2011年6月25日土曜日

医師の病状説明と患者さんの理解度

私事ですが、義父が手術をしたので昨日の夜に釧路に行って、今日の夕方に戻ってきたところです。

今回の経過は、80才になる義父が体調不良(食欲不振、嘔気、体重減少で寝たきりになり声も出なくなった)で近医を受診したところ、胆のうが非常に腫大していて今にも破れそうな状態だから大きな病院を紹介しますと言われたと義母から連絡が入ったことから始まりました。

胆のうが腫大する原因は、胆石による胆のう炎以外に下部胆管の閉塞をきたす膵がんや胆管がんなどの悪性疾患も考えられます。最初の連絡では、強い腹痛も高い発熱もなかったとのことでしたので、悪性疾患ではないかと心配していました。そして入院後に胆のうか胆管にチューブが入ったと連絡がありました。黄疸があったかどうかはよくわからないということでした。

そして、手術前日の説明を聞いた義母からの連絡では、「手術はうまくいけば腹腔鏡で胆のうを取るだけの手術で2時間くらいで終わりますが、今まで見たことがないような病態なので、どうなるかわかりません」というような内容だったとのこと。

で、病名は?と聞くと「よくわからない…」??

膵がんや胆管がんであれば、膵頭十二指腸切除術になりますし、時間も5−6時間くらいかかりますのでどうやら違うようです。胆のうがんの疑いがあるのかどうかは不明ですが、胆のう摘出術だけで終わるような胆のうがんが、チューブを入れなければならないような病態になる可能性は低いですので、結局胆石胆のう炎の可能性が高いのではないかと思いましたが、義母からは胆のう炎という言葉は聞かれませんでした。

で、昨日手術が行なわれましたが、結局予想通りただの胆石胆のう炎だったようで、無事腹腔鏡下胆のう摘出術で1時間ちょっとで終わることができました。経過は良好で一安心です。

なぜこんな話をここに書いたかと言いますと、医師の説明が十分でなければ患者さんやご家族の理解はこんなものだということです。こちらが十分にお話ししたつもりでも、専門用語を使いながら、相手が当然わかってくれるつもりで話をしたらまったく伝わらないのです。

乳がんの病状説明においても、他の疾患と同様に専門用語を使いすぎると理解は難しくなります。ただ病態から治療方針までエビデンスを交えながら話をすると、話す内容が多すぎて聞いている患者さんたちは頭の中が飽和状態になってしまいます。なるべく難しい言葉を使わないようにとわかりやすく説明しようとすればするほど時間がかかりすぎてわからなくなってしまう場合もあるのです。

説明後には、よくわかりましたと言っていたのに、翌日にはすっかり忘れていて説明したことをもう一度聞かれることもよくあります。ですから私はなるべく細かくあらかじめ紙に説明内容を書いて用意しておくようにしています。書きながら説明すると、どうしても机に向かって話をする形になるので、患者さんたちの表情から理解度を読み取ることができません。説明する時は、患者さん側を向きながらご説明し、「今お話しした内容は、この紙にも書いてありますのでもう一度読み直しておいて下さい」とお話しするようにしているのです。それでも時間がたつと、「そんな話は聞いていない」とおっしゃる患者さんもいます。その時は、その説明用紙を読むと納得して下さいますが、一般の方が医療の内容を理解するというのは、本当に難しいことなんだということを実感します。

医師の説明がわかりにくい場合、それを医師は理解していないことが多いと思います。たいていは、この説明でわかるはず、と思って話しているのです。ですから、聞いていて理解できない場合は、遠慮しないで何度でも聞いた方が良いと思います。今回の義父の手術のように、どんな病気が考えられて、その対応にはどのようなことが予想されるのかがまったくわからないまま手術を受けるというのは望ましいことではありません。結果的に一番良い結果だったので良かったですが、悪い結果で大きな手術に変更になって、合併症でも起きたら双方にとって不幸な結果になります。

医師側は、専門用語をできるだけ避けて十分にわかりやすくご説明し、用紙に内容を残すこと、患者さん側は、わからないものをそのままにせず、理解できるまでしっかり聞いて確認すること、これがそのあとの診療を円滑に進めるためにはとても重要なのです。

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