2010年5月27日木曜日

乳癌の治療最新情報17 閉経前乳癌に対するゾラデックス+アリミデックスの併用療法

待ち望んでいた臨床試験の結果が近々正式に報告されそうです。

閉経前乳癌に対して保険が適応される内分泌療法は、現在のところタモキシフェンとLH-RH agonist(ゾラデックスやリュープリンなどの卵巣機能を抑制する薬剤)、MPA(ヒスロンH)しかありません。ですから術後にタモキシフェン+LH-RH agonistの併用を行なって再発してしまった場合、次に行なう内分泌療法がなかったのです(MPAはステロイドのため副作用の点から使いにくいことが多い)。一方、閉経後の内分泌感受性乳癌に対しては、タモキシフェン、MPAの他に3種類のアロマターゼ阻害剤とトレミフェンが使用可能です。

アロマターゼ阻害剤が閉経前乳癌に使用されないのは、卵巣から多量のエストロゲンが分泌されてしまうことによります。アロマターゼは主に脂肪組織などに存在するアンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素です。ですから閉経前の女性にアロマターゼ阻害剤を投与しても卵巣からエストロゲンが分泌されれば無意味なのです。
一方、閉経後の女性は卵巣機能は停止していますが、このアロマターゼの働きにより微量のエストロゲンが生成されます。また、エストロゲン感受性乳癌が再発すると、その再発巣の近くでアロマターゼが過剰に発現し、腫瘍周囲が高エストロゲン状態になって自分で増殖しやすい環境を作ると言われています。ですからアロマターゼ阻害剤によってエストロゲンを生成しないようにし、癌の増殖を抑えるというのがこの治療のメカニズムなのです。

このメカニズムから推測すると、人工的に卵巣機能を抑えてしまえば、閉経後と同じ内分泌環境になるわけですので、アロマターゼ阻害剤が有効になるのではないか?と誰もが考えるはずです。実際、手術的に卵巣を摘出してしまえば閉経後乳癌として扱われるため、アロマターゼ阻害剤は使用可能なのです。

にもかかわらず、現在の診療報酬上では、LH-RH agonist(ゾラデックスやリュープリン)で閉経後と同じような低エストロゲンの状態にしたとしてもアロマターゼの併用は認められていませんでした。これは、LH-RH agonistの保険適応が”閉経前乳癌”、アロマターゼ阻害剤の保険適応が”閉経後乳癌”とになっているため、同時併用は矛盾するというただそれだけの理由からなのです。理論的にはおそらく有効なはずだと乳腺外科医なら誰でも思っているはずですが、こういう縛りがあるために使用できなかったのです。

私は以前から再三、アロマターゼ阻害剤を販売している製薬会社に対して、LH-RH agonistとの併用の臨床試験の結果はまだですか?と問い合わせてきましたが、ようやくこのたびアストラゼネカ社が臨床試験結果を発表することになったのです。

発表によると、アリミデックス+ゾラデックスの閉経前乳がん患者197人を対象にした国内第3相臨床試験で、タモキシフェン+ゾラデックスに比べ抗腫瘍効果が有意に高かったということです(これは閉経後のタモキシフェンとアリミデックスの比較試験と同じ結果です)。正式には近々国際学会(ASCO?)で発表されるそうですが、この報告を受けてできるだけ早くに保険適応を通して欲しいと思っています。この治療を待っている患者さんは非常に多いはずなのです。

6 件のコメント:

mafu さんのコメント...

先生 情報をありがとうございます。私もずっと疑問に思っていましたし、そうなることを期待しておりました。
これで、閉経前ホルモン療法に選択肢が増えると、本当に本当にうれしいです。

hidechin さんのコメント...

>mafuさん
そうですよね。閉経前の患者さんで治療に苦労しているケースや将来の心配をされている患者さんは多いと思います。待ちに待った朗報ですよね!

きみちゃん さんのコメント...

hidechin先生、ご無沙汰です('-'*)♪
こちらにお邪魔して記事を読ましていただいて、勉強するようにしているんですが、なかなかコメントできなくてごめんなさい・・

仕事初めて以来、家に帰っても疲れ果ててしまい、なかなか唯一の楽しみのPCライフを満喫できておりません・・(涙

久しぶりにお邪魔しましたら、hidechin先生、以前と変わらないペースでしっかり為になる情報を記事をアップしていただいているので、嬉しかったです~!

早速気になる記事でしたのでコメントさせていただいちゃいます!

これって私が参加している治験みたいですけどどうなんでしょう~?
私もアストラゼネカ社だし、でも、まだあと3年ありますが・・・

まだ3年もあるので、治験コーディネーターさんにも具体的に自分が参加していた治験のデーターやその結果がいつのタイミングで報告されるとかそういえば聞いてなかったので・・・
そういうのって最後まで参加した患者とかには結果の報告ってあるんでしょうか?


また以前私が、自分が参加している治験について不安な気持を持った時、先生にご見解をお聞きした時も、先生は非常に注目している臨床試験の一つですよと言われたのは覚えてます。

それでとても意義のある治験なんだと納得して、当時の主治医にも再確認して、参加しつづけようと思いました。

この記事を読み、その「縛り」があるために、こういう有効な治療方法が、認められていなかったなんて・・・って、驚きました。

でも、良い結果が報告されれば、保険適用の治療になるはずですものね!

近々正式に報告されるとのことですが、私もその結果にとても興味持ってますので、その報告を、hidechin先生のわかりやすいお言葉で、また記事にアップしていただけると、うれしいな~って思います~^^

いずれにせよ、今後の羅患された閉経前の患者さんの為にも、治療の選択肢が増える結果が出てくれるといいですね!

私もそれを願って、治験に参加して一人のデータとして役に立てたらいいなと思って参加していますので^^

hidechin さんのコメント...

>きみちゃんさん
お久しぶりです。忙しかったんですね!でも仕事を始められたとのことで良かったです。
今回の報告ですが、術前内分泌療法の結果(奏効率など)のようです。きみちゃんさんが参加した治験は術後補助療法でしたよね?術後補助療法の結果を評価するためには最低10年はかかりますからまだ先の話になると思います。

”いずれにせよ、今後の羅患された閉経前の患者さんの為にも、治療の選択肢が増える結果が出てくれるといいですね!”
→本当にその通りだと思います。この治療を使いたい患者さんは全国にはたくさんいるはずですからね。

きみちゃんさんが参加された治験の成果がわかるのはまだ先かもしれませんが、必ず将来の乳癌患者さんたちのために貢献できるはずです。良い結果を期待して待ちましょう!

きみちゃん さんのコメント...

私の参加している治験は、術前治療6ヶ月間+術後補助療法5年間って内容です

しこりが大きかったので術前ホルモン治療してしこりの小さくして温存手術が可能になったんです。術前抗がん剤治療ほど小さくなることは期待しないでといわれましたが。

当時の主治医は、術前の6ヶ月間の治療はしこりの大きさを温存できるくらい小さくする目的でもありましたが、あくまで、術前治療でのメリットであるしこりの大きさがどれほど小さくなるかで、その治療が自分にとって効果があるか目にみえるので、術後補助治療の目安にしたいからと・・それが一番の目的だといわれました。

結果的には温存できるまで小さくはなったので、この事実が一番私にとってわかりやすい事でした。

なので術後も、念には念を・・ということで抗がん剤も併用はしながら、そのまま治験に参加していこうと自分で納得して術後5年間効果があると期待して参加し続けようと思いました。

その結果が評価されるのは10年も先というのは本当に長い年月をかけなければいけないのですね・・

今から10年後自分はどうなっているんだろう・・とふと思いますが、、、

元気でいるならば、この治療の効果はあったんだということになりますよね

1年1年今自分ができる事をひとつひとつやっていって、元気な身体で治験の成果を聞きたいなって思いました。

hidechin さんのコメント...

>きみちゃんさん
そうでしたね!術前投与もされていたんでしたね。それならたぶん同じ臨床試験だと思います。まずは術前ホルモン療法の効果を先に発表したんだと思います。術後の評価はまだまだ先になると思いますが、まずは第1弾ですね。
きみちゃんさんは術前ホルモン療法で効果があったのですからきっとホルモン剤に対する感受性が強いタイプなんだと思います。きっと術後にも効いてくれるはずです。信じましょう!