2010年1月23日土曜日

乳癌患者さんの慢性疼痛と新たな治療法

乳癌患者さんが疼痛に悩まされるケースは、

①局所進行乳癌(胸壁浸潤した場合など)
②乳癌術後の神経痛(症状が強く、長引く場合は、乳房切除後疼痛症候群と言います→http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/04/postmastectomy-pain-syndromepmps.html参照)
③乳癌の再発(骨、リンパ節、局所など)

などがあります。

通常、痛みの治療としては、症状の原因となる病態の治療(手術、放射線治療、化学内分泌療法など)を第1に考えますが、同時に鎮痛剤を併用します。骨転移に対してはビスフォスフォネート(ゾメタ)が有効です。
鎮痛剤には、大きく分けて下記のような種類があります。

①消炎鎮痛剤(NSAIDS):ロキソニン、ボルタレンなど。副作用として胃腸障害、腎障害には注意が必要です。
②アセトアミノフェン:消炎作用のない鎮痛剤です。小児の解熱剤にも用いるくらい安全な薬剤です。胃腸障害は起こしません。
③医療用麻薬:弱オピオイド(リン酸コデイン)と強オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど)に分けられます。癌性疼痛一般に用いられますが、神経痛には効果はあまりありません。

乳癌患者さんを悩ませる慢性疼痛の中でも神経痛はなかなか治療に難渋することが多いです。現在の標準治療は、抗うつ剤やケタミンという麻酔薬の一種、ガバペンチンなどの鎮痛補助薬です。これでもコントロールできない場合には、局所麻酔薬などを用いた神経ブロックを行なうこともあります。

先日、セント・ジュード・メディカル(SJM)社は、脊髄に弱い電気を流すことで、慢性的な痛みを緩和させる体内植込み型脊髄刺激(SCS)装置”ジェネシス”を発売したと発表しました。

この製品は、脊髄周囲の硬膜外にリードを留置し、リードの先端電極から脊髄神経に微弱電流を送ることで脳へ痛みの信号を伝わりにくくする埋め込み型の機械です。国内では背、腕、脚の慢性疼痛管理が適応となっています。メドトロニック社の”アイトレル3システム”がすでにSCSとして販売されていますが、アイトレル3システムが定電圧刺激なのに対してジェネシスは定電流刺激のため、より患者の痛みの感覚がより緩和できるとともに、カバーできる痛みの範囲も大きいと期待されているそうです。

機械を体内に留置する煩わしさや手術・合併症のリスクの心配はありますが、難治性の疼痛に対しての有効な手段になるかもしれません。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

こんにちは。

乳腺外科医の先生が脊髄刺激療法を知っているのに驚きました。

最近の海外での臨床試験では定電流も定電圧も有意差は無いと報告が出ております。

パレステジア領域はどちらのディバイスでも同じです。

重要なのはリードを留置させる際のポジショニングです。
体幹なら椎体T1~T4への留置が最適かと思います。

失礼しました。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
匿名さんはペイン専門の先生でしょうか?
私は乳腺が専門ですので脊髄刺激療法について詳しいわけではありません。にわか勉強ですのでお恥ずかしい限りです。
でもこのような神経痛の治療手段が増えることは患者さんにとっては大きな恩恵です。私たちが正確に病態を把握して、積極的にペインの専門の医師と連携を取ることが重要だと思っています。