2009年7月13日月曜日

抗癌剤の副作用2 脱毛

”抗癌剤治療が必要です”と言われて真っ先に思い浮かぶ副作用の一つが脱毛だと思います。特に女性にとってはかなりショックな出来事です。今回は、この脱毛に関するお話を少ししてみます。

1.脱毛するメカニズム
抗癌剤は細胞周期(細胞を複製するために染色体を合成・分裂させるサイクル)のある特定の時期に作用して細胞を死滅させます。これは癌細胞に限らず、正常の細胞にも副作用として影響します。ただ、正常細胞は癌細胞に比べて細胞周期が一般的に遅いため、ほとんどの細胞はあまり影響を受けません。ただ、消化管粘膜や毛母細胞、骨髄細胞などは細胞周期が速いため、一定の割合の細胞が影響を受けてしまいます。ですから、口内炎、下痢、脱毛、骨髄抑制などが抗癌剤投与時に起きやすい副作用なのです。特に毛髪は90%が分裂の活発な状態にあると言われているため、高頻度に脱毛が起きるのです。通常、抗癌剤投与の2-3週間後から起きはじめ、抗癌剤終了後3−6ヶ月くらいから再生が始まります(薬剤によってはもっと早くから生えはじめます)。

2.抗癌剤の脱毛頻度(乳癌領域)
・脱毛率50%以上:パクリタキセル(80.4%)、ドセタキセル(71.8-77.5%)、ドキソルビシン(60%)、エピルビシン(65.1%)
→標準的なFECやタキサン系の抗癌剤はすべて脱毛しやすい薬剤です。
・脱毛率5-49%:ビノレルビン(24.9%)、シクロフォスファミド(24.3%)、メトトレキサート(14%)
・脱毛率5%未満:マイトマイシンC(2%)、5FU(2%)

3.脱毛の対策
①頭皮・毛髪のケア:あらかじめ短めにカットしておく、爪などで頭皮を傷つけない、毛根を清潔にする、プロテインリッチシャンプーの使用、ドライヤーを控える、ブラシは柔らかめのものを使用、毛染めは控えるなど。
②頭部冷却法:アイスノンベルトなどで頭部を冷却して、毛根部の血流を低下させることによって抗癌剤の影響を少なくしようとする試みです。以前はさかんに行なわれていましたが、脱毛を予防できるエビデンスに乏しく、頭皮への転移を増加させるという報告もあって(これもエビデンスはないようです)最近ではあまり積極的には行なわれていません。
③Wig、帽子:脱毛しはじめたら毛が散乱しますし、人目も気になりますので、やはり何かで覆う方が良いでしょう。帽子やスカーフなどで覆うのが一番安価です。着脱が簡単で、素材を変えれば夏も蒸れにくいという利点もあります。ただ、抗癌剤治療中であることはだいたいわかってしまいますので、仕事や外出の際のためにもWig(かつら)はあったほうが便利です。Wigには、人毛、人工毛、ミックスがあります。材質、メーカーによって値段は2万くらいから2-30万まで様々です。いくつかのメーカーのパンフレットを取り寄せてみたり、ネットで情報を集めるのも良いと思います。ただ、医療用(抗癌剤治療用)であることは確認して下さい。

一般的に有名メーカーで高額な方がアフターサービスも万全で安心、と思われる傾向があります。確かに一理ありますし、安すぎるものの中には粗悪品が含まれることもあります。

でも以前、ある学会でこんな出来事がありました。
その学会にはたまたま抗癌剤治療中の私の患者さんも参加していて、ある有名Wigメーカーのブース前で女性スタッフに声をかけられたんです。その患者さんは医療関係者と間違われたらしく、女性スタッフは自社製品の良さを一生懸命アピールしていました。

彼女曰く、
”当社の製品は高いとお思いかもしれませんが、女性は毎月1-2万かけて美容室に行くでしょう?Wigを使用する1年間は美容室に行かなくてすむのですから20万は高くないですよ(美容室に毎月1−2万かける人ってそんなにいますか?)”
”安いWigはダメです。すぐにずれますし、見ただけでかつらだってわかっちゃいますからね!”

そばで聞いていた私は吹き出しそうになるのを必死にこらえていました。その患者さんは、比較的安い(4万前後)Wigをかぶっていたんです。そのことに気づかなかったその女性スタッフは、4万くらいのWigでも十分であるということを見事に証明してくれたんです!ちなみにその患者さんは、Wigが思いのほか安かったので、ショートとセミロングの2種類を買って、その日の気分で変えて楽しんでいたようです。

お金に余裕があるのでしたら、名の通ったメーカーのほうがアフターサービスの点からも安心かもしれません。でも、必ずしも高額な製品でなくてもそれほど問題ない場合もあるということです。そこのメーカーは美容室経由で取引されているので、美容室でアフターケアもしてくれたようです。近くに住む患者さんからの情報を参考にして選んでみるのも良いかもしれませんね。

10 件のコメント:

kimity0115 さんのコメント...

正直、私も主治医に抗がん剤勧められて一番初めに頭によぎったことは、「髪の毛が抜けちゃう~~・・・・・」でした。
人によって価値観は違うかもしれませんが、私は、髪の毛抜けるくらいなら、死んだほうがまし!と言って抗がん剤を拒否したかったほど悩みましたもの。。
「また生えてくるから・・」と言う周りの慰めなんて聞こえやしなかった位です。

私はロングだったので、抜けてしまったら元の長さにもどるまで2年はかかります。。

一連の標準的な治療の中で、女性として、脱毛ほど悲しく辛かったことはないですね。


でもがん治療の避けては通れない抗がん剤治療ですものね。。

ウィッグをかぶる習慣なんて無かったですし、帽子やウイッグで気分転換して楽しもう~~っていう風に、前向きに思えることができる、そういう状況を受け入れることができる性格の持ち主ならいいですけど・・なかなかすぐには気持ちわ切り替えることはできないものです。。
人それぞれかも知れないですけどね。。

以前、「普通は脱毛するはずの抗がん剤なんだけど、その病院では脱毛させない抗がん剤治療をしている」とういう乳がんの女性とPCを通して出会い話しを少しだけしたことあります。

どこの地方の病院か忘れてしまいましたが、患者さんたちには、かなり有名らしく全国各地から通院して居る方が大勢いらっしゃるそうなんです。

脱毛しない抗がん剤なんて夢のような事じゃない??って、半信半疑で当時は思いながら話しを聞いていましたけど・・

脱毛のメカニズムから、毛母細胞は周期が早いから、必ず抗がん剤の影響を受けてしまうんですもの、ありえないですよね

その女性は脱毛率5%未満のお薬を使っていただけなんでしょうか。。

やはりこんな夢のような抗がん剤なんて実在するわけないですよね。

今の医学からして、将来的に脱毛をさけることができる抗がん剤の医薬品の開発って可能なんでしょうか?

hidechin先生、唐突な質問をしていまい申し訳ございません。愚問でしたらスルーしていただいて結構ですので。。ぺこ <(_ _)>

hidechin さんのコメント...

kimity0115さんへ
残念ながら今のところ脱毛を予防する薬の開発はされていませんし、頭部冷却療法の効果も不十分と言われていますから、標準的なFEC療法を行なって脱毛させないというのは非現実的だと思います。
ただ、私たちも強く脱毛を拒否される患者さんには、CMF療法という治療を行なうことがあります。少し前まで乳癌術後の標準的な化学療法だった治療です。FECなどより再発予防効果は少し落ちますがこの治療ではほとんど髪の毛はぬけません。もしかしたらその病院ではこの治療を勧めていたのかもしれません。

ちなみに脱毛しない化学療法は今でもありますよ。抗癌剤とは少し違いますが、ハーセプチンやラパティニブのような分子標的薬は脱毛しません。最近は、細胞毒性の強い抗癌剤から比較的副作用の軽微な分子標的薬に開発がシフトしてきています。いつか脱毛しない術後療法が標準的な治療になる日が来るかもしれませんね。

リンダ さんのコメント...

私も、抗がん剤のおかげで、坊主頭を経験できました 笑

私はデパートで高額なほうのウイッグを購入しましたが、そんなに高くなくても良かったと思います。先生の患者さんのように、違うスタイルをもうひとつ持って楽しんだほうが得策ですよね。


私は夏場でしたから、ウイックを着けたら、もぉ~むれむれ状態・・汗たらたらでした。
地毛は汗も吸収してくれるすぐれものですね。
毛を無くして、髪のありがたみを感じました。


抗がん剤終了後の、その後なんですが・・・

確かに 毛は生えてきましたが・・

前髪が生えにくい・・
病院内にある美容院の人が「抗がん剤したらなぜか、前髪はみなさん生えないのよ」と言われてましたが、
まつげのように、長く生えずに短いのです。

それと、髪質が私は直毛だったのですが、抗がん剤後はクセ毛になりました。

と言うことで、年齢や抗がん剤の量により違いもありますが、
私は元の元気な髪にはなりませんね・・涙

hidechin さんのコメント...

リンダさんへ
そうなんですか。生え変わった髪の毛は毛質が違ったり(縮れ毛や細いなど)、白髪が増えたりするのはよく聞きますね。ただ、もう一回生え変わるともとに戻ることが多いようですが、リンダさんの場合は違ったんですね…。
それにしてもWigは夏場は大変みたいですね。こちらは北海道なのでいいですけど、本州や九州、四国の患者さんはお気の毒です。どうして地毛の場合はそうでもないのにWigだと蒸れるんでしょうか?やっぱりネットの影響なんでしょうかね。

Unknown さんのコメント...

脱毛は女性にとって、とても大きな問題ですよね。kimity0115さんリンダさんもさぞかし心を痛められたこととおといます。私も医療の現場で何人もの脱毛された患者さまと接してきました。皆さん治療後には、立派な髪が復活されています。将来、脱毛の副作用のない新薬がたくさんでてくるといいですね。kimikomew

hidechin さんのコメント...

kimikomew3824さんへ
脱毛は女性にとってものすごく大きな精神的負担ですよね。それでも時間とともにそれを乗り越えていく患者さんたちの姿にはいつも勇気づけられます。もちろん、脱毛しない化学療法がもっと増えることを私も期待しています。

ミチ さんのコメント...

hidechin先生 

こんにちは。いつも為になるブログ、また楽しいお話など興味深く読ませていただいています。
古い記事にコメントしてしまってすみません。
インターネットで調べてみたり、質問してみたりしたのですが、なかなか有益な答えが得られず、お忙しいとは知りながら、hidechin先生に伺ってみることにしました。

1年半前に、抗がん剤(タキソテール、エンドキサン)の4クール目が終了し、その後、すっかり脱毛した髪も少しずつ生えてきて、今は不揃いなショートカット、という感じぐらいになっています。
ただ、長さはショートカットなのですが、生え変わった髪質が、他にコメントしていらっしゃる方と同じく、細くてちぢれ毛なんです。そして、パっと見た感じ「薄い〜」という印象(ところどころ地肌がうっすら見える)。以前は(脱毛する前は)直毛で、髪は多い方でした。なので、いくら伸びるのを待ってみても、この髪のままでは外出できないので、外出時はいつもウィッグをつけています。
ただ、本当に暑くて蒸れるんですよね、、。なので、これから本格的な夏がやってくると思うと、、。
そこで、もしかして、待っていたらいつかは、いずれは立派な髪がふさふさと生えてくるのなら、このままウィッグをかぶりながら、この夏を乗り越えてみようかと思うのですが、いくら待っても細いちぢれ毛、そして薄い髪、、ならば、もういっそうのこと、敢えて丸坊主に剃ってしまって、ウィッグをつけて過ごそうか、、、などと思って、悩んでいます。
男性である先生には、ここまで気にすることはない、と思われてしまうかもしれませんが、やはり、かなり深刻なんです、、、。
以前は外出するのが大好きだった私が、今は、ウィッグをつけるのが億劫で(暑いから)、ほとんど外出しなくなってしまいました。
何がご存知のことがありましたら、どうぞ教えてください。よろしくお願いいたします。

hidechin さんのコメント...

>ミチさん
脱毛については女性にとってとても重要なことだと思っています。ですから「ここまで気にすることはない」なんて思いません。
ただなかなか良いアドバイスをしてあげることはできません…。患者さんからの経験談によると最初に生えて来る毛は質が違うことが多い(白髪が多い、細い、縮れているなど)のですが、生え変わるともとの毛質に近くなると聞いています。
ミチさんは最後の抗がん剤が終わって1年半たちますので生え変わっていますよね?私の患者さんの中にはあまりそこまで長引いた方は記憶にないのですが、体質もありますし、もう少し待てば元のような毛質になるのではないでしょうか?抗がん剤でいつまでも薄いままという方は経験がありませんので…。
あまりお役に立てなくてすみません。
早く元に戻ると良いですね。

ミチ さんのコメント...

hidechin先生
お忙しい中、わざわざお返事下さりどうもありがとうございました。
そうですね、もう少し気長に元の髪になるのを待ってみようと思います。

hidechin さんのコメント...

>ミチさん
早く元の髪に戻るといいですね。お大事に!