今日、第55回の乳腺術後症例検討会がありました。
今回も4症例でしたが、2例は嚢胞内がん(1例は微小浸潤あり)、1例は超音波検査で発見された非浸潤がん、そしてもう1例が腋窩腫瘤で発見された乳がん(広い意味ではOccult cancerとも言える症例)でした。
このOccult cancer症例は、同時に行なったマンモグラフィは異常なし(比較読影でわずかな濃度上昇あり)、乳腺超音波検査異常なしで診察室に入ってこられた方でした。触診で腋窩に4cm大のしこりを触れたため、再度超音波検査を行ないましたがはっきりした腫瘤を認めませんでした。MRでは外上領域の脂肪内に小さな染まりを認めたため(従って厳密に言うとOccult cancerではありません)、合計4回にわたって超音波検査を行ないましたが結局原発巣は指摘できませんでした。今まではMRで明らかに染まった症例の原発巣は少なくとも再検査の超音波検査で指摘できたのですが、今回ばかりはどうしてもわかりませんでした。
最終的に患者さんの同意を得て胸筋温存乳房切除術を行ないましたが、病理結果もかなり変わっていました。原発巣はMRの指摘通りの部位に認められ、硬がんと浸潤性微小乳頭がんが主成分でごく一部に粘液がんの成分を混じる複雑な形態をとっており、腋窩リンパ節転移巣は、ほとんどが粘液がんの形態をとっていたのです。
通常、Occult cancer様の形態をとる場合、原発巣より転移巣が大きいわけですから、理論的には転移巣の細胞は悪性度が高いことが推測されます。しかし今回のケースでは一般的におとなしいはずの粘液がんの成分の転移リンパ節が大きく腫大しており、原発巣の悪性度が高いはずの浸潤性微小乳頭がんの成分は転移巣には認められませんでした(リンパ節転移巣が浸潤性微小乳頭がんの細胞が主成分なら理解できるのですが…)。悪性度の高い浸潤性微小乳頭がんが原発巣でなぜ大きくならなかったのか、おとなしいはずの粘液がんがどうして転移リンパ節であんなに大きくなったのか、非常に興味深い症例でした。
最近、札幌では暖かくなったと思ったら雪が降って冷え込んだり、おかしな天気が続いています。そのせいかまた風邪を引いてしまいました。天候不順は全国的なようです。皆さんも体調管理には気をつけましょう!
8 件のコメント:
初めまして。乳がん判定のための摘出検査を検索していたところ、先生のHPに出会いました。
健康診断のマンモ検診で両胸に石灰化が見つかり(触診は所見なし)精密検査となり、再度マンモと超音波検査を受けたところ、ひだり胸に腫瘍が見つかりました。
12mm大のしこりです。
さらにMRI検査を受け、その後針生検(エコー下)を受けました。
結果は良性か初期の悪性かの確定することができない、判断がむずかしいとのこと。まるごと切除して検査する切除検査が望ましいと説明されました。
またその際センチネルリンパ検査をすることも考えられるとのことでした。切除後ではセンチネルリンパ検査の精度が著しく低下するとの理由でした。
4日に手術日程のため受診するのですが、時間がたつほど迷っています。
仮に良性でも腫瘍はとっておいたほうがよいのでしょうか。また、センチネルリンパ検査の時期と精度はどうですか?
腫瘍はとったほうがよいのかもしれませんが、センチネルリンパ検査の後遺症や傷のことを思うと迷います。
このような進み方は考えられることなのでしょうか? ご助言をよろしくお願いいたします。
>匿名さん
同じようなケースは私も時々遭遇します。どの程度悪性が疑わしいかにもよりますが、万が一悪性だった場合にセンチネルリンパ節生検が難しくなることは事実です。ですから強く悪性を疑う場合にはよくご説明した上で確定診断がついていなくてもセンチネルリンパ節生検を同時に行なうことがあります。センチネルリンパ節生検の傷はそれほど大きくなく、後遺症が残る心配もほとんどありませんから、後々のことを考えると同時に行なっておくほうが良い場合もあるのです。
私の病院ではCTリンフォグラフィという検査を手術前日に行なってマジックで位置をマーキングしてから手術時に色素法でセンチネルリンパ節生検を行なっています。匿名さんのようなケースでどちらかと言えば良性を疑う場合にはCTリンフォグラフィのみ撮影し、センチネルリンパ節の部位を同定しておいてから腫瘤の切除を行ない、万が一悪性だった場合には再手術前にCTを再度撮影して、前回撮影したCTリンフォグラフィに写ったリンパ節の位置を同定してマーキングを行なうという方法を行なっています。この方法だと良性だった場合によけいな傷をつけずにすみます。ただこの方法(CTリンフォグラフィ)を全ての施設で行なっているわけではありませんので、最終的には主治医の先生とのご相談の上での判断になると思います。
なお、「仮に良性でも腫瘍はとっておいたほうがよいのでしょうか?」というご質問ですが、今回は「良性であることを断定できない」から切除を勧められたのだと思います。良性でも切除する場合はありますが(増大する線維腺腫や血性乳頭分泌を伴う乳管内乳頭腫など)、今回は確定診断がつけられないということが切除を勧められた理由だと思います。ですから切除はすべきなのではないでしょうか?(病理診断のセカンドオピニオンを受けるという方法もありますが…)
早々に回答いただきありがとうございます。
同じようなケースが時々あるとのこと、その点で少し安心しました。針生検でほとんど確定できるところだが今回は判断できないとの主治医の話だったので、その段階で腫瘍切除やセンチネルリンパ節生検を同時にすることが、まれなことなのか、よくあることなのかわからないことが不安になった理由です。
主治医からは良性か悪性かは五分五分で、仮に悪性でもきわめておとなしい状態といわれています。この場合だと先生の病院ではセンチネルリンパ節切除はまだしない可能性があるということでしょうか。
主治医とは別の先生のお話をうかがって、すこし落ち着きました。次回の診察で不安な部分をよく聞いたうえで、切除を受ければいいのだなと思います。
お忙しいところ、ていねいに回答いただきありがとうございました。
>匿名さん
五分五分の可能性であれば、もし私がCTリンフォグラフィをしていない施設にいたなら、センチネルリンパ節生検を勧めると思います。
よくご相談なさって下さい。それでは。
初めまして、こんにちは。
浸潤性微小乳頭癌を罹患しております、34歳reneと申します。
自分の病気についてインターネットで情報を集めようとしましても症例が少ないせいかなかなか情報を得られないのですが、hidechin先生のHPに時折記事が出ているので参考にさせて頂いております。
大変失礼かとは存じますが、hidechin先生にお聞きしたいことがあり、ご回答頂けますと幸いです。
<質問内容>
2011年12月、浸潤性微小乳頭癌と告知されました。
左乳房に約10×7cmのしこり、脇と鎖骨上リンパ節への転移があります。ホルモン受容体陽性、HER2陰性、Ki-67は20%です。
2012年2月から術前化学療法を開始。FEC×4クール、パクリタキセル×12クールを受けました。
終了後受けたMRI結果、及び今月(8月)24日の全摘手術については、これから主治医の説明を受けます。
そこでhidechin先生にお聞きしたいことが以下です。
①予後が悪いと言われる浸潤性微小乳頭癌の術後治療において、最も転移再発を予防する治療法は何でしょうか?
現段階で主治医からは「ホルモン治療は必須、術後抗がん剤(ジェムザール)と放射線治療は必ずしも必須ではなく、手術の結果次第」との説明を受けていますが、インターネットの情報では、浸潤性微小乳頭癌は放射線治療が必須とあります。
②インターネットで、浸潤性微小乳頭癌は抗がん剤・ホルモン治療がよく効くという記載がありましたが、事実はどうなのでしょうか?
③最後に、可能な限りで結構ですので、浸潤性微小乳頭癌に関してhidechin先生がお持ちの情報(生存率など)やご見解等をお聞かせ願えないでしょうか?
大変お忙しい中恐縮ですが、どうかよろしくお願いいたします。
>reneさん
はじめまして。
可能な範囲でお答えします。
なお関連した内容はhttp://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2012/02/16invasive-micropapillary-carcinoma.htmlにも少し書いてありますのでご参照下さい。
①浸潤性微小乳頭癌だから特別な治療をするということは今のところ一般的ではありません。この組織型が問題になるのは、悪性度が高いため進行が早く、容易にリンパ節転移を起こしやすいからです。
しかし私も数例経験がありますが、リンパ節転移がない状態で早期発見されることもあります。この場合、例えばLuminal A(ER(+) PgR(+ )HER2(-) Ki-67低値)でリンパ節転移がなければホルモン療法のみで良いのです。また浸潤性微小乳頭癌だから放射線治療が必須ということはありません。
ですからreneさんの治療は、この組織型だからということではなく、リンパ節転移が高度であったことを判断根拠にして決定すべきだと思います。現在、リンパ節転移個数が4個以上の場合は、PMRT(術後胸壁照射)が推奨されています。reneさんの場合はこれに当てはまるのではないかと推測されますが術前化学療法で転移が消えてしまうこともありますので術前の臨床所見と術後の病理結果を総合的に検討して判断されるのではないかと思います。鎖骨上リンパ節転移が間違いなくあったのでしたら、術前化学療法で消えていたとしても私でしたら照射をお勧めします。
術後の抗がん剤追加についてはエビデンスが不十分です。ホルモンレセプター陽性ならホルモン療法のみという場合が多いと思います。ただ施設によっては病理結果をみて化学療法を追加する場合もあるかと思います。
②浸潤性微小乳頭癌が他の組織型に比べて、抗がん剤が効きやすい、またはホルモン療法が効きやすいという報告はあまり聞いたことがありません。
③この組織型が正式に乳癌取扱い規約に掲載されてから、まだそれほど年数が経過していませんので、十分な情報の解析はなされていません。一般的な情報としては、上記のように増殖スピードが早く進行した状態で発見されることが多いこと、そのことによって他の組織型に比べると予後が不良なこと、治療法としては他の組織型と区別はされていないことくらいでしょうか。
あまりお役に立てなくてすみません。これから多くの解析がなされて、この組織型にもっとも適している治療法が確立されると良いですね。それではお大事に!
hidechin先生、お忙しい中早速のご回答まことにありがとうございました。
抱えておりましたモヤモヤが解消され、すっきりした気持ちで手術及び今後の治療に取り組めそうです。
心から感謝致します。
浸潤性微小乳頭がんだからといって特別な治療をするわけではないと聞き、私がかかっている病院があくまでも標準的な対応をしてくれているのだと知るだけでも収穫でした。
また、術後抗がん剤には十分なエビデンスがないことも参考になりました。
鎖骨上リンパ節への照射については、主治医に話してみたいと思います。
浸潤性微小乳頭がんは、抗がん剤、ホルモン療法が効きやすいという報告がないのですね…がっかりです。
主治医からは、「トリプルネガティブの方と違い、ホルモン療法があるんだもの。落ち込まないで」と言われていましたが、リンパ節転移してる場合の浸潤性微小乳頭がんは、どの病系分類よりもタチが悪そうで怖いなとう印象を受けました。
一刻も早く、良い治療法が確立されることを切に願います。
また何かの機会で質問することがあるかもしれません。
その時はどうか宜しくお願いします。
>reneさん
特別危機が良いとは言えませんが効きが悪いとも言えないのでがっかりすることはありませんよ。ホルモン療法が効くことはプラスに考えて、前向きに治療を受ける方が良いと私は思います。
なお、術後化学療法のエビデンスが不十分というのは、術前化学療法でアンスラサイクリンとタキサンを使用している場合に術後にさらに他のレジメンを追加するケースの話ですので念のため補足しておきます。
今後の経過が順調であることをお祈りいたします。
お大事に!
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