2012年5月31日木曜日

ラジオ波焼灼療法(RFA)と局所再発

第112回日本外科学会定期学術集会において、高度医療評価制度のもとで現在進行中のラジオ波焼灼療法(RFA)の多施設共同研究(第2相試験)の中間報告が発表されたそうです。以下は医療関係のWeb情報を参考に書いています。

この臨床試験における対象は、腫瘍径1.0cm以下で限局型、リンパ節転移を認めない早期乳癌患者であり、これまでの39例に行なわれています。RFA治療後は、乳房照射と術後薬物療法を行った上で、術後12カ月間経過観察されました。

その結果、1年後の乳房の整容性はおおむね良好でしたが、39例中4例が、不完全な焼灼による局所再発をきたしたということです。RFA治療1年後時点の再発数ということなので、局所再発率は10.3%/年ということになります。これは放射線治療を併用しているにしては非常に高い率です。通常の乳房温存療法後の局所再発率は、放射線治療を併用して0.3-1.0%/年程度ですので、いかに高いかがおわかりいただけるかと思います。症例数がまだ少ないですので、今後問題点を解決して慎重に臨床試験を継続して欲しいものです。

適応や治療方法が厳格に決まっている臨床試験ですらこのくらいの再発をきたすというのがRFAの現状です。ましてや放射線治療も併用しない、腫瘍径の大きな患者さんにまで行なっているような施設でのRFAはもっと高率に局所再発をきたすと考えた方が良いと思います。

メスを入れないがん治療は理想ではありますが、まだまだその治療成績は不十分なようです。マスコミも安易に「メスを入れない夢の最先端治療」などと持ち上げないようにして欲しいと思いますし、繰り返しになりますが臨床試験であっても慎重に研究を進めて行って欲しいと私は思っています。

2012年5月30日水曜日

乳腺術後症例検討会 19 ”毛芽腫&キューバの医療”

今日は定例の症例検討会が行なわれました。

1例目は血性乳頭分泌で受診され、分泌物細胞診がClassⅡ(良性)、穿刺吸引細胞診がClassⅣ(悪性疑い)、乳管腺葉区域切除術で微小浸潤がんと診断された症例、2例目は、大きな境界明瞭な腫瘍で超音波検査では嚢胞内がんのように見え、細胞診でも悪性を強く疑った毛芽腫(毛根の細胞由来の良性腫瘍)の症例、3例目は比較的急速に増大し、MRでは悪性のパターンを呈した乳腺症型線維腺腫、4例目は比較的小さな境界明瞭な腫瘤で検診発見された充実腺管がんの4症例でした。

2例目は細胞診を見直しても皮膚由来の腫瘍であることを考えなければ悪性と診断せざるを得ない症例でした。乳房の厚みのほとんどを腫瘍が占めており、乳腺発生の腫瘍であることを疑いもしなかったため、この病理結果には大変驚きました。乳房に発生して乳がんとの鑑別が困難だったという報告は聞いたことがないので非常に珍しい腫瘍だったと思います(毛芽腫は顔や頭に多いと言われています)。

症例検討のあと、関連病院のH医師が先日医療交流でキューバを訪問してきた写真のスライドを見せていただきました。キューバは医療システムが進んでいるという話を聞いていましたが、実際の病院内の設備は非常に古く、レントゲン写真は何十年も昔のような現像機を使用しており、外に出てフィルムを手で振って乾かしていたのには一同びっくりでした。ただ、予防接種の積極的普及によって乳児死亡率は激減し、医大の数も急速に増加しているそうです。平均寿命は77才(何年の統計かは不明)とのことで、必ずしも最新医療設備や治療の普及が寿命を延ばすことにつながるわけではないのだと感じました。

2012年のWHOの統計による平均寿命は、日本が83才で1位、米国は79才で29位、キューバは78才で35位ですので、先進国の代表である米国とレントゲンフィルムを人力で乾燥させるキューバの寿命はほとんど変わらないということになります。医療の進歩が寿命の延長に直結していないのか、医療以外の生活の変化(飽食、運動不足、化学物質の摂取過剰、晩婚、少子化など)によって結果的にプラスマイナス0になっているのか、非常に興味深いところですね。

2012年5月27日日曜日

骨転移治療の研究会

昨日ヒルトン名古屋で「第1回 Bone Management Consensus Conference」が行なわれました。この研究会は乳がんに限らず、各領域のがんの骨転移に対して、どのような治療方針が最適なのかを整形外科医、放射線科医、乳腺外科医、泌尿器科医、呼吸器内科医、腫瘍内科医などが集まって討論する初めての試みです。

まったく普段関わりを持っていない腎がんや前立腺がんの話もあるので当初はどんな会になるのか疑心暗鬼でしたが、結論から言えばとても勉強になりましたし、興味深かったです。

第1部は「症例ディスカッション」で前立腺がん、多発性骨髄腫、乳がん×2、腎がん、肺がんの骨転移症例についての症例検討でした。印象に残った内容を箇条書きにしてみます。

①がん種によって放射線治療の効果は異なり(腎がんは放射線が効きにくい)、そのために手術の適応、判断が異なることを初めて知りました。
②最近では単発の脊椎転移に対して根治的な切除法である脊椎全摘術(Total en bloc spondylectomy: TES)を行なう施設も増えてきているようです。
③金沢大学ではTESに加えて、摘出した脊椎を液体窒素で凍結した後に粉砕して元に戻す治療を行なっているそうです。がん細胞は液体窒素で死滅しますが、腫瘍抗原は残るので免疫治療にもなるようです(今度もう少し詳しく勉強します)。その治療を受けた患者さんの術前術後の廊下を歩く姿の変化にはびっくりしました。術前は手すりを使って歩くのもやっとの状態だったのに、術後には駆け足というかまるでスキップをするような感じにまで改善していたのです!
④TES後にゾメタを併用するかどうかについては意見が分かれました。肉眼的には骨転移がなくなった状態で予防的にゾメタを投与することが骨転移の再発や予後の改善に効果があるのか?という問題はなかなか難しいところです。
⑤整形外科医の中にはそのがん種についての知識が不十分なために、予後が十分見込める患者さんに対しても手術は適応外だと決めつけてしまう場合もあるようですし、担当医側においても骨転移診断時には積極的に整形外科医に相談しに行かず、結局症状がひどくなってから手術の依頼に行くケースがあるなどの問題点もあるようです。
⑥いずれの発表からも共通して言えることは、整形外科医や放射線科医との密接な連携をとることが骨転移治療においては非常に重要だということです。

第2部は京都府立医科大学の田口哲也先生の「乳癌治療におけるゾレドロン酸の可能性」についての講演でした。集まっているのが乳腺外科医以外が多いため、乳がんの基礎的な事柄から最新の知見までわかりやすくお話して下さいました。知識の整理をする上でもとても良かったです。

研究会の終了後には、美味しい味噌カツや手羽先などを堪能して、今朝の便で札幌に帰ってきました。今までにないタイプの研究会でしたが、参加して良かったです!

2012年5月25日金曜日

ついに乳がん体験者コーディネーター誕生!




昨年ここでご紹介した、NPO法人キャンサーネットジャパンが行なっている「乳がんコーディネーター養成講座」に私の患者さんのNさんが受講し、先日認定されました。

第7期の講座を受講(前期 昨年7-12月、後期 本年1-3月)したのですが、後期は東京まで行かなくてはなりませんし、お金もかなりかかったと思います。Nさんは60才代後半ですが、非常にお元気で行動力があります。今回の受講も私には内緒で受けていたようで、認定証が送られてきてから初めて連絡があり、今日の受診時に認定証と登録証を見せていただきました(写真 ご本人のご希望にて一部消してあります)。

来春には新病院が開院になり、がんサロンもできます。がんサロンをどのように活用するかは現在検討中ですが、乳がん患者さんの利用できる時間帯にはできるだけNさんに来ていただいて、せっかく得た知識を活かしていただけたらと思っています。乳がんと診断されて不安な患者さんや再発でショックを受けている患者さんたちが、ここに立ち寄ることで少しでも気持ちが楽になれるように私たちスタッフとNさんとで協力しあいながらより良いがんサロンを作っていけたらうれしいです。

明日からは1泊で名古屋に行ってきます!

2012年5月24日木曜日

第37回日本超音波検査学会 in Sapporo

来週(6/1-3)、札幌コンベンションセンターで第37回日本超音波検査学会が開催されます(http://laboinfo.med.hokudai.ac.jp/US/JSS37/)。今回の主催者は西田 睦先生(北海道大学病院 検査・輸血部/超音波センター)です。

地元での開催ということもあり、私たちの施設からも技師たちも参加するようです。関連施設のベテラン技師、Tさんは、札幌の技師会に長く関わってきた経過もあって今回の学会では自分の発表以外に座長も務めることになりました。発表のスライドに関しては目を通しましたが、座長に関してはどうなることやら…ちょっと心配です。

残念ながら学会自体には参加できるかどうか微妙ですが、せっかくの機会なので頑張って欲しいと思っています。もし仕事の調整がついたら、G先生とTさんの晴れ姿(?)を見に行こうかと思っています。

なお、6/3(日)には市民公開講座「乳がん早期発見のための切り札〜超音波検査の取り組み」があります(http://laboinfo.med.hokudai.ac.jp/US/JSS37/public.html)。時間は15:00~16:00 (開場 14:30)で、場所は札幌コンベンションセンター 1F特別会議場です。興味のある方は是非ご参加下さい。

2012年5月22日火曜日

ホスピス&緩和ケア〜適切な判断の重要性と難しさ

ここでも何度か書いてはいますが、ホスピスや終末期医療について書くのはなかなか勇気が必要です。おそらく再発治療を頑張っている方が多くご覧になっているはずですので、その方たちに対して誤解を与えてしまったり、闘う気力を失わせたりしてしまうのではないかと思ってしまうからです。でもそのような考え方は逆にホスピスや緩和ケアに対する間違った認識を与えることになるのではないかとも思いますので避けないで書くことにします。

昨年あたりから、最後の時間をホスピスで過ごす患者さんが増えてきました。もともとは乳がんの場合は、ぎりぎりまで積極的治療を行なうことが多いため、結局外科病棟で最後の時を迎える患者さんが多いのが現状でした。結果的にはホスピスに転科するタイミングを逸したことになりますが、患者さんがホスピスに行くことに対して抵抗感があることと、医療者側としてもかなり状態が悪くても治療の変更によって劇的に改善して退院したりする患者さんを見ているとなかなか積極的治療を終了する決断ができないということなどがその理由でした。大学病院のホスピスで研修してきた看護師の話を聞くと、乳がん患者さんでホスピスに入院する方は他のがん患者さんに比べると非常に少ないということでしたので、私の病院だけの話ではないようです。

しかし、外科病棟での療養環境は必ずしも患者さんにとって満足のいくものではありません。一方今までにホスピスにお世話になった患者さんとご家族からは、”ここに来て良かった”と必ずと言っていいほど感謝されます。そういう経験を繰り返しているうちに、私たち自身の考え方も少しずつ変わって来たのかもしれませんが、最近では抗がん治療の終了と緩和医療へのシフトが比較的スムーズにいくようになったような気がします。これはまだ積極的治療を行なっている段階から早めに緩和ケア医につながるようになったことが大きいのかもしれないと思っています。そのことによって患者さんとしても緩和ケアというものに対して以前ほどネガティブな気持ちが起きにくくなってきたのでしょうか。

再発患者さんにとって、苦痛を取り除くということはがんを小さくすることと同じくらい、場合によってはそれ以上に重要なことです。”治療のためには仕方ない…”と苦痛を我慢することがないように、緩和ケアスタッフとの連携をうまく取っていくことが、再発患者さんのQOLの改善とホスピスへの抵抗感や誤解をなくすことにつながるのではないかと考えています。

先日、外来で10年近く再発と闘っていた患者さんがいよいよ治療が困難となり、外科病棟経由でホスピスに入院となりました。もともと入院が好きではなく、できるだけ自宅でと頑張っていた患者さんでしたが、病状が厳しくなり症状緩和が必要になったのです。かなり心配された状態でしたが、ホスピス転科後の緩和ケア医の治療のおかげで表情はかなり穏やかになりました。経口摂取も厳しくなっていたのですが、会いに行くといつも笑顔で迎えてくれました。残念ながらその後症状は悪化してしまいましたが、ご本人のご希望で最後のわずかな時間を自宅で穏やかに過ごすことができました。

以前も書きましたが、再発治療の判断は、何年医師をしていても難しいです。特に乳がんは治療手段が多くあり、効果が見られる場合はとても長く元気で過ごせることもありますのでいまだに完璧な判断はできません。しかし患者さんから教えていただいた経験を元に少しずつ改善できているように思います。もちろんすべての患者さんに対して最適なタイミングで判断できるわけではありませんが、緩和ケアのスタッフとの連携を密にして、患者さんがより快適な時間を長く過ごせるように今後も努力していきたいと考えています。


2012年5月16日水曜日

乳癌の治療最新情報30 デノスマブ(骨転移治療薬)③

先日発売になったデノスマブ(商品名 ランマーク)ですが、さっそく1人の患者さんに投与を開始しています。

皮下注射を4週に1回ということで手軽に投与できる治療薬で、ゾメタより有効性も高い(これは以前にもここで書きました)ということもあって、他の施設で骨転移治療薬を全面的にランマークに変更したところもあるようです。しかし私自身はぞういうつもりは当面ありませんでした。初期投与はゾメタで十分に有効性がみられていること、ランマークのほうが高価であること、新薬のため、安全性に若干の不安があることなどがその理由です。しばらくはゾメタ使用中に悪化してしまった患者さんに限定して投与するつもりで考えていました。


発売して間もないのですが、5月に入ってやはり心配していた副作用の情報が入ってきました。米国においてランマーク投与後に低カルシウム血症によって3人が亡くなっていたことが判明し、製薬会社からあらためて注意喚起の文章が出されたのです(http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201205_2.pdf)。発売時(4月)の添付文書には低カルシウム血症の発現に注意する旨の記載はありましたが、死亡例発生に関しての記載はありませんでした。

低カルシウム血症の初期症状は、唇のしびれ、指先のしびれ、突っ張り感です。ひどくなると全身のけいれん、不整脈、意識混濁を起こします。私自身は死に至るまでの低カルシウム血症を起こした患者さんの経験はありませんが、ランマーク使用時には厳重な注意が必要なようです。血中カルシウム値の定期的なチェックももちろん大切ですが、上に書いたような初期症状が出たら早めに受診して対処してもらうことが最も重要だと思います。