2009年7月6日月曜日

局所再発に対する治療の考え方

今回の乳癌学会でも局所再発に関してのパネルディスカッションがありました。
局所再発は、再発の中でも少し特殊です。何が特殊かというと、一般的に、乳癌が再発した場合、手術の適応になるのは稀ですが、局所再発だけは、手術という選択をすることがよくあるのです。

局所再発は、大きく分けて3種類あります。

①全摘後の皮膚から生じる狭い意味での局所再発…全摘をしたときに皮下に残ってしまった乳腺や脂肪内に癌細胞が残っていて再発する場合と皮膚のリンパ管内に癌細胞が残っていて再発する場合があります。前者は単発のことが多いので手術の良い適応になり、比較的予後は良好です。後者は多発したり、炎症性乳癌様の再発形式を取るので手術は困難であり予後も不良です。
②所属リンパ節再発…郭清したさらに遠方のリンパ節に再発したり、郭清した周囲組織内の遺残癌が再発したりしたものなどです。腋窩から鎖骨下までの範囲の再発に対しては手術を行なうことがあります。胸骨傍リンパ節に対しては、主に手術または放射線治療が選択されます。しかし、鎖骨上リンパ節に対しては、あまり手術は推奨されておらず、放射線治療が選択されることが多いようです。やむを得ない場合に、手術を選択することはあります。
③乳房温存術後の乳房内再発…初回手術時の癌の遺残が原因の場合と新たに癌が発生した多発癌が原因の場合があります。いずれも手術が第1に選択されます。①から③の中で一番予後は良いのですが、炎症性乳癌型の再発の場合は手術困難で予後は不良です。

問題は、局所治療(手術または放射線治療)後に全身療法をどうするか、ということです。

今回の発表の中に、局所治療のみで経過をみている患者さんの割合が非常に高い施設があったことに驚きました。当然、治療成績は不良でした。局所とはいえ、③以外は(③の一部も)遠隔転移のリスクが高くなる再発ですので(局所再発部位から筋肉内の血管に入り込んだり、リンパ節からリンパ管を介して静脈に流れ込んだり…)、全身療法は不可欠だと私は思っています。局所再発は、治癒する可能性のある再発です。そのためには局所治療と全身治療をうまく組み合わせることが重要だと私は考えています。

6 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

局所再発の治療が施設によって違いがあるのですね。驚きです。再発に限らず、治療にあたっては、施設や医師選択がとても大切なのですね、、kimikomew

hidechin さんのコメント...

kimikomew3824さんへ
局所再発に対する治療のガイドラインは存在しないので各施設で治療はまちまちです。局所治療のみでは不十分だということについては大方の意見は一致していると思います。局所治療+全身治療が全身治療のみより優れているかどうかについても結論は出ていません。ただ、局所再発は悪化した場合に対処が困難になるので、局所コントロールのために局所治療を加えることの意義については合意が得られていると思います。

kimity0115 さんのコメント...

一度乳がんになってしまったら、常に再発したら・・・っていう不安を抱えて生きていかなければならない事は覚悟の上ではあったのですが・・・

私も、「局所再発に対する治療のガイドラインは存在しないので各施設で治療はまちまちです。」を読んでいささか驚きました。

そうなんですか。。

まさに、人によって再発の仕方が様々で、治療方針も一概には決められないということなんでしょうかね。

その分納得いくまで、主治医としっかり相談して治療方針を選択していく必要があるってことですね。
本当に、ガンっていう病気は難しい一筋縄でやっつけられない厄介な病気なんだと思い知らされました。

ん~考えさせられますね。

再発したときの心構えがまた新たにつきましたし、今回の内容で治療方法はまちまちだという現状を教えて頂いただけでも、非常に勉強になりました。

いつも「乳がんを正しく理解するため」の記事を書いていただいて本当にありがとうございます<(_ _*)>

hidechin さんのコメント...

kimity0115さんへ
もし不安にさせてしまったのなら申し訳ありません。不特定多数の方がごらんになる可能性があるブログの中で、どこまで書いて良いのか迷う場合があります。ある人にとっては有益な情報であってもある人には知りたくなかった情報ということもありますからね。常にそういうことを意識しながら書くように心がけてはいるのですが…。

ガイドラインについて付け加えるなら、今でこそいろいろなガイドラインが作られてきていますが、ほんの少し前にはほとんどなかったのです。ですからガイドラインのない事柄もいまだにけっこう多いのです。また、ガイドラインがあってもそれがすべての患者さんに対して当てはまるというわけでもなく、あくまでも一つの基準にすぎません。

局所再発についても、個々のエビデンスはないわけではありません(乳癌学会で出版している薬物療法、放射線治療、手術療法のガイドラインに少しずつ出てはいます)。ですが、総合的な治療としてこれがゴールデンスタンダードというようにはなっていないということです。臨床試験の報告が不十分であることと、手術、放射線治療、化学療法をどのような順序でどのように組み合わせるのが良いか、様々なケースに対して細かく検討されているわけではないので、局所再発の治療に関するガイドラインはないと書いたのです。ですから学会でこのようなことが討論のテーマになり得るのです。

結局、局所再発とひと言で言っても患者さんそれぞれで違いますから、それらのいろいろなエビデンスを組み合わせて治療にあたっているのが現状です。これはある程度やむを得ないことだと思っています。ですからいたずらに不安になる必要はないと思います。ただ、細かいところで施設感の考え方の違いはあるかもしれません。もちろん、今あるエビデンスを無視して好き勝手な治療をするのは論外ですが…。

今後、様々な臨床試験の結果を総合的に解析して、少しずつ方針が明らかになっていくだろうと思います。

kimity0115 さんのコメント...

hidechin先生全然気になさらないで下さいね。
私は今までは、患者さんのブログをよく拝見しており、自分と同じように辛い治療を乗り越えてきた内容の体験談ほど、説得力があるものは無いので、とても励まされていました。
しかし、私は少しでも乳がんの専門知識を得て勉強したかったので、hidechin先生のような乳腺専門医が作成しているブログにたどり着いたときは、まさにこういうブログが自分の探し求めていたんだって、感激したんですよ!

しかも「乳がんを正しく理解するために」というとてもわかりやすい内容ですし^^
なので患者さんや患者さんでない人問わず、私も一人でも多くの方にhidechin先生のブログを読んで乳がんの知識を得てもらいたいと思ってるので、紹介させてもらっていますよ~ぺこ <(_ _)>

局所再発に関して、いたずらに不安に思う必要もなんだなと、コメント拝見して思いました。いつもこのようにフォローコメントいただけるので、とても安心できます。
お気遣いありがとうございます。

不特定多数の方が見られると思いますが、hidechin先生の信念を以って、情報をお伝えいただければ、その想いは読み手には必ず伝わると思いますよ!

これからも更新される記事を楽しみにしております^^

hidechin さんのコメント...

kimity0115さんへ
ありがとうございます。
少しでもお役に立てれば何よりです。これからも患者さんはもちろん、一般の方が知りたいような情報について書いていきたいと思っています。kimity0115さんも何かここに書いてほしいリクエストがあればお知らせ下さいね。