2011年10月26日水曜日

乳腺術後症例検討会 13 ”腺筋上皮腫”

先月の症例検討会は、私用で参加できませんでしたので、2ヶ月ぶりの参加でした。

今月は、異時両側乳がん、乳管内腫瘍のようにも見えた粘液がん、乳頭腺管がんくずれの硬がん、そして非常にまれな良性疾患の4例でした。行事や所用が重なったために、参加者はいつもに比べると少なくて残念でしたが、症例検討内容は非常に充実していたように思います。今回からはMRの画像提示方法も進化して、とてもわかりやすくなりました。

今回の良性疾患症例は数年前にしこりを自覚して受診し、触診で明らかな扇状の硬結を触れ、超音波検査でも限局性に斑状の低エコー(黒い部分)の集簇が見られたため、非浸潤がんを強く疑った患者さんです。数度にわたる細胞診では良性(乳腺症疑い)という診断だったため、経過観察となっていました。この間、画像的にも大きな変化はなかったのですが、やはりどうしても気になるため針生検を行ない、最終的には部分切除を行なって確定診断に至りました。病理組織的には、多彩な乳腺症を背景に、「腺筋上皮腫(adenomyoepithelioma)」と「線維腺腫」様部分が多発して集簇しているという奇妙な像を呈していました。乳腺病理の第1人者であるS先生にも診ていただきましたが、S先生の数多くの経験の中でも例がないとのことでした。

症例検討のあとには、放射線技師のIさんが「腺筋上皮腫」についてのミニレクチャーをしてくれました。腺筋上皮腫は、基本的に良性ですが、時に悪性像を呈することもあります。悪性化するポテンシャルがあると言うのが正しいのかもしれません。稀に他臓器への転移をきたすこともあります。ですから、今回腫瘤部分を摘出して悪性腫瘍の合併を調べたことは意味のあることなのです(S先生にも事前にご相談しました)。幸い悪性所見は認めませんでしたが、今後も局所再発などに注意が必要です。良性から悪性まであることを考えるとなんとなく、葉状腫瘍に似ているような気もします。非常に印象深い症例になりました。

それにしても私たちの病院の技師(超音波技師、放射線技師)さんたちは、いつも非常に熱心にこの症例検討会に取り組んでくれています。毎月、症例の資料集めや病理医への写真作成の依頼、そしてパワーポイントでのスライド作り、さらに開催案内のポスターを作ったり、病院外の技師さんたちに連絡を取ってくれたり、会場の準備や片付けをしたりと、みんなで協力して準備してくれています。いつも彼女たちには厳しいことばかり言っていますが、心から感謝しています。これからも協力しながらお互いの力量アップのためにこの検討会を継続していきたいと思っています。

8 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

すいません、質問してもいいですか?

術後の病理で、
非浸潤癌 3、8cm×5cm
浸潤部  0、7cm
エストロゲンレセプターとプロゲストロンレセプター:スリープラス
HER2 陰性
リンパ節 転移無し

だったので、タモキシフェンだけでいいと
いわれました。
でもグレード3だったので心配です。
ki67の検査を、今更ですがしてもらった方がいいでしょうか?

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
Ki-67は施設によっては染色をしていない場合もあります。その場合は核異型度(グレード)で代用する場合が多いです。ただ核異型度とKi-67は必ずしも一致しないとも言われており意見の分かれるところではありますが、仮にグレード3がKi-67>14%に相当するとすると、St.Gallen2011では、Luminal B(HER2-)に相当します。
Luminal B(HER2-)の場合は、抗がん剤はをするかしないかは個々のケースによる(内分泌感受性、再発リスク
と患者の希望によって選択)というグレーゾーンになっています。匿名さんの場合は、内分泌感受性が高く、浸潤径が7㎜と小さいため、主治医の先生が抗がん剤は不要だと判断されたのではないでしょうか?このあたりは主治医の先生にお聞きになった方がよいと思いますよ。

匿名 さんのコメント...

早速お返事ありがとうございます。
とっても参考になりました。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
お役に立てたなら何よりです。
お大事に!

40歳 さんのコメント...

2回目のご相談です。(前回は、先生の「夏休み」に相談させていただきました。)
腫瘍の大きさ2.5×1.9,リンパ節転移(-),
Luminal(B)HER2-、ホルモンは両方強陽性でした。

前回は、主治医から提案のあった、AC療法4クールの標準療法に追加して、ドセキタキセルの追加をすべきかどうか?をご相談でした。先生のわかりやすいコメントに納得して、追加治療を受けることを決心ししました。今週末に最後の治療が終わりました。
その節は、ありがとうございました。

次から、主治医の提案ではタモキシフェン5年間内服と言われています。
40歳という、5年後も閉経しない可能性の高い年齢を考えると、ニュープリンなどの治療を2年間行ってから、タモキシフェンに移行したほうがよいのでしょうか?
文献によっては、タモキシフェンの途中でニュープリンを使うというものもあるようです。現在、AC2回目から生理は止まったままです。とにかく、再発のリスクを下げたいと思っています。

本来、主治医と相談なのだと思いますが、外来がとても混んでいて、なかなか質問しにくい状況です。質問するのも妥当なのか?
かといって、文献の斜め読みだけで自己判断はできなくて・・・。先生のご意見をいただければと思います。

hidechin さんのコメント...

>40歳さん
結局タキサンの追加をされたのですね。できる限り最強の再発予防という意味では良かったかと思います。
今回のご質問のリュープリンをタモキシフェンに加えるかどうかについては、閉経になっているのかどうかが問題です。リュープリンは閉経前の卵巣機能がある患者さんに用いて閉経状態と同様のホルモン環境にするのが目的の薬剤です。現在月経が止まっているのでしたら化学療法で閉経した可能性もあります。もしそうであればリュープリンはまったく無意味です(高額のお金を取られるだけで効果はありません)。ただ、一時的に月経が止まっているという可能性もあります。とりあえずタモキシフェンのみの投与を行なって、月経が再開したらリュープリンの追加を考えるということでも良いのではないかと私は思います。現在の卵巣機能を知りたいのであれば血液検査でFSHとE2を調べてみても良いとは思いますがタモキシフェンを投与する上では必須ではありません(アロマターゼ阻害剤を投与するなら調べた方が良いですが、タモキシフェンはエストロゲンが存在していても有効ですので細かく調べないことが多いです)。
取り急ぎ以上です。

40sai さんのコメント...

早速に、お返事ありがとうございました。
またまた、安心することができました。

お忙しいのと思いますが、本当に感謝です。

hidechin さんのコメント...

>40歳さん
ご理解いただけてなによりです。
それではお大事に!