2013年4月12日金曜日

デュロキセチン〜抗がん剤による末梢神経障害に対する新たな治療薬

抗がん剤によるやっかいな副作用に、しびれなどの末梢神経障害があります。乳がん領域においては、タキサン系(特にパクリタキセル)やビンカアルカロイド系(ビノレルビンなど)でよくみられます。生命を脅かすような副作用ではありませんが、日常生活においてかなりわずらわしい副作用であり、時にQOLを低下させる原因となります。私たちの病院でもパクリタキセルの反復投与で長く神経障害に苦しむ患者さんたちを経験しています。

この末梢神経障害に対する特効薬はなかなかないのが現状です。以前ここでも書きましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2010/12/10.html)、今まで効果があると言われてきた治療には限界があり、まったく効かないこともよくありました。

このやっかいな末梢神経障害に対して、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬のデュロキセチン(商品名:サインバルタ)という薬剤が効果的であったというCALGB-170601試験の報告がJAMA誌2013年4月3日号に掲載されました。この薬剤はもともとうつ病やうつ状態、糖尿病性神経障害に対して保険適応となっている薬剤です。

この臨床試験の概要は以下の通りです。

<CALGB-170601試験>
「化学療法薬誘発性末梢神経障害に伴う疼痛に対するデュロキセチンの効果を評価する二重盲検プラセボ対照クロスオーバー第III相試験」

対象: 25歳以上、化学療法薬(パクリタキセル、オキサリプラチン、ドセタキセル、ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセル、シスプラチン)によって誘発された末梢神経障害と診断され、治療終了後3ヵ月以上持続するGrade 1以上の神経障害性の疼痛(NCI-CTCAE ver3.0)を伴う患者。

方法: 化学療法薬および疼痛リスクで層別化したのち、デュロキセチン治療後にプラセボ投与に切り替える群(A群)またはプラセボ投与後にデュロキセチン治療に切り替える群(B群)に無作為に割り付けた。両群とも5週の治療を行い、2週休薬後にクロスオーバーしてさらに5週の治療を行った。投与量は第1週が30mg/日、第2~5週は60mg/日とした。
疼痛の重症度の評価には、簡易的疼痛評価用紙短縮版(Brief Pain Inventory-Short Form)の疼痛スコアを用いた(疼痛なしを0とし、重症度を1~10で評価)。

結果: 2008年4月~2011年3月までに220例(平均年齢59歳、女性63%、パクリタキセル40%、オキサリプラチン59%、乳がん38%、消化器がん56%)が登録され、A群に109例、B群には111例が割り付けられた。フォローアップは2012年7月まで行われた。
最初の5週の治療における疼痛スコアの低下は、デュロキセチン治療(A群)が平均1.06[95%信頼区間(CI):0.72~1.40]と、プラセボ(B群)の0.34(95%CI:0.01~0.66)に比べ有意に優れていた(p=0.003)。低下した疼痛スコアの両群間の差は0.73(95%CI:026~1.20)だった。
最初の5週の治療で疼痛が軽減したと答えた患者の割合は、デュロキセチン治療が59%と、プラセボの38%に比べ高かった。デュロキセチン治療の30%が疼痛は不変とし、10%は増大したと答えた。
クロスオーバー後の治療期間中の疼痛スコアの低下は、プラセボ(A群)が0.41(95%CI:0.06~0.89)、デュロキセチン治療(B群)は1.42(95%CI:0.97~1.87)であり、低下した疼痛スコアの差は1.01(95%CI:0.36~1.65)であった。


この結果から、デュロキセチンは化学療法の神経障害に一定の有効性があると推測されます。ただ、詳細な解析からは、デュロキセチンはタキサン系薬剤よりもオキサリプラチンによる末梢神経障害性疼痛に有効だったそうですので、乳がん領域における神経障害の治療には直接結びつかないかもしれません。タキサン系やビンカアルカロイド系の神経障害に対してどの程度有効性があるのかということに関してはもう少し追加の検討が必要だと思います。続報を待ちたいと思います。

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