2012年5月22日火曜日

ホスピス&緩和ケア〜適切な判断の重要性と難しさ

ここでも何度か書いてはいますが、ホスピスや終末期医療について書くのはなかなか勇気が必要です。おそらく再発治療を頑張っている方が多くご覧になっているはずですので、その方たちに対して誤解を与えてしまったり、闘う気力を失わせたりしてしまうのではないかと思ってしまうからです。でもそのような考え方は逆にホスピスや緩和ケアに対する間違った認識を与えることになるのではないかとも思いますので避けないで書くことにします。

昨年あたりから、最後の時間をホスピスで過ごす患者さんが増えてきました。もともとは乳がんの場合は、ぎりぎりまで積極的治療を行なうことが多いため、結局外科病棟で最後の時を迎える患者さんが多いのが現状でした。結果的にはホスピスに転科するタイミングを逸したことになりますが、患者さんがホスピスに行くことに対して抵抗感があることと、医療者側としてもかなり状態が悪くても治療の変更によって劇的に改善して退院したりする患者さんを見ているとなかなか積極的治療を終了する決断ができないということなどがその理由でした。大学病院のホスピスで研修してきた看護師の話を聞くと、乳がん患者さんでホスピスに入院する方は他のがん患者さんに比べると非常に少ないということでしたので、私の病院だけの話ではないようです。

しかし、外科病棟での療養環境は必ずしも患者さんにとって満足のいくものではありません。一方今までにホスピスにお世話になった患者さんとご家族からは、”ここに来て良かった”と必ずと言っていいほど感謝されます。そういう経験を繰り返しているうちに、私たち自身の考え方も少しずつ変わって来たのかもしれませんが、最近では抗がん治療の終了と緩和医療へのシフトが比較的スムーズにいくようになったような気がします。これはまだ積極的治療を行なっている段階から早めに緩和ケア医につながるようになったことが大きいのかもしれないと思っています。そのことによって患者さんとしても緩和ケアというものに対して以前ほどネガティブな気持ちが起きにくくなってきたのでしょうか。

再発患者さんにとって、苦痛を取り除くということはがんを小さくすることと同じくらい、場合によってはそれ以上に重要なことです。”治療のためには仕方ない…”と苦痛を我慢することがないように、緩和ケアスタッフとの連携をうまく取っていくことが、再発患者さんのQOLの改善とホスピスへの抵抗感や誤解をなくすことにつながるのではないかと考えています。

先日、外来で10年近く再発と闘っていた患者さんがいよいよ治療が困難となり、外科病棟経由でホスピスに入院となりました。もともと入院が好きではなく、できるだけ自宅でと頑張っていた患者さんでしたが、病状が厳しくなり症状緩和が必要になったのです。かなり心配された状態でしたが、ホスピス転科後の緩和ケア医の治療のおかげで表情はかなり穏やかになりました。経口摂取も厳しくなっていたのですが、会いに行くといつも笑顔で迎えてくれました。残念ながらその後症状は悪化してしまいましたが、ご本人のご希望で最後のわずかな時間を自宅で穏やかに過ごすことができました。

以前も書きましたが、再発治療の判断は、何年医師をしていても難しいです。特に乳がんは治療手段が多くあり、効果が見られる場合はとても長く元気で過ごせることもありますのでいまだに完璧な判断はできません。しかし患者さんから教えていただいた経験を元に少しずつ改善できているように思います。もちろんすべての患者さんに対して最適なタイミングで判断できるわけではありませんが、緩和ケアのスタッフとの連携を密にして、患者さんがより快適な時間を長く過ごせるように今後も努力していきたいと考えています。


2 件のコメント:

リリー さんのコメント...

お久しぶりです。
ホスピスを含めて患者の死生観を知ることは家族にとっても大事なことです。
でも残念なことになかなか共有できていないのが現実。最近、亡くなった友人も一人で決めてホスピスに入所。理由は家族の中での孤独感でした。
明日家に一時帰宅しようね、と話していたまさにその朝亡くなられました。苦しまなかったのがせめての救いです。
身体的痛みだけでなく心の痛みを抱えた患者さんの多いことに胸が痛みます。

痛みの緩和はずいぶん認知されてきたと感じます。痛みがないだけでQOLはかなり変わりますから。 終末ケアは私の一番の関心事です。

hidechin さんのコメント...

>リリーさん
お久しぶりです。
ホスピスや緩和ケアについてはまだまだ十分な情報が患者さん側に伝わっているとは言えないですよね。医療者側にも大きな課題はあると思いますが、緩和ケア研修会などに参加する医師が増えてきていますので徐々に改善していくのではないかと期待しています。それと同時に患者さんにも誤解のないような情報提供をしていかなければならないと感じています。