2011年3月21日月曜日

アブラキサンの説明会〜その効果と副作用について

2011.3.16(水)に病院の「がん化学療法委員会」において「アブラキサン」の説明会が行なわれました。アブラキサンについては、2010.7.28の「乳癌の治療最新情報19 アブラキサン認可!」でも報告しましたが、投与対象症例がいなかったことと、製薬会社の担当者が変わった関係もあって今まで製薬会社からの情報提供がされていませんでした。

アブラキサンは、パクリタキセルをヒトアルブミンに結合させた抗がん剤です。パクリタキセルはもともと非常に水に溶けにくい性質を持っています。このため従来製品のパクリタキセルは投与する際に溶解を助けるためのポリオキシエチレンヒマシ油(アナフィラキシーなどの過敏症を起こしやすい)とエタノール(過敏症の原因になりうる、酒気帯び運転になる可能性あり)の添加が必要でした。

アブラキサンは、パクリタキセルにヒトアルブミンを結合させることにより、溶解を容易にしました。また過敏症予防の前投薬も必須ではなくなり、投与時間も30分と短いという利点があります。またこのことにより、より多くの量を投与できるようになったということです。

問題点としては、生物製剤のヒトアルブミンを使用するため、未知の感染症のリスクは0ではないこと、調剤に時間がかかることです。

承認の根拠になったのはCA012-0という転移性乳がん患者をアブラキサン群(260mg/㎡)とパクリタキセル群(175mg/㎡)に分けてその抗腫瘍効果と安全性を比較した臨床試験です(ともに3週に1回の投与)。

その結果は、奏効率(24.0% vs 11.1%)と無増悪期間(23.0週 vs 16.6週)において2群間に有意差を認めました、しかし、生存期間においては有意差を認めませんでした(65.0週 vs 55.3週)。

副作用の発現率は98.7%で、主なものは、骨髄抑制、神経障害、脱毛、疲労感、悪心・嘔吐、下痢、関節痛、筋肉痛とパクリタキセルと同様でしたが、重篤な白血球減少はパクリタキセル群に、神経障害と悪心・嘔吐はアブラキサン群に多い傾向を認めました。

この結果を見て気になったことは、両群とも奏効率が低いということです。この試験においてパクリタキセルは3週に1回投与ですが、現在の国内ではweekly投与(週1回、3週連続投与、1週休薬)が主流です。比較試験においてもweekly投与の方が3週に1回投与より奏効率が高く、奏効期間が長いことが証明されています(CALGB 9840)。ですからもしアブラキサンとweekly投与のパクリタキセルを比較したら違う結果になっていたのかもしれません。

ただ、通院の利便性を考えると3週に1回のほうが患者さんにとっては楽だと思います。アレルギー反応が起きにくく、投与時間が短いというのも魅力的です。ですから是非アブラキサンとweekly投与のパクリタキセルとの非劣性比較試験を行って欲しいと思っています。また、weekly投与同士の比較試験結果も興味深いところです。

7 件のコメント:

pina さんのコメント...

先生、ブログ再開して下さったんですね。
本当にありがとうございます!

私は1年半前にFEC6回の後、weeklyパクリタキセルを休薬期間なく12回連続して治療を受けました。副作用はFECの時と比べると楽でしたが、確かに通院は大変でした。
ですが今思うと私の場合、身体よりも毎週通院するという事が精神的に辛かったのかもしれません・・。しかし診察室ではメンタルが弱っているという素振りは見せないよう気を使っていました。一生懸命治療をして下さっている主治医の先生をブルーにさせたくないという思いもありましたので・・。

乳がんの治療は日進月歩という感じがいたしますが、患者としましてはもっと色々な分子標的薬が出てきてほしいと願っています。

hidechin さんのコメント...

>pinaさん
こちらこそありがとうございます。
毎週の通院、大変でしたね。でも無事乗り越えられて良かったです。いま分子標的薬は次々と開発されています。副作用が少なく、有効な治療薬を期待したいですね!

pina さんのコメント...

様々な状況の乳がん患者さんがいらっしゃる中で、(先生が被災地での現況について思うことで、乳がん患者さんについてコメントなさっておられた事も含めて・・)
私は手術・化療・放射線治療と予定通り完遂できたのですから、通院が精神的にキツかったなどと甘えた事を云ってはいけませんね。
反省してます。改めて主治医の先生、治療に関わって下さったスタッフの方々、家族、親戚、励ましてくれた友人に感謝したいと思います。
まだhidechin先生の記事を全部は読んではいないのですが、これからゆっくり読ませていただきます! これからも宜しくお願い致します。

hidechin さんのコメント...

>pinaさん
そうですね。治療が順調に進んだだけでもラッキーだと思えるほど今の被災地の状況は厳しいですね…。
これから私たちの病院でも治療中の被災地の患者さんを受け入れる予定です。
これからもよろしくお願いいたします。

匿名 さんのコメント...

こんにちは。
weeklyパクリタキセルのスキップについてお聞きしたくて投稿させて頂きます。
私自身は血液検査などの問題がなければ
12回連続で投与したいと思っているのですが
投与予定の曜日が祭日で主治医は1週間スキップしてもその時だけ曜日を変えてもいいと言っていましたがあまり深く考えなくてもよいのでしょうか?
私はスキップすると効果が薄れてしまうのではと思ってしまうのです。
もし毎週火曜日投与でその日が祭日の場合
翌日の水曜日8日目に投与して次回6日目の
火曜日に投与しても問題ないのでしょうか?
それとも丸1週間スキップした方がよいのでしょうか?
たわいない質問で申し訳ありませんが教えて頂けたらと思います。
よろしくお願いいたします。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
Weekly PTXの投与方法は12週連続投与する方法と3週連続投与1週休薬を1サイクルとして4サイクル投与する方法があります。後者が劣るということはありませんので1週スキップしても問題ないと私は思います(ちなみに私の施設では後者で投与しています)。以上です。

匿名 さんのコメント...

お忙しい中ご回答頂きありがとうございました。