

脳転移の治療は、主に手術や放射線治療などの局所治療が中心になります。以下に簡単に現在行なわれている標準的な治療を書いてみます。
<手術療法>
3cm以上の大きな単発転移の場合には、他の転移巣がコントロールできていれば手術で摘出する場合があります。ただし、手術単独での局所制御には限界があるため、その後に全脳照射を加える場合が多いと思います。また転移の部位によっては手術ができない場合もあります。
<放射線治療>
・全脳照射 :多発性の脳転移や手術などの治療に併用して行ないます。脳全体に放射線をかけますので転移数が多くても有効ですが、晩発性の脳機能障害(脳萎縮、認知障害など)を起こすリスクがあります。一般的には総線量30Gy(1回3Gy×10回)が標準とされていますが、後遺症のリスクを下げるために1回量を少なくして時間をかけて照射する方法も行なわれています(1回2Gy×20-25回)。
・定位放射線照射(Stereotactic radiationtherapy: SRT):専用の装置(直線加速器)を用いて、患者さんの頭部を固定しながら、腫瘍周囲のみにX線を集中させて数回に分けて照射する治療法。正常の脳組織にダメージをあまり与えずに腫瘍だけに高い治療効果を与えることができます。転移個数が3-4個以下で、最大径は3cmくらいまでが治療の適応です。
・定位放射線手術(Stereotactic radiosurgery: SRS):代表的なものとしてガンマナイフについてご説明します。SRTと似ていますが、多数のコバルト線源から発生させるγ線を用いる方法です。照射は1回で終了します。こちらのほうがより周囲に対する影響が少なくてすむため(精度は誤差が0.2~0.5mmくらい)、SRTより多い個数に対して治療ができるメリットがあります。私の患者さんの中にも繰り返しガンマナイフを行なった方がいらっしゃいますが、保険点数は1回50万円と高額です。
写真は、ガンマナイフを行なう前と3ヶ月後の乳がん術後小脳転移の患者さんのMR像です。
<薬物療法>
脳転移には薬剤が効きにくいことは先日書きましたが、実際には効果を期待して投与することもあります。脳転移に対して特に有効という抗がん剤はありませんが、血液脳関門が破壊されている場合は通常の抗がん剤で効果が見られることも稀にあるようです。またヒスロンHなどのホルモン剤が著効した症例も報告されています。特殊な治療としては、癌性髄膜炎に対してメソトレキセートの髄腔内投与が有効な場合があります。また、分子標的薬としては、ラパチニブ(商品名 タイケルブ)は血液脳関門を通過するために有効と言われています。ただ、私はHER2陽性乳がんの脳転移に対してラパチニブを投与した経験はまだありません。
一般的に脳転移は予後が不良と言われています。しかし、今年の乳癌学会でN先生がまとめた内容からは、脳が初再発、ER陽性の場合は、放射線治療などで脳転移の局所治療を行ないつつ、他臓器転移を全身療法でコントロールすることにより、比較的長期の予後が期待できる可能性があることがわかりました。今回の当院での成績は、過去に報告されてきた成績よりも良好でしたので、治療の進歩が見られているということなのかもしれません。今後さらなる放射線・粒子線治療や薬物療法の進歩に期待したいところです。