2009年7月23日木曜日

抗癌剤の開発〜シビアな実態

いま私の働く病院に米国から女医さんが研修(見学)に見えてます。彼女は、長い間基礎研究をしてきた方で、現在抗癌剤(分子標的薬に抗癌剤を結合させた薬剤=ミサイル療法)の研究・開発に携わっている企業で働いているそうです。

今日は午前中に化学療法室を見たいとのことでしたので、私が化学療法室と薬剤部をご案内し、診察にも一緒に入っていただきました。彼女の知っている米国の化学療法専門病院とは比べものにならないほど小規模の質素な施設ですので、ちょっと驚かれたようでした。

そのあと医局でいろいろ米国のお話をお聞きしました。抗癌剤開発についての日米の差、一つの薬剤を開発して人体に対して臨床試験で投与するまでに10年くらいの月日と莫大な費用を費やしていること、それで却下されたらすべて水の泡になってしまうこと…。

その中で彼女から聞いた興味深い話があります。彼女が関わっていた卵巣癌に対する非常に有望とみられていた薬剤についてのお話でした。

この薬剤は、ラットまでの投与ではまったく重篤な副作用などの問題もなくクリアし、癌に対する作用も優れた結果を残していました。ところがサルに対する用量負荷試験で、高用量を投与すると致死的な肺の炎症が起きることがわかったそうです。ただ、その量は癌に対して有効な量の3倍以上多い量だったそうです。安全域が広いので大丈夫ではないかと開発チームは考えたとのことですが、結局臨床試験の会社内の審査で人体への投与は却下されたそうです。ここまで来るのにかかった長い年月と費用、研究チームの努力はすべて無になってしまいました。

おそらく、社内の判断では、有効量で投与した場合は大丈夫だったとしても、長期に繰り返した場合に同様の副作用が出る可能性があること、肺に起きた副作用の機序が不明であることなどから、将来的に臨床試験を進めた場合にもっと多額の費用(賠償金も含めて)と時間が無駄になる可能性を考えたのだろうと思います。効果があるのに副作用との兼ね合いで商品化されない抗癌剤は山ほどあるのだということを実感しました。そして、このような研究チームの長年の努力によって開発され、厳しい審査をクリアし、臨床試験を経たごくわずかな薬剤のみを私たちが使用できるのだということを改めて感じました。

抗癌剤を悪者にしたがる一部の人たちには、一度こういう分野で日々開発に苦労している研究者の実態を見てからそのようなことを主張して欲しいものだと思いました。

4 件のコメント:

kimikomew3824 さんのコメント...

シビアですね、、ひとつの薬剤が世に出てくるまでには多くの年月がかかるのは理解していましたが、それに携わる方々のご苦労も大変なものののですね。米国から研修にお見えなのですね、、米国での抗がん剤治療の講演会など予定されるとうれしです^^kimikomew

hidechin さんのコメント...

kimikomew3824さんへ
8月いっぱいはこちらにいらっしゃるようですが、対外的な講演会などの予定は聞いていません。貴重な機会なので米国の医療事情なども聞いてみたいですね。

kimity0115 さんのコメント...

ほんとに一つの薬が世に出るのは大変なことなんだと実感しました。

お互いの国の諸事情もあると思いますが、日米交流で両国の良いところも悪いところも話しあって、コミュニケーションとると、いろいろ気づく点もでてきそうですよね。
また医療従事者ひとりひとりの自己啓発につながり、意識の改革もできると思うので、こういった研修制度をもっと充実していただくと、世界規模での今後の医学の進歩に拍車がかかると思います!

hidechin さんのコメント...

kimity0115さんへ
そうですね。うちの病院は得に国際交流という点では弱いと思いますのでこういう機会をきっかけに情報交換していければいいなと思います。