2011年7月3日日曜日

「健康まつり」と乳がん触診モデル




今日、毎年恒例の病院主催のイベント、「健康まつり」が行なわれました。ポスターなどを掲示して病気の予防などの啓蒙をしたり、職員や地域の方々が飲食物やスーパーボールすくいなどの出店や歌・踊りなどのステージ発表を行なったりして、多くの方々が集まるイベントです。

恒例とは言いつつ、まともに参加したのは久しぶりでした。今回は外科外来で乳がん検診の啓蒙活動をするということでしたので、看護師さんに自己検診法を指導してポスターを作成し、掲示しました(写真1枚目)。また、乳腺センターの備品申請で乳がんの触診モデル(写真2、3枚目)を2種類購入したので、それも活用してもらうことにしました。この触診モデルは、京都科学というメーカーで作成しているものです。箱に固定されたタイプと首からもかけれるタイプがあり、それぞれに、がんや良性腫瘍に似せたしこりを埋め込んであります。えくぼ症状を呈するしこりもあり、なかなか巧妙に作られています。ただ、若干乳房が硬いので触診に力が必要です。せっかく購入した触診モデルですので、今後いろいろな場所に積極的に出かけて乳がん検診の啓蒙活動に役立てようと思っています。

今日は少し風が強かったのですが、とても良い天気でなによりでした。入院患者さんも車椅子などで来て下さっていましたが、楽しそうに笑顔を見せてくれていました。ただ、屋内の啓蒙ポスターのエリアへの人の流れが少なかったように見えましたので、来年はこちらにも多くの人が注目してくれるような工夫が必要ではないかと感じました。来年はもう少し積極的に関わってみようかなと思いました。

2011年7月1日金曜日

アロマターゼ阻害剤の乳がん発生予防効果

タモキシフェンによる乳がん発生の予防効果についての報告はかなり以前からあります。またタモキシフェンの仲間のラロキシフェンにも同様の作用があることが報告されています(http://www.medpagetoday.com/MeetingCoverage/AACR/19653)。しかし、閉経後の乳がん術後再発予防効果においてタモキシフェンより効果が高いと考えられているアロマターゼ阻害剤の乳がん発生予防効果については今まで充分にされていませんでした。

今回ようやくThe New England Journal of Medicine 2011; 364: 2381-2391にエキセメスタンによる閉経後女性の乳がん予防効果が報告されました。概要は以下の通りです。

報告者:Paul E. Gossら(米マサチューセッツ総合病院がんセンター)

対象:2004年2月〜10年3月に登録された35才以上の閉経後女性のうち以下の条件を満たした4,560例。
(1)60歳以上,(2)乳がん発症リスクを推計するGailの5年リスクスコアが1.66%超,(3)異型乳管過形成,異型小葉過形成,上皮内小葉がん,乳腺切除を伴う非浸潤性乳管がんのいずれかの既往—に1つ以上当てはまること。

方法:対象者を,エキセメスタン群2,285例(年齢中央値62.5歳)とプラセボ群2,275例(同62.4歳)にランダムに分類し、各患者群に,エキセメスタン25mg/日もしくはプラセボを最長5年間もしくは乳がん発症まで投与した。一次評価は浸潤性乳がん発症率とした。

結果:追跡期間の中央値35カ月におけるプラセボ群と比較した浸潤性乳がんの年間発症率は65%低下(0.19% vs 0.77% HR 0.35 p=0.002)、浸潤性+非浸潤性乳がんでは53%減少した(0.35% vs 0.77% HR 0.47 p=0.004)。
また,年間発症率は非浸潤性乳管がんでは0.16% vs 0.24%,異型乳管過形成,異型小葉過形成,上皮内小葉がんの3種を合わせた場合では0.07% vs 0.20%と,いずれもエキセメスタン群はプラセボ群に比べて低かった。
顔面紅潮,疲労感,不眠,下痢,関節炎などの副反応発生数はエキセメスタン群で高頻度だったが、心血管系イベント(106% vs 111%,P=0.78),臨床的な骨折(149% vs 143%,P=0.72),新規の骨粗鬆症(37% vs 30%,P=0.39),その他のがん(43% vs 38%,P=0.58)などの重篤な副反応に有意差は認めなかった。

結論:プラセボの投与に比べ,エキセメスタンの投与により,浸潤性乳がんの年間発症リスクは65%低下することが認められた。さらにエキセメスタンは,浸潤性乳がんの前駆病変である非浸潤性乳管がん,異型乳管過形成,異型小葉過形成,上皮内小葉がんの発症リスクも減少されることが分かった。


まだ観察期間が短いこと、対象者をどう選択するか、投与期間はどのくらいが適切か、などの課題はありますが、少なくともハイリスク症例に対する乳がん発生予防の選択手段の一つとして期待できそうです。

2011年6月27日月曜日

乳がん術後の下着説明会

病院にもパンフレットを置いていたり、学会や講演会などのブースで目にした患者さんもいらっしゃると思いますが、乳がん術後の患者さんのための特殊な下着を扱っているメーカーは何社もあります。その中でもかなり以前から製品化しているワコール主催の患者さん向け相談会が今年も近くに取り扱い店がない全国8都市で開かれるという報道がありました(今年で19年目)。

相談会名:「装いと下着に関する相談会」
対象:がんなどで乳房を手術した女性
内容:ワコールが開発した下着シリーズ「リマンマ」の商品展示(乳房温存術後の患者さん向けのブラジャーや薄型パッドも)、専門アドバイザーによる選び方や着け方の相談会
場所・日時:
福井市(7月21~23日)
青森市(9月15~17日)
松山市(10月13~15日)
岡山市(11月3~5日)
盛岡市(11月16~19日)
前橋市(12月に予定)
宮崎市(2012年1月に予定)
熊本市(同2月9~11日)
参加方法:ワコール・リマンマ事業課(0120・037・056)に事前申し込み
製品URL:http://www.wacoal.jp/remamma/

近くに取り扱い店がないと、なかなか普段は実際に見たり触れたりする機会がありませんので、このような企画はそういう地域に住む方にとっては貴重だと思います。興味がある方はせっかくのチャンスですので、利用してみてはいかがでしょうか?

2011年6月25日土曜日

医師の病状説明と患者さんの理解度

私事ですが、義父が手術をしたので昨日の夜に釧路に行って、今日の夕方に戻ってきたところです。

今回の経過は、80才になる義父が体調不良(食欲不振、嘔気、体重減少で寝たきりになり声も出なくなった)で近医を受診したところ、胆のうが非常に腫大していて今にも破れそうな状態だから大きな病院を紹介しますと言われたと義母から連絡が入ったことから始まりました。

胆のうが腫大する原因は、胆石による胆のう炎以外に下部胆管の閉塞をきたす膵がんや胆管がんなどの悪性疾患も考えられます。最初の連絡では、強い腹痛も高い発熱もなかったとのことでしたので、悪性疾患ではないかと心配していました。そして入院後に胆のうか胆管にチューブが入ったと連絡がありました。黄疸があったかどうかはよくわからないということでした。

そして、手術前日の説明を聞いた義母からの連絡では、「手術はうまくいけば腹腔鏡で胆のうを取るだけの手術で2時間くらいで終わりますが、今まで見たことがないような病態なので、どうなるかわかりません」というような内容だったとのこと。

で、病名は?と聞くと「よくわからない…」??

膵がんや胆管がんであれば、膵頭十二指腸切除術になりますし、時間も5−6時間くらいかかりますのでどうやら違うようです。胆のうがんの疑いがあるのかどうかは不明ですが、胆のう摘出術だけで終わるような胆のうがんが、チューブを入れなければならないような病態になる可能性は低いですので、結局胆石胆のう炎の可能性が高いのではないかと思いましたが、義母からは胆のう炎という言葉は聞かれませんでした。

で、昨日手術が行なわれましたが、結局予想通りただの胆石胆のう炎だったようで、無事腹腔鏡下胆のう摘出術で1時間ちょっとで終わることができました。経過は良好で一安心です。

なぜこんな話をここに書いたかと言いますと、医師の説明が十分でなければ患者さんやご家族の理解はこんなものだということです。こちらが十分にお話ししたつもりでも、専門用語を使いながら、相手が当然わかってくれるつもりで話をしたらまったく伝わらないのです。

乳がんの病状説明においても、他の疾患と同様に専門用語を使いすぎると理解は難しくなります。ただ病態から治療方針までエビデンスを交えながら話をすると、話す内容が多すぎて聞いている患者さんたちは頭の中が飽和状態になってしまいます。なるべく難しい言葉を使わないようにとわかりやすく説明しようとすればするほど時間がかかりすぎてわからなくなってしまう場合もあるのです。

説明後には、よくわかりましたと言っていたのに、翌日にはすっかり忘れていて説明したことをもう一度聞かれることもよくあります。ですから私はなるべく細かくあらかじめ紙に説明内容を書いて用意しておくようにしています。書きながら説明すると、どうしても机に向かって話をする形になるので、患者さんたちの表情から理解度を読み取ることができません。説明する時は、患者さん側を向きながらご説明し、「今お話しした内容は、この紙にも書いてありますのでもう一度読み直しておいて下さい」とお話しするようにしているのです。それでも時間がたつと、「そんな話は聞いていない」とおっしゃる患者さんもいます。その時は、その説明用紙を読むと納得して下さいますが、一般の方が医療の内容を理解するというのは、本当に難しいことなんだということを実感します。

医師の説明がわかりにくい場合、それを医師は理解していないことが多いと思います。たいていは、この説明でわかるはず、と思って話しているのです。ですから、聞いていて理解できない場合は、遠慮しないで何度でも聞いた方が良いと思います。今回の義父の手術のように、どんな病気が考えられて、その対応にはどのようなことが予想されるのかがまったくわからないまま手術を受けるというのは望ましいことではありません。結果的に一番良い結果だったので良かったですが、悪い結果で大きな手術に変更になって、合併症でも起きたら双方にとって不幸な結果になります。

医師側は、専門用語をできるだけ避けて十分にわかりやすくご説明し、用紙に内容を残すこと、患者さん側は、わからないものをそのままにせず、理解できるまでしっかり聞いて確認すること、これがそのあとの診療を円滑に進めるためにはとても重要なのです。

2011年6月22日水曜日

乳がん検診の結果が「要精検」だった場合⑤〜構築の乱れ(Architectural distortion)


構築の乱れ(Architectural distortion)というのは、腫瘤は明らかではありませんが、正常の乳腺構築が歪んでいる状態のことです。

例として挙げると、
①コア(中心の高濃度陰影)を伴わない放射状の構造物(スピキュラ:spiculation)
②乳腺実質縁の局所的な引き込み(retraction)
③歪み(distortion)や乳腺の痩せ
などがあります。

この構築の乱れで発見される乳がんの代表は、浸潤性小葉がんです。浸潤性小葉がんは、乳腺を縮小させたり、伸びが悪くなったり、横方向に広範囲に広がっていることが多いため、腫瘤像は呈さずに構築の乱れをきたすことが多いのです。他に、非浸潤がんでも構築の乱れで発見されることがあります。また、硬がんでも中心のコアがはっきりせず、スピキュラのみが目立つ場合があります。

一方、良性で構築の乱れをきたす例は以下の通りです。
①傷跡(昔の生検のあと)
②放射状瘢痕(radial scar/complex sclerosing lesionまたはradial sclerosing lesion…写真)…乳腺症の部分症である腺症や乳管過形成などの管腔構造が中心の線維-弾性組織帯から放射状に配列したもの。異型乳管過形成や非浸潤がんを伴う場合があります。
③”何もない”…何もないのに乳房の挟み方の加減や単なる乳腺の生理的左右差を構築の乱れと取ってしまう場合があります。講習会や学会の読影テストで難しい構築の乱れを見せられると、異常はないのに構築の乱れではないかと気になって仕方なくなることがあります(汗)。

構築の乱れが明らかであれば、カテゴリー4になり、傷跡がなければがんの可能性を十分に考慮しなければなりません。微妙な場合は、”構築の乱れの疑い”としてカテゴリー3と判定します。乳がん検診の精度管理上、このカテゴリー3(構築の乱れの疑い)を増やしすぎないようにすることが、FADと同様に読影者側から見ると重要です。

*ご質問をされる前にhttp://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2013/10/blog-post.htmlをご覧下さい。

2011年6月21日火曜日

乳がん検診の結果が「要精検」だった場合④〜微細石灰化

石灰化というのは、何らかの原因でカルシウムが沈着したものを言います。石灰化には良性の石灰化と悪性の石灰化があり、良性の石灰化が悪性に変わるということはありません。ただ、初期の悪性石灰化は良性の石灰化と区別がつかないことはあります。ですから、前回のマンモグラフィとの比較が非常に有用な場合があります。

一目見て良性と判断できる石灰化には、動脈硬化、嚢胞の石灰化、古い線維腺腫の石灰化などがあります(カテゴリー1または2)。

問題は良性か悪性化の鑑別が必要な石灰化です。これをカテゴリー2(良性)から5(悪性)までにカテゴリー分類するのですが、これは2つの要素を組み合わせて判断します。

1つ目は、石灰化一つ一つの形状です。微小円形→淡く不明瞭→多形性(ガラスを割ったかけらのような形)→微細線状・微細分枝状(木の枝のような形状)の順で悪性の比率が高くなります。

2つ目は石灰化の分布です。びまん性・領域性(乳管の走行=腺葉に一致しないぱらぱらとした分布)→集簇性(狭い範囲に集まっている)→線状・区域性(乳管の走行=腺葉に一致した分布)の順で悪性の可能性が高くなります。

例えば、微小円形の石灰化が、びまん性にあればカテゴリー2、集簇性にあればカテゴリー3、微細分枝状の石灰化が区域性にあればカテゴリー5、のように判定します。

カテゴリー5と判定された場合は、がんである可能性が非常に高いと考えます。カテゴリー4(例えば多形性、集簇)の場合は、がんの可能性が30-50%と言われています。カテゴリー3の場合は、良性の可能性が高いですが、5-10%くらいがんの可能性もあります。カテゴリー3以上は「要精検」となります。

基本的な判断基準は上に書いた通りですが、時に紛らわしい場合があります。以下に例を挙げます。

・線維腺腫の石灰化…石灰化ができ始めの時は、多形性・集簇性に見える場合があります(やや丸みを帯びているのでわかることが多いですが時に迷う場合があります)。
・温存術後に見られる異栄養性石灰化…時間がたつと大きな石灰化になっていくので良性とわかりますが、やはりでき始めの時には局所再発ではないかと心配する場合があります。
・MLT(mucosele-like tumor)の石灰化…少し変わった形をしているため悪性に見える場合があります。
・悪性の場合でも、微小円形石灰化で数が少ない場合は、カテゴリー3以上に取れない場合があります。経過を追うことによって数が増え、要精検となる場合がたまにあります。以前、研修でお世話になった病院で、3年以上経過を追って、石灰化が少し増えたのでマンモトーム生検をしたら非浸潤がんだった症例もありました。微小円形の石灰化(分泌型)はがんでも見られますが、多形性や微細分枝状の石灰化(壊死型)と異なり、進行がゆっくりなことが多いので、強く悪性を疑わない場合には、カテゴリー3でもマンモトーム生検までしないで経過をみる場合もあります。

患者さんの中には、検診で「微細石灰化」という結果が届いただけで「がんなんだ…」と思い込んで受診される方もいらっしゃいます。実際はカテゴリー3での「要精検」のケースが多いですので微細石灰化=がんではありません。微細石灰化で「要精検」となった場合は、通常、まず超音波検査で病変が見えるか確認します。見えれば細胞診、または組織診を行ないます。MRも診断の補助になりますので、超音波検査で見えない場合には特に判断のためには有用です。これらの検査結果を踏まえた上で、経過観察にするか、ステレオガイドのマンモトーム生検まで行なうかを判断します。超音波検査やMRで病変が確認できないような乳がんは一般的に進行が遅いおとなしいタイプですので経過観察も選択肢に入ります。慌てずに順序を追って検査を受けるようにして下さい。

*ご質問をされる前にhttp://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2013/10/blog-post.htmlをご覧下さい。

2011年6月20日月曜日

乳がん検診の結果が「要精検」だった場合③〜局所的非対称性陰影(FAD)

おそらく「要精検」の中で一番多いのがこの所見だと思います。そして、読影する側から言うと、このFADをどの程度拾うかが、要精検率にも陽性反応的中度にも大きく影響してきます。ついつい拾いすぎてしまうと要精検率が上がり、検診精度としては好ましくない結果になってしまいます。

局所的非対称性陰影(FAD)は、「腫瘤」と言えるほどの濃度や境界を持たない左右非対称性の陰影のことです。

どんなタイプのがんでもFADとして判定される可能性はありますが、乳腺濃度が低い場合は、浸潤がん(硬がんや充実腺管がんなど)では腫瘤と認識できることが多く、非浸潤がんではFADと判定されるケースが多いような印象です。乳腺濃度が高い場合は、腫瘤の境界がよく見えないことがあり、浸潤がんでもFADとしか言えないことがあります。

一方、良性腫瘍でも乳腺と重なると境界がはっきりせず、腫瘤とは判断できずにFADとされることがあります。また、離れ小島のように存在している単なる乳腺組織や乳腺同士の重なりで濃くなった部分がFADと判定されることもよくあります。これをいかに区別するかが、読影医の悩みどころです。

「要精検」とされる所見で一番多いのはこのFADですが、その一方で異常がない可能性が一番高いのもFADかもしれません。

*ご質問をされる前にhttp://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2013/10/blog-post.htmlをご覧下さい。