2010年11月30日火曜日

乳房再建の講演後〜外来での変化

11/6にE先生に乳房再建の講演をしていただいてから約1ヶ月が経ちました。

講演を聴きにきていた患者さんの一人(30才代)がさっそく再建を希望されたのでE先生の外来に紹介しました。今のところ紹介状を書いた患者さんは他にはいませんが、講演を聴いて興味を持った方は数人いるようです。

この前の講演会は、決まってからの日数が少なかったため、患者会に入っていない患者さんのうち、3ヶ月以上受診していない方の多くには伝わっていませんでした。ですから、そういう患者さんには、外来でお話しするようにしています。比較的若い患者さんはやはり興味を持っているようです。

でももう手術からずいぶん時間が経っていたり、高齢だったりすると、乳房再建なんて考えていないという方も多くいらっしゃいます。

先日診察に来た患者さんもそうでした。年齢は60才代後半。再発なく5年経過しています。

最初に、

「乳房再建について考えてはいないのですか?」

とお聞きすると、

「もう年だし、誰に見せるわけでもないから。日常生活は何も困っていないし…。」

と答えていたのですが、一応、講演会の内容をお話しして、高齢の方も乳房再建を受けていることや、今は保険が利くようになったこと(自己組織の場合)などをご説明して、

「もしそういうお気持ちになったらご紹介しますからいつでもおっしゃって下さいね!」

とお話ししたところ、

「そうですね〜。もしおっぱいができたら今まで知らず知らずのうちに我慢して来たことができるようになりますよね…。温泉とかも気にしないで入れるようになるし!」

と前向きになってくれたのです。

とてもうれしいと思うと同時に、今までこういう患者さんの心の底にある思いを十分に聞き出せていなかったのだなあということを思い知りました(前は保険外診療で高額だったので勧めづらかったということもありますが)。

これからは乳房再建の希望者が札幌でも増えて行くような気がします。患者さんにも私たち医療者にも乳房再建を考えるきっかけを与えて下さったE先生に感謝の気持ちでいっぱいです。

2010年11月29日月曜日

再発の治癒が期待できる可能性

乳がんの術後に再発すると、もうだめではないか?と感じてしまう方が多いと思います。実際、再発した患者さんを完全治癒に導くのは容易ではありません。しかし、幸いなことに再発が治癒したと考えられる患者さんがいるのもまた事実です。ですから画一的に「再発したら完全に治癒させることはできないのだから、治癒を目指して積極的な治療をするのは間違いだ」と言い切る考え方には同意できません。前にも書きましたが、今あるエビデンスは、もうずいぶん前の臨床試験から導き出されたものです。ハーセプチンもアロマターゼ阻害剤もゾメタもない時代のものです。

乳がん術後の再発は3つに分けられます。

①局所再発…全摘後は稀ですが、温存術後は10年で10%くらいで起こりえます。
②リンパ節再発…腋窩、鎖骨下、鎖骨上、胸骨傍など。
③遠隔再発…初再発部位で多いのは、肺、骨、肝。

集学的治療(局所療法と全身療法の組み合わせ)で治癒させられる可能性は、①>②>③の順です。

①は、乳房温存術と乳房全摘術の間で局所再発率は乳房温存術のほうが高いのにもかかわらず、両者で生存率に差が出なかったように、乳房内の局所再発は早めに治療すれば十分に治癒が期待できます。

②は、不十分な郭清(センチネルリンパ節生検による偽陰性も含めて)によるもの(腋窩リンパ節再発)であれば、再郭清と補助療法の追加で治癒を目指せる可能性があります。所属リンパ節ではありますが初回手術では通常郭清しない、胸骨傍や鎖骨上下のリンパ節再発でも、局所治療(手術または放射線治療)と全身療法の併用で治癒が期待できます。

③は、この中では一番治癒させるのが困難です。ただ、単発から数個までの肺転移は手術と全身療法で治癒した症例を数例経験しています。また、肝転移は一般に予後不良と考えられていますが、化学療法で完全に治癒していた症例、化学療法の動脈内注入とアロマターゼ阻害剤で今のところ5年以上再発していない症例を経験しています。


再発を治癒させれるかどうかは、上に述べた再発部位や再発臓器数が大きな因子になりますが、生物学的な要因も大きいです。ER陽性またはHER2陽性であればターゲットがありますので、治療手段も豊富ですし、反応も良好です。局所治療と組み合わせることができれば、うまくいけば治癒を目指せる可能性もあります。

最近、貴重な経験をしました。
術後早期に鎖骨上リンパ節に再発した患者さんなのですが、再発後にパクリタキセルを投与し、放射線治療とハーセプチンを投与してきたところ、CR(画像上、完全に再発が消えた状態)を5年維持できたために治療を終了できたのです。再発後にハーセプチンを投与して、5年以上CRを維持できて治療から離脱できたのは私自身は初めてでした。

この患者さんが、もし20年前に再発していたら…おそらくこうはならなかったでしょう。ハーセプチンという薬剤の登場が治療の選択肢を増やすだけではなく、予後も大きく変えたのです。このような治療の変化を考慮に入れずに、古いエビデンスだけにとらわれ、再発をひとくくりにして治療の可能性を狭めるのは医療の発展を妨げ、患者さんに不利益を与えることになるかもしれないことを再認識させられた経験でした。

2010年11月25日木曜日

シリーズ〜女性のがん 「乳房再建」

11/6に私たちの病院でD病院の形成外科医、E先生に乳房再建についての講演をしていただいた模様が、昨日のuhbのスーパーニュース内で放送されました。

今回は「シリーズ〜女性のがん」として放送されてきた特集の10回目にあたります。E先生が乳房再建に力を入れ始めたきっかけのお話や遠方から手術を受けにきた患者さんの辛かった経験や乳房再建にかける思い、そして実際の手術の模様など、時間は短かったのですがとても充実していたと思います。キャスターの松本裕子さんを始めとしたスタッフの皆さんのこの特集にかける強い思いが伝わってくる番組でした。

ただちょっと残念なのは、せっかくのシリーズなのに番組HPで見ることができないことです。時間帯的に仕事を持っている人にはこの番組を生で見るのはなかなか難しいと思います。せっかくの特集ですので、HPでいつでも見れるようになるとうれしいですね。

それにしても今回の特集は、私がE先生と飲んでいるときに、

「なかなか乳房再建に踏み切れない患者さんが多いんですよね…。うちの患者会で再建の話をしてくれませんか?」

とお願いしたことがきっかけなんです。それがブログを介してまさかTV放送にまでつながるとは…。ネットってすごいですね!

2010年11月23日火曜日

抗癌剤の副作用8 心筋障害



原因薬剤の種類が限定されており、頻度もそう高くありませんが、注意すべき抗がん剤の副作用の一つが心筋障害です。

乳がん領域においては、特にFECやACに用いるエピルビシン(商品名 ファルモルビシンなど)やドキソルビシン(商品名 アドリアマイシン)などのアンスラサイクリン系の薬剤やトラスツズマブ(商品名 ハーセプチン)をよく使用するため時々問題になります。

抗がん剤による心筋障害の概略は以下の通りです。

原因薬剤:                                
①アンスラサイクリン系抗がん剤(ダウノルビシン、エピルビシン、ドキソルビシンなど)→不可逆性、用量依存性。ハイリスクは、高齢者、心血管疾患や糖尿病、高血圧の合併、ハーセプチンの併用、放射線照射の既往など。           
②トラスツズマブ(ハーセプチン®)→可逆性(ただし約20%は不可逆性)、用量非依存性(治療開始後数週間から数ヵ月以内に発現)。ハイリスクはアンスラサイクリンの併用

検査:                                       
心毒性を持つ化学療法剤の投与前には必ず心機能の評価(UCG)を行なう。治療中も3ヶ月に1回程度、UCGでフォローする。血中トロポニン値を測定が有用とも言われている。

治療:                                   
原因薬剤を中止する。トラスツズマブは中止によって2 ~ 4 ヵ月で心機能が回復する可能性が高い。アンスラサイクリンによる心筋障害は中止しても改善しない。心不全の治療は、通常の対応と同様。


今から10年以上前に呼吸困難を主訴に受診した、がん性胸膜炎(悪性胸水)を伴う4期の進行乳がん患者さんがいました。

すぐに抗がん剤(CAF療法)を行なって3回で腫瘍は縮小し胸水も消失したため原発巣を切除。その後合計6回の予定で化学療法を行なっていたところ、5回目の投与で重症の心不全を発症したのです。

内科的に治療を行ないながらタモキシフェンのみの投与を行なったところ、10年近くの長期にわたってCR(完全寛解)を継続できました。しかし、心機能は改善しないため、心不全の入院を繰り返し、QOLを著しくて以下させてしまうことになりました。

この患者さんに言われた言葉が忘れられません。

「お金がかかって主人にも迷惑がかかるし、こんなに苦しい思いをして生きるくらいなら、乳がんなど治さないであの時に死なせてくれれば良かったのに…」

医師としてがんを治すだけでは患者さんを幸せにすることはできない場合があるということを教えていただいた症例でした…。

写真はアドリアマイシン心筋障害の胸部レントゲン写真です(左が安定期、右が心不全発症時)。

2010年11月21日日曜日

乳癌の治療最新情報22 ハラヴェン(一般名 エリブリン)

エーザイ社製の乳がん治療薬「ハラヴェン」(一般名 エリブリンメシル酸塩)を米食品医薬品局(FDA)が承認しました(http://www.eisai.co.jp/news/news201064.html)。

この薬剤はアントラサイクリン系およびタキサン系抗がん剤を含む少なくとも2種類のがん化学療法による前治療歴のある転移性乳がん患者において、単剤で統計学的に有意に全生存期間(OS)を延長した世界で初めてのがん化学療法剤です。国際共同第III相試験「EMBRACE」におけるエリブリン投与群のOSは13.12カ月で、治験医師選択療法群との比較で2.5カ月の延命が確認されています。

エリブリンは、クロイソカイメンから単離された天然物「ハリコンドリンB」の合成類縁化合物です。新しい作用機序(細胞分裂装置の主体となる微小管の短縮には影響を与えずに、微小管の伸長を阻害することで、抗腫瘍効果を発揮する)を有する非タキサン系微小管ダイナミクス阻害剤で、2−5分の静脈投与で行えますので外来投与に適している可能性があります。水溶性が高く、溶解補助剤も不要です。

気になる副作用ですが、高頻度(頻度25%以上)に認められた有害事象は、無気力(疲労感)、好中球減少、貧血、脱毛症、末梢神経障害(無感覚、手足等のしびれ)、吐き気、便秘で、特に重篤な有害事象として報告されたのは好中球減少(発熱を伴う症例が4%、発熱を伴わない症例が2%)でした。またハラヴェン投与中止に至った主な有害事象は末梢神経障害(5%)だったということです。

米国では近日中に発売予定だそうです。日本や欧州でも承認申請中なので来年にでも認可されるかもしれませんね。

北海道の乳がん検診webサイト

製薬会社のMRさんから「乳癌検診についてのサイトが新しくできた」とのご連絡をいただきました。

このサイトには、乳がん検診についての総論、道内各地の乳がん検診を受けられる施設のリンクや専門医のお話、マンモグラフィについての説明が書いてあります。「命と乳房を守るWEBサイト実行委員会」が作成したサイトの北海道版のようです。

道内在住の一般女性には役に立つサイトだと思います。

第20回乳癌検診学会総会終了!


今日、福岡から帰ってきました。

今回は私たちの病院と関連病院から3題の演題を発表してきました。内容の概略は以下の通りです。

医師(放射線技師から演者変更)…検診発見乳癌症例のマンモグラフィ所見と二重読影の有用性
超音波技師…マンモグラフィで微細石灰化のみだった非触知乳癌症例に対する超音波検査の診断能
放射線技師…無料クーポン券導入前後の受診者状況の比較と今後の課題

観光は昼休みを利用して太宰府に少しだけ行ってきました(写真は「飛梅」…もちろん花はありませんでした(泣))。時間がなかったので、昼ご飯(肉そばともちろん梅ヶ枝餅&抹茶セット)を食べてお参りをするだけになってしまいました。本当はまた宝物殿や国立博物館にも行きたかったのですが残念です。

「乳癌検診学会」というのは研究範囲が非常に狭い学会です。毎年演題を発表するのはなかなか大変です。でも乳がん検診の内容は年々変化してきていますので、参加していないと流れについて行けなくなります。毎回学会に参加して刺激を受けながら、来年の発表はこんな内容はどうかな、とか考えています。

来年は岡山で行なわれます。先日講演をしてくれた岡山のDrから演題を4題は出して欲しいと言われました(汗)。春以降は体制がどうなるか、私もここにいるのかもわかりませんが、下地作りはしておこうと思っています。