2010年1月13日水曜日

マンモグラフィ検診の有用性に関する論争

最近、40歳代以下のマンモグラフィ検診が有用か否かに関する、相反するガイドラインがアメリカから発表されています。

まず、2009.11に米国予防医学特別作業班(USPSTF)が発表した内容では…

『50歳になるまで乳癌検診のためのマンモグラフィ(乳房X線検査)を受ける必要はない。50歳以降は1年おきに受ければよい』

そして、2010.1に米国放射線医学会(ACR)と乳房画像診断協会(SBI)が、米国放射線医学会誌「Journal of the American College of Radiology」1月号において合同で掲載、発表した新ガイドラインでは…

『ほとんどの女性では年1回の乳がん検診を40歳から開始し、リスクの高い女性ではさらに早い25~30歳で開始すべきである』

またこのガイドラインにおいては、乳癌のスクリーニングにマンモグラフィやMRI、超音波検査などの画像診断法の適切な使用も提案されています。

このような論争は今回に始まったことではありません。USPSTFの勧告の根拠はあまり明確ではありませんが、早期発見の有益性と、偽陽性による不利益を秤にかけた結果ということになっています。一部では、費用節減のためではないか、との反論も出されていますがUSPSTFは否定しています。

また、マンモグラフィ検診自体に対して有用性を否定している医師もいます。国内においても有名な某Drがマンモグラフィ検診は受けるべきではないと主張しています。

マンモグラフィ肯定派の根拠は、今回のACR乳房画像診断委員会議長Carol H. Lee博士も述べているように、
『マンモグラフィ検診は、約50万人を対象とした無作為化試験のメタアナリシスにおいて、乳癌死亡率を26%低下させるという明確なエビデンスがある』
ということによります。

一方、マンモグラフィ否定派の根拠は、
『マンモグラフィ検診は、乳癌死亡率を低下させるとしても、放射線による有害反応によって他病死が増えるため、全死亡率は低下しない(全死亡率が低下するというエビデンスに乏しい)。全死亡率が低下しなければ、検診に有用性があるとは言えない』
というふうに論じています。

乳がん検診否定派の意見を封じるためには、①マンモグラフィ検診受診者において、非受診者に比べて、乳癌死亡率だけではなく、全死亡率が低下することを示すか、②放射線のような有害反応が考えにくい検診方法(超音波検査、MRなど)で検診の有益性を証明するか、のどちらかが必要です。今回の米国放射線医学会(ACR)と乳房画像診断協会(SBI)の報告においては、サマリーしか読んでいないので確かなことは言えませんが、全死亡率の低下に関しては述べられていないようです。

抗癌剤の有用性を説けば、製薬会社との癒着を疑われ、マンモグラフィの有用性を説けば、マンモグラフィ関連会社(撮影機、フィルムなど)との癒着を疑われるのが、今の世の中です。本当に有用であることを、誰の目からみても矛盾しないように証明しなければなりません。この問題に関する結論をきちんと出して、早く受診者の不安をなくして欲しいと願っています。

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