつもに比べると少なくて残念でしたが、症例検討内容は非常に充実していたように思います。今回からはMRの画像提示方法も進化して、とてもわかりやすくなりました。

今回の良性疾患症例は数年前にしこりを自覚して受診し、触診で明らかな扇状の硬結を触れ、超音波検査でも限局性に斑状の低エコー(黒い部分)の集簇が見られたため、非浸潤がんを強く疑った患者さんです。数度にわたる細胞診では良性(乳腺症疑い)という診断だったため、経過観察となっていました。この間、画像的にも大きな変化はなかったのですが、やはりどうしても気になるため針生検を行ない、最終的には部分切除を行なって確定診断に至りました。病理組織的には、多彩な乳腺症を背景に、「腺筋上皮腫(adenomyoepithelioma)」と「線維腺腫」様部分が多発して集簇しているという奇妙な像を呈していました。乳腺病理の第1人者であるS先生にも診ていただきましたが、S先生の数多くの経験の中でも例がないとのことでした。

症例検討のあとには、放射線技師のIさんが「腺筋上皮腫」についてのミニレクチャーをしてくれました。腺筋上皮腫は、基本的に良性ですが、時に悪性像を呈することもあります。悪性化するポテンシャルがあると言うのが正しいのかもしれません。稀に他臓器への転移をきたすこともあります。ですから、今回腫瘤部分を摘出して悪性腫瘍の合併を調べたことは意味のあることなのです(S先生にも事前にご相談しました)。幸い悪性所見は認めませんでしたが、今後も局所再発などに注意が必要です。良性から悪性まであることを考えるとなんとなく、葉状腫瘍に似ているような気もします。非常に印象深い症例になりました。

それにしても私たちの病院の技師(超音波技師、放射線技師)さんたちは、いつも非常に熱心にこの症例検討会に取り組んでくれています。毎月、症例の資料集めや病理医への写真作成の依頼、そしてパワーポイントでのスライド作り、さらに開催案内のポスターを作ったり、病院外の技師さんたちに連絡を取ってくれたり、会場の準備や片付けをしたりと、みんなで協力して準備してくれています。いつも彼女たちには厳しいことばかり言っていますが、心から感謝しています。これからも協力しながらお互いの力量アップのためにこの検討会を継続していきたいと思っています。

2011年10月24日月曜日

おっぱいリレー


ピンクリボン月間に合わせて、「おっぱいリレー」が全国各地で行なわれています。写真は今日の北海道新聞夕刊に掲載された記事です。

このイベントは人工乳房を作成している池山メディカルジャパン(http://www.ikeyama-mj.com/concrete5/)と三重県の温泉施設が企画したものです。ツイッターやフェイスブックでの呼びかけに賛同した全国の95カ所の温泉施設が参加しています。地域ごとにリレー形式で人工乳房を引き継ぎ、各温泉で人工乳房を湯に30分浸けてみて色や形の変化が起きないかを検証するそうです。

人工乳房は主にシリコン製で熱や酸には強いのですが、温泉の泉質によっては変化が生じる可能性があるという心配が利用者から寄せられたことが今回の試みにつながったようです。北海道では帯広市の「天然温泉ホテル光南」と稚内市の「天然温泉港の湯」が参加しています。東北・北海道地区のスタート地点となった「天然温泉ホテル光南」のモール温泉、それを引き継いだ「天然温泉港の湯」のナトリウム塩化物強塩泉、それぞれにおいて、湯に浸けても問題がないことが確認されたということで、認定証が贈られることになりました。

この人工乳房は以前にもここで紹介したことがあります(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/03/blog-post_23.html)。以前は「ウロメディカルジャパン」という会社名だったと思いますが、名称を変更したのでしょうか?私のまわりでは、まだこの人工乳房を利用している方はいらっしゃいませんが、一度使用している患者さんに感想をお聞きしてみたいものです。

2011年10月23日日曜日

第21回 日本乳癌検診学会総会 in Okayama 無事終了!



今日の夕方、岡山から帰ってきました。 いろいろあってかなり疲れました(飲み過ぎが一番の原因かも知れません 笑)。

岡山に出発したのは10/20でした。超音波技師さん3人と一緒の便でしたが、G先生とN先生は遅い便だったので行動は別々になりました。3時くらいに着いたので、倉敷まで足をのばしてきました。ちょっと道に迷いましたが 美観地区を久しぶりに訪れることができました(写真)。 趣のある喫茶店で食べたあずきチーズケーキは美味しかったです!夜はホテルのある岡山に戻り、4人で焼き物中心の瀬戸内料理を堪能しました。

学会1日目(10/21)はきちんと早起きをして、午前中は超音波検診の セッション(口演)を聞きました。施設によって成績のばらつきがあるように見えたのが気になりました。昼はランチョンセミナーを聞きましたが、正直言って何も得るものはありませんでした。

午後からは釧路の系列病院の放射線技師さんの発表がありました。スライドのトラブルがあったにも関わらず、初めての発表なのに落ち着いていたのには感心しました。発表内容は、ここ数年で取り組んでいる女性スタッフのみで日曜日に行なっている乳がん検診と啓発活動についての報告でした。まだいくつかの課題があり、そこがより明瞭になったという点で有益な発表だったと思います。

夜はまた駅前の繁華街で飲み会でした。私を含めた乳腺外科医3人、道東の放射線技師さん、途中から岡山の系列病院のYI先生、G先生の友人の高知のA先生も参加して乳がんの診断についての熱いトークで盛り上がりました。

学会2日目(10/22)は、午前にSN技師さんの同時両側乳がんの口演と関連病院のT技師さんの1cm未満の乳がんの発見契機になった超音波所見についての口演がありました。2人とも発表経験のあるベテランの技師さんたちなので質問に対する応対も落ち着いており、つつがなく終了しました。

昼食後は時間が空いたので、G先生と2人で岡山城と後楽園(写真)にタクシーで行ってきました
。前に来たときもこの季節で花が咲いていませんでしたが今回も残念ながら彩りは寂しかったです。でも後楽園の庭園の中で花嫁さんが何人も式を挙げたり写真を撮ったりしていて、びっくりしました(北海道ではあまり見かけない風景です)。ずっと歩き回っていたので足が棒のようになってしまいました(泣)

午後からは、FN技師さんの異時両側乳がんのポスター発表がありました。年の功(失言でした…)か、 周到に用意したはずの原稿はまったく見ずにすらすらと発表を終えました。さすがです。今回の発表は3人ともかなり直前までやり直しや修正を行なっていましたが、最終的にはよくまとまった発表になったと思います。いずれも超音波検査 が早期乳がんの描出に非常に優れていることを強調した内容でした。これからもさらに診断に磨きをかけ、後輩を育てていって欲しいと願っています。

夜はまたもや飲み会(連日です…)。体調の良くなかった私は辞退しようかと思ったのですが、系列病院の旭川のSI先生が参加するということで打ち上げを行ないました。東京での研修時代に一緒に仕事をしていた宮崎在住の友人M先生も参加することになり、結局けっこう遅くまで飲んでしまいました。

二日酔いと疲れで今日はチェックアウト近くまでのんびりしてから帰路につきました。

この学会は、技師さんたちが日頃の仕事の内容をまとめたり、目的意識をもって研究したことを形にして発表する貴重な機会です。それはもちろん第1には患者さんのためであり、さらに自分自身の成長のためであり、同僚を育てるためでもあります。そしてそれらの成果が結果的に病院のプラスにもなるのです。ですから私たちの病院では、技師さんたちへの学会参加援助を増やすように求めた私の提案を受け入れてくれたのだと思います。逆に言うと、発表する技師さんとその指導者である私には重い責任があるのだと思っています。これからも病院からの援助をもらえるような学術活動を継続していきたいと思います。

2011年10月19日水曜日

第21回 日本乳癌検診学会総会 in Okayama 明日出発します!

2011.10.21-22の2日間、岡山市で乳癌学会総会が開催されます。明日、昼の便で岡山に向かいます。

かなりぎりぎりまで修正を繰り返していた3人の超音波技師さんの学会準備もなんとか終わり、あとは発表のみとなりました。3人とも2日目の発表のため、終わるまではきっと落ち着かないんじゃないかと思います。私は特にすることもないのでじっくり学会に参加して勉強して来ようと思っています。

欧州では最近、マンモグラフィ検診は乳がん死亡率低下には寄与していなかったという論文が発表されました。マンモグラフィ検診を導入していた国と導入が遅れた国(民族的には近い国同士)を比較した結果、どちらの国でも乳がん死亡率が同じ程度低下していたという結果だったため、乳がん死亡率低下の原因はマンモグラフィ検診の効果によるものではなく、乳がん治療の進歩によるものではないかという内容だったと思います。ただこれは別の国同士を比較していることや前向きの無作為比較試験ではないことから、この論文の評価は慎重にしなければなりません。

実際、今までにさまざまな国で検診の有無を無作為に割り付けた比較試験が行われ、マンモグラフィ併用検診の乳がん死亡率減少効果が証明されてきました。1993年に発表されたFletcherらによるメタアナリシス、1995年に発表されたKerlikowskeらによるメタアナリシスでも50歳以上ではマンモグラフィ検診によって26-30%の死亡率低下が報告されています。

ですからこの報告に対して乳癌検診学会が何かアクションを起こすとは思えませんが、一応注目して聞いて来ようと思います。このような報告が出るとすぐに「検診は有害無益だから受けるべきではない」と言う人たちがいますが、そのような考え方は何の進歩ももたらしません。できるだけ治癒できる状態で乳がんを発見したい、早期発見が治癒率を上げる、と信じているからこそ世界中で乳がん検診に力を入れてきたのです。マンモグラフィの問題点のみを挙げて検診という考え方そのものを否定するのは無責任で退行的な思考だと私は思っています。もしマンモグラフィだけでは力不足なら超音波検診などを併用して欠点を補う、マンモグラフィが仮に本当に有害無益ならそれに変わる検診手段を考える、それが医療者としての正しい思考だと思っています。

明日からはしばらくブログの更新ができないかもしれません。それでは行ってきます!

2011年10月16日日曜日

J.M.Sジャパンマンモグラフィーサンデー!

今日、10/16(日)は、「日曜日にもマンモグラフィ検診を受けられるようにしよう」というJ.POSHの呼びかけで始まった、J.M.Sジャパンマンモグラフィーサンデーの検診日でした。

J.M.Sの賛同医療機関は現在318施設あり、私たちの系列病院でも自施設を含めて3施設登録しています。私たちの施設では3年連続でこの運動に賛同して検診を行なってきました。

今回の検診は私が担当でした。予定は25人までとしていましたが、予約人数は予定より少し少ない20人でした。当日キャンセルが1人いたため、結局19人…。ちょっと寂しい人数でした。健診課の課長の話によると、最近では企業が積極的に乳がん検診を企業検診に取り入れてくれるようになったため、数年前に比べると日曜日の検診受診希望者が減っているとのことです。たしかに最近、平日の企業検診がとても増えているような気がします。

今日の受診者の内訳は、初めての方が5人、中断していた方が4人、繰り返し受診者が10人、年齢は、40才台が6人、50才台が7人、60才台が6人でした。気になった方は1人。前回の検診で触診では異常なしでしたが、今回は明らかな硬結を認めました。痛みを伴っていたため乳腺症としても矛盾しませんが、50才代後半の方なので今になって症状が出たというのは気になります。マンモグラフィを見た上で、超音波検査を追加して非浸潤がんなどの有無をチェックしようと思います。他には触診で気になる方はいませんでしたが、継続的に検診を受けるようにお勧めしました。

人数的には拍子抜けで残念でしたが、この検診がなければ受けれなかった方もいらっしゃるはずです。来年もJ.M.Sの賛同施設の申請をするつもりでいます。

2011年10月15日土曜日

第9回乳癌学会北海道地方会

今日、乳癌学会の地方会がありました。

私は他の学会が重なっていて外科医がいなかったため、関連病院の乳がん検診を終わらせてから午後の部から参加しました。午前中にN先生の症例報告の発表がありましたが、G先生によると質問に対する返答も無難にこなし、無事終了したようです。G先生は、午後から肝転移の長期生存例の報告をしましたが、こちらも順調に終了しました。

午後から聞いた中では、もともと自分のライフワークである再発治療のセッションはもちろんですが、若年女性に対する乳がん教育の効果の報告も興味深かったです。この研究の元になったアンケートは女子大生を対象に行なったようですが、高校生のうちから保健体育などで教育する機会を作るというのも良いかもしれないと思いました。また、肥満とアロマターゼ阻害剤の効果の報告もなかなか面白い研究内容だったと思います。アロマターゼは脂肪でアンドロゲンをエストロゲンに変える酵素ですので、その働きを阻害するアロマターゼ阻害剤は肥満の人では脂肪が多すぎるので効果が落ちるのではないか、ということを検証するのが研究の目的です。今回の発表では、有意差はありませんでしたが、アロマターゼ阻害剤を内服している患者さんにおいて肥満女性の方が予後が不良の傾向があったということでした。

途中、「コーヒーブレイクセミナー」で「アロマターゼ阻害剤の耐性機序」の講演がありました。基礎的なことは非常に難しいのですが、耐性には今のところ5つの機序が推測されているということで、それぞれについての解説がありました。今まで自分なりに考えていたことに新たな学問的エッセンスが加わったような気がします。積み残しになっている論文にも生かされそうな内容でした。

これでまずは一つ、終わりました。来週は乳癌検診学会です!