2010年11月29日月曜日

再発の治癒が期待できる可能性

乳がんの術後に再発すると、もうだめではないか?と感じてしまう方が多いと思います。実際、再発した患者さんを完全治癒に導くのは容易ではありません。しかし、幸いなことに再発が治癒したと考えられる患者さんがいるのもまた事実です。ですから画一的に「再発したら完全に治癒させることはできないのだから、治癒を目指して積極的な治療をするのは間違いだ」と言い切る考え方には同意できません。前にも書きましたが、今あるエビデンスは、もうずいぶん前の臨床試験から導き出されたものです。ハーセプチンもアロマターゼ阻害剤もゾメタもない時代のものです。

乳がん術後の再発は3つに分けられます。

①局所再発…全摘後は稀ですが、温存術後は10年で10%くらいで起こりえます。
②リンパ節再発…腋窩、鎖骨下、鎖骨上、胸骨傍など。
③遠隔再発…初再発部位で多いのは、肺、骨、肝。

集学的治療(局所療法と全身療法の組み合わせ)で治癒させられる可能性は、①>②>③の順です。

①は、乳房温存術と乳房全摘術の間で局所再発率は乳房温存術のほうが高いのにもかかわらず、両者で生存率に差が出なかったように、乳房内の局所再発は早めに治療すれば十分に治癒が期待できます。

②は、不十分な郭清(センチネルリンパ節生検による偽陰性も含めて)によるもの(腋窩リンパ節再発)であれば、再郭清と補助療法の追加で治癒を目指せる可能性があります。所属リンパ節ではありますが初回手術では通常郭清しない、胸骨傍や鎖骨上下のリンパ節再発でも、局所治療(手術または放射線治療)と全身療法の併用で治癒が期待できます。

③は、この中では一番治癒させるのが困難です。ただ、単発から数個までの肺転移は手術と全身療法で治癒した症例を数例経験しています。また、肝転移は一般に予後不良と考えられていますが、化学療法で完全に治癒していた症例、化学療法の動脈内注入とアロマターゼ阻害剤で今のところ5年以上再発していない症例を経験しています。


再発を治癒させれるかどうかは、上に述べた再発部位や再発臓器数が大きな因子になりますが、生物学的な要因も大きいです。ER陽性またはHER2陽性であればターゲットがありますので、治療手段も豊富ですし、反応も良好です。局所治療と組み合わせることができれば、うまくいけば治癒を目指せる可能性もあります。

最近、貴重な経験をしました。
術後早期に鎖骨上リンパ節に再発した患者さんなのですが、再発後にパクリタキセルを投与し、放射線治療とハーセプチンを投与してきたところ、CR(画像上、完全に再発が消えた状態)を5年維持できたために治療を終了できたのです。再発後にハーセプチンを投与して、5年以上CRを維持できて治療から離脱できたのは私自身は初めてでした。

この患者さんが、もし20年前に再発していたら…おそらくこうはならなかったでしょう。ハーセプチンという薬剤の登場が治療の選択肢を増やすだけではなく、予後も大きく変えたのです。このような治療の変化を考慮に入れずに、古いエビデンスだけにとらわれ、再発をひとくくりにして治療の可能性を狭めるのは医療の発展を妨げ、患者さんに不利益を与えることになるかもしれないことを再認識させられた経験でした。

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