2011年11月10日木曜日

骨転移2 骨シンチは定期的に行なうべきか?

以前も書きましたが、乳がん術後の定期検査で行なうべきであるというエビデンスがあるのは、年に1回の対側のマンモグラフィと問診・視触診(術後3年までは3-6ヶ月に1回、その後2年間は6-12ヶ月ごと、以後は年1回)のみです。国内の多くの施設で行なわれている、胸腹部CTや腹部超音波検査、骨シンチ、PET検査、腫瘍マーカー測定などは、エビデンスがありません。1997年のASCOのサーベイランスガイドラインによると骨シンチや腹部超音波検査は、「推奨しない」と専門家の意見が一致したことになっており、その後も大きな改訂はないようです。

この件については、若干異論があるということを今までも書いてきました。私自身は、マンモグラフィ以外にも、乳房超音波検査、腹部超音波検査、胸部CT、腫瘍マーカーの測定を行なってきました。ホルモン剤などを投与している患者さんには、副作用チェックのために定期的な一般採血も行なっています。

ただ、骨シンチに関しては全ての患者さんには行なっていません。理由は後述しますが、骨シンチの利点と欠点をまず書いてみます。

利点:全身を一度に検査できるのでスクリーニング検査に向いている。
欠点:放射線検査なので被曝のリスクを伴う、高額である、溶骨性転移がほとんどを占める場合には写らないことがある、偽陽性が多い(骨折などの外傷後、変形性関節症など)、微小な病変の描出は困難、など。

それでなくても乳がん患者さんは、薬代や他の検査でお金がかかります。これらの欠点を上回るメリットがあればお勧めするのですが、無症状の患者さん全員に定期的に受けていただくのは、エビデンスがないことも考え合わせると気が引けます。ですから術後の定期検査としては行なっていないケースが多いのです。

「再発を早期発見することで治癒につなげたい」という命題は私がここまで書いてきたように私のライフワークであり、いつかそうなって欲しいと願っています。治療薬は次々と開発され、実際に長期に再発巣が消失して治癒したと思われる患者さんも経験します。ただ再発患者さん全体をみた時には、まだまだ現実的には簡単なことではありません。そして特に骨転移は無症状で発見しても完全治癒に導くのは至難の技なのです。骨が好きながん細胞は、骨全体に住み着きやすく、放射線をかけても他の場所にまた出てきやすく、放射線治療を繰り返すと骨髄機能が落ちて化学療法が困難になります。すぐに命に関わる再発ではありませんがやっかいな再発部位と言えます。

上に書いたような理由で定期的な骨シンチは行なわないことが多いのですが、腫瘍マーカーの上昇や痛みなどの症状が出ればもちろん検査を行ないます。ただ、骨転移のもう一つの問題点として、病的骨折を突然起こすことがあるということが挙げられます。私が今まで経験した骨転移患者さんの多くは最初に痛みや腫瘍マーカーの上昇があったり、他の臓器の再発検査中に骨転移と診断され、治療の経過中に骨折してしまったというケースが多い(ゾメタ登場以降は減った印象がありますが)のですが、まれに突然上腕骨や大腿骨、脊椎が病的骨折をきたして骨転移と初めて診断されてしまうこともあります。痛みや骨折、脊椎骨折による麻痺はQOLを低下させてしまいますので、非常にやっかいです。

もしも定期的に骨シンチをしていたら脊椎骨折を避けられて麻痺によるQOLの低下を防ぐことができたかもしれない、という非常に悔しい思いをした患者さんを最近経験しました。このような患者さんを診てしまうと、症例によってはやはり定期的な骨シンチは必要なのかもしれないと思ってしまいます。「統計学的には意味がない」「費用対効果を考えると無駄だ」と言われてしまうかもしれませんが、そう簡単には割り切れないものです…。

12 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

乳がん温存のope後1年半の44歳看護師です。
胸骨傍リンパにまで転移しており、トリプルネガティブです。
最近背部痛、腰痛が続き痛みが増してきているような気がしますが、遠隔転移は発見の早い遅いは予後にはあまり関係ないように認識していますが、それでも日常的に気になる痛みは早く主治医に話したほうがいいのでしょうか?
自分では勝手に骨転移かな?と思っているのですが

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
たしかに術後の定期的な骨シンチなどの遠隔転移の検査はあまり推奨されてはいません(再発の早期発見が予後改善につながるエビデンスに乏しいため)が、症状がある場合は別です。特に骨転移の場合は脊椎骨折による麻痺などの危険性もありますので早めに受診して検査を受けることをお勧めします。
なんともなければ良いですね。それではお大事に。

匿名 さんのコメント...

ありがとうございます

匿名 さんのコメント...

はじめまして。掲示板を見て勉強させていただいています。
70歳の母に右乳房の浸潤性乳管癌5mmが見つかり、来月、温存手術をします。

術前検査ではER +、 PR +、 Her2 -、リンパ転移なし、癌の顔つきは悪くないようです。
先日、術前検査として胸部CT、腹部超音波、MRIと骨シンチもしました。
乳癌以外、何も見つからなかったのですが、
骨シンチ画像が首の部分だけ全体に真っ黒に写っていました。
主治医は母に首は痛くないかと聞いていましたが、特に症状がないと言います。
主治医は何だろうね・・・と言っていましたが、この件について追加の検査はありませんでした。
小さな癌でも、今回、首への骨転移の可能性もあるのでしょうか?

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
5㎜の浸潤がんでLuminal A(Ki-67の数値はわかりませんが…)であれば遠隔転移の可能性は非常に低いと考えられます。関節部位の取り込みが中心であれば年齢からも加齢に伴う変形性の変化が一番に考えられますが、100%断言できるわけではありません。骨シンチの画像上、変形性ではなく転移の可能性も否定できないような所見でしたらMRなどの精査を念のため行なった方が良いかもしれませんので主治医にご確認下さい。

匿名 さんのコメント...

お返事ありがとうございました。
ki67は15~20%です。(数値、若干高めなのでしょうか・・・)

主治医が骨のほうも転移はないから大丈夫と言いつつ、首だけ真っ黒に写った
骨シンチの画像を見て、何だろうね・・・と言っていたので
首に転移しているのではないかと、私も母もショックを受けていました。

先生のお返事で気持ちが落ち着きました。
今度の主治医と会うのが来月の手術前の入院時になってしまうのですが、
もう一度確認してみようと思います。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
是非そうして下さい。Ki-67は±というところですのでさほど悪性度は高くないと考えられます(14%をカットオフにするとLuminal Bに相当しますが、Ki-67のカットオフ値については異論がありますのでLuminal Aに限りなく近いと考えて良いと思います)。
それではお大事に!

匿名 さんのコメント...

はじめまして。乳癌術後から1年たちましたのでcT.骨シンチのけんさをしたのですが、けんさけっか、左胸骨に黒い点ふたつあり、技師さんのコメントには骨折か打撲あとありとかかれていました。確かに数ヵ月前に左胸をぶつけた記憶はありますが、正直そこまで?なのです。血液検査の結果、1つマーカーあがってるのもあるけど、これは人によっては変動がよくあるから。といわれました。左胸1.9mm,腋下リンパ3ヶ所にがんが見つかり、術前化学治療をしました。術後細胞をしらべた結果、がん細胞が完全に消えてるといわれました。がんがみつかったときのはじめの生検でER+,pgr-,Her2+だったので、ホルモン治療をいましてるのですが、がんが消失したのに骨転移とかあるのですか?

匿名 さんのコメント...

上の質問の訂正です。胸骨とかきましたが、肋骨のまちがいです。ちなみに主治医はいまのとこそんなすぐ転移の可能性とかはわからないからこまめに検査してようすみるしかないって言われました

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
まず、術前化学療法で完全に原発巣が消失していても骨転移はあり得ます。消失したのはあくまでも原発巣であって、既に飛んでいた転移巣でも同じ効果が得られていたかどうかわからないからです(もし原発巣が完全消失していたら転移しないというのであれば、完全消失した患者さんの生存率は100%になるはずですが、そういうことはありません)。
肋骨の場合は外傷でもよく取り込まれますので経過をみるしかないと思います。上がっている腫瘍マーカーはCEAですか?もしタバコを吸われるのでしたらCEAは喫煙でも上がりますのでやめると正常化するかもしれません。以上です。

匿名 さんのコメント...

丁寧にありがとうございます。あがっている腫瘍マーカーはCEAです。これは以前化学治療をしていたときもあがったりしていました。タバコはすいません。とりあえず帰るときにもう一度血液検査して、来週に結果をききます。気落ちかなりしましたが、負けずにがんばります。ありがとうございました

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
ちなみに非喫煙者でもCEAは時々高値になることはあります。体質的なものであれば良いですね。それではお大事に!