2013年11月28日木曜日

授乳期乳がん

授乳している時期に発見された乳がんを授乳期乳がんと呼びます。”授乳期乳がん”という特別なタイプの乳がんがあるわけではなく、診断時期による分類です(妊娠期乳がんも同様)。

授乳期の乳がんは、一般の乳がんに比べて腫瘍径が大きく、リンパ節転移率も高く、予後が悪いと言われていますが、これは授乳期の乳腺はしこりを発見しにくいということが原因と考えられており、最近では病期をそろえると予後には差がないとする報告が多いようです(「乳癌診療ガイドライン 2013年度版」より)。”授乳期は血流が豊富なので進行しやすく予後が不良”とする意見もネット上ではあるようですが、十分な根拠がある意見ではないように思います。


ただ、授乳期乳がんの場合には、検査、治療に関していくつか注意しなければならない点があります。

①造影剤を用いた検査…造影CT(イオパミロンなど)は48時間、造影MR(ガドリニウム)は24時間、母乳中に造影剤が排出されると言われています。しかし、実際に母乳中に移行する造影剤の量は微量であり、経口摂取した造影時が乳児に実害を与えるかどうかについての情報は調べたかぎりではなく、問題ないとする見解もあるようです(http://kawaguchi-mmc.org/wp-content/uploads/mrimm.pdf#search='CT+%E9%80%A0%E5%BD%B1%E5%89%A4+%E6%8E%88%E4%B9%B3')。ただ、不明な点もありますし、添付文書上では授乳を避けるように書かれていますので、避けれるのでしたら授乳を控える方が無難であるとしか言いようがありません。

②核医学検査(骨シンチ、PET-CTなど)…核医学検査は放射線を出す核種というものを体内に入れて、集積した核種から出る放射線を感知して画像にする検査です。ですから、体内に吸収された核種からしばらくの間は放射線を放出しますので幼い子供さんを持っている方は注意が必要な場合があります。注意すべき点は、乳汁内に排泄される場合の内部被爆と母体に接近した場合の外部被爆の2つがあります。

以前は骨シンチ(テクネシウム)でも授乳は一定時間禁止となっていたようですが(今もテクネMDPインタビューフォームには、”注射した放射能の1.5~2.0%が乳汁中に排泄されるため,投与後最初の授乳は避けるべきであるという報告がある”と記載されています)、最新版のICRP(国際放射線防護委員会)Publication 106では授乳制限は不要となっているようです。PET検査も、24時間は授乳を避けるというネット上の記載が多いようですが(FDGスキャンの添付文書にも、24時間授乳中止と書いています)、帰宅2時間後に一度搾乳すれば飲ませても良いという記載も見受けられますので、実際に検査する医療機関でご確認下さい。なおPETで用いるFDGという核種もICRPPublication 106では、授乳を控える必要がないことになっています。

外部被爆(抱っこなどの子供との接触)についての核種別の具体的な記載はわかりませんが、一般的には検査当日または24時間はできるだけ接触を控えるようにと指導されるケースが多いようです。ただしこれも核種によって放射線を放出する半減期と体内にどのくらい残っているかという生物学的半減期が異なりますので一概に24時間赤ちゃんを抱っこしてはいけないとは言えないと思います。骨シンチの場合は、半減期が6時間と短く、比較的短時間に多くの核種が尿中にされますので、帰宅後にはかなり放射線量は減少しているものと推測されます。しかし、この点に関してテクネMDPの添付文書上は明確な接触禁止時間の記載がありませんので、個々で判断せざるを得ないのかもしれません。FDGスキャンの添付文書では、12時間は乳幼児との密接な接触を禁止と書いてあります。
結局どれを信用したら良いのか微妙な状況ですが、もしできるだけ被爆を避けたいと考え、授乳制限や接触制限が可能であるならば24時間は乳幼児との濃厚な接触時間をできるだけ短くするというのが良いのかもしれません。

③術前の断乳…「乳癌診療ガイドライン 2013年度版」には、”授乳期乳癌に関しては,術前にカベルゴリン,ブロモクリプチンなどの内服によりあらかじめ乳汁分泌を止めることが勧められる。”との記載があります。しかし、その根拠となる引用文献の記載はありません。手術前に断乳しなかった場合の問題点としては、
1.入院後の急激な断乳によって周術期にうっ滞性乳腺炎(対側も)が起きる可能性
2.乳房温存術を行なう場合、乳管が切離、閉塞してしまうことによって乳腺炎が起きる可能性
3.乳房温存術の場合、切離された拡張した乳管から母乳が創部内に流入して創部の治癒が遷延したり感染が起きやすくなる可能性
などが考えられます。

④抗がん剤、ホルモン剤の投与…抗がん剤(エピルビシン、シクロフォスファミド、タキソテールなど)、ホルモン剤(タモキシフェン)の投与を受ける場合は、授乳を中止しなければなりません(母乳に移行し、乳幼児への悪影響が予測されるため)。

赤ちゃんにとってとても貴重なお母さんとの接触が、乳がんという病気で制限されてしまうのは心が痛みます。しかし、赤ちゃんへの影響を最小限にしなければならないということもまたとても大切なことです。結局、秤にかけて判断せざるを得ないところもありますので、最終的には担当医からよく説明をお聞きになってからご判断下さい。

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