乳癌と診断された患者さんに、同時に対側乳房にも乳癌が発見される(原発性同時性両側乳癌)確率は約2.5%くらいと言われています。乳癌を発見した際、その状況の把握についつい気を取られがちですが、対側乳癌は意外と多いため、その存在に医師や技師は注意が必要です。
通常、対側乳癌の発見はマンモグラフィ(石灰化など)や超音波検査による場合がほとんどです。しかし最近では術前に乳房MRを撮影する機会が増えたため、MR発見の対側乳癌もときどき経験するようになりました。
今回、米国メイヨー・クリニック放射線腫瘍学のJohnny Ray Bernard Jr.らは「新規の乳癌が片側乳房に発見された閉経女性では,MRIで対側乳癌が検出される率が閉経前女性より高い」との研究結果をBreast Journal(2010; 16: 118-126)に発表しました。
要旨は以下の通りです。
<対象・方法>
対側乳癌のMRIによる検出率を調べるために,乳房視触診やマンモグラフィで片側乳房にしか癌が発見されていなかった女性425例にMRI検査を実施し,そのデータを後ろ向きに検討した。
<結果>
①対象女性の3.8%で対側乳房に癌が発見された。これらの女性はすべて閉経女性だった。
②対側乳房に癌が検出される率が若年患者に比べ高齢患者で高く,70歳以上の患者129例の5.4%にMRIで対側乳癌が検出された。
③MRIで疑わしい病変が発見されたのは対象女性425例中72例で,このうち16例(22%)で乳房生検により対側乳癌(ステージ0~1期)が確認された。これらの癌は,一般的なスクリーニング法では発見されていなかった。対側乳癌と診断された16例中7例が70歳以上であった。
残念ながらこの報告からは、若年者の対側乳癌発見に対するMRの有用性は証明できなかったようです。
マンモグラフィは若年者の乳癌発見(特に石灰化を伴わない小腫瘤)にはあまり適しません。これは何度か述べているように、若年者の乳房は乳腺量が多く、高濃度に写ってしまうことに起因します。一方、MRは非侵襲的で、いろいろな角度の乳房断面を画像化できるため、高濃度の乳腺でも病変が指摘可能ではないかと期待が持たれています。将来的には若年者の乳がん検診に導入されるのでは、という声もあるくらいです(造影剤を使用すること、高額であること、時間がかかることなどがネックですが…)。ですから対側乳癌の発見においてもMRは有用だと思ったのですが…。
対側乳癌の発見と乳がん検診とは違いますが、MRがむしろ高齢者の対側乳癌発見に有用だったとの報告は若干意外でした。これは米国では超音波検査をあまり行なわないことも関係しているのかもしれません。実際、私の経験上も対側乳房の超音波検査による詳細な検索によって発見された対側乳癌はけっこう多いです。
MRと超音波検査のどっちが良いかは比較試験を行わなければ結果は出せませんが、とりあえず超音波検査で対側乳房の詳細な検査を行なった上で、MRのみに写る病変をさらにチェックするという方法で同時両側乳癌にも注意をしています。
0 件のコメント:
コメントを投稿